元プラズマ団員「旅行先が修羅の国過ぎる件」   作:タク@DMP

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第八話:声

「メガ、シンカ──ッ!?」

 

 サメハダーの身体が更に大きく膨れ上がる。

 そして、頭部にはノコギリのような歯が肉を貫くようにして伸び、更に全身の古傷が開き、黄色く輝く。

 

「ようガキ。メガシンカを見るのは初めてか?」

 

 ぜぇぜぇ、と息を切らせながら──サハリが腕輪に手を添えた。

 フユキも頷く。

 遠いカロス地方やホウエン地方で確認されている現象。

 トレーナーの持つキーストーンと、ポケモンの持つメガストーンが共鳴することで発動する、ポケモンの進化の極致。

 

「──あんまり長くは持たねえが……今だけ力借りるぞ、サメハダーッ!!」

「ジョォオオオオオオオオオオズ!!」

 

 ”かそく”が乗った凄まじい速度でサメハダーはキテルグマを次々に切り裂く。

 あまりの速さに、流石のキテルグマも対応することが出来ない。

 そしてフユキも、圧倒的な速度を前にただただ見ていることしか出来なかった。

 

「こ、これが、調査局局長……”サイゴクの英雄”のポケモン……!? ク、クソッ、元よりオレたちじゃあキテルグマには勝てなかったってことカ……!!」

 

 何よりマヤも、格の違いを思い知らされたのか──膝を突く。

 英雄、という言葉に──ぞくり、と肌が粟立ったフユキはマヤに問うた。

 

「サイゴクの英雄って……どういうことだい?」

「オメー知らねえのカ……!? 今の調査局局長はサイゴクの危機を何度も救っている、文字通りの英雄なんだゼ……! その英雄のポケモンが、弱いワケが無ェ!!」

「……英雄」

 

 その言葉を噛み締めるようにフユキは呟く。

 間もなく、調理は終わったと言わんばかりにサメハダーは地面に降り立つ。

 そして全身からエネルギーが霧散し、メガシンカが解除されるのだった。

 まるで水面から上がったかのように息を大きく吐き出したサハリは、地面に手を大きく突いた。

 

「ぷはっ……はぁ、はぁ、くそ、しんど……!!」

「サハリさん、大丈夫ですか!?」

 

 思わず駆け寄るフユキ。

 それに対し、サハリは──首を横に振った。

 

「あんまし大丈夫じゃねェ……メガシンカは本来、絆を結んだポケモンとトレーナーが使うもの……!! 所詮借り物じゃあ、トレーナーにもポケモンにも負担が大きくかかる……!!」

 

 現に──今の戦いでもサハリは殆ど指示を出していない。

 殆どポケモンの判断と能力だけでキテルグマを圧倒したことになる。

 勝利を確信したサハリは得意げに言ってのけた。

 

「尤も……キテルグマを倒すくらいなら、なんてことはないけどな!!」

 

 呻き声を上げ、俯せに倒れるキテルグマ。

 それを見て、漸く安心したのか──マヤはへたり込んでしまうのだった。

 

「た、助かったゼ……」

「助かった、じゃねーよ!! こんなのがいるなら、サッサと調査局に……うっ」

 

 膝を突くサハリ。

 メガシンカの負荷がトレーナーにもかかっているようだった。

 代わりにフユキがマヤに問いかける。

 

「教えてくれないかな。どうして調査局にキテルグマの事を教えてくれなかったんだい」

「……全ては……クランの為、だったんだゼ」

 

 ぽつり、とマヤが言った。

 

「それってどういう……?」

「今、サイゴクじゃあトレーナー達が徒党を組む”クラン”が流行っている。そいつらは皆、最初は強力なオヤブンポケモンを捕まえる為に結成された集まりだったんだゼ」

「なんて大それたことを……一体何のために、オヤブンを……!」

「縄張り争いってヤツだゼ。今のサイゴクの情勢的に、自分達の身は自分で守らなきゃだロ」

「……成程。クランが肥大化して自治組織と化しているってわけか。だけどサハリさん、今のサイゴクってそんなに不安定なんですか?」

「不安定、ではあるな。むしろ調査局始まって以来、一番荒れてると言っても過言じゃねえよ」

「えええ……? 何でそんな事に?」

「サイゴクってのは元々、5匹のヌシポケモンと──それを奉納する5つの”おやしろ”が守る地だった」

 

 サハリが語り始める。

 聞きなれない単語に、フユキは首を傾げる。

 ヌシポケモン、そして”おやしろ”。

 いずれもイッシュ地方では耳にしたことが無い単語だ。

 

「ヌシって、オヤブンとは違うんですか?」

「オヤブンとは比べ物にならないくらい強いポケモン。それがヌシだ。そいつらは普段、おやしろに居て……周辺の野生ポケモン共を締め上げてる」

「おやしろってのは──」

「あー……イッシュ地方にもあるだろ。”ほうじょうのやしろ”ってヤツ」

「聞いた事があります! 豊穣の神をまつる、小さな農村……と」

 

 フユキはテレビで紹介されていた”ほうじょうのやしろ”を思い出す。

 そこで語られる昔話は──豊穣の神・ランドロスにまつわる神話だ。

 

「それのデカいのがサイゴクのおやしろだ。だけど……そのおやしろ同士の対立がここ数年になってデカくなってきてる。ヌシポケモン、そしてそれの世話役たちの対立だ」

「……どうしてそんなことが」

「ヌシポケモンの代替わり、それに伴うおやしろのトップの代替わり……今まで成り立ってきた秩序が成り立たなくなってきてんだ。おやしろ同士の小競り合いも既に起きてしまってる。だから、それに不安を覚えたクランが蜂起してる……ってところか」

「最早、ヌシポケモンがサイゴクを治めるなんてのは時代遅れなんだゼ!!」

 

 マヤが叫ぶ。

 

「オレのダチもおやしろ同士の争いに巻き込まれて大怪我したんだゼ!! ヌシポケモンの機嫌一つでこんな事になるなら、おやしろのシステムなんて要らねーって思わねえか!?」

「……気持ちは分からないでもねーけど、デカい口に力が伴ってないみたいだな。結果的にキテルグマの問題を先送りにして、下の集落に大被害が出る所だった」

 

 それを言われてしまうとぐうの音も出ないのか、マヤは項垂れてしまった。

 

「で、でも、サハリさん。キテルグマに無暗に近寄らないようにドクバリ団の人達は封鎖していたわけで」

「最初っから解決するためなら調査局に一報入れれば良かっただけの話だ。コイツ等は結局、キテルグマを捕まえようと機会を伺ってただけさ」

「ああ……オヤブン一匹に手こずるようじゃあヌシ様倒そうだなんてのは夢のまた夢ってことだった……ワケだゼ」

「オヤブンがこんなに強いのに、ヌシポケモンはどれ程強いんだ……?」

 

 その話を聞いていたフユキは思わず息を呑んだ。

 強大なオヤブンを更に上回る強力なヌシポケモン。

 そして、それを奉るおやしろ同士の対立。

 このサイゴク地方もまた、一枚岩ではないということだ。

 

「あの、もしかしてオヤブンが暴れている理由も……」

「ヌシポケモンの影響力に翳りが出ているのか、あるいは……どっちにせよ、まだ断定する材料は無い。それは今後の調査で明らかにすべきことだろうな」

「ふぁーあ……」

 

 その時だった。

 気の抜けた声が後ろから聞こえてきて、全員は振り返った。

 そこには──眠そうに目を擦るコゴメの姿があった。

 

「コゴメちゃん! もう平気なのかい?」

「丁度良かったな……鉄火場はもう済んだよ」

「はえ? ボク寝てて、何にも状況が把握できてないんですけど……」

 

 生欠伸しながらコゴメは──未だに燃え盛るモンスタートレーラーを前に腰を抜かす。

 

「って、ええええ!? 燃えてますよ!? 水で消さなきゃ!!」

「アホか。今消防を呼んでるよ。油火災に水は逆効果だ」

「い、一体誰がこんな事を……」

「大丈夫だよ。サハリさんが何とかしてくれたから」

 

 落ち着かせるようにフユキが言ったその時だった。

 

「……あれ? ところでキテルグマ、何処行ったんだゼ」

「え」

「あ……ヤバ」

 

 居ない。居ないのである。

 さっきまでモンスタートレーラーの近くに倒れ込んでいたキテルグマが──影も形も無くなっているのだ。

 肝が冷えるような気配を感じ、全員は振り返った。

 ぼこぼこ、と瘴気が粟立つ。

 

 

 

「ブ、ブモォ……!!」

 

 

 

 地面から再び──さっきのキテルグマが現れた。

 そして、その丸太のような腕をフユキ目掛けて降り上げようとする。

 

(し、しまった、まだ動けたのかこいつ──ッ!?)

 

 逃げようにも逃げ場がない。

 あまりの恐怖でフユキの足は竦んでしまっていた。

 チコリータも、圧倒的な格の違いを前に蔓を伸ばすことすら躊躇してしまった。

 サハリはサメハダーに目配せしたが、メガシンカの負荷が想像以上に大きかったのか、飛び出すのに一瞬遅れた。

 そうしている間に──フユキを叩き潰すべく、キテルグマの腕が振り下ろされる。

 

 

 

「ダメッッッ!!」

 

 

 

 きぃん、と甲高い声がその場に響き渡る。

 腕を振り上げたコゴメが──フユキの前に出ていた。

 そして──その手が翳されると、キテルグマの動きがピタリ、と止まる。

 

「ダメッ、ダメだよ!! 大人しくしてッッッ!!」

「コゴメちゃん──ッ!?」

 

 フユキは思わず言葉を失う。

 コゴメの目は緑色に光っており──目元には血管が浮かび上がっている。

 そして、通常人間など気にも留めない程に強いキテルグマは──その剣幕にたじろぎ、後ずさる。

 

「サメハダーッ!! ”かみくだく”ッ!!」

 

 そうして稼いだ時間は──サメハダーがキテルグマの喉笛に喰らいつくには十二分だった。

 瘴気が血液のように噴き出し、ぐらりとキテルグマの身体が倒れ込む。

 

「っし、今だッ!! 捕獲するッ!!」

 

 サハリがボールを投げる。

 そして、キテルグマの身体は勢いよくボールへ吸い込まれ──何度か空中で揺れたかと思えば、カチリとロックが掛かり、地面に落ちる。

 

「……こ、今度こそ、終わったのか……?」

「油断した……あたしとしたことが詰めが甘かった……!!」

「よ、よかった……止まって、くれ、て」

 

 がくり、とコゴメが膝を突く。

 それをフユキは抱き留めた。

 

「コゴメちゃん、しっかりして! 今のは……」

「わから、ないです……ボク、必死にあの子に呼びかけて……なにが、なんだか」

「今の……キテルグマがコゴメちゃんの声を聞いたように見えた。あんなに聞き分けが無かったのに」

「でも、あの子の憎しみ、恨み、いっぱい伝わってきて……なにより……怖かったんだなって」

「分かったのかい……? ポケモンの言葉が……?」

 

 こくり、とコゴメが頷く。だが、それ以上口を利くことなく彼女は意識を失ってしまった。

 サハリはボールをベルトに仕舞うと──燃え盛るトレーラーを見遣る。

 

「どっちにせよ、後は消防に任せるか。オオイ山の怪異は無事捕まったんだからな」

「……そう、ですね」

 

 だが──フユキの視線はずっと抱きかかえているコゴメに向いていた。

 

(ポケモンの言葉が聞こえるだなんて。まるで……そんなの)

 

 重なる。

 目の前の少女と──かつて、自身が信奉していた「王」の姿が。

 

 

 

(まるで……N様、みたいじゃないか……ッ)

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