吾輩はロボである。名乗るほどのものではない。   作:曇らせられない北風

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夏場の水溜りばりに生暖かい目で見てくれたら嬉しいです。


壊れざる祈り①

 吾輩はロボである。

 なんかすっごく悪そうな秘密結社の所のロボである。

 なんて冗談であれば良かったのだが。

 

「会社に隕石が落ちてきて営業停止になったらいいのに」

「何言ってるんですか先輩!?」

「だってここブラックだよ。ブラック超えて黒色無双だよ」

 

 俺は希望を抱いてこの会社に入社し3年目で過労死。しかし会社にナニカサレてロボにされて会社の暗部で働いている。目の前に居る後輩には酷な現実だが、一見優良企業の皮を被った我が社に捕まった以上、ロクな末路はないだろう。

 

「死んでも働かせられる。この全身義体って会社の福祉って体だけど、過労死の隠蔽に使われただけだから」

「吐き気のする現実叩きつけてこないで下さいよ!」

「俺、墓に入れるのかなぁ。そもそも何入れよう、CPUとか?」

「それ、ジョークなんですか? 度し難くないですか?」

「俺の生き甲斐は給料日だけだぁ」

「給料って、先輩は何に使ってるんですか?」

「高級な工業用オイル代とか」

「自腹なんですか、それ……」

 

 さて、こんな常軌を逸した職務規定を敷いてやりたい放題の我が社のコアコンピタンスとは何か。

 

 それは──異世界の魔法である。

 

 我が社は家電や工具、自動車から玩具に至るまでありとあらゆる製品を扱っており、これ自体は凄まじく高性能。しかし、この製品にはある魔法が仕込まれている。

 

 それは、人間の生気を奪う魔法である。

 

 魔法、なんてサラッと出てきたが、この会社の上層部は全員異世界(こちらから見て)の出身である。

 そして何故そんな事をするのかというと、異世界で魔王復活の為に人間の生体エネルギーを集めるためにちょっと人類を滅ぼしてみたは良いものの、実はエネルギーが足りておらず、仕方なくこの世界で集めようとしているからである。

 

 ふざけろ、失敗しちまえそんなの、と言いたい所だが、我が社は隠蔽が上手く、表沙汰になった事はない。外部にチクろうとした同僚は転勤になった。転勤先がこの世のどこかであれば良いのだが。

 もっとも、俺も騙されていた人を馬鹿には出来ない。俺もこの身体になるまで何も知らずに働いていたからだ。過労死するまで、我が社が真っ当な商売をしていると思い込んでいたのだからお笑いだ。魔法とやらで認識が弄られていたのかも知れないが、今となっては過ぎてしまった事だろう。

 

「後輩。もしサボりたくなったらこっちに相談しろ。良い場所教えてやるから」

「先輩……」

「まあ、期待はするなよ。限度はあるからな」

 

 そう言って会話を切り上げ、俺と後輩は道を別れた。

 

 廊下に貼られた我が社の製品の消費を促す社員向けポスターにげっそりとする思いを抱えながら、俺は階を違えて位置する第4会議室に向かう。

 そこは通常の業務では一切使用されない会議室であり、専用のカードキーと金属鍵が無ければ入れない。

 俺は前腕の内側にある蓋を開き、カードキーと金属鍵を取り出す。ロボになって便利になった事といえば、収納場所が増えた事だ。前腕や太腿、腰の防塵スカート等、収納場所には困らない。弱点としては小さい物だと中でカタカタ煩いくらいだ。……いや、致命的な気もするな。

 

『アクセス権限C_承認_』

 

 カードを翳した電子錠のモニタが映した言葉を横目に、扉の物理錠も開ける。中は楕円のテーブルが中央に鎮座するハンコで押した様なお決まりの形をしたいかにもな会議室だ。

 

 そんな新鮮味のない景色だが、テーブルの裏の埋め込み式キーパッドを操れば忽ち変貌する。

 

『パスワード承認_ゲート解放_』

 

 楕円のテーブルが真っ二つに割れ、床に穴が現れる。その穴には暗闇が渦を巻き待ち構えていた。これはゲート、魔法によって空間を繋げられるそうだ。

 

「よいっしょ」

 

 ぴょいと飛び込めば視界は瞬きの間に倉庫のようなエリアに変わる。俺の様な暗部連中の支度部屋である。更にこの倉庫の出口にまたゲートが存在し、それによって今回の仕事場へ送られる。

 

 俺の目の前には一枚のスクロール。そこに次々と文字が現れ、今回の仕事の概要が記される。

 

「今回は時間稼ぎか。またあの子達とやり合うのは嫌なんだけど」

 

 この世に闇があるならば、それは光の存在を示唆している。つまり我が社と敵対する者も居るのだ。

 

「……はぁ、転職したい」

 

 だが、俺は我が社にナニカサレた時、上司の命令に背くと爆発四散する機能が外付けされている。もうめちゃくちゃだ。

 俺が会社に叛意を見せた所で『アバーッ!』するのがオチだ。

 

 ……いっそ上のクソ野郎の誰かを道連れに爆発するのもアリだと思っちゃいるが、幹部クラスと対面出来る機会は1人を除いてほぼ無い。泣けてくるな。

 

 魔力ある限り弾の尽きない魔法の拳銃と鋼鉄の短杖を手に取り、黒が渦巻くゲートへ向かう。上下左右の感覚が一瞬失い、気が付けば目的地に到着していた。

 

「ここは……」

 

 ゲートの先は廃工場、いくら陽動とは言えあからさま過ぎやしないか。暴れたって人が来るかどうか。

 

 辺りを見回し、どうするか考えようとしていた時だった。

 

「この気配……そこか」

 

 俺の強化された聴覚が、微かな足音を拾ったのだ。そこに乗せられた敵意に反応し、俺の身体は自然と動き出していた。

 

 銃を構え、迷わず引いた引金。放たれた弾丸は物陰に向かい……

 

 ──キィン! 

 

 ……相手の一撃で弾かれた。一般人の反応じゃない。それが分かった所で嫌な予感がしてきた。

 

「今日、貴様は()()()()に敗れ、破壊された」

 

 我が社において、社内政治に無頓着でいても、無関係ではいられない。俺はこの時まで、それを失念していた。

 

「──そう上司に報告出来るのが楽しみだ。坂下(さかした)鉄雄(てつお)?」

 

 陰から現れた異形の同僚を見た瞬間、俺は察した。面倒な奴に目をつけられたと。

 

 多腕型昆虫種の改造人間であった同僚は、8つの脚でガトリングを握り、残る人間の手に1本の杖を握っている。

 

 社内でも最近噂になっていた。有望な新人が次々と魔法少女に敗死していると。しかし、相手を倒す事はあっても殺すまでに至る魔法少女はそう居ない。新人の所属がある派閥に偏っていた事もあり、権力闘争の匂いが漂っていたが、まさか俺まで狙われていたとは。

 

 8つの円環が廻り始めた。重なる回転音が静かな廃工場に闘争のBGMとなって響いていく。既に射程圏内、逃げ場は無い。同僚は爆発四散してない辺り、独断専行という事もなく、奴の上司の差金なんだろう。そうじゃ無いと偽装した命令を渡すなんて不可能だ。

 

「助けは来ない。分かってるんだろう?」

「先に撃ったのは悪かった。話せば分かる、俺達は同じ立場だろ」

「問答無用!」

 

 情け容赦無く吐き出された鉛の雨。射線を避ける様に横に飛び出すが当然に銃口は追ってくる。背後を通過する弾丸がまるでウォーターカッターの様に積まれた廃材やトタンの壁を引き千切っていく。ただの会社員では味わえなかったスリル。出来れば一生味わいたくなかった。

 

 そんな冷や汗ものの光景とは裏腹に、身体は冷静だった。まずは回避、落ち着いたら反撃。今までの経験に裏付けられた基本動作をしようと身体が動く。

 

 足が澱みなく回り、片手で構えた拳銃の銃口は移動中でも微動だにせず、8つの内の1本の腕に定められた。

 

「痛いだろうが勘弁してくれよ!」

 

 意を決し引いた引金。弾丸が放たれる。

 しかし弾丸はスルリと着弾前に軌道を変えて明後日の方向へ飛んでいってしまった。

 

「無駄だ」

「おわっ……結界魔法かよ」

 

 その複眼をギラつかせ、奴は笑った。

 カラクリは分かる。結界魔法だ。特定の領域を隔てる透明な壁を作る事が出来る魔法……奴はそれを自分の周囲に張り、銃口の部分だけを結界の外に出せる様にしているんだろう。

 

「早く消えてくれ、私の時間は貴重なんだ」

「いや普通に嫌なんだけど?」

 

 結果を破るには魔法の起点となる物を潰すしかない。今の場合、それは杖だ。しかし杖は結界内。だが、ここでビビって死んだら末代までの恥だ。いや、改造されたせいで俺が末代で確定だったな。

 

 腰に下げた鋼鉄の短杖に魔力を込める。すると杖の先から光の刃が伸びていく。大体の物体を溶断できる円柱状の光の諸刃、これは座学赤点の俺でも使えるかんたん魔法……『レイザーエッジ』という。

 

「……ははっ、何をするかと思えば、そんな貧相な刃で何が出来る」

 

 効果はシンプル、ただ光の刃を形成するというだけ。故に俺の様な一般人でもコントロール出来る。だがこれだけじゃ目の前の結界は破れない。

 

 もうひと押し必要だ──杖に更に魔力を流し込めば、光の刃が、瞬きの間に巨大化していく。

 

「っ、何だ!?」

 

 嘲笑の目が驚愕に歪む。同僚は皆、魔法を使った搦手が得意な奴が多かったが、頭の出来が悪い俺は常に真っ向勝負ばかりをしていた。

 

 その中で、この魔法の特性を知った。この魔法の特性は、魔力を注げば注ぐ程に刃を強大に出来るということ。

 

「さっきアンタは言ったな。何が出来るか、って」

 

 1本の刃の太さと長さが背丈を優に超え、その2倍、3倍となっていく。そしてこの光の刃に重みはない。おかげで奴の弾丸は未だ俺を捉えられていない。そして(多分)魔力出力が許容限界に達した。視界の端の用途不明のゲージだって赤く震えているのだから間違いない。

 

「なら、見せてやろうじゃない!」

 

 言うなれば極光、全てを呑み込む光は廃材を消し去り、ありとあらゆる柱を消し去り、襲い来る弾丸の雨すら一振りで消し去る。

 

「お、おわぁぁぁぁぁっ?!」

 

 玉と棒が衝突した。結界の防護を上回る出力で、有無を言わせず結界は爆発四散する。そして俺は、その光景を認めた瞬間に魔法を解いた。

 

「……ぁぁ、あ?」

「もういいだろ? こんな下らない事は」

 

 腰を抜かしているものの、無事だった奴に俺は近付いて杖を取り上げた。奴は訳の分からない様子だった。

 

「……な、何だ。私は貴様を殺そうとしたんだぞ?」

「機械は殺人の内に入らない、未遂にもならない。それで良いじゃんか。それを言うなら俺はとっくにこの会社に殺された身だ」

 

 赤熱する腕を軽く振って冷ましながら、俺は奴の手を取り引き上げた。顔しか知らない同僚だが、俺の手で殺すのは憚られた。よくよく考えれば、こんな組織で働いてるのに直接()()()()()()()()は奇跡だな。そこだけは運が良かったのかも知れない。

 

 しみじみと思っていると、項垂れた奴は呟いた。

 

「だが、このまま帰れば私はあのお方に粛正されてしまう……」

「だよなぁ。逃げるにも改造人間は追跡されるし、命令に背けば爆発四散するし、手詰まりだ」

 

 正に前門と後門のなんちゃらだ。そこは俺も奴もどうしようもない。全部解決出来るヒーローでも居てくれたらなぁ、なんて……。

 

 そう悩んでいた時、廃工場が爆音と共に揺れた。

 

「っ?! 何だ!」

「おい、後ろだ!」

 

 そう奴に言われて振り返る。たった数十メートル先の壁に大穴が空き、撒き散らされた土埃の中に小さな人影が一つあった。

 

 だが、それを見た俺は、異常なまでの胸騒ぎを覚えていた。まるで、心臓の中にドライアイスを投げ込まれた様な寒気を感じた。体温なんて忘れた筈の感覚だったのに。

 

「敵は二匹。これなら連中が来る前に片付けられますね」

「っ、この魔力の奔流、かつ少女……魔法少女か!?」

 

 ……魔法少女。それは我が社と敵対関係にあるという存在の名前だ。今のところ、正体不明であるらしいが、使う魔法は幹部級のそれに近しいレベルのポテンシャルがあるとか。不本意だが、何度か戦って来た事はある。めちゃくちゃ強い。そして思ったより数が居る。街一つに1グループ居るんじゃないのかって位には。

 

 ただ、目の前の魔法少女は、今までのとは何かが違う気がした。

 

 少女、と言うには背負った覇気があまりにも……。

 

「……逃げろ。俺が時間を稼ぐ」

「何? 私を逃すだと?」

「俺は魔法少女に破壊された、だったよな」

「馬鹿な、貴様は命を狙った相手の為に死ぬと?」

 

 奴の方を振り向く事すら難しい。目を離したらやられるんじゃないかと俺は思っていた。

 

「あんなにチンタラ狙いを定める様な奴が命を狙ってる? 冗談だよな?」

 

 俺は奴から離れ、魔法少女に近付く一歩を踏み込んだ。土埃はやがて晴れていき、隠されていたものが露わになる。

 

「片割れを逃すつもりの様ですが、2匹とも潰します」

 

 現れたのは、上から下まで白一色、三角帽を被ったドレス姿の少女だ。いかにも魔女という格好だが、リボンやフリルに覆われた魔法少女としての平均的な姿からは外れているようにも見える。

 

 こんな廃工場には似つかわしくない可憐な姿。だが油断出来ない。取った杖を奴に返し、俺は銃と自分の杖を構える。

 

 そしてそれに呼応するかの様に少女は白地に金細工が施された杖を振り上げた。

 

「……『お布団』」

「は?」

 

 耳の機能がやられたのかと一瞬思ったが、途端、視界が闇に染まった。いや、これは──お布団!? 

 

「まずは一匹」

 

 やられる。そう思った俺はもがきながらも咄嗟に前に踏み込む。とにかく、続く攻撃を躱す為に。

 

「まさか……気を付けろ! そいつは幹部級を殺したイレギュ──ぐぁぁっ!?」

「っ、な!?」

 

 だが、それが彼女の手のひらの上だと気付いた時には遅かった。被さっていたお布団を投げ捨て、視界を取り戻した俺が見たのは、血を流して倒れる奴と、その後ろで佇む少女。

 

 その手に握るのは、逆手に握った杖。その先端からは透き通る細い刃が伸びていた。帽子のツバを摘みながら血払いする姿は、俺の知る魔法少女のそれではない。

 

「先程の戦いは見学させて頂きました。おかげで倒すべき相手を間違わずに済みました。後衛としての結界魔法の使い手は厄介なので」

「……殺意が、凄いな。クソッ」

 

 親戚に引き取られた幼い我が妹の顔がふと頭を過った。両親は事故で亡くなり、暫く施設暮らしだったが、孤独じゃなかった。あれこそが幸せの形だったんだろう。

 

 それを今ここで思い出すなんて、俺はとんだ親不孝……いや妹不孝者だな。

 

「残り1匹、今日はすぐ終わりそうですね」

「……ふふ。そんな余裕ぶっこいてるなら、残業確定させてやるよ」

 

 今月の我が妹への仕送りは無理そうだ。せめて高校と大学に行けるくらいには……いや、悪の組織で働く様な奴には過ぎた願いか。

 

 俺は『レイザーエッジ』を発動し、構える。

 

 殺す気なんてサラサラ無い。妹くらいの年頃の娘に暴力なんて生理的に無理だ。

 

 だとしても──このまま黙ってやられるつもりもない。

 

「平社員の意地、見せてやる」

「仕事を増やさないでください。殺しますよ?」

「ハナからそのつもりだろ!」

 

 睨み合った俺たちは、互いに走り出した。

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