戦術人形彼の地にて斯く、戦えり   作:謎多き作家

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変化する情勢

アルヌスでグリフィンと自衛隊の特地での司令官同士の会談が行われる中、自衛隊側の世界の各国は特地の情勢に関する情報の一部を独自のルートで入手していた。

 

アメリカでは。

 

「特地に傭兵だけを送り込むソ連もどきに日本軍は何を戸惑っているのかね?余計なリスクを即刻、排除すべきだと私は思うのだが?」

 

アメリカのホワイトハウスでは大統領ディレルが過激な発言をする中、ディレルの側近が答える。

 

「自衛隊です大統領。排除と言いましても相手は傭兵部隊だけとは言え、背後に新ソ連と名乗る国が後ろ楯となっている以上、迂闊な真似は自衛隊ひいては日本政府はしないでしょう。それに傭兵部隊には戦術人形と呼ばれる高度なAIを搭載したロボット兵を運用しているとか……我々としても慎重になるべきかと」

 

側近のその答えにディレルは忌々しいとばかりに顔をしかめると同時に筋のある答えだと判断して反論しなかった。

 

兵士と呼ばれる存在はどんな時代になろうとも長い年月を掛けて多額の金を掛け、厳しい訓練を行ってようやく様になるのだ。

 

適当な人間に軍服を着せて銃を持たせても戦い方を知らなければ何の意味もなく寧ろ邪魔なだけだ。

 

旧日本軍ですら日々の仕事や学業の合間に訓練を施し、素人ばかりだったとは言えある程度の戦い方を知る者は多かったくらいなのだ。

 

しかし、戦術人形は根本的に違う。

 

製造、完成、武装、実戦配備。

 

これらの過程だけで兵士として戦力となり、人間の兵士の育成コストを大幅に下げる事が可能なのだ。

 

それだけでなく、人間の様に戦場の環境に折れずに戦う事も利点であり、人間の様に心が折れかねない悲惨な戦場を縦横無尽に駆け抜けさせる事も出来ると考えられた。

 

人間は負傷すれば数ヶ月或いは永遠に戦えない……しかし、戦術人形は直せば再び戦える……これも利点だ。

 

資源さえあればそんな戦術人形を大量に製造し、配備すればアメリカだけでなく世界を圧倒する事も夢ではないのだ。

 

「何としても欲しいものだ。何とかならんのかね?」

 

「現在、日本政府も戦術人形には注目を集めている模様です。その技術が手に入るかは……日本次第かと」

 

「……成る程。後から我々にも恩恵を授かれる様にしなくてはな……これもアメリカの繁栄の為だ」

 

ディレルはそう言って不敵に笑った。

 

ロシアでは。

 

「戦術人形か……もし、我々の世界に入れば今後の戦争を大きく変える事になるだろう」

 

ロシア大統領ジェガノフはそう言って過去に起きたロシア、ウクライナの戦争を思い浮かべる。

 

ジェガノフの先代に当たる大統領の起こしたウクライナに対する戦争は戦争の常識を大きく覆し続ける結果を残した。

 

その一つとしてドローンによる輸送と攻撃。

 

そしてもう一つは多種多様なロボット兵器の投入だった。

 

この二つは戦争の常識を変え、戦い方を変えた。

 

人型は流石にいなかったが無人車両や犬型の偵察用のロボット、機関銃が取り付けられた戦闘用のロボットが多数投入され、ウクライナ側ではロボットのみで編成された部隊が発足され、成果を挙げている。

 

戦争後も今ではロボット兵器に関する研究が行われており、ロシアでは密かに実用的な人型のロボット兵器の研究が本格的に取り行われている程だ。

 

「他国に渡る真似だけは阻止しなければな……さて、どうするものか……」

 

戦術人形の優位性は諜報員から聞かされたリスクに目を瞑れば非常に理想的な兵器であるのは間違いない。

 

故にアメリカも中国もEUも欲しがるのは明らかだった。

 

ジェガノフは今後の対応次第ではロシアは他国を出し抜けると考え、思考を巡らせていく。

 

中国では。

 

「小日本に続いて邪魔な存在が増えるとは!クソッ!ソ連擬き共め!こんなタイミングに現れるとは!」

 

中国では主席である薹 徳愁が新ソ連の存在を知って怒りを露にしていた。

 

「奴等は間違いなく特地を狙っているのだ!豊富な資源と汚染の無い環境!その全てをだ!しかも我々とは違って門を持つだと!?ふざけるな!!」

 

「お、落ち着いてください……薹主席……確かに忌まわしい事ですが全てがマイナスではありません……」

 

「その通り。もし、日本が奴等と協力体制を取れば自ずと技術を手にする可能性はあります。それを我々が工作し、技術を奪い、他国に先駆けて配備するのです。そうすれば我々の影響力は増し、世界を席巻する事も可能でしょう」

 

「ふん!確かに技術は魅力的だな……だが!問題はその技術のデメリットだ!鉄血なんぞと言う奴等の戦術人形共の暴走が特地で起きているそうではないか!我々が手に入れる技術は本当に問題はないのか?手に入れたとして反乱しない保証は?考えれば無いに等しいではないか!そんな保証も何も無い物を大量に配備してみろ!手が付けられなくなるのが嫌でも分かるわ!」

 

薹 徳愁はそう言って媚を売って戦術人形の技術入手の工作を提案した二人の部下に怒鳴ると深い溜め息をついた。

 

「だが……他の奴等に渡るのも癪だ。保険として技術の入手はする。そして他国、延いては日本に戦術人形の技術が渡るのを妨害する。その工作を現在行っている工作と共に進めたまえ」

 

「わ、分かりました!」

 

「直ちに!」

 

慌ただしく去っていく部下に薹 徳愁は溜め息をつくと日本だけが旨味を得るばかりの状況に舌打ちしつつ門の独占する策謀を巡らせながら椅子に深く座った。

 

各国の思惑が動く中、日本では。

 

「日本の滅亡ですか……」

 

「はい……それがもう一つの世界……未来の日本の末路だと……」

 

日本政府の現内閣である本位総理とその官僚は総理官邸に集まりもう一つの世界の勢力と向こう側の世界そして日本を知った。

 

本位達の空気は御通夜の様に静まり返り沈黙が続く中、官僚の一人である嘉納が口を開いた。

 

「落ち込んでたってしょうがねぇだろ?今は今の状況をどうするかが先決だろ?」

 

「そうですね……しかし……よりにもよってソ連ですか……」

 

「正確には新ソ連です。彼らの正規の軍はどうやら動けない様子……代わりに派遣されたPMC。グリフィン&クルーガーの司令官ハヤトは友好的な態度で来ています。此処で敵対するよりも此方も友好を取り、協力するべきでは?」

 

「戦術人形と呼ばれる人型兵器の存在もあります。グリフィンはいざ知らず、鉄血工造と呼ばれる戦術人形の暴走が特地にまで広がっているとすれば彼ら……いや、彼女達との協力は必要になると思います」

 

「私は反対だ」

 

官僚達が友好を取り、協力すべきと声を挙げる中、他の官僚が反対の声を挙げた。

 

「グリフィンは問題ない。それは確かだ。だが……問題はその後ろにいる新ソ連と他国だ。聞いた所によると向こう側の世界は汚染と戦争で荒れ果てているそうじゃないか。これでもし、新ソ連の正規の軍に余力が出来たのなら?他国が何かしらの理由で門を所有する権利を得たら?考えるまでもなく帝国への報復や安全な土地を手に入れると言う大義名分を掲げて押し寄せて来るに決まっている」

 

「その通りだ。万が一にでもそうなって我々、日本と敵対しないと言えるのか?下手をしたら奴等はこの世界すら手に入れようと画策するかもしれない。だったら……最初からグリフィン側の門を……!」

 

非友好派の官僚が最後の言葉を言い掛けた時、友好派の官僚が立ち上がって声を粗げた。

 

「そんな事をすれば憲法9条に違反するぞ!我々は他国を攻撃する事は自己防衛以外では許されないのだぞ!」

 

「奴等は正規の軍ではない!非正規の武装組織を日本から追い払うだけだ!」

 

「特地はあくまでも日本国内と言う扱いと言う形だけだ!正式な日本国内ではない!」

 

「だったら奴等の大元が来て黙って驚異に晒されろと言うのか!」

 

白熱する議論に本位は頭を抱える中、嘉納が強めの咳払いをした所で議論は止まった。

 

「確かに驚異だな……だが、まだそれが本当の驚異に俺達がしてやる義理はねぇよ。変に後ろの奴等に大義名分を掴ませない方が良い。俺達の存在は新ソ連の連中も想定外の筈だからな」

 

「その通りですね。恐らく近い内にでも新ソ連の外交官が来るでしょう……行動は彼らの出方を見てからでも遅くありません」

 

嘉納の言葉を聞いて本位が同意し、そう言うと日本政府の暫くの方針が固まりつつあった……が、嘉納は深い溜め息をついた。

 

「外交の話しは良いんだが……一番の問題なのは鉄血だよなぁ……こいつらどっから来たんだ?」

 

嘉納はそう言ってグリフィンとは別に特地へと渡ってきた鉄血に嘉納は予想は着きつつもどうやって来たのかと思考を巡らせるのだった。

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一方、アルヌスではグリフィンと自衛隊の特地における活動の取り決めが決まっていた。

 

1.グリフィンと自衛隊は協力体制を取る事。

 

2.特地における情報を許容し合える範囲で共有し合う事。

 

3.帝国や鉄血に対する敵対勢力に対し連携した対応をする事。

 

以上の取り決めが三つ決まり、正式な外交が成立するまでの決まりとなった。

 

「ありがとうございますハヤト司令。お陰で不安要素の一つは一先ずは消えました」

 

「此方もです。狭間陸将。鉄血に対してはくれぐれも油断しないでください。武力においては自衛隊に遅れを取っているとは言え、鉄血は狡猾です。奴等も正面から自衛隊に勝てないと踏んでいると考えられる以上、策を練ってくるでしょう。くれぐれもお気を付けて」

 

「分かりました。我々としても未知との相手との戦いになる以上、油断など出来ませんからな」

 

ハヤトと狭間は互いにそう言い合って会話を終えると握手を交わすのだった。

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その頃、特地の辺境にある町の酒場では。

 

「黒紫の魔女を追い払った!?」

 

「嘘だろ!?」

 

「そんなの絶対無理だ!」

 

第三偵察隊と第六小隊が鉄血と交戦し、勝利した事がコダ村の生き残りの人々を通して噂として流れていた。

 

「魔導師やエルフ、帝国軍だって無理だったんだ!奴等の恐ろしい魔法と怪異はどんな奴でも歯が立たなかったんだぞ!?」

 

噂を聞いた人々は信じられないとばかりに話し合い、噂が広がる中、それを酒場の片隅で聞き耳を立てる者達がいた。

 

「緑の班服を着た正体不明の傭兵団と女神と見間違える程の美貌を持つ戦乙女達……騎士ノーマどう思いますか?」

 

「はぁ……どうたって汚い酒場に安い酒としか……」

 

「ノーマ……我々はアルヌス強行偵察行の途中なのだ」

 

「しッ!声が大きいぞ!」

 

酒場の片隅で聞き耳を立てるのは鎧で武装した騎士達で赤毛の女を筆頭に噂について話していた。

 

「ハミルトン……これだけ多くの避難民が言うのだから嘘ではなかろう。だが、黒紫の魔女の実力を聞いた事はあるか?帝国軍三万を僅か半日で壊滅させた化け物共だぞ?いささか信じがたいな」

 

「私は信じても良い気になってます……」

 

ハミルトンと呼ばれた女性騎士がそう言った時、麦酒を手に持ってきた女給が現れた。

 

「本当だよ若い騎士さん達。黒紫の魔女共だったよ。あの派手な服装や魔法は間違いない。私はこの目で見たんだ間違いないよ」

 

「ハッハッハ!私は騙されないぞ女給」

 

「まぁまぁ」

 

女給の話しにノーマが笑いながら否定し、女給がムッとした所でハミルトンが仲裁に入りながら一枚の金貨を取り出した。

 

「私は信じるから。良かったら班服の人達と戦乙女達の事を教えてくれない?」

 

ハミルトンのその言葉に待ってましたとばかりに女給は硬貨を受け取った。

 

「ありがとうよ若い騎士さん!じゃ、とっておきのを披露するよ」

 

女給はそう言って班服の集団と戦乙女こと第三偵察隊と第六小隊の話しをするのだった。

 

 

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