イタリカの防衛を手助けする事となった第三偵察隊と第六小隊は南門の守備をピニャから任された。
日が沈む中、南門の城壁の上で伊丹と桑原、64式自が隊の面々と共に状況の確認の次いでにイタリカの外側を警戒していた。
「……来てるね」
「はい。斥候ですね後方に本体がいます。数は……五、六百と言った所ですか」
「そんなに……救援は半日は来ません。それまで盗賊の動きが遅ければ良いのですが……」
「そう願いたいけど盗賊の殆どが元は正規兵だからねぇ……ここぞとばかりのチャンスを逃す相手でもないよ」
伊丹の言葉に64式自は撃ち漏らした相手が盗賊と化した事で出た被害を思うと苦虫を噛んだ様な険しい表情を浮かべる。
「(私達の詰めが甘すぎたせいで……此処で引導を渡さないと……)」
64式自はそう思いながら拳に力が入る中で伊丹と桑原の話しは続く。
「狙いは南門かな?」
「そうですねぇ……イタリカは人口五千人を越えるそうです。包囲するには敵の兵力が少な過ぎます。川に面した北門を除くとしても東西南どこか一ヶ所に戦力を集中させる筈です。攻撃箇所を決められる敵が有利ですね。それにこの陣地は……」
「おやっさんもそう思う?」
伊丹達は後ろに視線を向けると内側では土を盛って柵を築いているイタリカの民兵達の姿があった。
「やっぱ城門が突破される事を前提にしてるよねぇ」
「城壁と柵の二段構えで敵に出血を強いて時間を稼ぐってとこですか?我々は火消し役として後方いる方が……」
「弾薬は限られています。私達のダミー人形やイタリカの城壁があるとは言え、六百の敵を相手にするには心許ないです。適度に盗賊を倒し、イタリカの人達の対応させる方が懸命かと」
「うーん……けどねぇ……」
桑原と64式自の言葉に伊丹は頭をかいた後、結論を言う。
「一応、あの帝国のお姫様が此処の指揮官でしょ?俺達も緑の人とか戦乙女って有名になっちゃったみたいだし後ろにいちゃ士気に関わるよ」
伊丹がそう言った所でイタリカの民兵や住民達は希望に満ちた歓声を挙げ、伊丹は苦笑いしながら軽く手を振る。
「しかし、如何にも手薄です。一度突破された南門に少人数の我々を張り付けると言う事は……」
「あぁ、分かってるよおやっさん。俺達は囮だ。手薄に見える南門に敵を誘い込んで奥の二次防衛線を決戦場にする気だよあの姫様は」
「……敵は乗りますか?」
64式自は疑問を抱きながら伊丹に質問した。
確かに手薄な防衛陣地を攻めるのは戦略的に間違いはないし、攻めてくるかもしれない。
だが、一度突破した経緯がある南門の守備をあからさまに手薄にすると言うのは逆に警戒されかねないのではと64式自は思う中、伊丹は答えた。
「ま、姫様の騎士団ってのが此方に向かってるそうだし、俺らと64式自達の本部に支援要請も出したから何とかなるでしょ」
伊丹はそう言って盗賊との戦いに備えて土嚢作りを始め、焚き火等の可燃物を片付けさせる。
暗闇の中では自衛隊側が暗視装置を持ち出して取り付ける中、第六小隊は銃のチェックをするだけだった。
その様子を見たレレイは64式自達の元に来た。
「夜でも見える仕掛けを付けない?」
「え?あぁ、私達は大丈夫なの」
「暗視モジュールを入れてあるからな。暗視装置が無くても見えるって訳だ」
「モジュール?」
89式とPM-9の答えを聞いてレレイは再び困惑し、首を傾げると89式はチャージングハンドルを何度か引いたりして動作確認しつつ教える。
「私達、人形には必要に応じてモジュールって言う部品を組み込む事で色々な性能を持つ事が出来るんです。泳げる様にしたりとか私達みたいに戦術人形になる為に射撃管制コアを搭載したりとか色々あるんです」
「射撃管制コアと言う物が無かったら戦術人形はどうなる?」
「戦えなくなりますね。人形は基本的に人間に危害を加えてはいけませんから。戦術人形でもあくまでも危険と判断した相手にしか攻撃できません。射撃管制コアを抜かれてしまえば自己防衛すら叶いません」
「ようは襲われたりすれば単なるサンドバックにされるって事だ。だから戦場にいる戦術人形は射撃管制コアがあるって思えば良いんだよ」
二人の説明からレレイは興味深げに聞きながら戦術人形の話しを聞き続ける。
他の者達は城壁を起点とした簡易的な防衛陣地を構築が構築されていく中でテュカは腕を擦る仕草を見せると一○○式がそれに気付き声を掛けた。。
「寒いのですか?……もしかして風邪でも?」
「え?ううん……違うの……何だか胸騒ぎがして……」
「胸騒ぎですか?」
「うん……普段ならこんな事はないんだけど……」
テュカは不安げに城壁の外を見渡す姿に一○○式は心配げに見守る中、夜は深けていく。
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イタリカ防衛に協力し始めてから数時間が経過、日が完全に沈んだ事で辺りは暗闇に包まれた。
暗視装置や暗視モジュールのある伊丹達は暗闇の中でもハッキリと景色が見え、警戒を可能とする中、油断無く怪しい存在が無いか警戒し続ける。
「来ませんね盗賊の人達」
89式は持ってきていたレーションを片手に食べながら警戒を緩めずに見張り続ける。
「……嫌な予感がするでありますね」
「盗賊が別の場所を攻めるとかですか?」
「だとしたら面倒だぞ。西門から別の門までどんだけあるのか……」
「いや、そうではなくてありまして……もっとヤバいものが来そうな気がするのであります……」
四式のその言葉に一○○式とPM-9は互いに顔を見合わせた後、互いに首を傾げあった時、東門が急激に明るくなり、騒がしくなった。
「おやっさん!」
「隊長。始まりました東門です」
東門の異変に当然気づいた伊丹達も東門に注目が集まる中、64式自達も東門に視線を向ける。
「時間は○三○○です。夜襲するにはもってこいの時間です」
「ちッ。やっぱり簡単に乗るような連中じゃねぇよな」
一○○式は時間を確認し、報告するとPM-9は舌打ちして悪態をついた。
東門の襲撃により行動が求められる中、伊丹達は動けなかった。
「東門から応援要請は?」
「まだ何も」
伊丹達が動けない理由、それは応援要請の有無だった。
伊丹達、自衛隊は基本的に要請が無ければ動けないし、何なら現在の司令官であるピニャの判断無しで動くのは組織的にNGだった。
だが、動かなければ東門は簡単に陥落する。
そんな緊張感が漂う中。
「なんでぇ?なんでなんでぇ?此方に攻めて来るんじゃなかったのぉ!!」
ロゥリィが癇癪を起こした。
伊丹達や64式自達が唖然とする中、ロゥリィは身体をくねらせて何処か何とも言えない様な雰囲気で苦しみ始めた。
「おいおいどうした?大丈夫か?」
伊丹が近付こうとした時、レレイとテュカの二人が止めた。
「何で近寄っちゃ駄目なんだ?」
「彼女は使徒だから」
「は?使徒?」
伊丹がそう言うとレレイは頷く。
「戦場から離れてるからアレで済んでる。もし彼女が戦場の真中にいたら……」
レレイの説明の最中、ロゥリィは悶えながらハルバードを振るい、近くの土嚢を吹き飛ばしてしまった。
「敵と見なした者を衝動的に殺戮する。そうしない訳にはいかなくなる。それを止めるのは誰にも……彼女自身も不可能」
伊丹達はレレイの説明を聞いて青ざめ、64式自達もロゥリィから一歩退いていく。
「つまりは今のロゥリィは無差別ミンチマシーンて事かよ……」
PM-9のその言葉に第三偵察隊の面々までロゥリィから距離を取った時、東門が更に騒がしくなるとロゥリィが更に悶えていく。
恐ろしいが何とも言えないロゥリィの悶え方に伊丹達、特に男は困り果てた。
「止められないの?」
「無理。戦場で倒れていく戦士の魂が彼女の身体を通してエムロイの元に召されていく。それは亜神にして使徒たる彼女には麻薬の様に作用する。いっそ狂ってしまえば楽になる。けど、それが出来ない」
「死んだ人間の魂が媚薬になるって事か……」
伊丹はそう言って若干、顔を赤くし、心無しか64式自達も含めたレレイを除いた女性陣まで顔を赤くし始めた。
場がカオスとなっていく中、伊丹が指示を飛ばした。
「栗林!」
「はいッ!」
「ロゥリィに着いてやってくれ。あと冨田二曹と俺。この四人で東門に行く。残りの全員は万が一に備えて西門で待機」
「分かりました。伊丹さん。気を付けて」
64式自はそう言って死地に向かう伊丹達を案じながら言う。
普段なら危険な場所に向かおうとする人間に無理強いしてでも連れ戻したり、着いて行ったりするが伊丹達は民間人ではなく自衛隊と言う訓練された存在。
お節介する程に自衛隊は弱くない為、64式自は伊丹の指示を尊重し、西門に残る事を選んだ。
栗林がロゥリィを西門へと連れていくべく近付いた時、ロゥリィはもはや限界であったのかそのまま城壁から飛び降り、西門へと駆け出してしまった。
「速!おやっさん後は頼む!」
ロゥリィが駆け出した事で伊丹達は桑原に任せてロゥリィを追い掛けて行き、残された者達は一息ついた。
「無事に戻ってきてくれると良いでありますね」
「そうですね……ん?なにアレ?」
89式は城壁の外を見た時、遠くから影が見え、細目で確認した所で驚いて銃口を城壁の外へ向けた。
「敵影発見!!西門側中央に多数の敵影!!」
「敵影!?盗賊ですか!」
64式自は89式の報告を聞いて暗視のまま双眼鏡を覗いて確認するとその影の正体は無数の機械の群れだった。
「あれはブロウラー!?スカウトまで!?」
「鉄血ですか!?」
「鉄血の機械ユニットです!恐らくイタリカの混乱に乗じて攻めて来たと考えられます!」
64式自がそう言い終えた所で甲高い音と共に後方が爆発した。
「砲撃です!」
「前方!鉄血の部隊後方から砲撃を確認!恐らく迫撃砲と思われる!」
「迫撃砲って!そんなもんまで持ってるんスか!?」
鉄血からの砲撃に第三偵察隊や第六小隊は身を屈ませ、鉄血の攻撃を伺いつつ接近するブロウラーとスカウトを攻撃する。
銃声が激しく響く中、南門の後方にいたイタリカの人々は阿鼻叫喚の状況だった。
「だ、誰か来てくれ!埋もれた奴がいる!」
「息子が!息子がぁ!!」
「お、俺の腕は……?腕の感覚が……無いんだ……」
鉄血の砲撃に晒されたイタリカの人々は混乱に陥る中、砲撃が一時的に止んだのを見計らって城壁から降りてきた黒川やPM-9や一○○式が降りてきて負傷者を担ぎ出したり、応急措置を施す。
「黒川!こいつの出血がひでぇぞ!腕がねぇ!」
「無くなった腕より上から紐か何かで強く結んでください!それで出血を抑える事が出来ます!」
「く、黒川さん!この子も怪我を!」
「その子は比較的軽症です!後で処置しますので出来る限り安全な場所へ運んでください!他にも動ける方がいましたら手を貸してください!急いで!」
黒川の的確な指示が後方で飛ぶ中、城壁の上では桑原が指揮する第三偵察隊の残留部隊と第六小隊による決死の抵抗を見せていた。
「上空にスカウト五機!来ます!」
「空だろうが地上だろうが突破させるな!これ以上、民間人への被害は許されない!」
「前までの戦術人形とかの部隊はなんだったんスか!ものすごい機械でのゴリ押しじゃないっスか!」
「鉄血の常套手段です!こうして物量でぶつけて私達の消耗を誘っているんです!こうしている内にでも鉄血の本隊はすぐに来ます!」
64式自はそう言ってブロウラーを破壊した時、89式がいた地点が爆発し、89式が倒れた。
「89式!!」
「だ、大丈夫です……それよりもまた……」
89式の言葉に64式自が鉄血側を見ると六機にも及ぶ鉄血のニーマムが砲身を向けており、城壁に向かってニーマムの砲撃が始まった。
「砲撃が来るであります!!」
「クソ!全員、待避!!城壁の後方へ下がれ!!」
桑原がそう言って第三偵察隊と第六小隊の面々は急いで城壁から降りて待避すると砲撃がイタリカの城壁を襲い、門ごと崩れていく。
「あぁ……城門が……」
イタリカの住民の一人がそう言って唖然とした時、崩れた城壁の上を登る者がいた。
「リッパーとヴェスピド……それにブルートまで……!」
64式自は鉄血の戦術人形が侵入して来ると考え銃口を向けた時、鉄血兵の上空をフワフワと飛ぶ影に気付くと驚愕する。
「ま、まさか……!」
「そのまさかですわ。グリフィンのゴミ人形さん」
64式自達、第六小隊は第三偵察隊の面々を庇う様に立つと浮いていた者はそのまま優雅に前に降り立った。
「まさか……貴方まで此処にいるなんてね……スケアクロウ!」
「その言葉……そっくり返してあげますよ」
鉄血工造ハイエンドモデル、スケアクロウ。
この世界における初めて観測されたハイエンドモデルであり、自衛隊が初めてハイエンドモデルとの戦闘が行われる瞬間だった。