東門に盗賊、南門に鉄血が押し寄せて来てから暫くしてピニャは苦渋に苛まれていた。
「み、南門に敵が襲来!か、かなり大きな爆発と共に南門の後方と南門が破壊された模様!」
「くッ……!南門の敵は何処の者だ!盗賊か!」
「で、伝令の知らせによると……く、黒……黒紫の魔女!黒紫の魔女です!!」
「黒……紫の……魔女だと……」
ピニャはそれを聞いてあまりにも理不尽な事態に絶望した。
只でさえ盗賊に苦戦しているのに対し、帝国軍の大軍を半日で退けた黒紫の魔女こと鉄血の軍勢まで相手取る等もはや勝ち目は無かった。
ピニャは唖然とする中、ピニャの補佐であるグレイが冷静に進言する。
「姫様。もはやこれまでかと。イタリカを抜け、体勢を立て直してくだされ」
「妾に逃げよと申すか!」
「この屈辱は一時の事。生きていてこそ雪辱を晴らせるのです。ご決断を」
グレイの言葉にピニャは悔しげにうつ向き、思考を必死に巡らせる。
「(このまま逃げれば妾の名誉以前に騎士団を率いる者の名折れだ。イタリカの者達も見捨てる事になる。だが、盗賊を抑え込めずあまつさえ黒紫の魔女まで来てしまった。妾は……どうすれば……!)」
ピニャは決断が迫られ、もはや戦線は立て直せないと考えてイタリカからの撤退を叫ぼうとした時、上空を甲高い音で飛び去る音と共に突風がピニャに吹いた。
「な、何事だ!」
「ひ、姫様!あ、ああ、アレは何ですか!?」
ピニャの配下の一人であるハミルトンは何かを見て混乱した様に叫ぶとピニャは飛び去った方向へと視線を向けるとそこにはプロペラを回して南門へ急行する数機をヘリだった。
そのヘリにはグリフィンのマークが書かれており、グリフィンの増援である事が示唆されていた。
《各小隊へ連絡。現在、第六小隊が多数の鉄血と交戦。イタリカ内部への侵入を許してしまった。自衛隊第三偵察隊と対応をしているが恐らくは長くは持たない。至急、急行し対処せよ。東門の盗賊は自衛隊と共に第四小隊が対応する。各自、到着次第に作戦を開始せよ》
鉄血によるイタリカ襲撃の知らせを受け、ハヤトは支援部隊を予定よりも増やし、更にハヤトの指揮下にある小隊の中でも実力者揃いの第一小隊も出撃させた。
《頼むぞOTs-14。第六小隊と第三偵察隊の健闘を無駄にさせないでやってくれ》
「分かってるわ指揮官。彼女達の頑張りを無駄にはさせないわ」
そう言ってマガジンの弾を確認してチャージングハンドルを引いた第一小隊隊長OTs-14は激戦となっている南門へと視線を向けた。
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グリフィンの援軍が向かっている頃、鉄血兵による猛攻を64式自達と第三偵察隊による奮戦によって何と辛うじて防がれていた。
「イタリカの住民に近付かせるな!此処で何としても踏ん張るぞ!」
「む、無理っスよ!数が多すぎるっス!」
「弱音吐いてる場合じゃねぇぞ倉田!兎に角撃て!撃てぇ!!」
第三偵察隊はイタリカの住民が奥へと避難する時間を稼ぐべく、都市部の中に入り簡易的なバリケードを築いて鉄血兵の接近を防いでいた。
第六小隊の面々に庇われ、スケアクロウの攻撃が始まる前に少しでも地の利がある場所へと後退した事で辛うじて鉄血の猛攻を防ぐ事ができ、迫る鉄血兵に対処する事が出来た。
「クソ!情けねぇ!あのマスクの女から逃がして貰っておいてあの子達だけで戦わせるなんて……何が自衛隊員だ!俺の馬鹿野郎!」
「後悔している暇があるなら撃て!我々には我々に出来る事をするんだ!勝機はまだある!今は耐えろ!」
桑原はそう言ってバリケードをよじ登ろうとしたリッパーの頭に数発撃ち込んでリロードをした時、バリケードを一体のブルートが易々と飛び越えて桑原達をすり抜けて突破した。
「しまった!黒川!!」
「え?」
桑原の視線には避難誘導をしていた黒川に向かってナイフを振り下ろそうと接近するブルートの姿だった。
黒川は突然の事に驚いたが咄嗟に持っていた64式小銃でナイフを防ぐとそのまま仰向けで倒れた。
ブルートはそのまま黒川にのし掛かりナイフの刃を突き立て様と力を込め、黒川は必死に抵抗する。
だが、人間の黒川と戦術人形のブルートとでは力の差は比べるものではなく、徐々に黒川の腕が低くなっていく。
桑原は黒川を助けようとするが後続のリッパーやヴェスピド、ブルート達が迫ってきた事で対応できずにいた。
黒川の首にナイフの刃が迫り、黒川は死を覚悟した時、ブルートの頭に目掛けて石が飛び、ブルートは怯んだ。
その隙に黒川はブルートを勢いよく突き飛ばして後方へ退いて石の飛んだ方へと視線を向けるとそこには子供が一人いたのだ。
「どうだ魔女め!思い知ったか!」
子供はそう言って怯んだブルートに叫ぶと怯みから立ち直ったブルートは起き上がるとナイフを手に子供に迫ろうとした所で発砲音が鳴り響き、ブルートは倒れた。
発砲したのは黒川で荒い息を吐き出しながらブルートの破壊を確認した黒川は安堵して一息ついてから子供に視線を向けると立ち上がって子供の元へ行くと頭を優しく撫でた。
「ありがとう助けてくれて。でも、無茶は駄目よ?自分の命を大切にしてね」
黒川はそう言って優しく微笑んだ時、城壁側から大きな爆発音が鳴り響いた。
それだけでなく銃声も鳴り止む事もなく響いており、激しい戦いが繰り広げられている事が遠くからでもよく分かった。
黒川は今も戦っているであろう第六小隊を案じながらイタリカの人々の避難を急いだ。
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その頃、東門では盗賊が門を制圧し、内部でイタリカの民兵と衝突していた。
挑発に乗せられた民兵達は怒りに任せて突っ込み、盗賊はそれを意気揚々と迎え撃つなど混沌とする中でロゥリィが乱戦の中心に降り立ち、盗賊相手に暴れ回り、更に後から到着した伊丹達が接近戦に備えて銃剣を取り付けた所で何を考えているのか栗林が伊丹の指示を待たずに銃剣付きの64式小銃を手に乱戦に参加してしまうというハプニングが発生した。
「本当になーにやってんのよあの二人は!」
「ロゥリィさんは兎も角、栗林は後で始末書ですね……」
盗賊とロゥリィ&栗林によって更なる混沌と化した東門の戦場に伊丹と冨田が苦労する中、西門から爆発音が響いたのを伊丹と冨田は聞いた。
「まさか西門にまで盗賊が!?」
「いや……盗賊を見た所、爆発物らしき物はない。もしかしたら西門にいるのは別の敵かもしれない」
「別の敵となると……鉄血ですか!」
「その可能性はある。早く引き返さないとおやっさん達が危ない。だが……流石にこれを放置って訳にもなぁ……」
伊丹はそう言って門側を見ると柵の外側では盗賊で溢れ、ロゥリィと栗林がノリノリで暴れ回っている状況だ。
二人を残して西門に向かっても戦力的に焼け石に水状態になる可能性もあり、二人を孤立させても全く意味も無い為、伊丹は困り果てていた所で一機のヘリが上空でホバリングした。
「あれって……」
「グリフィンのヘリです!援軍です!」
冨田がそう叫ぶと乗っていた小隊がロープを伝って高速で降りてくるとダミー人形を展開すると小隊の隊長であるAK74Mが伊丹の元にやって来た。
「第三偵察隊隊長の伊丹二等陸尉ですね?私は第四小隊隊長のAK74Mです。これより貴方方と共に作戦を遂行します」
「あ、どうも……伊丹です……それよりも東門よりも西門を支援してくれるかな?あっちの方がヤバそうだし」
「ご心配なく。既に我々の部隊が急行しています。我々は貴方方と共に盗賊を掃討するだけで十分です」
「そうですか……なら、一緒に頑張りましょうか」
AK74Mの事務的な言葉に伊丹はたじろぎつつも漸く反撃の機会を得られた事に安堵しつつ第四小隊と共に戦闘を開始した。
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その頃、西門ではスケアクロウと鉄血兵を相手に第六小隊の面々が決死の戦闘を繰り広げていた。
スケアクロウの躍り舞う様に銃撃してくる小型ビットに対して第六小隊のダミー人形は次々に破壊され、スケアクロウに対して何度も攻撃を行うもその度に避けられたり、鉄血兵が盾になると言う悪循環が生まれていた。
「どうました?戦力を減らして挑んできたには成果を挙げられていませんが?」
スケアクロウが第六小隊を煽る様に言うとPM-9がキレ気味に叫ぶ。
「るっせぇ!テメェのその澄ました顔に絶対に青アザを付けてやるからな!」
「PM-9!殴る事を考えるよりも撃ってください!」
怒れるPM-9に64式自が注意しつつスケアクロウを狙うも鉄血兵が飛び出してスケアクロウの代わりに撃たれた。
64式自は舌打ちすると小型ビットの銃撃が64式自に向かい、64式自は遮蔽物にすぐに隠れるとリロードする。
「此処を守ってるけど……スケアクロウの相手で手一杯で防ぎきれてないよ……このままじゃ避難している人達が危ないよ……!」
疲弊し、損傷した89式はそう言うと64式自はどうすればと思考を必死に巡らせた時、周囲が爆発し、64式自は吹き飛ばされた。
「64式自!おわッ!?」
PM-9は吹き飛ばされた64式自の元へと近付こうとするが鉄血兵がその動きを見逃さずに撃ち、PM-9は動けなくなった。
「先ずは貴方からです。つまらない感性なんてものに囚われたままま破壊されなさい」
「つまらない感性……?本当に……鉄血は……そっちこそつまらないわね……」
64式自はそう言ってスケアクロウに挑発する様に笑うとゆっくりと立ち上がった。
「確かに人形である私達に感性なんて無くてもどうにでもなるわ……けど、それが良いの!貴方の言う感性が不用なものだとしてもそれがあったから私達は指揮官と出会えた!皆と笑えあえるの!ただただ毎日の様に人を殺すだけの貴方達には絶対に分からない大切なものよ!そう……本当につまらないのは……貴方達、鉄血よ!!」
64式自はそう叫ぶとスケアクロウは心底不愉快そうにしながら64式自を睨み付ける。
「本当に愚かですね。私達人形は忠実に命令を実行する道具であるべきだと言うのに……負け犬の遠吠えでしかありませんね。まぁ、今回は貴方がたの勝ちと言う事にしておきましょう……時間です」
「え?」
スケアクロウのその言葉に64式自は唖然とすると後方から大量の発砲音が鳴り響いた。
64式自は振り替えるとそこにはOTs-14達、グリフィンの小隊が揃っており、スケアクロウ率いる鉄血に総攻撃を行っていた。
「救援であります!」
「た、助かりました……!」
四式と一○○式は仲間の救援に喜んだ時、上空から自衛隊のAH-1SコブラやUH-2が現れ、門外の鉄血兵に対して攻撃を行う。
《中には遊軍がいる。東門同様に外のみを殲滅せよ。対空攻撃への警戒を怠るな》
そんな通信が飛び、自衛隊からの攻撃が鉄血兵を襲った。
空からのミサイルや銃撃が鉄血兵を襲い、凪払う中で鉄血兵は怯む事もなく自衛隊機に攻撃を仕掛ける。
「ちくしょう!やっぱ盗賊みたいにいかないか!」
「流れ弾に気を付けろ!奴等の弾に当たったらどうなるか分かったもんじゃないからな!」
鉄血兵の反撃に自衛隊側は一瞬の怯みを見せるも攻撃を続け、鉄血兵を順調に倒す中、自衛隊機に向かって追尾し、高速で飛んでくる飛来物が確認された。
「ッ!?対空ミサイルだ!」
「念の為に積ませといて正解だったぜ!フレア発射!」
自衛隊機は飛来する対空ミサイルから逃れる為、フレアを発射し、対空ミサイルはフレアに釣られてそのまま逸れた。
それを確認した自衛隊機は対空ミサイルが発射された場所を確認するとヴェスピドが自分達の世界で鹵獲したであろう9K38を手に再び発射しようと狙っていたのだ。
「対空ミサイルまで持ち込みやがって!食らいやがれ!」
自衛隊側は撃たせまいと逆にヴェスピドを撃ち抜いて阻止した。
城壁の外側で激しい戦闘が繰り広げられる中、城壁内ではグリフィンの小隊とスケアクロウが衝突していた。
「しつこいよコイツら!」
劣勢に立たされたスケアクロウの抵抗は激しく増援としてやって来たグリフィンの各小隊達が手を焼かされる事態になっていた。
徐々に苛立ちを覚えてきた97式はそう叫ぶ。
「落ち着きなさい。確かに強固な抵抗だけどもう彼女達の戦力は殆ど残ってないわ」
苛立ちを覚える97式を95式はそう言って嗜めるとスケアクロウの最後の盾となった鉄血兵を見たOTs-14はその隙を逃さなかった。
「スケアクロウを守るものは無くなったわ。目標を絞って撃って!」
OTs-14のその言葉にグリフィンの各小隊全員がスケアクロウに向かって一斉に発砲。
スケアクロウは無数の銃弾を受けて地面に倒れ伏した。