数多くのトラブルに会いつつも何とかイタリカから出発した第三偵察隊と第四小隊がアルヌスへ向けて移動している中、フォルトゥーナ基地ではアルヌスへ向けて出発する準備が進められていた。
日本へ行くのは責任者としてハヤト、当事者の一人兼補佐としてステン、最初に自衛隊に接触した第六小隊の隊長64式自そして本部から念の為にと送られてくる護衛部隊だ。
「伊丹は無事だったな?」
「はい!……少々、負傷された様ですが……無事です!」
ステンの報告を聞いてハヤトは頷くと腕時計を見る。
「そろそろ出発しなければならないが……64式自はともかく、他は?後任の指揮官の到着は?」
「はい。護衛として本部から送られてきた小隊の方々は既に此方に来られていますが後任の指揮官の方々が遅れているそうで……引き継ぎは間に合いそうにないですね」
「そうか……」
苦笑いするステンにハヤトはそう言って鏡の前でネクタイを整え直す中、執務室の扉がノックされた。
「失礼します指揮官。後任の指揮官の方が来られました」
「入れてくれ」
ハヤトはそう言って鏡から扉に振り向くと扉が開かれ、二人の人物が入って来た。
「失礼しますハヤト指揮官。私はジャンシアーヌと申します。……すみません……遅れてしまいました……」
ジャンシアーヌはそう息を少し荒めながら言うとハヤトは苦笑いしながら言う。
「いや、結構だジャンシアーヌ指揮官。戦地の前線から来たんだ。遅れても仕方ない。そちらは君の部下か?」
「はい。私の副官のG36です」
「G36と申します。此度の遅れ、大変申し訳ございませんでした」
二人の挨拶にハヤトは微笑みながら頷くと真剣な顔に変わった。
「ハヤト・イズミだ。暫くの間だがこの基地の人形達を頼む。それと……あまり気に病むなジャンシアーヌ指揮官。お前は出来る事をやったんだ。人形達もお前の選択を恨みはしない」
「……心得ておきます」
ジャンシアーヌのその声は何処か暗かったがハヤトは彼女なら立ち直れると信じて頷く。
「引き継ぎは間に合いそうにない。すまないが後の事は私の後方官僚であるリューリクから聞いてくれ。行くぞステン。これ以上、64式自と護衛小隊を待たせたら小言所じゃ済まないからな」
「はい!では、よろしくお願いしますね」
「お任せください。旅の無事をお祈り致します」
ステンMKⅡとG36の副官同士の言葉を交わし終えるとハヤトとステンは後の事はジャンシアーヌに任せて執務室を後にした。
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ハヤトが基地のヘリポートまで来ると64式自と見慣れない四人の人形達が待機していた。
ハヤトがな64式自達の元へ来ると64式自は敬礼し、それに反応して水色の長髪と目元にある涙のタトゥーが特徴的な人形が地面でだらしなく寝ている人形の首根っこを引っ付かんで揺すり始めた。
「ちょっと起きなさい!今回の護衛対象が来たわよ!」
「ふえぇ……揺らさないで……」
「アッハハ!起きないとこうだぞ!」
揺らされている人形に追撃を掛ける様に茶髪のツインテールで右目に切り傷のある人形が両方の頬を引っ張ると寝ていた人形は更にだらしない声を出す。
その様子をハヤトとステンは見ていると部隊の隊長と思われる暗い色の茶髪を左にサイドテールに結んだ左目に切り傷がある人形がハヤトの元へ来た。
「後ろは気にしないでね。いつのもの事だから」
「そうか……お前達が本部の派遣した部隊か?」
「えぇ、そうよ。私はUMP45。404小隊の隊長よ。それと後ろにいるのがツインテールのがUMP9。彼処の神経質そうなのがHK416。そして彼処で揺らされてるのがG11よ。短い付き合いだけどよろしくね指揮官」
UMP45はそう言ってニッコリと笑うが何処か食えない笑顔だった。
普段接している人形達の様な笑顔……だが、何処か底が見えない雰囲気にハヤトは違和感を覚えつつも頷く。
「あぁ、よろしく頼む。準備は出来たか64式自?」
「はい。……ですが銃を持ち込めないと言うのは落ち着けないものですね」
64式自はそう言っていつもなら所持している自身の半身が無い事に不安を覚えているがハヤトは首を横に振る。
「日本は銃の規制が最も厳しい国だ。幾ら戦術人形でもそれは罷り通らない。諦めるしかないさ」
「そうですが……護衛の方達も銃を持っていません……持っているのは鞄だけですし……」
64式自はそう言って404小隊の持つ鞄を見る。
明らかにこれから護衛する部隊の持ち物とは思えない物でHK416とG11に至っては一回り大きな鞄を使っている。
「向こうで宿泊だし着替えは用意しとかないとね~」
UMP45はそう言って鞄を前に差し出してヘラヘラと笑う中、ハヤトは鞄に注目するも特に何も言わなかった。
「余程の事が無い限り銃の必要はないだろう。時間が無い。出発しよう」
ハヤトのその言葉に全員、乗り込むとアルヌスへと向かった。
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ハヤト達はアルヌスへと到着し、ヘリから降り立つと担当であろう自衛官が出迎えた。
「お疲れ様ですハヤト指揮官。此方の都合に付き合わせてしまい、申し訳ありません」
「いや、大丈夫です。それよりも明日、日本に現地入りするのですね?」
「はい。イタリカからアルヌスまでは距離もありますからその都合で……。それと例の協定違反での話しがありまして」
「分かっています。ピニャ皇女殿が何でも謝罪したいとか……」
ハヤトはアルヌスへ来る前に聞いた第四小隊からの報告で皇女ピニャとその共として着いてきたポーゼスが謝罪の為に訪れていると聞いていた。
グリフィン側に被害こそ無かったがグリフィンにも協定に関わりがある以上、ピニャはハヤトにも謝罪したいと言っているとAK74Mは報告していた。
「彼方が謝罪したいと言うのなら無下にはしません。行きましょうか。ステンは俺に。64式自達は待機だ。明日は忙しくなるからゆっくりと休んでくれ」
「分かりました指揮官」
64式自はそう言った時、G11が両手を万歳させて喜んだ。
「わぁーい!これでゆっくりと眠れ」
「明日の為のミーティングがあるでしょうが!休むのはその後!」
「えぇー!?」
その喜びもつかの間、HK416によって無情にもG11は寝る時間は無くなった。
UMPの二人はそれを見て笑っており、何だか騒がしい小隊だとステンは苦笑いしつつハヤトに着いていった。
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ハヤトとステンは自衛官の案内で通されるとそこには既にピニャとポーゼス、狭間と柳田の四名がいた。
そしてレレイも通訳として呼ばれたのかこの場にいた。
「ハヤト指揮官。わざわざ御足労申し訳ありません」
「いえ、此方もそちらの日本に興味があったのでね。……それで?彼女達が件の?」
ハヤトはそう言ってピニャ達に視線を向けるとピニャ達は緊張に包まれているのがよく分かった。
狭間達は既に挨拶を済ませているのかレレイがハヤトについて紹介せる。
「此方はグリフィン&クルーガーの指揮官。ハヤト指揮官。この世界で戦乙女と呼ばれる彼女達の司令官をしている」
「(この男がグリフィンの司令官か……自衛隊とは違って服装は少し派手だな……)」
ピニャはそう思いつつハヤトの服装と狭間達の服装を比べる。
ハヤトの服装であるグリフィンの指揮官の制服は赤と黒を強調とした制服でもう一つ言えばグリフィンのロゴ入りのベレー帽も含めているが今回は会談の為に脱いでいる。
ハヤトはレレイが通訳である以上、場を混乱させない為にも使い慣れてしまったロシア語よりも長く使っていなかった日本語で対応する事に決めた。
「話しは既に聞いています。何でも謝罪したいとか?」
「話しは既に聞いている。謝罪したいのかと言っている」
レレイの通訳を通して話されたハヤトの言葉にピニャはバッと立ち上がると頭を深く下げ、ポーゼスもそれに続いた。
「此度は我が騎士団の無礼、大変申し訳なかった」
「今回の騎士団の無礼。申し訳ないと言っている」
「いや、結構。今回の被害には私の部下がいなかった……不幸中の幸いだ。これで被害がもしあったりしたらな……自衛隊が許しても私は許さなかっただろう」
「今回の被害にハヤト指揮官の部下がいなかった。それは不幸中の幸い。もし被害があったりすれば自衛隊が許してもハヤト指揮官は許さなかったと」
レレイの通訳を通して話されたハヤトの言葉にピニャとポーゼスは顔を青ざめていく中、狭間は軽く笑った。
「まぁまぁ。今回は大きな誤解があったとは言え、伊丹ニ尉も無事に帰りました。今回の謝罪だけで十分です。しかし……帝国との仲介をしてくださる殿下を煩わせる様でしたら協定の扱いを考え直す必要もありますね」
「いや、それは……!(考え直す!?協定が守られなければイタリカに侵攻すると言う事か!?)」
レレイを通して話される狭間の言葉にピニャは切り返そうとした時、柳田が口を挟んできた。
「伊丹から聞きましたよ。そちらのご婦人に手酷くあしらわれたとか」
柳田のその言葉にポーゼスの顔色は真っ青になり、ピニャにも緊張が走った。
「あの痣とひっかき傷。笑っちゃいましたよ。どう見ても痴話喧嘩だ」
「(あぁ……結局、知られてしまった……やはり、イタリカにいる間に口を封じるべきであった……)」
柳田の言葉にピニャはイタリカからアルヌスに着く前に何とかポーゼスの行いを伊丹に喋らせまいとしたが伊丹の危険探知本能によって全回避されてしまい今に当たる。
ピニャは悔やんでも悔やみきれない中、談笑にも聞こえる柳田の追撃じみた言動がレレイの通訳を通じて続く。
「伊丹は公傷扱いしろと言っていましたがあの男が何か失礼でも働きましたか?」
「イタミが何か暴力を誘発する言動をしたのか?何故、彼に暴行したのか?どういう状況で暴力に及んだのか?」
レレイの通訳を通じて行われる追及にピニャとポーゼスは固まってしまい、ハヤトは苦笑して助け船を出した。
「それ以上はもう良いでしょう。暴行は……何故そうなったのかはさておき、御二人は謝罪したのは間違いないんですから。そうですよね?」
「……そうですね。おっと、失敬。自己紹介をしてませんでしたね。自分は柳田と申します。以後、お見知りおきを」
柳田はそう言って挨拶し終えるとピニャとポーゼスが互いに視線を向けた後、ステンの方に視線を向けられた。
「え?わ、私もですか?」
「折角だ。今後の付き合いもある。自己紹介をしておいて損はないだろう」
「えーと……なら……私はステンMKⅡと言います。指揮官の副官を勤めさせて頂いております」
ステンはそう言って流暢な特地語を話して挨拶するとピニャとポーゼスは驚いた顔をする。
「此方の言葉が分かるのか?」
「はい。まだ所々、言語解析が必要な所は多いですが日常会話なら。他の人形達も現地の言葉を話せるのでお困りの事があれば是非、頼ってください」
「おぉ……(イタリカに来ていたグリフィンの者も我々の言葉を話していたがまさか全員が話せるのか?)」
「(だとしたら我々の言葉や文字で誤魔化すのも難しいと言う事ですね……)」
ピニャとポーゼスはステン以外の人形達全てが特地の言葉に通じると言う危険性を感じながらも柳田とは違って安心感を与えてくれるステンに少し信頼を寄せた。
「今回、謝罪だけと言う事もないだろう。今後の事も考え、ゆっくりと話し合いましょう」
ハヤトはそう言ってピニャとの会談を続けるのだった。
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ピニャとの会談を終え、ハヤトは宛がわれた部屋にある椅子に座り込んで寛いでいた。
「今回は流石に疲れたな……」
「はい。準備で忙しかったのと本来なら皇女様との会談は無かった筈ですからね」
「そうだな……ステンももう休んで良いぞ。グリフィンの小隊が駐留する宿舎が」
ハヤトが話している途中、ステンが部屋の鍵を掛けた。
「ステン……?」
「指揮官……今は久し振りに二人きりなんですよ?」
ステンはそう言ってベリー帽を取り、上着まで脱いだ。
「今まで我慢してたんですよ?だから……今夜はステンの我が儘に……付き合ってください……」
ステンはそう言って椅子に座るハヤトの上に乗ると左手で頬を擦る。
ステンの左手の小指に銀色に光る指輪があった。
「指揮官……愛してますよ……」
ステンはそう言ってハヤトの唇へと顔を近付けて行こうとした時、ステンの通信がなった。
ステンは固まるが無情にも通信が鳴り続け、ステンはハヤトの上から降りると通信に出た。
「はい。ステンです」
《ステン?私よ。UMP45。ごめんなさいね~。明日の予定の事を今の内に纏めたいのよ~。今は忙しかったかしら?それとも……指揮官とお楽しみ中だったのかしら~?》
UMP45のからかいにステンはニッコリと笑っている。
そう……笑っているのだ。
ハヤトはそのステンの表情に臆して見守る中、ステンは答えた。
「大丈夫ですよ。そちらまで行けばよろしいのですね?分かりました。では、また後で」
ステンはそう言って通信を切ると上着を着て、ベレー帽を被るとハヤトの方へ視線を向ける。
「そう言う事なので今夜は残念ですが……本当に!……残念ですが……またの機会にしますね。指揮官。お休みなさい」
ステンはそう言って鍵を開けると扉を開いて出た所で勢いよく扉を閉めた。
バアァンッ!
物凄い音が響き、扉も何処か壊れた様にも感じる中でハヤトはステンを見届けた後、溜め息を吐いた。
「……寝るか」
ハヤトはそう言って明日に備えて就寝の準備に入ったのだった。
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翌朝、ハヤトが門の前までやって来るとニコニコと笑っているが不機嫌なステンとニヤニヤと笑ってステンを見ているUMP45がいた。
その後ろではUMP9とG11が涙目で抱き合って震えており、HK416と64式自は呆れ顔で見守っている。
「(昨晩は何があったんだ……?)」
ハヤトは何がどうしてそうなったのかと思いつつも気にしない様にしていると伊丹達が既にいる事に気付いた。
「すまない。遅くなったか?」
「いえいえ!大丈夫です!」
伊丹はそう言って苦笑いでハヤトにペコペコとお辞儀する中、テュカとレレイ、ロゥリィの三名がハヤトを見ていた。
ハヤトもそれに気付いて三人に視線を向けるとロゥリィが話し掛けてきた。
「あなたがグリフィンの指揮官さん?」
「そうです。私はグリフィン&クルーガー所属フォルトゥーナ基地の指揮官。ハヤト・イズミです。貴方の話は人形達から聞いてますよ」
「そうなのぉ?まぁ、良いわぁ。それよりもあなたって……とーても……血の匂いが強いのねぇ」
「……そうですか?」
ロゥリィのその言葉にハヤトは自分の匂いを嗅ぐ素振りを見せる。
「私もこの仕事をするまで何度か銃を握りましたからね……嫌でも感じる……昔の戦いの匂いがね……」
ハヤトはそう言って嫌気を覚える様な表情を見せている時、一台の車が到着した。
「悪い悪い。遅くなった」
現れたのは柳田でハヤトはまだ誰か来るのかと伊丹を見れば伊丹も困惑している。
「どうぞ」
予定外の人物だとハヤトは察した時、柳田が後部座席の戸を開けると出てきたのは正装姿のピニャとポーゼスだった。
伊丹はそれを見て柳田の元まで行くと柳田とコソコソと話し始め、ハヤトはそれを見守り続ける中、最終的に伊丹が折れた。
「指揮官……」
「また厄介な事になるな……」
ピニャとポーゼスと言うレレイ達とは違う要人の来訪にハヤトは修羅場が起きるのを予感するとUMP45がケラケラと笑いながらやって来た。
「大丈夫よ指揮官。私達もいるしね」
「そうだな……その荷物が開かれない事を祈るよ」
「あら?何の事かしら~?」
UMP45はそう言って鞄をパンパンと叩きながら誤魔化す素振りを見せつつ404小隊の元へと戻る。
出先からピニャとポーゼスの突然の参加と言うトラブルが起きるも今度こそ門のあるドームの中へと入ると検問があり、機器による検査が行われた。
特地由来の物を日本に黙って持ち込ませない為の処置の為のものだと分かり、ハヤトは検査と手続きを得て通るとUMP45が機械に軽く触れていた。
「結構アナログなのね~」
「すみませんが無闇に触らないでください!」
「はいは~い」
UNP45はそう言って身体も荷物も検査機に通すと何事も無く通過。
他の404小隊の面々も無事、何事もなく通過する。
ステンも64式自も通過した所で全員が検査に引っ掛からずに通過し、先に進むと日本に続く門が見えた。
「これが日本に続く門ですか……」
「ふん。対して変わらないわね」
ステンが日本に続く門に興味を示し、HK416は自分達が通った門と何ら変わらない姿を見てすぐに興味を無くす。
様々な反応を見せる中、ハヤトは向こうにある日本に思いを寄せた。
「久々の日本だな……別の世界とは言え、何年ぶりだ……?」
ハヤトはそう呟くと門の先へ進む伊丹達を追って先に進んだ。
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暫くの暗闇の中、ハヤトは強い光を浴びると共に門を抜けるとそこには地面は道路に塗装され、高いビルが並び立つ現代の街並みだった。
砲撃や爆破の跡、壊されたビルも無い戦争の痕跡が存在しない平和な日本だった。
「はぁ……帰ってきたのか……?」
ハヤトはそう言って静かな街並みを見据えるのだった。