戦術人形彼の地にて斯く、戦えり   作:謎多き作家

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異世界へ

S13地区事件から一週間後。

 

午前6時23分。

 

朝日が昇る中、門の前には多くの戦術人形が待機していた。

 

色取り取りの衣服に身を包み、年相応の少女を思わせる容姿からこれから戦地へ赴く存在とは思えなかった。

 

だが、彼女達の手には自身に適応した銃を手にしておりまた、彼女達の目には兵士特有の鋭い眼孔があった。

 

鉄血との戦争を通して生き抜いてきた彼女達は単なる少女などではなく、兵士そのものだった。

 

そんな彼女達の前にハヤトは立つと演説を始めた。

 

「……俺達は……これから未知の世界に踏み込んで向こう側の門及びその周辺を制圧する作戦を行う。向こうに何があるのかは俺にも分からない……だが……はぁ……給料が支払われるのなら行かないとな……」

 

ハヤトのその抜けた言葉に少女達は笑ってしまった。

 

クスクスと少し聞こえた後、再び沈黙するとハヤトは続ける。

 

「リスクが大きい作戦だ。このグリフィンの戦線拡大によって鉄血に付け入る隙を与えるかもしれない。だが、俺達は進むしかない。進み続けるしかない。あくまでも門を確保し、守り続ければ良いだけの話しだ。適度に調査を行わなければならないが向こう側の国を制圧しろなんて言う無茶は俺がさせない。だから……俺達、人間の……無理難題に答えて着いて来てくれるか?」

 

ハヤトのその言葉に少女達は暫くの沈黙の後。

 

「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」

 

そのたった一言が都市内に響いた。

 

ハヤトはその言葉を受け取ると頷き微笑んで見せると命令を出した。

 

「総員出撃用意!車両に乗り込め!各小隊が車両に乗り込み次第に門を開門して突入する!」

 

ハヤトのその命令を受けた少女達は慌ただしく動き出し、用意されていた車両に乗り込んで行く。

 

ハヤトの後方指揮用の端末が乗せられた車両に乗り込むと中には自身の後方幕僚であるリューリクが待機していた。

 

「指揮官。用意は整えています」

 

「ありがとうリューリク。さて……門の先に行くのは良いがな……」

 

「いきなり戦闘になる可能性は捨てきれません。門の先は遮蔽物がほぼ無い平原。第一次防衛線を構築する為の塹壕を掘る暇すらあるのか……」

 

「……まぁ、兎に角やるしかない。俺達は俺達の仕事をこなすだけだ」

 

ハヤトはそう言って門の中を進み続ける車両達を見つめる中、遂に小隊を乗せた車両は門を潜り抜けた。

 

門を抜けた先はまだ日が昇っておらず、人工物はおろか人の生活の跡すらない自然豊かな平原だった。

 

車両の中にいる少女達はその光景に感動を覚えた矢先、遠くにチラホラと光があるのを見つけた。

 

「敵を発見!!」

 

一人がそう叫ぶと各小隊は車両から降り、素早く展開する。

 

統一されていない銃が向こうの彼方にいる帝国軍に向けられる。

 

《落ち着け。奴等が射的に入った所を狙い撃て。合図は俺が出す》

 

ハヤトの指示を聞いた各小隊は銃口を静かに向けて帝国軍の接近を待つ。

 

朝日が昇り始める中、帝国軍は角笛を吹いて進撃、門へと向かって来た。

 

騎士らしき人間を乗せたドラゴンが急接近するのを確認したハヤトは指示を飛ばした。

 

《狙撃部隊!ドラゴンの背中に乗っている騎士を撃て!》

 

「了解しました!各員、狙え……撃て!!」

 

ハヤトの指示を聞いた狙撃部隊の隊長Kar98k(カラビーナ)が号令を出すとカラビーナを始めとしたRFの戦術人形達の狙撃が始まり、ドラゴンに乗っていた騎士達を撃ち落としていく。

 

騎士を失ったドラゴンは統制を失ってバラバラに飛び交い、飛んでいた別のドラゴンにぶつかっては乗せていた騎士を落としてしまうと言う二次災害が発生する。

 

地上にいる帝国軍は歩みは止めていないが混乱しているのが分かり、動きが遅くなっている。

 

狙撃部隊以外の小隊は今か今かと待ち構える中、遂に帝国軍が射的に入った。

 

《今だ!全小隊……撃てぇッ!!》

 

ハヤトのその指示を聞くと同時に攻撃が開始された。

 

激しい銃火の音と硝煙の臭いが立ち込める中、帝国軍は次々に撃ち抜かれていく。

 

撃たれている帝国軍は何が起きているのか分からず一人は唖然として立ったまま撃たれ、もう一人は逃げようとしたは後ろから頭を撃たれる。

 

中には自棄になって駆け出す者もいたが竜騎士の狙撃を終えた狙撃部隊の正確無比な狙撃が待ち受けており、上手く抜け出して迫ろうとしてもそのまま撃ち抜かれて倒れるだけだった。

 

『クソ……クソォッ!!こんなものが!!こんなものが戦いであって堪るかぁッ!!!』

 

それでも奇跡的に防衛線を抜けてきた騎士らしき男がいた。

 

豪華な装飾やマントは汚れ、顔も泥で汚れきっていた。

 

自身が今、受けている理不尽な力の差が見える一方的な戦争(虐殺)を認められず剣を片手に近くにいた人形目掛けて駆け出す。

 

騎士の男は必死に駆け出し、剣を振るおうとした所でターゲットにしていた人形の手に持つPA-15の弾丸を受けて地面に倒れた。

 

「残念だったね~。気付いてないと思ったのかな~?」

 

そう言ってクスクスと笑う人形、PA-15は今だに睨む騎士の男の額に銃口を向ける。

 

「これ以上の刺激は無さそうだし……死んでね?」

 

PA-15はそう言って引き金を引いた。

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戦闘終了から1時間後。

 

小隊は防衛線を構築する隊と見張りを担当する隊、そして帝国軍の死体を片付ける隊。

 

三つの隊に分かれて行動していた。

 

門の周辺で塹壕の構築から始まり、元の世界と共通する門を封鎖するゲートの建設、そしてそれを取り囲む形で建てられ始めたグリフィンの基地と忙しい音が響いている。

 

見張りを担当する隊はSFやSMG、HGの人形を中心に辺り一帯に目を光らせて敵の生き残りや接近を警戒する。

 

死体処理を担当する隊はダミー人形を駆使して丁重に死体を運び、一定の死体を集めた後で荼毘に付す事を繰り返す。

 

ハヤトは死体処理の現場に自ら足を踏み入れ、作業を見守る中、副官の戦術人形であるステンMKIIが報告する。

 

「指揮官。今回の戦闘での被害は無しです。弾薬の消耗は激しいですが支援のおかげですぐに補充が完了しました。……酷い有り様ですね……」

 

ステンは簡素に報告を終えると辺りの惨状を悲しげに見つめる。

 

「そうだな……奴等は一体……どんな頭をすれば勝ち目があるなんて思うんだか……」

 

ハヤトはそう言って辺りを見回した時、近くに歳の若い青年の死体もあった。

 

鎧の装飾から高い身分の人間だと分かり、ハヤトは目を細め、ステンは哀れみ、祈りを捧げた。

 

「……嫌な事を思い出した。汚れ仕事を任せて済まないが後は頼めるか?」

 

「分かりました……ちゃんと弔いますね……」

 

ステンのその言葉にハヤトは弱々しく微笑むとその場を後にする。

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数日後、塹壕の構築を終えた防衛陣地のテントの中でハヤトは頭を悩ませていた。

 

「奴等はまだ来るつもりなのか……」

 

「そうらしいですね。ですが装備や旗の紋章が違います。……恐らく他国の軍勢かと」

 

「だ、だとしたらこの世界の国全部が敵になると言う事ですか……?」

 

リューリクの報告に副官として待機していたステンは不安を覚えた。

 

帝国だけならまだしも異世界の他国の軍まで相手にしきれるのかは流石に未知数だった。

 

そんな不安がある中、ハヤトは冷静に告げる。

 

「いや……いきなり攻撃してきた奴等の国の事だ。属国の軍でも集めてきたんだろう。帝国の敗北……それが承知の上か否かで今後の対応の仕方は変わる」

 

「帝国の敗北がですか……?」

 

「……成る程。その帝国が自分達の敗北を隠しているとしたら……」

 

「属国達は帝国軍がいる事を期待して来ている可能性がある。だが、先の戦闘で俺達は帝国に手痛い打撃を与えたばかりだ。軍と言うものは一度の敗北で大きく体勢が崩れるものだ。帝国に軍をこれ以上、送る余裕がある訳がない。それを属国が知らないとすれば帝国の信用は落ちるし、今後の仮想敵になりかねない相手が減る可能性もあると言う事だ」

 

ハヤトの考えに二人は納得しつつも次の不安要素が上がった。

 

「その敵の数ですが……進軍している中での偵察した際の相手の数は約10万はいると」

 

「じゅ、10万人ですか!?……ちょっとした都市の人口ですよ……」

 

「……少しキツいな……ある程度まで兵器を融通されたとは言えな……」

 

グリフィンが異世界派遣にされてから正規軍から旧式の対空砲や野戦砲が特別に融通されていた。

 

旧式とは言え、対空防衛はかなり優位に立てるし、野戦砲は高い火力を持って敵を凪払えるので防衛戦において帝国に遅れを取る可能性がかなり減ったのだ。

 

だが、相手は10万。

 

数でのごり押しが予測され、慣れない兵器を扱っての戦闘になる為に厳しい戦いになるのは明白だった。

 

ハヤトは溜め息をついて考え込んだ後、顔を上げた。

 

「やるしかない。此処で逃げた所で後ろの街が今度は他国の軍に荒らされたなんて事態になりかねない。そしたらもう異世界間の全面戦争は止められなくなる。まだギリギリ回避しきれる話しなら戦って止めてやろう」

 

ハヤトのその言葉にリューリクとステンは頷くとハヤトの指示を出す。

 

「各小隊に伝達。警戒態勢を厳に何時でも戦闘が出来る様にしてくれ。相手は無駄に数が多い……油断するなとな」

 

「分かりました。皆に伝えてきますね」

 

ステンはそう言って立ち去り、リューリクも自分の持ち場へと戻る。

 

ハヤトは二人を見届けた後、再び深い溜め息を吐いたのだった。

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