ハヤトは都市にあるグリフィンの施設の一室で起きるとグリフィンの制服に身を包み、ベレー帽を被った。
目の前に写るグリフィンの指揮官の姿にハヤトは見つめていると自衛官の装備を纏った血塗られた姿の自分が一瞬見えるとハヤトは眉間に皺を寄せる。
「……クソッ」
ハヤトは悪態をつくと鏡の前から去り、テーブルに置かれていた珈琲の入ったカップを手にしてテレビを点けると都市に纏わる報道が流れていた。
《この度、政府からS13地区の衛星都市に異世界または特地と呼ばれる世界から来賓を招待したと発表されました。来賓は昨晩の17時に来訪し、現在は政府指定のホテルに滞在しているとされております。今回の来訪を受け、政府はこの度の来訪を歓迎すべく細やかな式典を開く模様です。都市では厳重な警備がしかれており、その為に通行に支障をきたす場合がある為、通勤の》
テレビキャスターの言葉の途中でハヤトはテレビを消すと溜め息を吐く。
今日の会議次第で情勢は大きく動く。
その事実がハヤトの身にのし掛かる感触を覚えながら珈琲を飲むと部屋の扉がノックされた。
「指揮官。ステンです」
「入って良いぞ」
「失礼します」
ハヤトの許可を得て入室したステンはハヤトの前へやって来た。
「指揮官。そろそろ会議のお時間です」
「分かった。……行こうか」
ハヤトはそう言って部屋を出ようとした時、ステンの顔が少し暗かった。
「どうした?」
「……大丈夫ですよね……テュカさん達の世界は……本当に大丈夫なんですよね?」
ステンのその言葉にハヤトは何も言えなかった。
暫くの沈黙の後、ハヤトは笑ってステンに言う。
「大丈夫だ。きっと何とかなる。……俺がそうさせない。止められないとしても被害を最小限に抑える手段は必ず何処かにある筈だ。きっとな」
ハヤトはそう言って微笑むと部屋を後にし、ステンは暫くうつ向いた後、ハヤトを追ってその場から去った。
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ハヤトは会議の場となる施設へ到着するとステンと共に会議室に向かって廊下を歩いた。
廊下には正規軍の関係者らしき軍服を着た軍人が何人かおり、ハヤトを遠巻きに見る者も多い。
「指揮官……」
「言わなくて良い。正規軍の軍人からしたら俺達の様なPMCの傭兵をよく思わない奴なんて沢山いる。ある意味、こんな所を歩いて何も言われないのはグリフィンがそれだけ大きい証だ」
「そうですが……やはり、あの人達の目線には慣れません……」
ステンのその言葉にハヤトは笑うとハヤトの前に二人の人物がいた。
ヴァシリーと古傷のある女だ。
その二人は何かを話し込んでおり、ハヤトは立ち止まっているとハヤトの存在に気付いたヴァシリーが声を掛けた。
「よぉ、ハヤト。遅刻しなかったな」
「当然だヴァシリー。今回の会議はかなり重要なんだからな。それでこの方は?」
「良い女だろ?国家保安局所属の」
「アンジェリアよ」
ヴァシリーが言い切る前に名乗ったアンジェリアにヴァシリーは苦笑いするとアンジェリアはハヤトを見ている。
興味と疑いの目だ。
「大尉とは随分と仲が良さそうね?」
「昔に色々と縁がありましてね。私に何か?」
「いいえ……大した事じゃないわ……それじゃ、私は要件が終わったから此処で」
「そうか。なぁ、今度何処かで」
「遠慮するわ」
「あ、そう……」
言う前にアンジェリアにあしらわれたヴァシリーは少し落ち込むとアンジェリアは立ち去った。
ハヤトはその後ろ姿を見届けた後、ヴァシリーが耳打ちする。
「彼奴はお前の事を聞きに来てやがったぞ?」
「なに?」
ヴァシリーのその言葉にハヤトは驚くとヴァシリーは周りを見た後、ステンに離れる様に手でサインを送り、ステンが離れた所でハヤトに言う。
「経歴や素性やら持ち出してお前が何処で何時、何をしていたのかとかお前の交友関係とか諸々をだ。……国家保安局に目を付けられるって何したんだよ?」
「何もしてないぞ。……何もな」
ハヤトのその言葉にヴァシリーは本当かと疑いの目を向けつつも気にする事を止めた。
「まぁ、良い。それよりも行くぞ。エゴールの野郎にぐちぐち言われるのは御免だ」
「そうだな。ステン」
「はい!もうお話は良いのですか?」
「終わったよ。それよりもステン。お前は会議には参加出来ないから外に待機していてくれ。こんな所に一人でいるのは居心地悪いだろう?」
「おいおい、幾らうちが反人形的だからって無作為に人形に八つ当たりする様な奴はいねぇよ」
「いたら?」
「処罰する。大義もなく法的にもアウトな事を仕出かす奴はうちには必要無い。軍人は軍人らしく私情に囚われない行動をする事を心掛けるべきだ。そうだろう?」
ヴァシリーはそう言って笑いながら言うが目は全く笑っていなかった。
ハヤトはそれを見て微笑むとステンに頷くとステンは一礼してその場から後にし、ハヤトはそれを見届けるとヴァシリーと共に会議室へと向かった。
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ハヤトとヴァシリーは会議室へと来るとそこにはクルーガーやへリアンと言ったグリフィンの上層部やエゴールの様な正規軍の将校も集まる何とも重い雰囲気を持つ場となっていた。
ヴァシリーは正規軍が主にいる席、エゴールの隣に座るとエゴールとバチバチに睨み合い始め、ハヤトはそれに苦笑するとグリフィン側の席に座った。
「あれがグリフィンの派遣した指揮官か?」
「まだ若造じゃないか」
正規軍の将校達はハヤトを見て嘲笑する様にひそひそと話し始め、ハヤトは気にしない様に座り続けていると会議室にカーターがやって来た。
「遅くなってすまんな。会議を始めよう」
カーターはそう言ってグリフィンと正規軍の席の真ん中の椅子に座ると会議が始まった。
エゴールが資料を手に立ち上がる。
「本日の議題は異世界、特地への侵攻作戦の有無です。現在、帝国を自称する武装勢力による侵攻を受け、グリフィンに対し特地側の門の奪取、防衛を依頼しており膠着状態にあります。そこで余力を取り戻した我々はこの現状を打破し、帝国に降伏を促すべく軍事侵攻すべきか否かを問いたいと考え、会議を開いたものです。何か質問がある方はいらっしゃいますか?」
エゴールがそう問い、周りを見渡すと手を挙げる者がいた。
エゴールは手を挙げた者を見て顔をしかめるもすぐに気を取り直し、名を言う。
「ハヤト指揮官。何か質問でも?」
「はい」
エゴールのその言葉を聞いて立ち上がるとエゴールに視線を向けて問う。
「エゴール大尉。特地における軍事侵攻を私は反対する訳ではありません。ですがお聞きしたい。軍事侵攻するにあたって制圧した場所は一時的なものなのか?永続的なものなのか?お答えください」
「軍事侵攻するにあたり我々が行うのは帝国への降伏を促す為のものだ。奴等がすぐに降伏すればそれで戦争は終わる。だが、奴等が降伏しないのであれば我々は断固として帝国に対して攻撃を続け、それに連なる勢力も例外なく攻撃を行う事も考えている」
「それはつまり帝国と関係のあると言うだけの国家も巻き込むつもりなのですか?」
「何を言うハヤト指揮官。帝国以外の勢力は既に戦争に加担した。確か連合諸王国軍と呼ばれる連合軍だったな?これが帝国方に味方した以外で何と言うつもりだ?」
「あれは帝国の策略の可能性があります。現に交戦を終え、兵士の死体を調べましたが帝国の装備や旗は何も確認できませんでした。帝国に何を言われたのか知りませんが騙されて派兵した可能性はあります」
「騙されたからと言って我々に武力を差し向けたのは変わりない。それともハヤト指揮官はグリフィンが攻撃を受けたが騙されたからと聞いて許すつもりか?人が良いものだな」
「そんな事を言っているのではありません……!」
ハヤトはそう言って机を強く叩いてエゴールを睨みつけ、エゴールもハヤトを睨む。
エゴールとハヤトの言い合いは苛烈を極め、互いを睨み合う中、ヴァシリーが手を挙げた。
「どうしたヴァシリー大尉?」
カーターがヴァシリーに聞くとヴァシリーは立ち上がって答えた。
「失礼ながら私に懸念がございます。特地に侵攻するにあたり問題点が幾つかあります。先ず一つが兵站です。これはどんな戦争であっても欠かせない重要な課題です。現状、我々の使える兵站のルートは門のみ。一本道なうえ大量に物資を運べる程ではなく、万か一にでも門が破壊されればそこで終わりです。先ずは兵站を安定させ、門をどう確実に守るかを考えなくてはなりません。これはグリフィン及び正規軍にも存在する課題です」
ヴァシリーのその言葉にエゴールは黙り、ハヤトは一息つくとヴァシリーは続ける。
「そして二つ。特地に出現した鉄血です。奴等は我々とは違う別の方法によって特地に渡ったものと考えられます。奴等は何時、どうやって来たのか……それを探るべきだと私は考えます。今だに特地の鉄血の拠点は見つけられておりません。この懸念を片付け、鉄血に対処してからでも遅くはありません」
ヴァシリーの説明は周りを納得させられるだけのものがあり、グリフィンの上層部と正規軍の上層部は納得した様な雰囲気を見せ始める。
「確かに鉄血は驚異だ。我々が動けない事を良い事に好き勝手やってくれた……そろそろ終いにしたいものだ」
カーターのその言葉に正規軍の上層部の者達から笑いが漏れた。
それはまるで何時までも鉄血と戦い続けるグリフィンに対して嘲笑する様な笑いであり、へリアン等のグリフィン側の上層部は顔をしかめている。
互いに重い空気が流れる中、ハヤトは発言する。
「特地における鉄血の拠点捜索は私に任せてください。特地における情勢と地理を我々は把握しつつあり、そして自衛隊と協力関係を結ぶ事にも成功した為、鉄血の拠点が炙り出されるのも時間の問題です」
「自衛隊か……成る程。侵攻において障害となる存在が確かにまだいたな」
カーターのその言葉にハヤトは静かにカーターを見つめる中、カーターはエゴールを見るとエゴールは頷いた。
「ならばハヤト指揮官。特地における鉄血の拠点の捜索は君に一任しよう。見つけ次第、我々に報告する事を忘れるな?」
「ありがとうございます。カーター将軍」
ハヤトはそう言って頭を下げ、ヴァシリーは冷や汗を拭い、エゴールはハヤトを睨む。
会議の場を支配する重い空気が少し晴れた所でカーターがハヤトに言う。
「だが、忘れるなハヤト指揮官。特地への侵攻は決して変わらん。帝国には流した血の分の代償を必ず支払って貰う。もう知っていると思うが近年では志願兵が増加していてな……何処の出身の者が多いと思う?」
「……S13地区ですね」
ハヤトのその言葉にカーターは満足そうに笑うと続ける。
「ある者は家族を。ある者は友人を。ある者は愛する者を……これは帝国の犯した罪の結果だ。君が何れだけ庇おうとしても与えられた悲しみと怒りを晴らす場は用意してやらねばならん。くれぐれも忘れるな?君も戦争の痛みを知っているのならな」
「言われなくともそのつもりです……」
カーターのその言葉にハヤトはそう言うとカーターは不敵に笑った。
その後も会議は続き、一先ずは特地の鉄血の拠点を探し出す事から始める事となり、異世界侵攻は先延ばしになった。
ハヤトは会議の中、徐々に傾く平和と争いの天秤の存在を感じつつも先ずは目の前の事に対処しようと決めた。