会議を終え、ハヤトはクルーガーとへリアンと共に廊下を歩いていた。
「今回はよく噛みついてくれたものだな?」
「事前に反論させて頂くと言いましたが?」
「ふん、そうだな。お前は昔からそうだった。一度決めれば断固として貫く……そう言う男だ。それが前線の兵士から後方の指揮官になっても変わらないか」
「いいえ。私は変わりましたよ……少なくとも自棄糞に生きる真似は止めました」
ハヤトのその言葉にクルーガーは笑うと真剣な表情に変わって話す。
「鉄血の居場所に心当たりがあるのか?」
「私の予想通りなら鉄血は帝国の支配領には拠点は設けていない可能性があります。帝国に見つからない様に隅から隅へと探させました。しかし、鉄血の小部隊と接敵しても一時的なものを除いて拠点らしきものはありませんでした。恐らくは……」
「他国に拠点を設けている可能性か」
クルーガーのその言葉にハヤトは頷くとへリアンは話す。
「だとしたら帝国以外の国に侵攻する可能性が高まると言う事になりますね」
へリアンのその言葉にハヤトは答えた。
「……えぇ、そうなる可能性は高いです。ですからもし、鉄血の拠点を見つけたら」
「秘密裏に潰すつもりか?リスクのある行為をお前が考えるとはな」
クルーガーのその言葉にハヤトは何も答えない。
「あの娘達と交流して情が移ったのか?」
「……情が移ってないと言えば嘘になります。考えてしまうんです。あの子達が自分の故居を失くしてしまうんじゃないかと。当たり前の様にそこで生活して、家族で笑いあって、食事を取って、そして寝る。当たり前の様に存在していた場所を奪われる。そんな思いをさせたくありません」
ハヤトのその言葉にクルーガーは何も言わず黙々と歩く。
やがて施設の外へと出るとステンが待っており、ハヤトを見て一瞬微笑むがクルーガー達もいるのに気付いてすぐに敬礼した。
「会議お疲れ様です!」
「うむ。ハヤト。私はへリアンと共に戻るがどうする?」
「どうするとは?」
「聞いたぞ?日本では大変だったらしいな?お前がまともに休暇すら取れていないのなら式典まで時間がある。それまで休め」
クルーガーはそう言うとハヤトはステンを見る。
ステンは敬礼したままで待機しているがその目は何処か期待に満ちた目をそしており、ハヤトはそれを見ると苦笑いしてクルーガーに言う。
「では、お言葉に甘えて少し休暇を取らせて貰います」
「分かった。行くぞへリアン」
クルーガーはそう言ってへリアンと共に停めてあった車に乗り込むとそのまま走り出した。
それを見届けたハヤトは一息つくとステンに向き直って笑顔を見せた。
「何処か行きたい場所はあるか?」
「ッ!?はい!」
ステンのその言葉にハヤトは微笑み、ステンと共に都市を歩いていく。
都市は多くの人々が行き交い、華やかな店が立ち並ぶ中、ハヤトとステンは服屋に入ったり、喫茶店で寛いだり、都市の景観を一緒に見たりと過ごした。
二人は一通りに楽しんだ後、近くの公園まで来た。
「楽しかったですね」
「そうだな。たまには良いものだ」
ハヤトはそう言って微笑んだ後、会議での出来事を思い出す。
帝国には流した分の血の代償を必ず支払って貰う。
カーターの言葉が重くのし掛かる中、ステンの手がハヤトの手を握ったのにハヤトは気付き、ステンに視線を向ける。
「不安なら私を頼ってください。最初の頃からずっとそうだった様に」
ステンのその言葉にハヤトは笑うと互いに顔を近付けてキスをしようとした時。
「なーにやってんの?」
その言葉に二人はバッと離れて声を掛けられた方向を見るとそこには伊丹がおり、その後ろには栗林と冨田、テュカ達もいる。
恥ずかしい。
二人はやろうとしていた事を見られ掛けた事に顔を赤くしてハヤトは咳き込んだり、ステンは目線を反らして誤魔化す中、栗林が伊丹にプロレス技を決めた。
「隊長!良い所まで行ってたのに何で邪魔しちゃうんですか!?」
「イタタ!栗林!ギブギブ!?」
栗林と伊丹のコントが行われる中、ステンの周りにテュカ達が集まってハヤトとのキスを仕掛かった話で盛り上がり始めていた。
ステンは恥ずかしそうに両手で赤くなった顔を隠してしまう中、ハヤトは苦笑いで見守る。
暫くのやり取りの中、伊丹達と会話を始めた。
「それにしてもホテルの外をほっつき歩いて良いのですか?良いとしても護衛は何処に?」
「一応、一言言えば出られたよ。護衛は……あれかな?」
伊丹はそう言って一台の車に指を指すとそこには大きなバンが待機しており、窓はスモークガラスで中が見えなくなっている。
「あれがホテルに出てからずっと着いて来てる。日本みたいに工作員か何かかって考えて店の中に入って様子を見てたら車から女の子が出てきて店の中で客のフリして然り気無く俺達を見てたんだよ。最初から疑わなかったら分からなかったぜ」
伊丹のその説明にハヤトは苦笑いする。
「本部から召集された部隊だ。実力は折り紙付きだろう。安心して街を散策すれば良い。それに彼処にいる部隊だけが護衛だとは思えないしな」
「つまり他にも護衛はいると?」
冨田のその質問にハヤトは頷くと周りのビルや建物を見たりして探す素振りを見せた後、微笑む。
「いるな。スナイパーがあちこちにいる」
「え!?」
栗林がそう言って周りの建物を見ても分からなかった。
人影を見ても人影が少し見える程度で誰がそうなのか分からなかったのだ。
「万が一があれば車の部隊が保護して、スナイパーが支援する。恐らくだが他にも見えない場所に部隊が潜んでいてもおかしくない。これだけ守られていればそう簡単には襲撃は出来ないだろう」
ハヤトは感心した様に笑って言うと伊丹、冨田、栗林は笑えないとばかりにハヤトを見ていた時、公園の奥から一人の男が歩いているのをハヤトは見つけ、その男もハヤトに視線を向けた。
「岩谷?」
「泉?泉一尉なのですか!?」
岩谷と呼ばれた男はハヤトに笑顔で近付くと両肩を掴んで親しげに話した。
「本当に泉一尉なのですね!本当にお久しぶりです!」
「そっちも元気そうだな岩谷二尉」
二人は再開を喜ぶ中、伊丹達が置いて行かれている事に気付き、ハヤトが紹介した。
「紹介する。こいつは岩谷だ。俺の自衛隊時代の部下だったんだ」
「岩谷です。……泉一尉?」
「泉で良い。もう自衛隊じゃないしそもそも存在もしてないんだ。今さら階級で呼び合う事はない」
「そうですか……話しは戻りますが泉。彼等は?」
「……伊丹さん?」
「あ、あぁ……大丈夫です。ハヤト指揮官が信用している人になら身分を明かしても」
伊丹からの了承を得たハヤトは岩谷に紹介した。
「彼等は異世界の来賓だ。伊丹さん、冨田さん、栗林はさんは俺達と同じ自衛隊だ。もっとも別の世界のだが」
「何ですって!?それでは噂は本当だったと?」
「噂?」
ハヤトのその言葉に岩谷は周りを見渡すと答えた。
「何でも我々と同じ世界が門の先の更に先にあるとされ、そこにはかつての故居があると言う噂です。その噂を聞いて色々な人達がこの都市に財を擲ってやって来ているのですよ」
「そうなのか?」
「えぇ……私は別の都市で暮らしてましたがあの事件が起こる前からこの都市に引っ越してきたので関係ないのですが一筋の希望を抱いてこの都市に来る人が堪えなくて……最近、色々と問題になりつつあるのです」
岩谷のその言葉にハヤトは険しい顔になる中、岩谷は伊丹の後ろにいるテュカ達に注目した。
「えーと……彼女達は……コスプレイヤーか何かで?」
「彼女達も一応、来賓だ。特地……異世界の住民達だ」
「……成る程。だったら気を付けてください。彼女達の世界の武装勢力のせいとは言え、S13地区の人間や一部の人形は恨みを持っている奴が多いので」
岩谷のその言葉にハヤトは溜め息を吐いて眉間に皺を寄せると岩谷は笑う。
「そうそう!泉一尉は何か壁にぶつかる度にそんな顔になるんですよね」
「ほっとけ」
岩谷にハヤトはそう言って笑い合う中、伊丹達は二人の様子に微笑みながら見ているとハヤトは伊丹達の事を思い出して岩谷に言う。
「すまないがこれ以上は止めておこう。来賓の事もあるからな」
「そうですね。これが連絡先です。時間が出来たら連絡をください。良い店を知ってますんで」
「覚えていたらな」
ハヤトはそう言って連絡先を受け取ると岩谷はその場から立ち去った。
ハヤトは名残惜しそうにしながら見送ると冨田はハヤトに話し掛けた。
「良かったのですか?昔の同僚だったんですよね?」
「今は目の前の事だ……そろそろ戻らないと式典に間に合いませんよ?ドレスコードも決めないと。伊丹さん達は大丈夫なので?」
「一応、俺達は自衛官の制服を持ってきてるけど……他は……」
「なら、テュカさん達の分は用意させましょう。ドレスの一着くらいは何とかなりますよ」
ハヤトはそう言って伊丹達を連れてホテルへと戻る為に歩き出した。
その頃、ハヤト達と別れた岩谷は公園内の目立たない場所へと来るとそこには金髪の女がベンチに座って本を読んでおり、岩谷はその隣に座ると女が本のページを捲ってから話し掛けた。
「遅かったわね。計画に支障があったのかしら?」
「懐かしい顔にあっただけですよ。貴方にとっても懐かしい顔です」
「へぇ……誰なのかしら?」
「泉隼人です。陸上自衛隊一等陸尉の」
岩谷のその言葉に女は本を読む事を止めた。
「奴が立ちはだかるのなら厄介極まりない事です。如何なさいますか元婚約者として?」
「……難しいわね。あの人は昔から感が良いから……暗殺なんてするにしても時間はもう無い。イレギュラー有りだけどぶっつけ本番でやるしかないわ」
女はそう言って再び読み始め、ページを捲る。
「私達はもう止まれないの。かつての敵同士で組んでるのも世界に明日と言う希望の光を差し込む為の行動よ。そう……世界には変革が必要なの。統一された国家の元、高度に自動化されたシステムによる公平な資源分配。それによって今も存在する弱者への救済。その為に私達は進み続けた。例えテロリスト呼ばわりされようとね」
女はそう言って本を閉じ、不敵に微笑んだ。
その微笑みは美しいものだが何処か狂い果てた様なものであり、岩谷は冷や汗を流しつつも何も言わずに頷く。
「多くの犠牲を払う事になる。だけどそれで世界にいる今も苦しむ人々を救えるのなら……私は幾らでも血を流すだけよ」
「あぁ……そうだな……俺達の故居を取り戻す為にも……やるしかない……」
岩谷はそう言って遠くを見つめる。
遠くを見つめるその目は恐ろしく暗く、先が見えなかった。
「計画実行は式典が始まってから一時間後よ。抜からないで」
「分かっている。必ずやり遂げてやるさ」
岩谷はそう言って立ち上がって立ち去り始め、女もまた別方向から去っていく。
世界の輝きを更新する為に。