偵察任務から数日後、ハヤトは基地の通信を使ってクルーガーに報告を挙げていた。
《成る程……つまり、奴らはエルベ藩王国の国内。テュベ山にいる可能性があり、そして現地勢力……エルベ藩王国の人間に旧式の小銃をバラ蒔いていると言う事だな?》
「はい。グリズリー達が持ち帰った情報を元に再度、偵察隊を派遣しました。極力、エルベ藩王国の領内を脅かさない形で偵察を進めた所、何度か警邏として回っていた帝国兵を小銃を手にした者達が射殺する瞬間を目撃した事とその勢力はエルベ藩王国へと向かいました。それだけでは鉄血とエルベ藩王国の繋がりは見えませんでしたのでリスクを承知で偵察用ドローンによる高高度偵察を実施。奴らを追った所、テュベ山と呼ばれる山へと向かう事を突き止めました」
ハヤトの説明にクルーガーは唸った。
《最悪の展開と言えるな。鉄血は基地を帝国領内ではなく、エルベ藩王国と呼ばれる非交戦勢力ではない国に築いている。そして何よりも現地勢力……恐らくはエルベ藩王国の兵士に旧式とは言え、小銃をバラ撒いている。今までにない動きだな》
「はい。だが、その手法はリスクはありますが有効でしょう。相手に抵抗できる程度の力を待たせるなどリスクはありますが同時に依存を招きます。小銃そして弾薬の供給は鉄血が保証しても製造となるとこの世界の技術レベルでは困難です。仮に反抗したとしても僅かな期間しか抵抗出来ず、鉄血は多少の損害だけで鎮圧も出来る」
《場合によってはこの世界の人間同士で殺し合いをさせ、鉄血は高みの見物のみで済む……そうだな?》
クルーガーのその言葉にハヤトは頷くとクルーガーは深い溜め息を吐いた。
《近く、新ソ連の外交官が派遣される。今回の事を知られればすぐにでも特地に軍を派遣されても文句は言えないぞ?》
「寧ろそれで解決出来るならまだそうした方が良いかもしれませんね。鉄血がジュピターの準備を進めている中で我々はその姿を指を加えて見ているしか出来ない状況に陥ろうとしているのですから」
ハヤトは悔しげにそう言うとクルーガーは笑って見せた。
《やはりお前にこの世界での指揮を任せて正解だったな》
「今更何を言うのですか?此処に来てからストレスでどうにかなりそうですよ。全く……」
《すまんな。また何時か一杯奢るとしよう。だが、その前に目先の問題だ。本来ならこれは外交の話しになるが……エルベ藩王国の要人との接触は可能か?》
「難しいかと。エルベ藩王国の王は先の連合諸王国軍に参加して以来、行方不明。新しくエルベ藩王国の王として活動している王太子はキナ臭い所があります。恐らくは奴が鉄血と繋がっている者だと推測します」
《そうか。その線で調査を進めてくれ。鉄血と繋がりがあるとなれば……容赦する事は出来ない。等しく人類の敵として扱え》
クルーガーのその言葉にハヤトは今のエルベ藩王国が鉄血の完全なコントロール化にある場合はエルベ藩王国も鉄血同然として扱えと言うその言葉の重みを受け取った。
調査で本当に鉄血と強い繋がりが出来ていれば……場合にはよっては帝国と並ぶ敵国になる可能性もあると言う事だ。
それも鉄血の支援と言う最悪な付属品付きでだ。
帝国からエルベ藩王国に至る巨大な戦線。
巻き込まれる民衆。
傷つく
それらを考えながらハヤトとしてはそんな最悪な繋がりがあると思いたくないと思いつつクルーガーとの通信を終えて自身の執務室へと早足に戻って行った。
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執務室に戻ったハヤトは各偵察隊の持ち帰った情報とドローンによる深部偵察の情報を照らし合わせた報告書を読みながら眉間に皺を寄せていた。
何れの報告も全てエルベ藩王国を指しており、迂闊な事をすればエルベ藩王国と言う敵国が増えかねない状況だった。
「指揮官。スプリングフィールドさんから珈琲の差し入れですよ」
「ありがとうステン。机に置いてくれ」
ハヤトのその言葉にステンは丁寧に珈琲を机に置くと報告書とにらめっこしながら悩むハヤトを心配する。
「状況は芳しくありませんか?」
「らしいな……これでジュピターの設置位置までエルベ藩王国領内だったら本格的にマズい。下手な手を打てば余計な敵を増やす事になるし、本格的な外交になる前に正規軍の介入を早める事になるかもしれない。出来ればそうなる前に講和に踏み切ってくれれば良いんだがな……」
「それは難しいも思います……私達はこの世界の事を知り始めてすぐに分かった事は帝国はとてもプライドが高いと言う事ですし……」
「今まで敗けを知らなかったツケだな。悪い意味で第二次世界大戦の日本みたいな状況だ。遥かに格上の相手と戦争すると言うのに根拠もなく自分達は最強だと信じて盲目的に戦争を続ける。待っているのは破滅だ。その時に日本が潰れなかったのは本当に奇跡としか言えなかったが帝国はそんな奇跡が起こる事はないだろう。文明も中世レベルなのがネックだしな」
ハヤトは過去の故居の悪かった所と帝国を比べながら帝国に国家存続の奇跡が起こる確率はかなり低いと考えながら溜め息を吐いた。
「帝国を征服した所で全てが解決する事はない。帝国に残った過激派が徹底抗戦を行うかテロを起こすのは目に見えてるし、新ソ連も帝国だけで止まる事はない。だが、俺には止められる手段は無いに等しい。……潮時を考えないとならないな」
「指揮官……」
ステンはハヤトの潮時の意味を察しながら不安を抱きつつ、気を取り直した。
「暗い話しはまた今度にしましょう。実は私は珈琲を届ける次いでに予定の確認の為に来ました。今回の鉄血の行動に伴い自衛隊の幹部の方々と会議をアルヌスで行う事となっていますが予定はこのままで良いですか?」
「問題は無い。ヘリなら往復でそこまで時間は掛からないからな。今後の事を含めれば自衛隊との連携は必要になるし、アルヌスにいる皆の様子を確認したいからな」
ハヤトはアルヌスにいる人形達が上手くやっているのか気になっていた。
アルヌスには自衛隊とコダ村の避難民が中心となって駐留し、派遣された人形達は交流を定期的に行い、いざこざも特に無かった。
だが、近年ではアルヌスに新しい移住者や旅人、商人が来る様になったらしく顔見知り以外の者達が現れた以上、トラブルを抱える可能性をハヤトは憂いていた。
「人間以外の種族の方々も来ていると聞きましたからね。何かしらの文化的或いは宗教的なタブーに触れて関係が悪くなる可能性もありますからね」
「特に宗教は恐ろしいぞ。中世なら尚更な。俺達の世界の宗教は危険なものを除けば破綻したがそれでも宗教と言うものは精神に深く根を張る兵器だ。人間の信じる心を狂気に変え、宗教の教えを信じて疑わず、盲信して命じられた事を実行する。もし、その宗教の何かしらのタブーを触れれば」
「異端審問……火炙り……」
ステンはそう言って生唾を飲むとハヤトは笑った。
「冗談だ。何度もそう言った宗教に手を煩わされた歴史を持つ国を守る自衛隊がそれを考慮しない訳がない。ロゥリィやレレイ達、アルヌス協同生活組合がいる。自衛隊の分からない事は彼女達がカバーしてくれるだろう。アルヌスにいる皆もそうだ」
「そうですよね……指揮官がそう言ってくれて安心しました。きっと大丈夫ですよね。これ以上のトラブルはきっと起きませんし私、時間があれば今のアルヌスをゆっくり見物したいです」
「ステン……それはフラグだ……」
ハヤトはそう言って苦笑しつつステンの言う様に鉄血の本格的な活動以上のトラブルは起きないだろうと思いつつアルヌスへ行く準備を進めた。