突然、怒鳴り声を挙げた外衣姿の褐色の女。
伊丹達は唖然としてその人物を注目し、他の客は怯えた表情で視線を集める。
他の客が怯える理由は他でもなくガキ扱いされたロゥリィにあり、明らかにロゥリィがガチキレ寸前の雰囲気を醸し出しているのだ。
「誰ですか……?」
「し、知りませんよ……!それよりもロゥリィさんが物凄く怒ってますよ……!」
「あはは!とーてもスリリングね!」
「「言ってる場合か!」」
ロゥリィがキレそうになると言うスリル?がある事態に喜ぶとPA-15に64式自と89式は二人同時にツッコミを入れた。
三人がわちゃわちゃとしている間に怒りからプルプルと震えるロゥリィが女に視線も向けずに問う。
「貴方はだぁれ?なぜアルヌスに?」
「我が名はヤオ・ハー・デュッシ。シュワルツの森のデュッシ氏族のデハンの娘。此方に緑の人と戦乙女がおられると聞き、用件ありて参った次第」
「せ、戦乙女……それって……」
「私達にも用があると言う事でしょうか……?」
「何れにしても楽しくなってきたわね」
PA-15はクスクスと笑い、64式自と89式はヤオが何の為に自衛隊ひいてはグリフィンに用があるのかと興味を向けていた時、ロゥリィが動いた。
「お願い助けて!この男がもう飲めませんって言ってるのに俺の酒が飲めないのかって"私達"にしつこくです」
「わ、私達ですか!?」
「ま、巻き込まれましたか……」
「アハハ!何それ最高!」
ロゥリィに突然、巻き込まれた三人は伊丹に視線を向けると伊丹も当然、巻き込まれて驚いている。
「俺!?」
伊丹のその言葉と同時に客が空気を察して離れるとヤオが伊丹を睨み付ける。
「やはりな。貴様、幼い幼女と女達を酔い潰して卑劣な行為に及ぶつもりだったな。現に既に一人が酔いに回って状況を理解出来てないではないか」
「えぇ?私の事?」
ヤオに酔いが回ってまともな判断が出来てない判定を貰ったPA-15。
一応、念の為に言うが彼女は酔っていない。
普通に性格である。
「私達を手込めにしてぇ。散々遊んでボロくずみたいに私達をぉ……」
ロゥリィ、会心の演技である。
状況を知らない人間がいたら間違いなく信じるが今の周りにいるのは事情を知る人間だらけである。
全く状況を判断していないのは正義感に突き動かされたヤオのみなのはとてつもない皮肉である。
その為に。
「もう大丈夫だ。怖かったであろう」
ヤオは完全にロゥリィの嘘の発言と嘘泣きを信じた。
ロゥリィは顔を手で隠しながら伊丹に悪戯ぽく舌を出して笑い、巻き込まれた被害者である伊丹は勘弁してくれとばかりに苦笑いした所で遂にヤオの手が剣の束に伸びた。
「獣欲にまみれた不埒者め。断じて許さん!この場で成敗してくれる!……ん?」
ヤオは剣を抜いて伊丹に向けようとしたかが伊丹は既にいなかった。
自衛隊きっての逃げ足の速さを持つ伊丹に掛かれば風の如く逃げ去るのは容易く、周りは苦笑いで包まれた。
「……良し、悪は去った。もう大丈夫……ん?何だ礼儀知らずなガキと女達だな。いつの間に?」
ヤオが再びロゥリィ達に視線を向ければ既にロゥリィ及び64式自達もおらずヤオは呆然とする。
その一方、ロゥリィと共に逃げた64式自は呆れた様子でロゥリィに言う。
「全く……貴方の怒りに伊丹さんや私達を巻き込まないでください。特に伊丹さん。下手したら伊丹さん、本当に斬られてましたよ」
「アハハ!ごめんなさぁい!」
「本当に反省してますか?」
ロゥリィの反省の色の無いその言葉に64式自は溜め息を吐くと89式が首を傾げる。
「それにしてもあのヤオって人は何の用があって来たのでしょうか?」
「そうね……この一件は一先ず指揮官に伝えておきましょう。伊丹さんは……あの人、何も伝えずにその日をやり過ごしそうね」
64式自は伊丹の性格的に何も知らない、関わらなかったスタイルを取るであろう伊丹の行動を予想して溜め息混じりに苦笑いする。
「指揮官にも伝えるのですから狭間陸将にも伝えておきましょう。ですが今夜は流石に遅いですし明日、私から伝えましょう」
「あら?すぐには報告しないのね?」
「えぇ……本当に火急の用件ならアルヌスの町の酒場よりも自衛隊の駐屯地に早足で向かってそうですから……まぁ、彼女が自衛隊や私達が探してる筈の存在なのですが彼女は分かってるのでしょうか……」
64式自のその言葉に89式とPA-15は絶対に分かってないと考え、ロゥリィは不敵にクスクスと笑った。
________
______
___
翌朝、ハヤトはフォルトゥーナ基地を中継地として通信を行っていた。
「また急ですね……」
《我々としても外交の為のルートを模索したいのでね。聞いたよ?日本は既にある程度の外交ルートを築き掛けているとか?我々がこれに遅れを取る理由はあるかね?》
ハヤトが今、相手にしているのは新ソ連の政治家だった。
日本がピニャの仲介の元、帝国との講話交渉に動いたと聞き付けたのか新ソ連政府が動き出し、こうしてまたハヤトのストレスになる様な話をし始めた。
《我々は帝国を憎むべき独裁国家いや、テロリストとして認識している。だが、だからと言って交渉の為の席くらいは作らねばならない。例え相手が野蛮な原始人でもね。前から君にも伝えた筈だが外交官派遣の件は進んでいるのかね?》
「はい。自衛隊及び日本政府とは話を進めております。アルヌスの自衛隊駐屯地内に大使館を創設すると確約を得ましたがいかせん彼らには国家的な事情があり、調整を行う時間が欲しいと求められていてもう暫くは……」
ハヤトは少し嘘をついた。
本当は調整の時間が欲しいと言ったのはハヤトであり、これは出来る限り新ソ連政府及び正規軍に鉄血の拠点の位置知らせない為の時間稼ぎだった。
知られた最後、いらない火種が溢れだし、鉄血討伐の名目で更なる戦線拡大を求められかねないからだ。
《それでは困るよ君。それだと我々が手をこまねいてる内にそちらの日本が帝国と有利な条件で講話を成立させられて我々の旨味が消えてしまう。何とかその調整とやらを早められないのかね?》
「申し訳ありません……ですが最善を尽くして交渉に当たります。どうか私を信じて頂けないでしょうか?」
《うーむ……だがね……》
「必ず交渉を成立させます。その時には大使館設立だけでなく帝国との外交のテーブルの予約席に我々も着ける様に手配しましょう。それでどうかご納得をお願いします」
《……分かった。猶予は与えるがそれを成せなければ君に交渉から外れて貰う。あぁ、心配しなくとも万が一、失敗しても戦場での指揮は君がやりたまえ。政治の話は我々がするだけなのだからね》
新ソ連の政治家はそう言って通信を切るとハヤトは溜め息をつく。
「お疲れ様です指揮官。お水です」
「ありがとうステン。全く……急かしてくれるものだ。鉄血の問題を片付けさえすればすぐにでも迎え入れる用意があると言うのに」
「色々と耳に入ったら不味いですからね……それと指揮官。ご報告があります。64式自が89式とアルヌスの町の酒場にいた際にヤオと名乗る褐色の女性が自衛隊とグリフィンを訪ねに来てる様です」
「自衛隊や俺達に?」
ハヤトはその報告に首を傾げるとステンも疑問を感じて首を傾げる。
「確かにこの世界で有名にこそなりました。ですがこうして訪ねてくる人は初めてです」
「確かにな。それにしてもどうしてアルヌスにグリフィンを訪ねに?確かにアルヌスにも俺達の部隊は駐屯している。だが、限定的だ。それを知ってて来たのか或いは知らなかったか」
「知らなかったかに一票ですね。仮に聞いたとしたら次いでに私達に連絡をして貰いたかったと言う線もありますが……」
「此処は中世だぞ?仮にそうだとしてもヤオの考える連絡手段が伝令くらいだ。何れだけの時間を……まぁ、それは会えば分かるか」
「お会いになるのですか?」
「一応は……本当ならこの忙しい時に会う余裕はないが遠路遙々訪ねて来たと思えば何の用件くらいは聞かないと流石に可哀想だからな」
ハヤトはそう言って苦笑いするとステンも苦笑いし、ヤオが訪ねてきてもすぐに会える様に予定を調整するのだった。
まさかそれが予想外の形で会う事になるとも思わずに。