ヤオの来訪の知らせから暫くして、自衛隊の駐屯地の客室でハヤトは眉間に皺を寄せ、呆れ返っていた。
ステンも困った様子でハヤトの前に立ち、溜め息を吐いている。
「……もう一度言ってくれ。今、なんて?」
「はい……その……捕まりました……」
「誰が?」
「ヤオ……さんです……報告に挙がった例の使者の……」
ステンのその言葉にハヤトは唸り声を挙げ、ステンも困り果てた。
使者であるヤオ・ハー・デュッシ。
自衛隊の警邏に捕まったのである。
その知らせを受けたハヤトはどうしてそうなると眉間に皺を寄せて指で摘まむように押さえた。
「……自衛隊側は何か言ってきてるか?」
「まだ何も……私達は他の仕事に回ってますので通訳に回るのは時間が掛かるので自衛隊の人達がレレイさんが通訳として招きに行ってる所です」
「……後は結果待ちか」
ハヤトはそう言って溜め息をつく。
ヤオ確保の知らせを受けてから暫くしてハヤト達のいる客室の扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼します」
ハヤトの返事を合図に扉が開けられ、一人の自衛官が入ってきた。
「ハヤト指揮官。申し訳ありませんがご足労をお願いできますでしょうか?」
「例の女性の事ですね?」
「えぇ、そうです。恐喝の容疑で取り調べをしていたのですが彼女は我々と貴方方、グリフィンに使者として来たと言っておりまして……一応、お聞きしますがお会いになりますか?」
「会うだけなら構いませんよ。アルヌスで会えるなら面倒も少なくて済みますから。さて、行こうか」
ハヤトはそう言ってステンを連れて自衛官に案内されながら使者であるヤオの元へと向かった。
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自衛官に連れられて来たハヤトは案内された部屋に入るとそこには狭間と自衛隊幹部、通訳として来たレレイそしてお騒がせな使者であるヤオの面々がいた。
「遅くなりました。話はお進みになってますか?」
「いえいえ、貴方抜きでは始められませんよ。それではヤオさん。今回の訪問の内容を教えて頂けますか?」
「あ、あいわかった。我が名はヤオ・ハー・デュッシ。シュワルツの森よりまかりこした。使者としてアルヌスに赴いたのは他でもなく数ヶ月前、突如として現れた黒紫の魔女達に我が一族が襲われ滅びの道を行こうとしている。どうか我が一族に救いの手を差し伸びてもらいたく。切にお頼み申す!」
「シュワルツの森……?」
ヤオのその言葉にステンが反応し、ハヤトは黒紫の魔女と呼ばれる鉄血の名を聞いて嫌な予感を覚えた。
レレイの通訳を通じて狭間達も同様の考えを抱く。
「無論!我が一族を救ってくださるのならば此方に用意した金剛石の原石を対価として用意しており、それでも足りぬならばこの身を捧げる事も厭わぬ所存!どうか……どうかお頼み申す!」
レレイの通訳を通したヤオの必死な頼みにハヤトや狭間達は暫く考え込むと狭間が地図を求め、幹部の一人が地図を取り出して広げた。
「シュワルツの森と言ったな」
「レレイさん、どの辺ですか?」
狭間と幹部達、そしてハヤトとステンも地図を見てレレイの示すシュワルツの森の位置を確認する。
ハヤトは既に気付いていた。
シュワルツの森がグリフィン並びに自衛隊でも対処が遥かに難しい場所に位置している事に。
「指揮官……やっぱり……」
「あぁ……そうらしい……」
ハヤトは何度も確認した末にシュワルツの森のヤオの部族を救いに行こうにも行けない事が分かり、項垂れた。
ハヤトだけでなく狭間達、自衛隊側も同じ結論となり、項垂れ始め、ヤオの顔は不安に満ちていた。
ステンはその顔を見てうつ向き、申し訳なさそうにする。
暫く重い空気が流れる中、最初に口を開いたのは狭間だった。
「ヤオ・ハー・デュッシさん」
名前を呼ばれてヤオは背筋を伸ばして狭間に注目し、狭間はその視線を受けながら重い口取りで結果を伝える。
「……遠路遙々お出で下さったのに力になれず申し訳ない」
狭間は頭を深々と下げ、謝罪し、その謝罪の言葉をレレイは伝えるとヤオは固まった。
それも仕方ないものだった。
ヤオは部族の命運を賭け、長い旅の末にアルヌスまで来たのだ。
それなのに報われる事はないと知れば嫌でも信じられないと固まるしかなかった。
「み、緑の人は十人程と聞き及んでいます。それに戦乙女達は事実、五人だけで黒紫の魔女を相手に奮戦し、イタリカでも活躍したと……お、お二人方の軍勢からほ、ほんの少しご助成を……」
「滅相もない。部下に死地に赴けなんて命令は出せません」
「申し訳ありませんが私も狭間陸将と同じ意見です。とてもではありませんが私の仲間に死ねと同様の言葉など使いたくありません」
狭間とハヤトのその判断にヤオは呆然とし、固まる中、話は続く。
「それに貴方の故居、シュワルツの森。地図によるとエルベ藩王国領内だ。軍が相手国の断りもなく国境を超える……これがどういう事か貴方もお分かりになるでしょう」
狭間のその言葉にヤオは何も言えない。
狭間の言葉はヤオに取っては何処までも残酷であり、何も言い返せない正論だった。
そして、ヤオは知る事はないが自衛隊は基本的に軍として扱われていない。
あくまでも自衛の組織、国を侵略者から守る為の武力なのだ。
一部例外を除けばどの国の軍よりも自衛隊の活動は強い縛りがあるのだ。
だから動けない。
自衛隊側としては助けたくても助けられない理由が挙げられた理由なのだ。
「……な、なら戦乙女達は!此処へ来る途中、戦乙女達は正規の軍に属してはいないと聞き及びました!どの様な対価を要求請われても構いませぬ!だから!」
「ヤオさん……残念ながら無理です。我々は確かに正規の軍ではありません。ですが国家を代表して進駐したのは確かです。我々が此処で迂闊に動けばエルベ藩王国はきっと良く思わないでしょう。我々のせい余計な戦端を開く訳にはいきません」
流暢な特地語で話されたハヤトのその言葉にヤオは食い下がろうとするもハヤトは首を横に振り、改めてヤオに視線を向ける。
「黒紫の魔女、鉄血工造は我々の宿敵です。出来れば殲滅したい。ですが奴らの根城にしている場所が悪すぎた。寧ろこの事態を狙って築いた可能性もある。国境を超えてまで手出しはしないだろうと」
「しかし……しかし……!」
「出来る事は探してみましょう。ですが部隊の派遣は現時点では不可能。残念ですが……諦めてください」
ハヤトはそう言って深く頭を下げた。
ステンも狭間達もお手上げだとばかりにヤオに頭を下げ、その光景をヤオは絶望に染まった瞳で見るしかなかった。