「おいババァッ!」
「師匠と呼べと言ってるだろバカ弟子ィ!」
「なんでこんがり肉に毒生肉混じってんだろ!おかしいだろッ!」
「使わず腐らせるのもったいないだろうがッ!食え!今日はノルマ食い終わるまで修行は無しだ!」
「あと30個毒こんがり肉食えとッ!?」
「私はもう50個間食したぞ」
「ば、バケモノババア・・・・・ッ!」
師匠の後ろに転がる無数の毒こんがり肉の残骸の数々と、淡々と食べ続ける師匠。
師匠に弟子入りしてから早数年、俺は目の前の生き物が未だ生物学上は自分と同じ人間だと言うことに納得が行かない。
まる1週間、師匠特性強走薬グレートDXをドーピングして強制的に眠れなくさせられ不眠不休で大剣で素振りをひたすらさせられ、腕がもげ(比喩ではない)、足の骨が砕け、その度に秘薬を無理矢理口の中にぶち込まれ、「人間死ぬまでそれは致命傷じゃない、かすり傷だ」と訳の分からないことを言われ、かと思えば全裸で狩場に1人放置され「素手でドスジャギィ倒すまで帰ってくんな」と言われ、死に物狂いでドスジャギィを仕留めたと思えば、その間に師匠は裸とハンターナイフ1本で怒り喰らうイビルジョーをぶち殺して喰ってた。
そして今度は霊峰から紐なしバンジーさせられ、終いには「あれの攻撃に耐えろ。秘薬の使用は可とする」と、腕を回しながらこちらに迫る激昂ラージャンのぶっ殺しラリアットをノーガードで喰らわされれ危うく首がもげるとこだった。(比喩でわない)
そして目の前の化け物(師匠)は激昂ラージャンをハンマーで300mくらい吹っ飛ばした。
師匠は言う「私なんてバケモノの中でも中位さ。本物のバケモノなんて私の知る限りあと3匹と5人居る」と自分はバケモノの中でもまとも枠も訳の分からんことを言う始末。
俺は頭が痛い。
正直修行は死に物狂いだし、師匠はバケモノみたいで、殺る事なすこと言うこと全部めちゃくちゃだけど、それでも師匠には恩があった。
師匠は俺を死んだ息子の代用品の様に扱っていた。
代用品の感情に偽物の愛。
それでも愛はある。
偽物でも、代用品でも、愛はあった。
だからこそ、俺は師匠の為にこの命を使いたかった。
師匠の英雄になりたかった。
そして俺は師匠の言いつけを1度だけ破った。
古龍の討伐。
本物の古龍を見て初めて俺は師匠の言っていたことを理解した。
アレは生物として確実に格上の存在。
神とすら言える。
確実な死の恐怖と畏怖。
生物としての本能が告げていた。
この生物とは戦うなと。
それでも俺は逃げることより、武器を取ることを選んだ。
あの日差し伸べてくれた、師匠の手を思い出しながら。
「・・・・・なぁ師匠」
「なんだバカ弟子」
俺は毒こんがり肉を食べながら師匠を見る。
「俺、英雄になるよ」
「なんだよ急に、気持ちわりぃ」
あの日師匠は言った。
師匠の息子の代わりにはなれないと。
でも
───だが・・・・よくやった。バカ弟子。
そう言って撫でてくれたあの手が、俺は今も忘れられない。
優しくて、暖かくて、心地いいあの手の感覚が。
師匠に英雄は似合わない。
「師匠を護れる英雄になる」
「・・・・・・・」
「そしたらさ、師匠は引退しろよ。もう師匠は充分頑張っただろ?だからさ、どっか静かな島でさ、のんびり暮らせよ。誰にも文句は言わせねぇ」
「・・・・くだらないねぇ」
そう言って焼きあがった毒こんがり肉を食べる師匠は、ふッと鼻で笑う。
「でも・・・・」
そう言って上を見ると
「お前が結婚して、子供作って、幸せそうな顔して"孫"でも紹介してくれんなら・・・・・悪くないかもね」
「俺が結婚て・・・・さすがに無理だろ」
「マリーが居るだろ?」
「マリーは・・・・・、アイツはモテるだろ?俺なんか相手にしねぇよ」
マリーはモテる。
今はまだギルドナイトの分隊長ではあるが、なんでもそつなくこなす天才で、容姿も良く、何より優しい。
俺もマリーのことを好きかと言われれば好きだが、師匠の監視役という事もあり関わりも多く、長く共に時間を共有したせいか、家族のような感情を向けるようになってしまった。
何より、男女共にモテるマリーが、俺にそう言った感情を向けるとは思いずらい。
「あの受付嬢はどうだい?お前には特別優しそうじゃないか」
「アイツはみんなにそうだろ?」
受付嬢。
名前はローズ。
彼女はギルドでもアイドルとしてハンター達から慕われている。
抱きたい女ハンターズギルドランキングNo.1、抱かれたい女ハンターズギルドランキングNo.2とマジで人気だ。
しかも狩りに行く度に両手を握られ、笑顔で「あなたの無事を祈ってます」などと言われれば勘違いしてしまいそうになる。
俺はその度に「師匠、助けて!俺この娘好きになっちゃう!」と目線で助けを呼ぶが、師匠はいつもニヤニヤしている。
ちなみに抱かれたい女ハンターズギルドランキングNo.1はライラックと呼ばれる最強よ女ハンターだ。
師匠を超えるマジモンのバケモンらしい。
面識はないが、師匠がバケモノ呼びするとは、相当なバケモノなのだろう。
「私はお前の将来が心配だよ、バカ弟子」
「いいんだよ、俺は師匠の為に生きるって決めたんだ」
そう言って毒こんがり肉を食べる俺。
めっちゃ苦い。スタミナが減っていくのがわかる。
「・・・・・このたらしめ」
そう言って笑う師匠。
俺が古龍を討伐してから、俺と師匠の間にあった小さな壁がなくなった気がする。
俺はそれがたまらなく嬉しく、この関係が心地よかった。
なぁ師匠、俺はいつかあんたの【番狼】の名を継いでG級になるよ。
そしたら、アンタはもう【英雄】なんて辞めて、幸せになってくれよ。
もうこれ以上辛い思いなんてするなよ。
あんたには、笑顔いっぱいで、ベットの上で死んで欲しいんだ。
こんな寂しい大地で、【英雄】として死ぬ師匠なんて、俺は見たくねぇよ。
「なぁ師匠」
「なんだい?」
「俺は幸せだよ」
「・・・・・ふん、ならよかったよ」
そう言って俺と師匠は笑った。
例え師匠の息子になれなくても、俺は今幸せだ。
この時間が続くことを、俺は願った。
この幸せが続くといいねダンテ!