【番犬】
「おい、あの噂知ってるか?」
「なんだよ噂って」
今ハンターズギルドにはとある噂が流れている。
その噂が流れるきっかけとなったのは【番狼】の市によるものだった。
「なんでも【番狼】が死んだのは【番犬】が原因だからからだとか」
「おい、いくらなんでも言っていい事と悪い事が・・・・・」
「だが都合が良すぎとは思わねぇか?」
「・・・・・」
【番狼】の跡を継ぐのは皆かつての【番犬】、リナリアの一人息子であり弟子でもあったリンドウだと言われていた。
しかし、リンドウは【巨戟龍】との戦いで戦死してしまった。
だがその直後まるで入れ替えるように現れた新たな弟子。
ダンテ=ヒガンと呼ばれる男ではリンドウの代わりにはならない、そんな実力は無いというのが彼の狩りを見たもの達からの評価だった。
故にダンテはずっとハンターランク【7】のままだった。
彼ではG級ハンターにはなれない。
そんな彼が焦り、オストガロアの撃退で弱っていたリナリアを手にかけ、オストガロアを撃退したのは自分だと虚偽の情報をギルドに報告し、G級ハンターの座を自身のものにしようとしている。
それが世間から見た【番犬】ダンテ=ヒガンの評価だった。
ハンターズギルドではG級個体の古龍の討伐、もしくは撃退にソロで成功した場合は即G級ハンターに昇格するのだが、今回の場合はリナリアがオストガロアを弱らせ、それをダンテが撃退した形のなる。
故にダンテのG級への昇格をどうするのかギルドは決めあぐねていた。
それがより【番犬】への他のハンター達からの不信感を買ってしまっていた。
「噂をすればだ」
ギルドの扉が開かられる。
そこには返り血と自身の血を滴らせるダンテの姿があった。
「お疲れ様です、依頼の成功を確認しました。こちら報酬金となります」
そう言って金の入った袋が置かれる。
それを無造作に受け取ると、【番犬】はクエストボードに向かいクエストの書かれた紙を引き剥がすとそれをカウンターに金とともに置く。
「・・・少し休まれてはどうでしょうか?こんな連続でクエストを受けていては身体が」
「とっととしろ、それがお前の仕事だろ」
「・・・・・」
取り付く島もない。
受付嬢は少し目を伏せ暗い顔をしたが、直ぐに笑顔を取り戻しクエストに印を押した。
「無事でかえってきてくださいね」
そう言って受付嬢がダンテの手をにぎろうとした。
───よくやった、バカ弟子
「ひっ」
───バシッ
瞬間、ダンテはその手を振り払った。
「いっ」
振り払われた手が赤くなる。
赤くなっ手を抑えながら受付嬢はダンテを見れば
「フッ、フッ、フッ」
息が浅くなり、何かに怯えている。
そんな目をしていた。
ダンテは深呼吸をして少し経てば元通りとなる。
しかし落ち着いた事により、受付嬢の手を振り払ってしまった事への後悔と、それをした自分への怒りが込み上げてくる。
「・・・すまん」
ダンテはそう言って謝罪するとクエストに出た。
▶▶▶▶
「なんなんだよあの野郎」
「感じ悪ィな」
「もうG級気分かよ」
「後釜の分際で」
ギルドの中で渦巻く【番犬】への敵意と軽蔑の目。
誰もが【番犬】を嫌い、遠ざけ、否定していた。
そんな中、手を叩かれた受付嬢は赤くなって手のひらを抑えていた。
それを見ていた
「大丈夫?氷持ってくる?」
「いえ、大丈夫です」
「でも叩かれたところ、赤くなってるよ?」
「本当に大丈夫なので」
「そっか」
そう言って赤く腫れた手を撫でる受付嬢。
「ローズ」
「なに?」
「もしかしてダンテさんが後悔してるの見て興奮してるの?」
「・・・・うん」
顔を赤くし、笑う受付嬢。
彼女はこのギルドでも屈指の人気を誇り、男女問わずに慕われている。
どんな時もハンター達の無事を祈り、ハンターたちの相談や悩みを聞き、ハンター達から慕われる存在。
そんな彼女は顔を伏せて長い金髪で顔を隠しながらも、歪に笑っていた。
「・・・・で、実際どう思う?」
「何が?」
「ダンテさんの噂」
「ダンテさんはそんな事しない」
「だよねぇ」
そういいながら、ダンテが出ていった扉を見て目を細める。
「でも、ダンテさんこのままじゃ本当に死んじゃう」
「それを止めるのが私たちの仕事でしょ」
「・・・・・彼、止まれるかな」
「私が止めます」
ローズは固く決意する。
ダンテはひたすら討伐依頼を受け続けていた。
人々を救うために、人々を襲うモンスターを殺し続け、その中には救えた人もいれば、救えなかった人たちも居る。
それでも彼はひたすらにモンスター殺し続けていた。
身体が壊れても、血反吐を履いても、傷だらけになっても、ただモンスターを狩り続ける。
それはたった一言の、自身の師が遺した言葉を実現させるために。