英雄に憧れて   作:荒北龍

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救い

 

 

 

 

モンスターを狩り、採取し、武器や装具を揃え、またモンスターを狩り、そして採取する。

その繰り返しだ。

力を示し、G級になる、それが俺の目的であり、生きる原動力でもある。

師匠の言った言葉が、嘘にならぬよう、師匠のようになる為に。

もう師匠はいない。

 

だが、どうしてだろう。

狩りを続ける度に、モンスターを殺す度に、俺はモンスターを殺す事を楽しんでいる。

次はどうやって殺してやろう、次はどんなふうに殺そう。

思った通りに事が運び、軽症で狩が成功する時もあれば、手足を飛ばし、瀕死になりながらも成功する。

時には予想外の出来事が起こり、失敗もする。

対策し、計画を立て、再び挑み、そして殺す。

死ぬのは自分かもしれない。

死なないかもしれない。

そのギリギリの命の駆け引きに、心臓の鼓動はかつてないほど脈打ち、そして立っているのが自分一人だと気づいた時の安堵。

そして高揚感。

 

その時、俺はようやくまた1歩、英雄に近づけた気がした。

 

───村を救ってくれて、ありがとうございます!

 

たまに感謝もされる。

 

───ひ、ひぃ··········ッ!バケモノッ!近寄るなぁッ!

 

恐怖されることもある。

そんな日もある、そんな時もある。

そうやって割り切って生きていくしかない。

 

だが俺は日に日に焦っていた。

早く英雄にならなければ、早くギルドに認めてもらわなくてはと言う焦り。

 

「もう辞めましょう」

「···············あ?」

 

いつも通り、クエストを受注しようとするが、止められる。

 

「どう言う意味だ?」

 

緋髪の受付嬢が差し出したクエスト用紙を見つめ、そう答えた。

深夜のギルド。

中には受付嬢であるローズと、鎧の隙間から血を流し、それでもクエストを受けようとするハンター、ダンテの二人。

 

「これ以上は本当に死んでしまいます」

「俺が、力不足だと?」

「違います、私が言いたいのは··········」

「ならとっととクエストを受注させろ、俺には時間がねぇんだ!」

「焦りは禁物です!貴方にはまだ未来があります!【番狼】様のことは残念でした、ですが、だからこそ今のあなたに必要なのは───」

「お前に俺の何がわかるッ!?」

 

ダァンッ!と強く拳を叩き付けられたカウンターは砕け散る。

正面でその光景を見せられたローズは、瞬き一つすることなくダンテを見ていた。

 

今、ギルドナイトはダンテを殺そうと画策している。

狂った男を殺す為に。

クエストの独占はギルドにより固く禁止された行為。

そういう建前の元に、自分を殺そうとしている事に。

G級ハンターと同等の実力を持つ、もしくはこれから持つ可能性のあるハンターであるダンテは常にギルドナイトに警戒されていた。

 

いま居るG級ハンターは合計9人。

多い、明らかに多い。

そしてG級の力を持つハンターがこれほど多ければ、もしギルドに反旗を翻す、もしくはその力を人や王国に向けられた時、自分達は対処出来るだろうか?

 

そんな疑心により、今のギルドナイト、及び王国側の勢力はG級ハンターをこれ以上増やさない、もしくは"何らかの"理由で死んで欲しい、処刑したいと思っていた。

 

そしてダンテはその対象であった。

ダンテがG級になれない理由は資格が無いからでも、実力が足りないからでもない。

 

こ(・)れ(・)以(・)上(・)G(・)級(・)ハ(・)ン(・)タ(・)ー(・)は(・)必(・)要(・)な(・)い(・)からだ。

 

それに気づいていながら、彼は英雄に、G級になろうとしていたのだ。

邪魔をするなら目の前の受付嬢と、自分を殺そうとするギルドナイト、及びハンター達を殺そうとしていた。

邪魔するものがいなくなれば、自分は英雄になれると信じて。

それはもはや狂気の沙汰だ。

 

そんな空気の中、ローズはただ一人、【英雄】を見ていた。

 

「分かります、わかるに決まってます」

「何を根拠に───」

「貴方が【番狼】、リナリア様に救われ、追いかける様に、私も貴方に救われ、追いかけ続けました」

「···············」

 

かつて自分を救った英雄。

そんな英雄に死んで欲しくないから、これ以上悲しんで欲しくないから。

今度は自分が彼を救うために───

 

「俺と同じ··········?」

「はい、私はかつてアナタに救われ───」

「はっ」

 

それはとても乾いた、寂しい笑いだった。

 

「ハハハハハハッ!」

 

笑っている。

顔と腹を抑えて、心の底から笑い狂っている。

 

「はは、俺と同じッ!俺と同じだとッ!ハハハハハッ!」

「なぜ笑うんですか」

「そりゃ笑うだろ!ハハハハッ!ハハハハハハハッ!」

 

分からない。

なぜ彼が笑うのか、何がそんなに面白いのか、ローズは理解できない。

 

「師匠の顔が、思い出せねぇ··········」

「───」

 

「ヒュッ」と言う悲鳴にも似た声とともに吐き出された、肺の中の空気が全て抜けたような感覚。

受付嬢であるローズの頭にまるで鈍器で殴られたような感覚が襲った。

ダンテにとってリナリアは母であり、家族であり、師であり、ダンテ自身が最も大切にしている人物だった。

 

「日に日に声も、性格も、どんな人だったかさえ思い出せない。あの言葉以外、何も思い出せねぇんだ!そして今も!お前が教えてくれたお陰で思い出したんだ!師匠!そうだ!師匠の名前はリナリア!リナリアだ!ハハハハハハハハハハハッ!」

 

───お前は立派な【英雄】さ、バカ息子。

 

「全部忘れる前に」

 

悲痛、焦り、怒り、懇願にも似たその思いに、ローズの口は上手く開くことができなかった。

 

「早く、俺は英雄にならなきゃいけねぇんだ·ッ!」

 

ローズの両肩を、ダンテが掴んだ。

 

「それが無理なら、殺してくれ··········ッ!俺が、全て忘れる前によぉ!」

 

その懇願は、救いを求めてか、それとも絶望の果ての想いなのか、ローズには理解できなかった。

ただ、彼を救いたかった。

彼の心の拠り所になりたかった。

彼にもう一度、笑って欲しかった。

その思いを残酷に、悲痛に突き放す。

 

「お願い、します··········、殺して··········殺してください·····ッ もう、忘れたくない···············ッ」

 

涙のを流し、懇願する。

救えない。

私なんかが、救えるはず無かった。

だって彼の救い(家族)は、もう居ないのだから。

 

 

 

 






んぅ〜〜♡
主人公のハートがボッキリ折れる瞬間はたまらねぇ〜♡
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