世界滅亡級レイドボスなドラゴンさんに意味深な厨二病かましたら、なんか唯一の理解者判定された件   作:歌うたい

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第十二話

「おう、どうしたセトの坊主! もっと飲め、もっと食え! 大金星を拾った男が、なにをそんな遠慮して縮こまってやがる!」

「遠慮じゃなくて、単に死ぬほど疲れただけだっての。だかもう少しゆっくり飲ませてくれよ、ムーガルの旦那」

「おう、こっちにももっと酒と肉持ってこい! 今夜の主賓がご所望だぞ、ガッハッハ!」

「全然聞いてねーし⋯⋯」

 

 主賓とまで持ち上げるなら、もう少し意見を尊重しろと。

 すっかり酔いが回って上機嫌なムーガルに、セトは呆れがちに酒をあおった。

 場所はフィーブル唯一の酒場である。田舎の小さな酒場であるが、現在は村人達によるセトの祝勝会会場と化していた。

 

「全くお前さんには驚かされたぜ。まさかあんな反則めいた真似まで出来るとはなぁ。水くせえぞセトの坊主、おかげで無駄にヒヤヒヤしちまったじゃねーか」

「いや、あれは⋯⋯」

 

 バンバンと背を叩くムーガルに、セトは言い辛そうに口ごもった。

 今、フィーブルでは深刻な勘違いが発生している。

 件の反則技である。あれがセトの秘めていた力だと、誰もが認識してしまっているのだ。

 そんな訳がない。どう考えてもあれはスピカによる仕業だと、セトは自覚している。

 魔力を吸収して、さらに倍にして返すなんて所業。間違いなく黒竜の力によるものだろう。大災厄と恐れられるのも納得のチート(ぶっ壊れ)技である。

 俺の力じゃない。声を大にしてそう言いたかった。しかし、それが出来ない理由もあった。

 

「うむ。あれが我のセトの本気というものだ。そう、我はセトの本気スイッチを押してやったに過ぎぬ! こう、ポチッとな、と!」

「激しかったもんねえ。見せつけてくれちゃってさ」

「あんなの人生で一度とお目にかかれないよ。記憶喪失の所を助けられて、ってのが馴れ初めだっけねえ。いやあ、良いロマンスだねぇ」

「はぁ。こっそり狙ってたのになぁ。あんなことされちゃあ、もう諦めるしか⋯⋯」

 

 一つが、スピカ自身があれはセトの力だと吹聴している事である。村の女衆に囲まれてる今も、スピカは真実を話していない。つまり、現状をスピカは良しとしているのだ。

 それはこの力についてこっそりと問い詰めた際にも、確認したことである。

 

『うむ。確かにあれは我の力だぞ。我は我が傷付けた部位によって、相手に【力】を譲渡することが出来るのだ。今回は牙で傷付けたから、渡せたのは【暴食(グラトニー)】だったな。中々に便利であったろう?』

『便利っていうか、あんなの反則⋯⋯いや待て。今回は牙ってことは、まさか他にもアレみたいな力を渡せるってことか?!』

『そのとーり!⋯⋯さてはそなた、我が闇の力の虜となったな? ふふふ、なればその内アレとアレも⋯⋯』

『いやいやいや、あんなもんそんなほいほいと寄越されたって困る⋯⋯というかだ! あれじゃあ完全に俺の力って誤解されてるぞ。お前はそれで良いのか? 他でもない黒竜の力なんだろ?』

『む? それなら別に構わんぞ。むしろその方が都合が良い』

『都合?』

『真実を知るのは我とそなたの二人だけ。うむ、実に善い響きではないか! 我とそなたの絆がより強固なものに感じられて、実にときめくぞ!』

『⋯⋯真面目に聞いた俺が馬鹿だった』

 

 実に頭が痛いスピカの都合ではあるが、結局セトはこの深刻な勘違いを正すことを諦めた。それはもう一つの理由にも関わってくる。

 【暴食】の力。あれをスピカがもたらした力だと公表するのは、色々と不味い予感がしたのだ。

 スピカはただでさえ記憶喪失の謎多き人物とされている。そんな彼女があのような力を複数持ち、更には譲渡も出来るとなれば、どうなるか。

 

『なに、そんなやつがいるのか。よし捕まえて利用してやろうグヘヘヘ』

『なんだお前ら、はい大災厄パーンチ』

『うぎゃー』

『そんなーどうして大災厄が復活してるんだー』

『わー』

『ぎゃー』

 

 そして千年前の焼き直し。そんな未来。

 ありうる。大いにありうる。

 アルシュベイト達も、まだフィーブルに滞在しているのだ。彼らに知られるということは、都の魑魅魍魎に知られる事にもなるだろう。それだけは避けねばならない。

 無論セトの力と思わせるにも面倒事が生まれそうだが、世間知らずなドラゴンIQに託すよりはまだマシである。

 よって、不本意ながらも現状を受け入れるしかないのだ。

 激戦を制して得たものは、新たなる胃痛の種というオチに耐えるべく、酒を啜るしかないのである。

 

「あ、いたいた! やっと見つけましたよ、マイ・スクープさん!」

「⋯⋯?」

 

 そんなセトの前に突如現れたのは、記者みたいな格好をした小柄な女性であった。

 

「はじめまして、セト・アルステラさん。コリンはコリン・トゥーリパイと申しますです! 大貴族アルシュベイトさんとの決闘に勝利した貴方に、是非ともインタビューさせてもらいに参上しましたぁ!」

 

 

「魔力の調査?」

「はい。実は二週間ほど前に、この付近で膨大な魔力が検知されたって話がありましてね。その調査チームとしてアルシュベイトさんが名乗り出て、コリンもサポートとしてついて行く事になったっていう経緯(いきさつ)なんですよぉ」

「な、なるほど。それで大貴族やギルドリーダーがこんな田舎にまで来てる訳か。大変だったな」

「ええ、はい。まあコリンは昔お世話になったカタリナさんに会いたかった事もありますし、こんな大スクープに遭遇出来ましたから。むしろ全然プラスですねー」

 

 にっこりと笑いかけるコリンだったが、セトは表情を崩さぬよう必死だった。膨大な魔力。恐らくスピカのことだろう。時期的に封印が解かれたタイミングとドンピシャだった。

 今回の件の発端はセトのうっかりが原因だったのである。巡り巡って自業自得と告げられたようで、セトはまた一つ心で泣いた。

 

「マザーと知り合いってのは驚きだな。あの婆さん、変なとこで顔が広い。今じゃ落ち着いてるみてえだが、若ぇ頃はさぞ幅利かせてたんだろうなぁ。末恐ろしいぜ」

「んなこと言ってるとジャスティス飛んでくるぞ、ムーガルの旦那」

「おっといけねえ、くわばらくわばら」

「ああ、あれですか。痛いですもんねえ⋯⋯」

 

 インタビューというよりも、世間話のような会話だった。 

 というのもコリンの質問責めに、セトが答えを濁す回数が多かったからである。

 スピカについての質問も幾つかあり、それで答えあぐねていたのだが『すいません、警戒させちゃいましたよね』と詫びたコリンによって、今のように落ち着いたトーンに変わった。

 

「それにしてもセトさんもやっぱり冒険者だったんですね。ランクはプラチナですか? それともダイヤモンド? もしかして最高位(アレキサンド)だったりします?」

「いや、俺のランクはブロンズだけど」

「え、駆け出し(ブロンズ)!? い、いくらなんでもそんな冗談、騙されませんってばー」

「いや、本当だぜ。冒険者資格こそ都で取ったらしいが、それきり更新しに行ってねーんだよこいつ。まあうち(フィーブル)はギルド支部もねーくらいのど田舎だから、適正無視なんてことも出来るんだがなぁ⋯⋯」

「な、なるほどぉ。じゃあ実際の実力はまた別ってことですか。ありがとうございますムーガルさん。でもどうしてランク更新されないんですか? 色々と不便じゃないです?」

「あー⋯⋯都は遠いからな。更新に行くのも面倒だし、フィーブルに居る内は特に不便もしてないし」

「ええ、もったいない。あんなとんでもない『唯法(スキル)』も使えるんだから、あっという間に高位冒険者にもなれそうなのに」

「は、はは⋯⋯それはどうも」

 

 コリンの何気ない言葉に、セトは苦笑に逃げた。

 コリンの言う『唯法(スキル)』とは、いわば個人に宿る特殊能力のことである。例えば『空を飛ぶ』や『火を操る』など、その能力の種類は個人によって異なる、まさに十人十色。

 しかし誰しもに発現する訳ではなく、定かではないが一説には『千人に一人』の割合とされている。

 そういう意味では魔法とはまた違った『選ばれし力』ともいえるのだが、コリンの指摘する唯法とは当然、セトの持つ『唯法』ではなかった。

 

「セトさんって不思議なひとですね。今や大冒険者時代ってぐらいに、都じゃ各地から冒険者達が集まって競い合ってるご時世ですのに」

「競争は別に好きじゃないんだよ。俺はのんびりやれればそれでいい。ここで孤児院のチビ共を相手にしてる方が性に合ってる」

「そう、ですか」

「ああ。それに⋯⋯、⋯⋯」

「セトさん?」

「いや、なんでも」

 

 不意に言葉を区切って、セトは酒を煽った。何かを飲み込むように、慌てて流し切ろうとするように。

 観察眼に優れるコリンは、セトの表情を翳らせたモノを朧気ながら感じ取る。

 雲に隠れた宵月に似たそれは、きっとなにかの"心残り"だった。

 

(⋯⋯よし)

 

 言おうか、言うまいか。セトが一瞬見せたものが、迷うコリンの最後のひと押しになったのだろう。

 コリンは決断した。そして即座に行動した。

 

「ん、んんっ⋯⋯あの、セトさん」

「なんだ?」

 

 コリン・トゥーリパイ、二十二歳。

 座右の銘は『当たって砕けろ』である。

 

「おほん。スゥ────セト・アルステラさん!

 ギルド『ドラセナ(真実の樹)』のリーダーのコリン・トゥーリパイが、貴方をウチにスカウトしますよ! コリンと一緒にもう一度、素敵な冒険しませんか?」

 

 

 

 

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