世界滅亡級レイドボスなドラゴンさんに意味深な厨二病かましたら、なんか唯一の理解者判定された件   作:歌うたい

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第十三話

「本日もお疲れさまです、セト坊。今日はなかなかに大変な一日だったようですねえ」

「⋯⋯ほんとにな。おかげでクタクタだよマザー」

 

 新調したばかりの甲斐あって、ランタンの蝋燭は部屋をよく照らしていた。

 お気に入りの安楽椅子に腰掛けるカタリナが、セトを労る。祝勝会の場には現れなかったが、セトはどこからか事の経緯を聞き及んでいたらしい。

 

「それはそれは。ならばすぐにでもベッドで横になればよろしい。きっとぐっすりと眠れますよ」

「それもそうなんだが、まだ少し眠気が遠いんだよ」

「あらまあ。スピカさんのおっぱいじゃご不満と? 色んな意味で眠れないと? 贅沢者ですねえ」

「最低かよこの聖職者。そうじゃなくてだな⋯⋯」

「ほほ。冗談ですよ。コリンがお土産に紅茶を持ってきてくれたのです、貴方も一杯飲んでらっしゃい」

「⋯⋯どうも」

 

 戸締まり確認を終えたセトがこの場を離れようとしないのは、聞いてほしい事があるからだろうと。

 口当たりの良い理由を用意しながら、珍しく甘えるセトの様子に、カタリナは嬉しげに微笑んだ。

 

「そういえばセト坊。私との約束、破りましたね?」

「げっ⋯⋯いやまあ、あれは緊急事態だったというか」

「ほほ。大貴族の相手ともなれば致し方ないこともあります。安心なさい、貴方が『唯技(スキル)の使用はダンジョンの中でだけ』という約束を、覚えていたかどうか確認しただけです」

「⋯⋯じゃあわざわざ言わなくたっていいだろ」

「単に罰を恐がるセト坊の顔を見たかっただけですが?」

「最低だよこの聖職者」

 

 見たかったものが見れたからだろう。御満悦そうに微笑むカタリナに、セトはティーカップの底を睨む。揺らめく赤茶の水面には、茶柱が立っていた。

 

「コリンに誘われたのでしょう?」

「⋯⋯マザーはなんでもお見通しか」

「貴方が分かりやすいのもありますねえ。それに、あの子はきっと貴方に目を付けるだろうと思ってましたから」

「だったら俺の考えだってお見通しだろ? 俺は今の生活を気に入ってるんだ」

「ええ。嬉しいことですね。けれど迷ってもいる。違うかしら?」

「⋯⋯」

 

 あっさりと言い当てられて、セトは眉をしかめた。この紅茶の水面みたいに、カタリナには見透かされる。いつもの事といえばいつもの事で、今日に限ってはそれがなんだか面白くない。セトは拗ねた子供のように、沈黙を重ねた。

 

「私にとって信仰とは、道具です」

「──!」

 

 皮切りに唱えたのは、かつてセトを救った言葉だった。 

 

「例えば、自分を見つめる鏡。夜の迷い子への月明かり。眠れぬ人への子守唄。処方箋代わりに手渡す、私のごときの精一杯。それくらいじゃないと恐いわ。だって思うんですもの。信仰そのものは『神様』じゃない。なにより重んずべき事じゃない。危険な薬はいつだって、形の無いものを『神様』に仕立ててしまうもの」

 

 改めて聞かされても、やはり同じ事を思う。修道女にあるまじき言葉。信心を育てるべき立場にありながら、信仰を咎めるなんて、それがどれだけ歪んでいることか。 

 

「それでも人は、信じたい何かを手放せない。いくつになっても、形のないものを信じてしまう。それは人の悪いところでもあり、良いところでもあるのです。なにかを信じるということは、きっと人を人たらしめる力にもなるのでしょうね」

 

 それでも。それは確かに救いになった。灰色の世界に色を取り戻してくれた、セトにだけ紡がれた聖句であった。

 

「セト坊。貴方は神を信じない。他人もあまり信じられない。自分自身さえ、信じることを恐がっている」

「⋯⋯ああ。そうだな」

「今の貴方は、あの頃よりずっと大きく、強くなりました。貴方はまだそう思えないかもしれませんが、私には分かります。だって見てきましたもの。ずっと」

 

 マザー・カタリナはセトの手を握る。皺が増えた両の掌。ただ温もりだけは変わらず、今もセトの心を包んでくれる。

 

「⋯⋯私の我が儘で一度、貴方の翼を畳んでしまった。酷く疲れた貴方を、この宿り木に住まわせた。けれど、もう充分休めたでしょう? だからもう一度、羽ばたいてらっしゃい。自分の翼を、信じてあげて」

「⋯⋯」

 

 心残りを拾いに行けと、修道女は背を押して。

 セトは、頷く代わりに目を閉じた。

 

「ああ、それと⋯⋯"また"悪いことをする時は、くれぐれも無理はしないように。約束ですよ」

「⋯⋯はいはい」

 

 最後に釘を刺す辺り、つくづく敵わない相手だと。

 呆れるように肩を竦めて、セトは紅茶を飲み干した。

 

 

 

「セト」

「なんだ」

「都とはどんな所なのだろうか。我は結構楽しみにしているぞ」

「⋯⋯俺はまだ、行くと決めた訳ではないが」

「いいや、そなたは決めておる。我には分かるぞ。なにせ我らは互いの──」

「──理解者だから、か?」

「うむ!」

「⋯⋯スピカ」

「なんだ?」

「⋯⋯おやすみ」

「⋯⋯ああ。おやすみ、我のセトよ」

 

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