世界滅亡級レイドボスなドラゴンさんに意味深な厨二病かましたら、なんか唯一の理解者判定された件   作:歌うたい

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第十四話

 

 フィーブル村の朝は早い、なんてこともなかった。

 早い者も居るには居るだろうが、長閑な村の長閑な住民達である。港町の漁師などと比べれば、ずっと遅いと言っていい。

 けれどその日に限っては別だった。

 彼らにとって、特別な朝だった。

 

「寂しくなるな」

「セトが都になぁ。遂にというか、やっとというか」

「しっかりやれよ。フィーブル魂忘れんなよ!」

「あとスピカちゃんは置いてっていいぞ」

「むしろ置いてけ。てめーだけモテやがってクソが!」

 

 寂寞を誤魔化すような男衆の怒号に、セトは苦笑した。

 フィーブル村の出入り口は、あの決闘の時以上に人々で溢れかえっている。老若男女の村人達が総出で、セトとスピカの旅立ちを見送りに来ていたのだ。

 

「スピカちゃん。短い間だったけど、とても楽しかったわ。向こうでも元気でいるのよ?」

「都は誘惑が多いって聞くからね! セトの首根っこしっかり押さえとくんだよ!」

「うむ、わかった! がっちりロックしておくぞ!」

「う、うう、今は、セトさんを預けておきます。でもきっとまたこの村に戻って来てくれるはずです。その時こそ勝負開始ですよ、スピカさん!」

「もう勝負ついてるから」

「名前公開もされてないんだから、勝負にすらなってないよ」

「涙拭けよ、黒髪三つ編み眼鏡っ子」

「ひぃん。ビジュアルだけ晒してくスタイル、これが格差⋯⋯」

 

 見送りではあるが、割と各々に好き勝手言っているだけでもある。約一名厳しい現実に打ちのめされているが、彼女の名誉の為にもそっとしておこう。

 

「思えば長い付き合いになったもんだな、セトの坊主。向こうでもしっかりやるんだぜ」

「今生の別れでもあるまいし」

「へへ、それっぽく言ってみただけだぜ。だが男が巣を出るんだ、でっかくなって帰って来なきゃ嘘だぜ。分かってるな?」

「⋯⋯ああ、俺なりにやってみるよ」

 

 突き出された拳を、拳でそっと重ねて返す。

 いかにも雄々しいドワーフの挨拶を終えて、また一人との別れを済ませる。するとスピカとセトの元へ、子供達がわっと群がった。

 

「セト兄、がんばってねー!」

「スピカちゃん、セトお兄ちゃんをおねがいね」

「おてつだい、いっぱいがんばるからっ。またかえってきてね、やくそくだよ」

「兄ちゃん、孤児院のことは俺に任せな。安心していいぜ、なんせ俺は大貴族に詫び入れさせた男だからな!」

「ヒューッ! 天下の大貴族に頭下げて貰った子供なんて、きっと他に居ないぜ! 流石はリドさん、ヒューゥッ!」

 

 しがみつく子共達の頭を一人一人撫でながら、セトが想起したのは数日前の光景だった。

 それは、調査を終えたらしきアルシュベイトが兵士たちを引き連れて孤児院へと訪れた日のことである。

 

『⋯⋯"貴殿"に用があるわけではない。ただ都へと帰る前のやり残しだ。あの子らに言わねばならぬことがある』

『あの時は部下が怖がらせてしまい、すまなかったな。みなしご達よ、どうか健やかに育たれよ』

 

 決闘以来の顔合わせとなり、敗北した相手だけあってセトに対しては顔をしかめていたが、その後は意外だった。アルシュベイトはあの日、二人の子供に自ら頭を下げたのだ。

 その光景に最も驚いたのは、他でもないセトだっただろう。大貴族ともなる地位もプライドも高い男が、平民の、それも子供相手に謝罪するなんて。

 夢でも見てるのかと頬をつねるセトを、カタリナがジャスティスで諌めたのも記憶に新しい。

 

『私は貴殿に負かされた。それは紛れもない事実。だが覚えておけ。いつかこの借りは返してみせるぞ、セト・アルステラ殿』

 

 もしかすれば、あの時。最初からアルシュベイトは、子供達二人の無礼を許すつもりだったのではないか。

 去り際。敗北の悔しさと再戦の意志、そして僅かな敬意を示した大貴族の背を見た時、セトは漠然とそう思った。

 

「ああ、リド、ヒューイット。それに皆。孤児院を頼んだぞ。特にマザーは最近腰が悪いらしいから、ちゃんと支えてあげるように。じゃないとぽっくり逝きかね「ジャスティス」ぶぽあっ!?」

「おお、マザー。見事な正拳突きだな」

「ほほ。なんの、修道女のちょっとした嗜みですよ」

「ふむ、神の下僕もやるものだな。少しは見直してやろう」

「それはそれは、ありがとうございますねえ」

 

 たとえ朝早くだろうとしんみりした空気だろうと、踏み外せば正義の鉄槌は下るもの。教育的指導、修道女の愛の賜物である。

 ひりひりと腫れた頬を抑えながら、セトはよろよろと立ち上がる。すると、修道女はセトの頭をそっと撫でた。

 

「疲れた時には、帰ってらっしゃい。私は此処に居ますから。けれど、簡単には疲れてはいけませんよ?」

「⋯⋯分かってる。やるだけやってみるよ、マザー」

「結構。スピカさん、なかなか素直になれない意地っ張りですが、どうか力になってあげてくださいね?」

「うむ、言われるまでもない。我が付いていれば百人、千人、いや万人力だぞ!」

「スピカさんの言うことです。頼もしくてなにより」

 

 輪郭を確かめるように、髪から頬へと指が滑る。

 どこか気恥ずかしそうにセトが身をよじれば、なにを恥ずかしがることがありますかと微笑んだ。

 名前も違う。顔も似てない。年だって大きく離れてる。髪と目の色も違えば、血の繋がりなんてない。

 それでも向かい合う二人の姿は、母と子であった。

 

「行ってらっしゃい」

「行ってきます」

 

 車輪が地を削り、砂煙を上げて回り出す。

 遠退いていく一つの馬車。ついに堪えられなくなって、声をあげて追いかける子供達を、カタリナは止めなかった。

 自由に生き、自由に駆ける。それでいい。

 愛しき子らの、いつか帰るところで在りたい。

 心からそう願うならば、私は見届けるだけで良い。

 

「──どうか。愛しき子らの歩む先に、どうか。加護があらんことを」

 

 蒼穹に、修道女の言葉が溶けていく。

 旅立ちの空に、雲は一つも居なかった。

 

 

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