世界滅亡級レイドボスなドラゴンさんに意味深な厨二病かましたら、なんか唯一の理解者判定された件   作:歌うたい

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第十六話

「セトよ。まだか? まだなのか?」

「もう間もなくだ。闇の化身ともあろうものが、あまりじたばたとするな。みっともないぞ」

「しかし目的の地はフィーブルの何倍も広く、何倍も栄え、人間もゴミのように居るのだろう? 気になるではないか!」

 

 ガタゴト揺れる馬車の中。そわりそわりと落ち着かないスピカに、セトは(たしな)めるように溜め息を吐いた。

 都へと向かう道中、黒竜バレが起こらぬよう都について色々と説明したのがまずかったらしい。スピカの好奇心に火をつけたのだ。まだかなまだかなと、日が経つにつれて期待を募らせるスピカに、セトは失敗を悟ったのだった。

 そして、満を持して到着した都にて。案の定、スピカは大興奮であった。

 

「うむうむうむ、まーまー広いではないか。仕方ない、この我が認めてやろう。合格だぞ、ラタトスク王国の王都とやら!」

「⋯⋯なにが仕方ないだよ。めちゃくちゃ興奮してるじゃないか。ああ、すみません。俺の連れです、はい、すぐ降りるように言うんで⋯⋯」

 

 国門を潜った先で、スピカはうんとはしゃいだ。

 エルディエンド連邦西端の国家、ラタトスク王国。その都には人間や亜人種が入り乱れた、多種多様で溢れていた。

 つまりは人前である。厨二モードから切り替えているセトと違い、スピカは人目を意に介さない。

 露天の荷の山の上に昇り、きゃっきゃとはしゃいでる始末。正体が黒竜である美女は、早くも目立ちまくりであった。

 プンスコと怒る露天の主に頭を下げながら、セトはキリキリと痛む胃を抑えるのであった。

 

 

「セトさーん! スピカさん! よくぞお越しくださいましたぁ! コリンは一日千秋の思いでお待ちしておりましたよぉ!」

 

 商業地区の七番通り、真っ直ぐ行って右右左。予め教えてもらっていた場所に向かえば、目立つ探偵姿のコリンがパタバタと手を振っていた。

 出迎えということだろう。全身で喜びを表す姿は、人懐っこい犬そのものだった。

 

「久しぶりだなコリン。ここがお前の?」

「はい! コリンの『ドラセナ』のギルドハウスです!」

「ふむ、思ってたより小さいな。我としてはこの三倍は欲しいところだ」

「いやぁまだランク『Ⅱ』のギルドなもので。三倍ともなれば、せめて『Ⅳ』ぐらいまで上がら無くちゃですねぇ⋯⋯」

「ならば我とセトに任せておくがいい。あっという間にランクとやらを十、いや百。いやいや軽ーく千までドカンと上げてみせよう!」

「おおおー! やる気満々ですねいいですねえ! 頼りがいがあって何よりです! いよっ、グリフィンいちの冒険者ー!」

「ふはは! よいではないか、もっと我を褒めよコリン! ふははは!」

「ギルドランクの最高は『Ⅴ』までだけどな⋯⋯」

 

 まるで社長と太鼓持ちの掛け合いだった。フィーブルで滞在していた数日でこうなのだから、二人の相性は良いのだろう。しかし調子ついたら止まらないタッグなので、なにをしでかすかも分からない。常に目の届くとこに置いておかねばと、保育士染みたマインドで二人を見つめるセトであった。

 

「さてさて、それじゃ中へどうぞ! 案内と、それから他のギルドメンバーに紹介しますので! 皆さんも、お二人のことを楽しみに待ってたんですから!⋯⋯⋯⋯あっと、大事なこと忘れてたっ」

 

 善は急げとばかりにハウス内へと招くコリン。だが突如ピタッと止まると、後ろ手で入り口の扉を開きながら、コリンは二人に笑いかけた。

 

「ようこそ、ギルド『ドラセナ(真実の樹)』へ! これからよろしくお願いしますね、ギルドメンバーさんっ」

 

 花咲くような笑顔を浮かべて、コリンは二人をギルドへと迎えたのだった。

 

 

 ドラセナのギルドハウスは、思ったよりも簡素な内装になっていた。シンプルな家具に観葉植物と、言うなればモデルハウスに近い。コリンの事を考えればファンシーな内装の可能性もあっただけに、セトは安堵した。

 廊下を抜けて、着いた先はリビングフロア。コリンに続いて入室すれば、計八つもの目線が一斉に向けられた。

 

「みなさーん! お話してた新メンバーが到着しましたよー!」

「へえ、そいつらがボスの言ってたニューカマーか。なかなか威勢が良さそうじゃねーの。なあ、ユミールもそう思うだろう? イエス・オア・ノウで答えな」

「⋯⋯じゃあ、イエスで」

「ナイスな回答だ」

 

 真っ先に声を挙げたのは、西部劇風の伊達男だった。くすんだ金髪にカウボーイハット。僅かに生えた顎髭を投げ擦りながら、男は二人にウインクを投げかけた。

 そんな軽い調子の男に相槌を求められたのは、赤縁眼鏡をかけたグレーのショートカットの美少女だった。回答こそ前向きだが、どことなく興味なさげである。

 

「あちらの帽子を被った男の方がオア・サンドマンさんで、眼鏡をかけている方がユミール・リバーちゃんです! 二人はタッグで行動する事が多いんですが、どちらもお強くってウチの稼ぎ頭なんですよ!」

「ご紹介に預かったオア・サンドマンだ。よろしくお二人さん。分からない事があったら遠慮なく先輩に聞いたっていいんだぜ」

「⋯⋯ユミール。よろしく」

 

 多弁なオアと寡黙なユミール。実に相対的な二人であるが、性格の凹凸は意外とタッグとして噛み合う事もある。オアの差し出した手を握り返しながら、セトは「出来るな」と直感的に思った。

 

「ではではお次は、こちらのアクラン・ドゥドゥさんです! 」

「⋯⋯拙僧はアクランと申す。宜しく頼もう」

 

 続けて紹介されたのは、筋骨隆々の巨体を持つ亜人だった。鋼の様な筋肉の身体に、鋭い爪に伸びた猫科の尻尾。法衣の格好と首の数珠、スキンヘッドからして僧を連想させる所だが、真っ黒なグラサンと威圧感はむしろマフィアを思わせた。

 

「むう!」

「のわっ!?」

 

 がっしりとセトと握手を交わすアクラン。しかし続けてスピカが手を出そうとすると、アクランはカッと目を見開いて大きく飛び退いた。

 

「⋯⋯」

「⋯⋯?」

 

 飛び退いた後も、アクランはスピカをジッと見据えながら構えを作った。まるで獅子が獲物を狩ろうとする直前のような迫力。しかしその頬には一筋の汗が流れている。凄まじいアクランの警戒具合だった。

 セトは息を呑んだ。ひょっとしてスピカの持つ圧倒的力を肌で感じ取ったのだろうか。歴戦の猛者を思わせる風貌だけに、有り得ない事ではない。構えもまるで隙がなく、つい「こいつ、出来る⋯⋯!」とアクランを強者と認定せざるを得ないセトだったのだが。

 

「あ、ごめんなさい。実はアクランさん、女性があんまり得意じゃないみたいなんですよ。亜人の女性が特に」

「「えっ?」」

「ご覧の通りさ。ちっと触れ合うだけで竦み上がっちまうんだよ。もったいねえもったいねえ。なあユミール」

「⋯⋯正直、リアクションに傷付く」

「す、すすす、すまぬ。未熟な拙僧をどうか許されよ! だが出来ればおなごは拙僧に近付かないでいただきたい! たのむ!」

 

 まさかの女性恐怖症だった。誰もが道を譲りそうな厳つい風貌の大男が、スピカを前にガクガクと足を震わせているのだ。

 あの警戒具合はつまり、単に異性に触れ合う事を恐れただけである。出来るなとか思った自分が恥ずかしかった。

 

「むう、そんな強そうな見た目をしておいて、なんと軟弱な。なぜ苦手なのかはともかく、もっと堂々とせぬか!」

「ひいい!」

「おわっ?!」

「あっ、こらー! 我のセトを盾にしようなどとは無礼者! 離れろ、離れぬかー!」

「許されよ! 許されよ! 後生だ頼む!」

 

 挙げ句、セトを盾にスピカから逃れようとする始末である。セトを挟んでぐるりぐるりと追いかけっこ。児戯めいた真似だが二人の顔はガチである。ビジュアル的にもカオス過ぎた。

 結局その一部始終は、羞恥心から復帰したセトが一喝するまで続いたのだった。

 

「ではでは、いよいよ次が最後のギルメン(ギルドメンバー)になります!」

 

 とんだ珍事を挟んだものの、紹介のターンはまだ終わりではない。これが最後の紹介になるからだろうか、コリンは一層テンションを漲らせ、ソプラノを張った。

 

「我がギルメンのトリを飾りますのはぁ、こちらの「コリン。自己紹介なら自分でやるわ」えっ⋯⋯うう、はい。どぞ⋯⋯」

 

 が、紹介は当人によってあっさり遮られた。しょんぼりと肩を落とすコリンの姿は哀愁を誘う。その人物は席を立つと、ツカツカと二人の前へと歩み寄った。

 だが視線はずっとセトに固定されたまま。

 そう。彼女は二人が入室してからずっと、セトだけを見つめていた。

 

「さて」

 

 咳払い代わりの一言にさえ、凛とした響きがあった。

 一挙手一動足に合わせて輝金色のツインテールが揺れる。ささやかな所作にも気品があった。

 猫科を思わせるきりりとした目。青い水面の様な瞳に、困惑したセトの顔が映る。桜色に色付いた小さな唇が、ゆっくりと開かれた。

 

「アタシはイシュリナ。イシュリナ・フライ・ギルジーナス。セト・アルステラ、だっけ。アンタがアタシの兄様に勝った冒険者ね」

 

 

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