世界滅亡級レイドボスなドラゴンさんに意味深な厨二病かましたら、なんか唯一の理解者判定された件   作:歌うたい

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第十七話

「兄様って、まさか⋯⋯!」

「そ。つい最近、とある田舎の冒険者に負けたって噂のアルシュベイトがアタシの兄。まさかはこっちの台詞でもあるわね。兄様を倒したって噂の冒険者が、その妹の居るギルドに来るなんて。とんだ巡り合わせよね?」

「⋯⋯っ」

 

 力強い(まなじり)だった。イシュリナ。そう名乗った少女の身分を知って、セトの表情が歪んだ。

 アルシュベイトの妹。つまりは大貴族ギルジーナスであり、セト・アルステラに土をつけられたばかりの者である。とんだ巡り合わせとはまさに、としか言いようがない。

 場がピリピリとした空気に包まれた。緊迫を生み出しているのは他でもないイシュリナだ。当然である。相対してるセトはいわば、家の敵なのだから。

 

(なんでこのギルドに大貴族なんてのが居るのか知らないが⋯⋯俺を悪く思うには充分な理由があるって事だよな)

 

 つくづく良くない星の下に生まれていると、セトは最近の不幸具合に頭を抱えたかった。黒竜との出会いから始まり、大貴族と決闘して、意を決して加入したギルドでその妹に睨まれるとは。

 思えばまだ中堅ともいえないギルドのリーダーが、何故大貴族の調査チームに加わっているのかが不思議だったが、まさかそういう繋がりがあったとは。納得と同時にずしりと因果が肩にのしかかった。

 一点集中で災厄が降りかかってるとしか思えない。つい恨みがましく隣を見れば、スピカはどうしたと首を傾げるだけである。

 都に来た途端にこれである。つまりはこれから頻繁に、この少女から恨みをぶつけられる羽目になるのだと、暗い予想を浮かべるセトだったが。

 

「あ! か、勘違いしないでよね! 別に兄様に勝ったアンタに因縁つけようとか全然思ってないから!」

「え?」

「普通に興味があるってだけだからほんと! ブロンズなのに兄様に勝つってどういうことって気になってるだけだし! 兄様あれでもめちゃくちゃ強いから、それに勝ったなんてどんなやつなんだろって! てっきりアクラン並に厳ついのかなぁって思ってたら全然普通の男の人でアレ!?ってなっただけ! それでちょっと緊張して固くなっちゃったけど、敵意とかはないから! そこ、勘違いしないでよね!」

「アッハイ」

 

 違った。全然違った。誤解を解こうとまくし立てるイシュリナからは、全然憎しみとかなかった。普通に興味持たれてるだけだった。

 ピリピリしてるのは単に緊張だったらしい。途端に弛緩した空気に、セトは目を点にせざるを得ない。

 というかなんだこの少女は。ツンデレのようでツンデレ出来てない。ジャンルとしては新種過ぎて、セトは珍獣を前にしている気持ちに陥った。

 

「待つのだ小娘。セトは普通などではない。スペシャルだ。なにせこの我の同胞にして唯一の──」

「あ、アンタがスピカね。兄様が迷惑かけたって聞いてるわ。ごめんなさい。妹として謝らせて貰うわ」

「む? う、うむ。別に構わんぞ。我は器の大きい生き物だからな!」

「コリンからは結構変わってる面白い人って聞いてたわ。確かにそうかも。にしてもすっごい美人ね⋯⋯兄様が粉掛けたのも納得だわ」

「⋯⋯貴様。我を褒めているのか?」

「え? そうだけど⋯⋯か、勘違いしないでよね! さっき言った通りセトに悪意なんてないし、アンタだって当然悪く思ってることなんてないから! ちょっと胸おっきすぎないって思ったぐらいだし、むしろ肌綺麗過ぎて羨ましいくらいだからぁ!」

「セトー!! こやつ、良い奴だぞ! 我をこんなにも褒めてくれる! 良いやつだぞ!」

「ああ、そう⋯⋯」

 

 向けられた賛辞に気を良くしたのか、スピカはセトにくっつきながら喜びを大にした。

 アルシュベイトにだって褒められてただろうに、このリアクションの差はなんだろう。やっぱ同性に褒められると違うのか。いや待てこいつそもそもドラゴンだったわ。

 しかし、良い奴だという評価には⋯⋯まあ確かにと頷くセトである。ツンデレめいた言い回しは気になるが、内容は等身大な女の子の然である。スピカにも当人に代わって謝る辺り、善性の人なのだろう。油断させる為の演技にも見えない。

 

「はは、面食らったろ? イシュリナはおたくらか来るまでうちじゃ一番新参だったんだが、そんときもユミールと似たような事してたぜ。緊張しいなせいで良く誤解されやすいんだとよ」

「話してみると、わりと素直な人。オアとは大違い」

「おいおい失礼だな、俺ほど正直な冒険者はいねーぜ」

「正直なのは欲望にだけ」

(なるほど、緊張すると目付きが悪くなったりピリピリしたりするのか。実際俺も誤解したし⋯⋯まあ、恨まれてなくて良かった)

 

 ある意味で梯子を外されたセトだったが、妙な確執があるよりは全然良い。今後のギルドライフに立ち込めていた暗雲は晴れてくれたのだ。

 見渡す限り個性的な面々ばかりではあるが、なあなんとかなるだろう。ひとまずは安堵し、胸を撫で下ろすセトであった。

 

 

「ランクアップ更新?」

「ああ。せっかくラタトスクに戻ってきた訳だしな。流石に更新しといた方が良いと思ってな」

「そういえばセトさんは元々ラタトスクに居た時期があるって話でしたね! ですが到着したばかりですよ、疲れてません?」

「そんなにやわじゃない。ギルドメンバーのランクが上がる方が、ギルドランクも上がりやすいだろ? ついでにスピカの冒険者資格も申請しに行く予定だからな。面倒な事はさっさと済ませとくさ」

「ふ。いよいよ我のデビューか。ククク、腕が鳴るぞ。冒険者界とやらに黒き革命をもたらしてやろう!」

「⋯⋯済ませられない面倒があるってのも辛いな」

「キュル?」

「ううん、ランクはそんなに気にされなくても大丈夫なんですけど⋯⋯ギルメンのやる気を削ぐリーダーなんていませんよね! 分かりました、気をつけて行ってらっしゃいませー!」

 

 心が楽になったからだろうか。セトは珍しく行動的だった。苦労は先に片付けておきたいというマインドでもある。苦労とは主にわくわくしているスピカの事だが。

 しかしコリンに見送られる二人の前に、立ち塞がる者が現れた。

 

「つまりユニオンに行くって事ね。いいわ、アタシが案内してあげる!」

「イシュリナが? いや、一応場所とか知ってるんだが⋯⋯」

「勘違いするんじゃないわよ! せっかく出来た後輩に先輩っぽく振る舞いたいだけだから! ほんとにそれだけだから!」

「⋯⋯アッハイ(言葉そのままなんだろうなぁ)」

 

 イシュリナであった。どうやら先輩風を吹かせたいようだ。なにも勘違い出来ない純粋な欲求を掲げられては、何も言い返す言葉がなかった。

 

「うむ。やはり良い奴だな。闇味薄めだが、その献身は認めよう。イシュリナよ、そのユニオンとやらに案内せよ」

「任せなさい、スピカ。あとアタシのことは先輩って呼んでもいいからね!」

「わかったぞセンパイ!」

 

 純粋な親切ではないのだが、親切な事は変わらない。打算といっても可愛いらしいものである。ならば任せてみようかと、妙に微笑ましい心持ちになりながら、先行く二人の後をゆっくり追うセトだった。

 

 

 

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