世界滅亡級レイドボスなドラゴンさんに意味深な厨二病かましたら、なんか唯一の理解者判定された件   作:歌うたい

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第十八話

「着いたわね。ここがギルドユニオンよ」

「おお⋯⋯!」

 

 目的地の前に立ち、スピカは感嘆の声をあげた。

 ギルドユニオン。都の中心街、さらにそのど真ん中に構えた建物のスケールは、スピカの目を楽しませるほどに立派だった。

 

「結構外観変わってるなぁ。っていうか、俺の記憶にあるユニオンよりもめちゃくちゃ広くなってる気がするんだが」

「今や冒険者の街ってぐらい冒険業が盛んだもの。その玄関が見窄(みすぼ)らしいままはどうかって話で、何年か前に改築したのよ」

 

 それでか、とセトは頷けばイシュリナはふふんと鼻を鳴らした。早速先輩ぶれて嬉しいのだろう。生暖かい視線を向けつつ、セトはロビーへと足を踏み入れる。

 ユニオンのロビーフロアは、沢山の冒険者達で溢れていた。人種多様な人波を掻き分けながら進めば、受付へと辿り着いた。

 

「まずはスピカの登録からだったわね。右から二番目のあそこよ」

「いらっしゃいませ、冒険者としての登録ですね」

「そうだ。受付嬢とやら、我を冒険者にしてほしい」

「あはは、分かりました。では簡単な面談と説明を行いますね。奥の面談室へどうぞ」

「うむ! では行ってくるぞ!」

 

 冒険者登録の受付は幸い空いていたらしく、速やかに面談が行われるようである。意気揚々と手を挙げるスピカに頷きながら、セトはあえて念押しをした。

 

「⋯⋯スピカ、"分かっているな"?」

「! ふふ、"分かっている"とも、我が同胞」

「?⋯⋯分かってるって、なにが?」

「ん、いや、ちゃんと面談して来いよって事だ」

「ふうん」

 

 妙に含みのあるやり取りだった。引っかかるものがあったイシュリナが問うも、セトはなんでもない風を装う。しかしその顔には、意味深な笑顔がひっそりと浮かんでいた。

 それから十五分という早さで、スピカは戻って来た。

 

「セト、イシュリナ! 我も冒険者となったぞ」

「そ。おめでと」

「なにも問題はなかったか?」

「え? はい、そうですね。ちょっと変わった方ですけど、職種内容やユニオン法についても素直に聞いてくれましたし、大丈夫ですよ」

「ふふん」

 

 受付嬢の言葉に、スピカは得意げに胸を張った。

 そう、至って問題なく登録を完了したのである。

 あのトラブルメーカー大災厄、黒竜グラムスピカが上手いことやったのである。多少変なことは言ったかもしれないが、概ね問題無しとされたのである。

 

(フッ。どうせスピカがやらかして一悶着が起きて俺の胃にダメージ。そんな見え透いた展開とオチ⋯⋯読めないはずがないんだよなぁ!)

 

 スピカがセトの目の届かない所で、なにも問題を起こさない。普段のスピカを知っていれば、これはかなり意外な展開であっただろう。むしろ異常とさえ言っていいかもしれない。

 だがこれは全て、セトの入れ知恵による賜物であった。

 

(残念ながら対策済みだぜ。ラタトスクに来るまでの馬車の中で、スピカにはしっっっかり言い聞かせたからな!)

 

 

 

『スピカよ。闇に心を預ける者は、自分の本質を晒さない。この言葉を覚えているか?』

『!⋯⋯急な闇味ではないか、不意打ちはキュンだぞ。無論覚えているとも。そなたの主義であり流儀であろう?』

『ああ。そして本質とは即ち、我が身が持つ力の事も指す。分かるかスピカ。故に俺は自らの力量を早々に見せない。見せびらかす事もしない。必要でなければな』

『⋯⋯ふむ。強者は強者として泰然と構えるもの、というのは我の主義であるが⋯⋯「欺く為」「本質を掴ませぬ為」というのはなんというか、闇味があって良いではないか!』

『フ。やはりお前にも分かるか。その通り、俺達は闇にあっても獣ではない。人は分からないものを恐れるのだ。その未知こそ闇の怖さでもあり、強さでもある』

『秘めることの強さか⋯⋯! やはりそなたの闇論は素晴らしい。セトよ、我もその強さを得たいぞ!』

『──その言葉が聞きたかった! 良いだろう、スピカ。ならば俺が伝授してやろう』

『本当か!?』

『本当だとも。スピカ、お前はラタトスクについた後で冒険者登録を行う手筈になっているな。ならその際、お前はユニオンの者と簡単な面談を行うことになる』

『面談?』

『そうだ。そこでお前は、自らの強靭さや強大さを包み隠し、駆け出し冒険者として振る舞ってもらう。安心しろ、面談の受け答えは俺が想定してやる』

『駆け出し⋯⋯つまり、我に弱者を装えと⋯⋯?』

『出来るさ、お前になら。他でもない俺の同胞なら、ギルドユニオン如き欺けない訳がない。そうだろう?』

『⋯⋯! フ、フフ。勿論だとも。他でもないそなたの期待、必ずや応えて見せるとも! いざ、闇味!』

『応とも、闇味!』

 

『(なんか闇がどうとか、世を欺くとか、なに言ってだこいつら⋯⋯変なアベック乗せちまっただなあ)』

 

 

 最初からトラブルが予見されているのならば、そうならないように指導すれば良い。

 自らの安全と安穏の為にも事前防止に余念がなかったセトは、以上のようなやり取りをしていたのである。馬車の御者から温い視線を向けられる辛さを我慢してでも、この釘は刺しておかねばならなかった。

 その成果が出たのだ。セトの努力の勝利であった。

 

「セト。我はやったぞ」

「ああ。よくやった、スピカ」

「⋯⋯大袈裟ね。冒険者登録くらい簡単なことでしょうに。これは先輩のアタシがしっかりしなきゃあね」

 

 喜びをわかち合う二人であったが、事情を知らないイシュリナには分かるまい。セトの喜びは特に大きかった。仕込みはしたものの、スピカのドラゴンIQはいかんせん頼りない。スピカの帰還を待つ間も不安で仕方なかったのだ。

 

「よし。それじゃあ後は俺のランク更新だけだな」

「そうね。丁度そっちも空いてきたみたいだし、ちゃちゃっと済ませましょうか」

 

 ランク更新の受付へと向かうセトの足取りは軽い。

 懸念が片付いた為か、彼の心は晴れやかだった。鼻歌すら歌い出しそうなくらいに機嫌が良かった。

 しかし、順調な時にこそ落とし穴へとはまってしまうもの。『油断大敵』『勝って兜の緒を締めよ』『まだだ、まだ笑うな』という言葉があるように、緩んだ隙間にこそトラブルの刃は届くのだ。

 

「ランク更新の申請を頼みたい」

「はい。セト・アルステラ様ですね。現在のランクはブロンズとのこと。ランク上昇の検討でしょうか?」

「ああ」

「では、ユニオン指定ダンジョンの攻略履歴をご提示ください。ブロンズの」

「ん? ああ、そうか⋯⋯すまない、最近こっちに戻ってきたばかりで近辺ダンジョンの履歴はないんだ。代わりに推定アイテム納品で良かったな。ほら、これ⋯⋯」

「え? アイテム納品?」

 

 品を素材袋から取り出すセトだったが、受付嬢は受け取ることはなく困ったように首を傾げるのみだった。

 

「あの、すいません。推定アイテム納品でのランクアップ認定は、数年前のユニオン法改訂によって出来なくなったんですよ」

「え。そうだったのか?」

「ええ。攻略出来ないからと他冒険者から高ランクドロップを買い取り、それを納品してランク上昇という不正が横行してまして。ユニオン改築に伴い、ユニオン法も色々と見直されたんですよ」

「な、なるほど⋯⋯すまない、把握しておくべきだった」

「いえいえ。ところでこちらは、オークの牙ですか? オークはシルバー上層級のモンスターですし、討伐出来るなら指定ダンジョンも問題なさそうですね。がんばってクリアしてきてください」

「ああ、ありがとう」

 

 セトのランクアップは、知らぬ間に変更されたシステムに阻まれた。ネットなんて便利なものがない世界である。田舎に居ては都会のシステム状況を知る術も少ない。

 しかし当初の予定とは随分な遠回りを選ばざるを得ないことになって焦りはしたが、セトに不満はなかった。

 アイテム納品による不正ランクアップはセトも知っていたことなので、改訂された内容には賛同も異を唱えるつもりはない。これも仕方ないこととオークの牙を素材袋へ回収した時、脇からひょこっとスピカが顔を出した。

 

「む? セトよ、何故そんなしょっぱいアイテムなのだ。そなたはもっといいドロップアイテムを沢山持っているはずであろう? たとえば⋯⋯ほれ、ゴソゴソっとな」

「! ちょ、スピカっ⋯⋯!」

 

 どうもセトがオークの牙を提示したのがお気に召さなかったのか、スピカは素材袋に手を突っ込んだ。そしてお目当てのものでも見つけたのか、パッと表情を明るくしながら一つの素材を袋から取り出した。

 

「うむ、これとか良いではないか。我とそなたにも馴染みがある代物だぞ」

「お、おい馬鹿っ」

「んん?⋯⋯⋯⋯えっ? あの。これ⋯⋯ブルーゴーレムの核ですよね? シルバーどころかゴールド下層部、プラチナ上層部の出現モンスターじゃないですか。えっ。まさかこれ倒したんですか? ブロンズの冒険者様が?!」

 

 よほどびっくりしたのか、つい声を張る受付嬢。それが聞こえたのか、周囲の冒険者達がにわかにざわめき立った。

 「ブロンズがプラチナモンスターを?」「そんなの聞いたことない」「あいつそんなに強いのか?」「馬鹿言え、そんな訳ないだろ」「心優しい高ランク冒険者に恵んでもらったとかそういうオチでしょ」「でも本当だったら⋯⋯」

 明らかな悪目立ちであった。途端に口々にささやかれる言葉に、セトは真っ青になった。

 

「え、あ⋯⋯ははは、いやいやまさか、そんな訳⋯⋯」

「ふふん。あの程度のつちくれ、セトが勝てぬはずもない。セトにかかれば指先ひとつで──「はい静かにぃ!」のわっぷ」

 

 なんとか誤魔化さなければと手を振るセトの努力を、空気を読まないドラゴンさんが踏み潰す。これはいかんとその口を塞ぎ、セトは隅へとスピカを引き摺った。

 そのままスピカとヒソヒソ話し始める。

 

「おいこらスピカ、なにしてくれてんだお前はっ。びっくりさせちゃってんじゃないか」

「ぷはっ。だ、だって、オークもブルーゴーレムも似たようなものではないか⋯⋯それにせっかくなら我らの縁たる品の方がいいかなって思っただけであるしい?」

「そりゃお前にとってはゴーレムもオークも変わらんかもしれないがなっ。実際全然天と地だよ! どうすんだおい、めちゃくちゃ目立ってるじゃないかっ」

「キュルル、この程度で騒ぐなぞ軟弱な者ばかりよ。世を欺くというのはかくも難しい⋯⋯うむ。我、反省します」

 

 本当に反省してんのかこいつ。怒りにこめかみをひくつかせるセトである。一応不味いとは思っているのだろう。指先同士をくっつき合わせながら目を逸らすスピカは、気まずそうに縮こまっていた。

 

「と、とにかくですね。アイテム納品でのランクアップは不可となっておりますので、指定されたダンジョンの攻略を宜しくお願い致します。はい、こちらがマップとなります」

「ど、どうも⋯⋯」

 

 怪訝そうな表情のままではあったが、受付嬢は場の妙な空気を流してくれたらしい。指定ダンジョンの場所が記載されているであろうマップを受け取りながら、セトは気まずげに頭を下げた。

 

「⋯⋯まあ、ただのブロンズな訳ないとは思ってたけどね。でも、ドラセナじゃアタシが先輩だからっ。そこは間違えないように!」

「⋯⋯ああ」

「セトよ。それでどうするのだ? 早速ダンジョンとやらに行くのか?」

「そうだな。ブロンズの昇格ダンジョンならすぐ終わりそうだし、行くか⋯⋯ちょっとこのモヤモヤを、ダンジョンにぶつけたくもあるし」

「⋯⋯キュル」

 

 深くは聞かないイシュリナの配慮が、少し沁みる。セトもこれ以上スピカを責めるつもりはないのだろうが、やはり溜まるものは溜まる。そこでストレス発散と称して、彼らは昇格指定のダンジョンへとその足で向かうことにするのだった。

 

 

 

 

 

 

「⋯⋯おい」

「うっす姉御。あのカモですね?」

「そうさ。ブロンズの癖にブルーゴーレムの核をもってやがるらしいよ。どうやって手に入れたのかは知らないが、どうでもいいことさ。大事なのは、それがたかぁく売れるってことだ」

「へへへ、まったくで。じゃあ姉御⋯⋯」

「ああ。後をつけるよ!」

 

 

 

 

 

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