世界滅亡級レイドボスなドラゴンさんに意味深な厨二病かましたら、なんか唯一の理解者判定された件   作:歌うたい

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第十九話

 

 マップに記された指定ダンジョンは三つであった。どれもブロンズ上位に相当するダンジョンであり、昇格試験としては妥当なところだろう。三つの内一つをクリアすれば達成ということなので、セト達は一番近場の指定ダンジョンへと向かう事にした。

 そして到着し、早速ダンジョンへと潜っているのだが⋯⋯

 

「たぁー!」

【ギュピェェェェ!】

 

 そこには元気にモンスターを狩って回るイシュリナの姿があった。

 

「いいこと、新入り達! 森林系ダンジョンのモンスターは大体面倒な状態異常を持ってるから、低級であってもなるべく攻撃は受けずに避けるのよ! あと蜂とか蟻とかの群れモンスターは逃がすと増援呼ぶから、なるべくまとめて倒すこと!」

「ふむふむ。受けずに避ける。群れはまとめて葬れ。ふむふむ」

「⋯⋯」

 

 実に適切なアドバイスと同時に殲滅されていくモンスター達の断末魔に、セトは実に微妙な顔をしていた。

 蹂躙である。柄頭同士を赤いマフラーで繋げた双頭ショーテル(湾曲刀)の二刀流。大貴族とは思えないマイナーチョイスの武器を振るいながら、イシュリナはモンスターを蹴散らしていた。

 そう。つまりぜーんぶイシュリナが倒してしまっているのである。黄金の台風が通り過ぎた後には、モンスターの一匹たりとて残っていない。

 

(こういう時って普通、新入りのお手並み拝見って流れになるもんなんだが⋯⋯)

 

 ぶっちゃけ張り切り過ぎであった。スピカはしきりに頷いたりメモを取ったりしているが、セトは完全に手持ち無沙汰である。だが苦言を呈する訳にもいかない。

 そもこの現状はダンジョンの序盤、まずは手本を見せようとモンスターと戦闘を行ったイシュリナへ「基本一撃か。お見事だな、流石は先輩だ」とセトが褒めたのが発端である。「!! ま、ま、まぁ先輩としてこれくらいはね? さすがにね?」と嬉しさに口をもにょらせ、イシュリナは気を良くした。そして再びモンスターを倒しては振り向いて「流石先輩」の一言を欲しがる。以下、その繰り返しであった。気付けばもう少しで最深部、というところまで来てしまっていた。

 

「ふう⋯⋯ま、ざっとこんなところね」

「なるほど。なかなかやるではないか、イシュリナよ」

「! ま、まあ? 先輩だし? さすがにね? これくらい当然よね?⋯⋯あ、勘違いしないでよね! アンタ達でもどうにかなるだろうけど、ラタトスクに来たばっかりで疲れてるかなーと思ったし、ついでに頼れる先輩って印象つけたいなーってだけだから!」

「アッハイ。ソウデショウトモ。サスガセンパイ」

「そ、そうよね!流石先輩よね! ね!」

 

 実際セト達からすれば多少疲れていようがこの程度の相手など、苦にもならない。少なくともイシュリナは察せられるはずなのだが、それでも先輩アピをしたくてしょうがないらしい。

 

(鬱憤晴らしのつもりだったんだけど、まあ、こんだけ張り切ってる所に水を差すのもなぁ)

 

 制止したくとも、褒められる度にえへへと可憐な笑顔を向けられてはセトも言葉が出ない。可愛いは正義。正義(ジャスティス)の前には為す術はない。困ったように後頭部を掻きながら、セトはぐんぐんと進む小さな背中に黙ってついていく他なかった。

 そして、そんな一行を物陰から見つめる、怪しい影が二つあった。

 

「ふん、戦闘に参加せずに棒立ちで傍観か。やっぱりあたいが睨んだ通りだね。あの男はただのブロンズだろうさ」

「ならあのゴーレムの核は盗んだか恵んでもらったか、ってとこでしょうねい」

「ああ。ブロンズ如きがプラチナ級素材を見せびらかしたのが運の尽きさ。自惚れたバカにはきっついお仕置きをしてあげなきゃねえ」

 

 良からぬ企みを囁き合うのは、軽装に身を包んだ男女の冒険者であった。彼女らは先程ユニオンのロビーに居合わせ、セトの起こした騒動を見ていたのだ。

 セトの持つプラチナ級素材に目をつけ、ここまで後を付けてきたのだ。二人の目的は、セトの素材袋であった。

 

「ですが姉御。あの金髪はかなり出来そうっすよ。少なくともゴールド上位級の腕はありそうですぜ」

「だろうねえ。ま、それでも足手まといを二人連れてりゃ、プラチナ間近のゴールドでもやりようはあるさ⋯⋯行くよ、ランプ」

「了解でさぁ!」

 

 ニヤリと暗い笑みを浮かべて、彼女らはゆっくりとセト達へと歩み寄った。

 

 

「お見事、お見事だ。そっちの金髪さん、本当にブロンズかい? ここらのモンスターがまるで相手になってないじゃないか」

「ん? アンタ達、どちらさま?」

「しがない駆け出し冒険者のリーフってもんさ。こっちはランプだ。挨拶しな」

「へい、ランプでさぁ」

「ふーん」

 

 突如フランクに声をかけてきた二人組に、イシュリナは一歩前へと踏み出して応対した。ダンジョンともなれば、他の冒険者との遭遇は付きものである。少し素っ気ない態度ではあるものの、イシュリナの対応は慣れたものであった。

 

「生憎ね、アタシはゴールドよ。今日は後輩達の引率でここに潜ってるけれどね」

「(⋯⋯まあ勝手に引率しだしたんだけどな)」

「なんだ、そうだったのかい! どおりで強いと思ったよ。ったくギルド所属は羨ましいね、頼りになる先輩がいると楽が出来て良い」

「貴様らはどちらもブロンズか。駆け出しと言っておったものな。うむ、確かに見るからに隙だらけである。もっと精進すべきだぞ」

「⋯⋯、はは、耳が痛いね。(そっちもブロンズだろうが、なーに上から言ってくれんだいこの節穴ァ!)」

 

 同列どころか遥か高みからの言い様に、リーフのこめかみがビキリと鳴った。彼女の実際のランクはゴールドである。故に本来ブロンズ如きに同列扱いですら業腹ものだ。一体何様のつもりかと問い詰めたいところをグッと堪え、なんとか苦笑で濁した。

 

「ところで、このまま最深部まで攻略する予定かい?」

「そのつもりよ。ね?」

「最深部まで後少しだろうしな。ここまでイシュリナに任せて来ておいて、言えたことじゃないが」

「え。あっ⋯⋯か、勘違いしないでね! 別にアンタ達の活躍の機会を奪おうなんて全然ないんだからほんと! ただちょっと"先輩"なんて褒めたことなかったからつい舞い上がっちゃっただけで⋯⋯!」

「ああ、分かってるから大丈夫だ」

「うむ。我らの為の献身、大義であったぞイシュリナ」

「そ、そう⋯⋯なら良かったけど⋯⋯」

 

 最深部間近となって、舞い上がり過ぎたとイシュリナは反省したらしい。炸裂するツンデレ亜種に苦笑しながら宥めるセト。よく分からないが取り敢えず労るスピカ。

 そこをさらに割って入り、リーフは一つ提案した。

 

「じゃあさ、あたいらもついて行っていいかい? 実は道中で回復ポーションを使い切っちまってねえ。厚かましい」

「駆け出しがよくやるミスね。でも最深部にはダンジョンボスがいるわよ。ポーション無しで戦う気?」

「さすがにそこまでは出来ないよ。でもここまで来たのにボスも見ずに帰るってのももったいないじゃないか。ゴールド級の冒険者がいるなら負けやしないだろうし、今後の参考に見ときたいねって事さ」

「勿論苦戦するようならサポートくらいしやすぜ! ただゴールド様相手じゃむしろ邪魔になるやもしれませんがね」

「そこまで邪険にはしないけど⋯⋯ボス素材を分けて、なんて言われても無理よ? 横取りなんてもっての他。分かってるわね?」

「勿論さ。誓って、ボス素材に手は出さないよ(ボス素材には、ね。フフフ⋯⋯)」

 

 一緒について行きたいというリーフの要望は、別に珍しい事ではない。

 飯の種とはいえダンジョンは常に死と隣り合わせ。冒険者同士が遭遇し、即席のパーティを組むことはよくある。そしてそこに付き纏うトラブルもイシュリナは当然承知していた。

 実質はパーティではなくただの付き添いだが、トラブル防止の釘刺しはしておくべきだろう。余念のないイシュリナに、リーフ達も承諾し頷いた。

 無論、リーフ達の本命は別だった。ボス戦の際に隙を見て、セトの素材袋を直接奪う。上位ゴールドのイシュリナはボスを相手取るだろうから、奪った後にすぐ逃げれば追って来る暇もないだろう。万が一追いかけてきても、こちらも下位とはいえゴールドが二人。上手くやれば返り討ちに出来るはず、と。

 邪悪な思考を軽やかな笑みに潜める小悪党の二人組であったが。

 

「⋯⋯おかしなことを言うんだな。あんたら」

「え?」

 

 その思惑は、侮ったブロンズの男によって呆気なく崩された。 

 

「だってお前ら⋯⋯ずっと俺達の後を尾けてきてたじゃないか。付かず離れずで。戦闘なんてしていないし、ポーションなんてそもそも使ってない。そうだろ?」

「な──」

「んげっ」

 

 何気なく言い放ったセトの目の鋭さに、リーフとランプの心臓が跳ねた。

 

「ちょ、え? ついて来てたってどういうことよ?」

「そ、そうだよ、なに言ってんだいお兄さん。あたいらはさっきたまたまあんた達をみかけて⋯⋯」

「嘘はやめとけ。ユニオンロビーからずっと、俺達を尾行してたろ。とっくにバレてるぞ」

「んなっっ⋯⋯!」

「あ、姉御、こいつら⋯⋯気付いてやがった!」

 

 目を剥いて、リーフとランプはその場から飛び退いた。

 つまりセトは最初から気付いて、その上で泳がされていたという事である。仮にもゴールド級であり、身を潜め気配を消す事は得意だった二人だけに、その驚きと屈辱は大きかった。

 

「セトよ。ずっと我らを追いかけて来たということは⋯⋯さてはこやつら、我らのファンか?」

「熱心ではあるが、全然違う。大方、ロビーで俺が見せたゴーレムの核が目当てだろうな。どさくさ紛れに盗んでやろうって算段じゃないか?」

「なんだ、ただの盗人であったか。妙にしょっぱい闇味顔だと思ったぞ。とんだ小物ではないか」

「また変な造語を⋯⋯」

 

 一方で妙ちきりんな発想を見せつつ、さらっとディスるスピカである。しょっぱい闇味顔とかよく分からないが、馬鹿にしているニュアンスは伝わったのだろう。リーフの顔に、明確な怒りが滲んだ。

 

「こ、このブロンズ共⋯⋯ぶちのめしてやろうか!」

「あ、姉御。だけどこいつら、ただのブロンズじゃなさそうですぜ!」

「うるさい! 舐められたら商売上がったりなんだよ! ビビんじゃないよランプ、ゴールドはあっちの嬢ちゃんひとり。こっちは二人だ、なんとでもなる!」

「姉御ぉ⋯⋯」

「⋯⋯気付かなかった。先輩なのに⋯⋯うう」

 

 化けの皮が剥がされた以上、取り繕うこともない。

 より小物然なランプはセトとスピカにも強い警戒を示すが、リーフは聞く耳を持たない。

 武器であろう蛮刀を取り出すリーフ達と、静かに対峙するセトとスピカ。構えを作りつつもこっそり凹むイシュリナ。

 まさに一触即発な空気であったが、そんな彼らの元へと届いたのは、奥から響いた叫び声であった。

 

 

────誰か、誰か助けてくれええええ!!

 

 

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