世界滅亡級レイドボスなドラゴンさんに意味深な厨二病かましたら、なんか唯一の理解者判定された件   作:歌うたい

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第二話

 

 セト・アルステラの朝は早い、なんてことは特にない。

 むしろ彼の居候しているフィーブル孤児院では遅い方である。院の悪戯小僧や小娘によるヘッドダイブによって起床、というのも珍しくなかった。

 しかし今朝は珍しく早かったのだ。

 

「あらまぁ、今日はこんな朝早くからダンジョンに? 面倒くさがりのセト坊やが連日出稼ぎだなんて、どういう風の吹き回しですかねえ」

 

 早朝の玄関。不意にかかった老婆の声に、セトは靴紐を結ぶ姿勢を止めず、振り向きもしなかった。

 彼からすれば知ったを越えて、飽きるくらいに聞いた声だ。誰だといちいち聞く必要もないし、聞けば当人から天罰という名の個人的制裁が下るだろう。

 

「そうは言うけどな、マザー。蓄えはあったに越したことないだろ? この孤児院だって年季が入ってるんだ。二階の床が抜けて誰か怪我する前に、ドワーフ工房に工事を頼まないとだし⋯⋯だったら稼ぎは一層必要になるさ」

「三度の飯より二度寝好きと豪語するものが勤労なことですねえ。ですが子供達が寂しがりますよ?」

「チビ共は遊ぶ玩具が欲しいだけだよ。そういう意味じゃ、チビ共の相手する方が重労働かもな」

「セト坊の言うことです」

 

 肩を竦めるセトを見て、朗らかに笑うのはカタリナ・サンクチュアリ。齢六十にして、此処フィーブル孤児院を運営するシスターであった。

 セトとは坊とマザーと呼び合う間柄であり、それだけでも彼らの付き合いの長さが窺えることだろう。

 

「子供達は殊更、貴方相手だと甘えやすいようですからね。羨ましいこと」

「ナメてるだけだよ。敬意ならマザーの方に偏りっぱなしだ」

「あらまあ」

「怒らせると俺よりずっと怖いって、ガキながらによく理解してる」

「まあまあ」

 

 結び終えた靴を軽くならして、セトはドアノブに手をかける。振り返れば、見慣れた修道服をまとったカタリナの微笑が映った。

 

「んじゃ行ってくるよ、マザー」

「ええ、行ってらっしゃい。気をつけて」

 

 片手をあげつつ、孤児院から外へと繋がる扉を出て数秒。

 扉越しに遠退くカタリナの足音を確かめたセトは、小さく溜め息を吐いた。どうやら今のところは、疑う程度で留めておいてくれるらしい。

 

「⋯⋯まさか俺が、チビ共の相手をマシと思える日が来るなんてな」

 

 抱えてしまった大きな隠し事。後ろめたさを感じているからか、ダンジョンへと向かう足取りは特別重い。

 けれど踵を返す訳にはいかない。機嫌一つで全てを滅ぼしかねない『同胞』が、彼の到来を今か今かと待っているのだから。

 

 

【来たかセト! 遅いぞ、待っていたのだぞ、セトよ! 我が同胞よ!】

 

 辿り着いた近所のダンジョン最深部。そこには世界滅亡級レイドボスが、思ってた倍は首を長くして待っていた。

 よほど嬉しいのだろう。長く厚く硬い尻尾がブンブンと揺れている。犬か。セトは思った。

 しかし揺れる尻尾の遠心力で風の刃が発生し、壁には小さな亀裂が次々に出来ていた。ドラゴンだったわ。セトは泣いた。

 

【そら、貴様の言っていた『ブルーゴーレムの核』と『エギルホーネットの針』だ。暇潰しに集めておいたぞ、受け取るがいい】

 

 しかも歓迎の品まで用意されていたらしい。

 そういえば昨日、このダンジョン内で価値の高いドロップアイテムの話をしたばかりだった。集めてくれたようだが、量がおかしい。積み重なった核と針と小山二つを、セトは呆然と見上げた。

 

「お、おう。また随分な量だな⋯⋯」

【我にかかれば造作もない。しかし針の方は少し面倒だった。エギルホーネット(雑魚蜂共)め、我の気配を感じるなりダンジョン内を逃げ回りおって。モンスターにあるまじき軟弱さよ】

「そりゃあお前が相手となれば一目散に逃げるだろうよ」

【む。キュルル⋯⋯そう褒めるな我が同胞よ。その点、領域に入れば向かって来るゴーレム共は楽であったな。一吹きで消し飛ぶ故に、核を傷付けぬよう加減が面倒ではあったが】

「人類が繁栄出来た理由を今まさに実感したぞ」

 

 君子危うきに近寄らず。まさに至言。危うきに全力で懐かれてる者からすれば「ほんとそれな」である。

 ブルーゴーレムもエギルホーネットも、腕の立つ冒険者でさえ苦労するダンジョンモンスターだが、グラムスピカにとってはワンパンで終わるらしい。やはり危うきも危うきである。セトの胃がキリキリと悲鳴を上げた。

 

【さて、これだけあればダンジョンでの稼ぎとやらも必要あるまい。しばらくは心置きなく我との対話を楽しめよう。どうだセトよ、嬉しいだろう】

「ああ。うん。嬉しいとも、グラムスピカ」

【我の唯一の同胞の為だ、当然だとも】

 

 要は沢山お話したいから、仕事代わりにやっておいたよ、という事なのである。

 そう聞けば大変いじらしく可愛らしい⋯⋯なんて思えるはずもなく、かえってその献身ぶりが恐い。マフィアの首領に貢がれているようなもんである。ほっこり出来る余裕なんてなかった。

 

【ところでセトよ。初めて(まみ)えた時と違ってここ数日、そなたの口調が崩れている気がするのだが?】

「そ、そうか?」

【うむ。我が問いに答えたそなたの堂々ぶりと比べて、少し大人しい風にも思える。如何にした? 体調でも崩しているのか?】

「え。あ、いや⋯⋯そういう訳でもないんだがな」

 

 閑話休題。突然黒竜がもたらした指摘に、セトはまた冷や汗を流した。

 どうしたもなにも、そもそも今が素なのである。普段からあんなイタい言動な訳が無い。

 しかし馬鹿正直に伝える事も出来ない。初邂逅の際の厨二病ムーブが嘘だと、白状するも同義である。相手が相手だけに自殺行為に等しい。

 

「⋯⋯あれだ。闇に心を預ける者が、容易く自分の本質を晒す訳にもいかない。欺く為の仮の姿は必要になるもんだろう。光の下で生きるなら尚更だ」

【つまり擬態か。ふむう。面倒ではあるが、安易に自分を見せないという姿勢は実に闇味(やみあじ)がある】

「やみあじ⋯⋯ま、まあ、つまりは擬態の癖が少し抜け切れてないってだけだな。心配する事ないぞ」

【そうか。ならば良いのだ】

 

 白状すれば死であるならば、隠し通すしかない。

 口八丁というにはお粗末なセトの言い分だったが、黒竜が疑う事はなかった。素直なレイドボスである。

 あまりの素直さにセトは少し罪悪感を覚える。が、彼が真に後悔するのはこれからだった。

 

【そうか、そうか。だがセトよ。我が同胞よ。この場においては我とそなたのただ二つ。なにも偽ることは無かろう。仮初めではない姿を見せてくれると、我も嬉しいのだが】

「ふぁっ!?」

 

 黒竜からの提案に、セトは小さく奇声をあげた。

 あえてラブコメ風に訳すなら「ふたりっきりなんだから、ありのままの貴方を見せてね」と、実にグッと来る台詞である。これが美少女ならばエンディングまで見えたかもしれない。

 しかし、現実は非情である。実際の相手は六メートル越えのドラゴンだ。それが厨二病ムーブをご所望なのである。ときめける程の領域に、セトはまだ達してない。予定もない。

 更によく見ると、口元から小さな黒い炎が火花の様に散っていた。恐らくはブレスで、黒竜からすれば単なる息継ぎの副産物なのかもしれない。

 しかし対するセトからすれば、脅しの凶器にしか見えなかった。断ればアレが飛んでくるかもと過ぎるのも致し方なし。

 よって、セトの取るべき行動は──。

 

「ククク⋯⋯フハハハハ! 隙間を見つけて滑り込み、無防備な心を噛む。その恐ろしさをかつて人は闇と呼んだのだ。大災厄ともあろう者が、邂逅して日も浅き相手に、自らの心持ちを容易く開示するものだな。不用心が過ぎるのではないか?」

【む!】

「フッ。だが闇に身を晒す今なれば、場に相応しき言霊をもって相対す事もまた流儀。故にグラムスピカよ、我が流儀と矜持に則って、汝の求めに応えよう⋯」  

【おお! おおお! うむうむ、善いぞ! やはりその尊大なる語り口こそ、闇に住まう者としてしっくり来る! 実に闇味!】

「恐悦至極だ、我が同胞」

(ぐぅあああぁぁ恥ずかしいいぃぃぃぃ闇味ってなにいいいぃぃぃぃ!!)

 

 大変ご満悦な黒竜とは対照的に、セトは悶絶していた。

 身にブレスが降り注ぐ事は防げても、羞恥心の大爆発からは逃げられない。

 だが、命の危機と天秤にかけられていたとはいえ、自ら招いた惨事ではある。

 嘘を嘘で隠すと、余計に苦労する羽目になる──とは、内心で転げ回るセトに深々と刻まれた教訓であった。 

 





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