世界滅亡級レイドボスなドラゴンさんに意味深な厨二病かましたら、なんか唯一の理解者判定された件   作:歌うたい

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第三話

 

 初邂逅となる日から一週間後の午前半ば。今日も今日とて、ダンジョン最深部にて黒竜と人間による密会は行われている。

 竜と人の一対一。ともすれば英雄詩の一幕にも思える構図だが、グラムスピカが望むのは争いではなく、セトとの会話であった。

 

【──冒険者、か。眠り続けた千年の間に、そのような身分が生まれていたとは。己が身をもって危機に挑み、渦中を潜り、力でもって成果を得るか。実力次第の弱肉強食。軟弱な種である人間が考えたにしては、悪くないではないか】

「何も腕っ節一つが実力と見なされる訳ではないがな。モンスターに対する知識と対処法、ダンジョンに対する知見と攻略といった面もなければ、冒険者は務まらない。腕自慢だけの猛者気取りが、骸となってダンジョンに晒されるなんてものは日常茶飯事だからな」

 

 会話といっても内容は多義に渡る。主に黒竜から求められるのは、闇に身を置く者としての矜持や論説などがもっぱらである。しかし最近ではセト自身のこと、セトの送る日常や一般常識云々など、他愛のない雑談に伸びる事も多い。

 今話し合われている内容も、黒竜がセトの身分を問うた事が発端である。

 セト・アルステラはフィーブル孤児院の居候。そして、冒険者の端くれであった。

 

【だがセトよ。そなた以外の冒険者を未だに見たことがないぞ。そなたの様に腕の立つ冒険者は、他に居ないのか?】

「フィーブルはいかんせん、中心都市から離れた田舎も田舎だからな。冒険者自体も少ない上、このダンジョンは旨味のあるドロップアイテムが『核』と『針』ぐらいなのもあって、寄り付く奴は滅多に居ない。実力も田舎だけあって突出した奴も居ない。かくいう俺もライセンスを所持はしているが、階級更新もしていないからな。腕が立つかどうかは定かではないさ」

【謙遜するでない。非力な者がどうして闇の真髄を語れようか。そなたならば一廉の実力を備えていよう事は、疑うまでもない】

「⋯⋯そうか」

 

 そういって期待に満ちた眼差しを向けるグラムスピカに、セトの肩がこっそり落ちる。黒竜からすれば自分の同胞なら当然強い、と認識してるのだろう。

 別に自分を弱いと卑下する趣味はセトにはない。しかし黒竜のいう『強い』は絶対にスケールが違うのだ。蟻の思う『強い』と獅子の思う『強い』がイコールで結べないように、大いなる誤解が生じてる可能性があった。

 

(泣きてえ⋯⋯)

 

 可能性に気付けても、指摘出来るかは別問題。結局うやむやに流すのがセトにとっての関の山であった。 

 

【しかし残念だ。此処に居続けるのも飽きてきたところでな、暇潰しがてら蛮勇な人間を蹴散らしてやろうと思っていたのだが】

「確かにこの洞窟は、お前にとっては窮屈だろうな」

【うむ。我ほどの存在を封印するならば、この数十倍の広さは用意するのが当然であろうに。おのれ、千年もの時で朽ちていなければ、我自ら存分に後悔させてやるものを】

「そういえば以前、俺の為に『針』と『核』を集めてくれた事があったが⋯⋯よくその巨体で上に向かえたな」

 

 大災厄の名に恥じない物騒さに怯えつつも、セトは回想に思い馳せる。そもそもダンジョンに稼ぎに行った事が理由だった。

 このダンジョンの下層部に出現する難敵で知られるモンスター、ブルーゴーレムとエギルホーネット。それらが落とす素材は高位ポーションの作成や特殊な武器や建設材料などに用いられる為、需要も価値も高い。

 故にそれを集めるのが目的であったのだとグラムスピカに教えた結果、核と針の山を進呈されたのだ。おかげで懐も孤児院の蓄えも温かくはなりはしたが、常に背筋の寒い事にもなっている。

 

 それはさておき、ここで疑問が生ずる。 

 グラムスピカは見ての通りの六メートルを越える巨体だが、最深部から外へと続く石門は精々三メートル。更に石門から伸びる細く長い階段を昇り、行き当たった先の天井を動かすと、下層部の小さな石部屋の隠し床へと繋がる構造になっている。

 つまりグラムスピカが通れば、石部屋そのものが崩壊するのだ。だがそんな痕跡はなかったし、ましてや力尽くで最深部の天井をそのままぶち抜いた訳でもないだろう。

 では黒竜はどうやって下層部へ行き、あれだけの素材を集めたのか。

 

【む、あの時か。なに、そう難しいことではない。我の魔力でこの身体を────いや、待て】

「グラムスピカ?」

 

 種明かしの寸前、グラムスピカはくわっとエメラルドの眼を見開いた。

 

【そうか。その手があったか。それならば我も同胞と共に⋯⋯うむ、うむうむ。名案だぞ、セトよ。流石は我が同胞!】

「いや待て、なにを勝手に納得している。俺は案など出した覚えはないが、一体なにを思い付いた?」

 

 急に褒めそやして来る黒竜に、セトは困惑するばかり。

 だが黒竜は閃いたのだ。この数日間、セトとの邂逅を重ねる度に強まる欲求を。

 千年以上もの時の中、封じられ続けた竜が抱いた望み。それを叶える為の方法を、閃いたのだ。

 

【セトよ。我が唯一の理解者よ。我はそなたと会うたびに、そなたと言葉を交わすたびに、ある望みに焦がれた】

「望み、だと?」

【然り。そなたを通じて今を知る度、もっと知りたいと思った。そしてそなたの見る景色を、理を、世界を。我もまた、見たいと強く思った。だがこの地に留まり続けるだけでは、決して叶わぬ夢見事よ】

「つ、つまり?」

【うむ! なれば留まらず、飛び立てば良いだけのこと! セトよ、我の唯一の理解者にして同胞よ。我はこの封印の地より飛び発ち、そなたと共に在ると決めたぞ!】

「⋯⋯は!?」

 

 黒竜の望みとは、セトと一緒に過ごすことだった。

 実に熱く、ストレートな望み。もはやプロポーズといっても過言ではない。思春期の乙女が聞けばきゃーっと悶えるであろう、ドラゴニックな大胆告白である。 

 

「ま、待て、落ち着け大災厄。お前が俺とだと? 本気か!?」

【本気だとも。そも、心を同じくする我とそなたが限られた時しか共に居られぬ現状こそおかしいのだ。同胞たる我らが共に暮らし、共に歩む。それの何が問題か】

「く、暮らすって⋯⋯ま、待て。待つんだ。多少なりとも俺の生活を話しただろう。お前は大災厄、黒竜グラムスピカだぞ。どうやって一緒に暮らすんだ。そんじょそこいらの亜人種とは訳が違うんだ、フィーブルに来たその瞬間、即座に未曾有の大混乱を招くぞ!」

【慌てるなセトよ。確かに我がこの身このままでそなたと共にあるには、多くの障害が付き纏うであろう。まあ我にかかれば障害とも呼べぬ邪魔など、容易く取り除いてくれようが⋯⋯それを続ければ世界の方が保たぬ。そなたもそれを案じているのだろう?】

 

 違う、そうじゃない。声に出せたらどれほど楽か。

 大災厄なだけあって懸念事項の規模がエグいし、やれない事もなさそうなのがもっとエグい。黒い炎に包まれる世界を幻視して、セトの胃がクシャッと音を立てた。

 そんなストレスマッハなセトの危機をいざ知らず、グラムスピカは沈黙を同意と捉えたか、更に続ける。

 

【だがそなたのそれは杞憂だ。そなたが本質を隠す為の擬態を持つように、我もまた世を欺く為の擬態をすればいいのだ】

「欺ける図体じゃないだろう! どこからどう見てもドラゴンでしかないだろう、お前!」

【ふふふ。先ほど、そなたが我に尋ねたことだ。我がいかにして此処より上の階層へと至ったか。その答えを今、見せてやろう】

「なに言って⋯⋯!」

 

 満を持して、とばかりに宣う黒竜に声を上げるセトだったが、それより先は続かない。

 突如グラムスピカの巨大な全身が淡い光に包まれたかと思えば、更にその輪郭がぐにゃりぐにゃりとスライムの様に歪み始めたのだ。

 

「グラムスピカ? お前、身体が⋯⋯!」

【案ずるな、我が同胞。さあ、刮目せよ──】

 

 理解を置き去りにした異常事態に、セトは混乱の極致に居た。そんな彼をあやすように、響き渡る優しい声色。

 心配などいらないという竜の言葉が表すように、歪んでいた輪郭が少しずつ少しずつ、縮むと共に形となっていく。  

 同時にセトの視点も、見上げるほどの高さからゆっくりと下へ下へ。やがて彼にとっての等身大の高さに定まったところで、黒竜を包んでいた光が止んだ。

 

「⋯⋯は?」

 

 光が止んだ先には、一人の女が立っていた。

 目の前でまず躍る、腰まで届く長さの漆黒の髪。僅かな風で翻れば、ダークラベンダーのインナーカラーが見え隠れする。そして側頭部には只人と呼ばれる事を拒むような、黒い巻き角が渦巻いていた。

 目、鼻、口とそれぞれが奇跡のような配列で置かれた美しい面持ちに、翡翠色(エメラルドグリーン)の大きな瞳。

 背丈も高く手も足も長い。更に目を惹くのは、豊かというには行き過ぎなほどに膨らんだ胸だろう。腰も見事にくびれており、各所の際どい箇所を、申し訳程度の黒い鱗が覆い隠していた。

 ダンジョン最深部。

 巨大な黒竜の姿は消え、とてつもない美女がそこには居た。

 

「────ふう。こんなものか。どうだセト。我が力を使えばこの程度の芸当などこれしき、ちょちょいのちょいという奴だ」

「⋯⋯お、女⋯⋯?」

「そのとーり。これならばそなたと居てもなんら問題はないはずだろう?⋯⋯む。姿は変えられはしても、性別までは変えられなかったか。まあ問題ない」

「問題ない、って⋯⋯な、なにがだ?」

「知れたこと。この姿ならば、そなたと共に暮らせよう。そなたの隣も歩めよう。同じものを見て、感じて、想えるだろう。というわけでだ。セトよ、我が同胞にして唯一の理解者よ。我、黒竜グラムスピカを末永くお願いするぞ!」

「⋯⋯⋯⋯、⋯⋯⋯⋯」

 

 瞬間、セトの脳裏をいくつもの思いが駆け巡った。

 姿も変えられるってなんでもありか大災厄、とか。

 末永くってどういうことなんだよ、とか。

 性別までは変えられなかったということは、元々雌だったのかとか。

 それはもう、言葉には出し尽くせないあれやこれやに埋め尽くされて、事態がセトのキャパシティを遥かにオーバーした結果。

 

「ふ、ふ⋯⋯」

「?」

「ふくを⋯⋯服を着ろぉぉぉ!!!!」

「のわっぷ」

 

 辛うじてセトに出来た最大限は、痴女まっしぐらの目の前の擬人化ドラゴン目掛けて、自前のコートを投げつけることであった。

 

 

 

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