世界滅亡級レイドボスなドラゴンさんに意味深な厨二病かましたら、なんか唯一の理解者判定された件   作:歌うたい

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第四話

「おお、セトの坊主。ダンジョン帰りか? 今日もたんと稼いで来たみてーだな」

「お疲れムーガルの旦那。そっちは相変わらず鍛冶場篭もりだったのか?」

「ガッハッハ! お前さんが素材をドカッと仕入れてくれたもんでな、滞ってた仕事が片付きそうだ。おかげさま一日中鎚を振るってたもんよ。ドワーフ冥利に尽きるぜ」

 

 夕暮れに染まる田舎町フィーブル。ダンジョンより帰還したセトに声をかけたのは、ムーガルというドワーフであった。

 彼はフィーブルの古株で、セトともそれなりの長さの付き合いがある。このように顔を合わせれば、一仕事終えた後の一杯に誘われる事も少なくなかった。

 だが今日ばかりは誘われようともセトは首を縦には振らないだろう。くいっとセトの服の裾を引くのは、真っ黒いローブ姿の女。

 彼女こそが、誘いに乗れない原因である。

 

「ところで、そっちの亜人のお嬢さんは? えらい別嬪さんだが」

「え。ああ、こいつは⋯⋯」

「我はスピカ。セトの同胞⋯⋯もとい、フレンズである。貴様はムーガルという名か。ふむ、至って普通のドワーフに興味はないが、セトの知り合いだというなら仲良くしてやらんことも──」

「悪い旦那急いでるんだそんじゃグッバイアディオス!」

「のわぁー」

 

 神速の即時判断だった。

 女の手を強引に掴みムーガルには二の句を告げさせず、その場から逃走した。

 珍妙な悲鳴をあげて遠ざかる謎の女とセトに、残されたドワーフは立ち尽くす他ない。鍛冶場びたりですっかり伸びきった髭を撫でつけながら、ムーガルはぼそりと呟いた。

 

「⋯⋯あいつにも遂に春が来たのかねえ」

 

 どこか嬉しげに細めた目には、季節外れの桜が散ったように映っていた。

 

 

「せ、セトよ。いきなりどうした、腕が取れるかと思ったぞ。そなたほどの男が全力で逃げを打つなど。まさかあのドワーフ、とてつもない実力を秘している⋯⋯?」

「ちげーよ全然普通の鍛冶屋だ! じゃなくて『設定』はどうした『設定』は! お前はここじゃ記憶喪失って話にしたはずだろ!」

 

 頓珍漢にもほどがある女の勘違いに、ついにセトは吠えた。形振り構わぬほどにセトは激怒していた。必ずやこの無知暴虐ドラゴンを正さねばならぬと決意した。 

 

「む。だが我は名乗ってしかおらぬぞ? なぜダメなのだ」

「あんな偉そうな記憶喪失者がいるか! なにがフレンズだ、普通もっと不安がったり困ってる感じしてるもんだろうが!」

「我が不安だと? 忘れたかセト。我、大災厄たる黒竜グラムスピカぞ。不安などという脆弱な感情、我が持ち合わせてると思うのか」

「だから設定だっつってんだろ! お前の正体がバレないように色々と打ち合わせしたのに、第一村人でもう怪しさ満載じゃねえか!」

「わ、分かったからそう怒鳴るな。我反省する。するから落ち着くのだ」

 

 無縁と言ったそばからオロオロしだす女、もとい黒竜グラムスピカ。何故彼女がフィーブルの往来に現れているかというと、話は少し遡る。

 自らの力を行使して人間としての姿に変貌したグラムスピカ。その目的は同胞であり理解者であるセトと一緒に居たい、暮らしたいというもの。なんともいじらしい理由である。

 しかしセトからすれば容易に受け入れがたい要求だった。たとえ超がつくほどの美女だろうが、正体はグラムスピカなのである。世界滅亡級のレイドボスなのである。共に暮らすなど、現状より遥かに苦労を背負い込むことは見えていた。

 

 故にセトは説得を試みた。考え直すようにと訴えた。何度も何度も。厨二病風に孤高であることはいかに尊いか等、激イタな御高説まで垂れて丸め込もうとした。

 けれど黒竜は折れない。彼女の決意は固く、叶わぬならセトを最深部に閉じ込めかねないほどに、彼と共に居たがった。

 

『⋯⋯そなたは、我と共に居たいと思ってはくれぬのか?』

 

 挙げ句、喉を震わせ、そう寂し気に呟かれたものだから。

 セト・アルステラは心で滂沱の涙を流しながら、頷くほかなかったのである。

 

『我が、記憶喪失?』

『そうだ。俺がダンジョンを探索中に、倒れてる女を見つけた。介抱した末に事情を聴くも、女は記憶を失くしていた。覚えていたことは自分の名前だけ、という段取りで行こうと思う』

 

 受け入れると決めたからには、考えなくてはならない事は沢山あった。筆頭は、カバーストーリーの用意である。

 なにせ千年ぶりに復活した黒竜だ。真相を露見させてしまえば、大陸中がひっくり返る未曾有の事態になりかねない。

 となれば彼女には正体を伏せて貰う必要があり、その為の苦肉の策が「記憶喪失」であった。

 

『我はスピカと名乗れば良いのだな』

『ああ。あまり違う名だと、いざという時にボロが出かねないからな。不満か?』

『いいや。人間界の理屈など、まだ我にはわからぬ。だからそなたに任せると決めた。異論はないぞ』

『⋯⋯そうか』

 

 素直に頷くスピカに、セトは安堵した。色々と即席ではあるが、一応はなんとかなるかもしれない。

 ついで好きな風に姿を変えられるなら、翼や尻尾、角も目立たないように隠して欲しいところだった。だがスピカいわく「それをかくすなんてとんでもない」と一蹴された。そこは譲れない領分であるらしい。多分竜としてのアイデンティティか何かだろう、とセトは無理矢理納得した。見た目だけなら亜人で通せなくもないだろうしと、若干諦めのマインドだったが。

 ともあれ話し合いの末、方向性は定まったのだ。あとは腹を括るしかないと、意気揚々なスピカと共にフィーブルへと帰還を果たした矢先である。

 第一村人のムーガルで、早くもセトは頭を抱える事態となったのだった。

 

「はぁ。ムーガルの旦那は後日なんとか言いくるめるとして⋯⋯頼むから孤児院じゃもう少ししおらしくしてくれよ、スピカ」

「わかっておるとも。こう、シュン⋯⋯としておればいいのだな。容易いことだ、我に任せておけ!」

 

 しおらしさの欠片もない笑顔の前に、セトは遠い目をする他なかった。眩しい笑顔の無垢さといったら、黒竜らしさとは一体なんなのか。

 

「ところでセトよ」

「うん?」

「外とはいえ、我とふたりきりなのだぞ。言葉遣いが違うのではないか? ん?」

 

 ほんとに分かってんのかこいつ、と言いたい気持ちをぐっと殺すので精一杯だった。

 セトの我慢などいざ知らず、スピカはわくわくと期待の眼差しを送る。翡翠色の大きな瞳が、キラキラと輝いていた。

 人間形態になってから、なんかキャラがガキっぽくなってないかこのレイドボス。セトは訝しんだ。

 

「⋯⋯静謐もまた闇の持つ一面。ならば化身たるお前に、その体現が果たせぬはずはないだろう。期待してるぞ、黒竜」

「⋯⋯っ。っっ。んふ。やはりそなたの口調はそうでなくては。誠に闇味、大変闇味だぞ!」

 

 セトの厨二モードが刺さって仕方ないのだろうか。唇をむにゅむにゅと歪ませながらニヤけるスピカの姿に、セトはなんとも言えない気持ちになった。これのどこが大災厄やねん、とは三分の一も伝えられない純情な感情である。

 

 こんなんで本当に、この後に待ち受けるであろう最大の難関を越えられるのだろうか。

 なんとも真っ暗な先行きに、ずっしりと重い溜め息を吐くセトであった。

 

 

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