世界滅亡級レイドボスなドラゴンさんに意味深な厨二病かましたら、なんか唯一の理解者判定された件   作:歌うたい

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第七話

 

「おうセトの坊主。それからスピカの嬢ちゃんも。今日はどうした、ダンジョン潜る前に装備調達かい?」

「いや、ランタンの修繕を頼みに来たんだ。ガキ共が何個か玩具にして壊しちゃってな。っとにウチの小さなモンスター共は⋯⋯」

「ガハハ、元気があっていいことじゃねーか」

「そうだそうだ、幼子はやんちゃするのが仕事だとマザーも言っていたぞ。そう目くじらを立てるでない」

「一緒になって遊んでた奴が偉そうに言うな」

「わ、我はそなたやマザーが子には優しく接しろというから、小さき子らの願いに応えてやったに過ぎぬぞ? 我は悪くない」

「一緒に遊んだ事はいい。けど壊したカンテラをバレないように穴掘って隠そうとしたのは駄目だろ」

「ひぐぅ」

 

 スピカの抗議を、間髪入れずにセトがぴしゃりと刺す。最近では見慣れてきたやり取りに、馴染んだもんだなとムーガルは声をあげて笑った。

 

 スピカが孤児院で暮らし始めて、早くも一週間が経とうとしていた。

 彼女は黒竜である。故に人間社会に溶け込むには相当な苦労を強いられるはずだ。実際に強いられた。主にセトが。

 スピカは文化、文明に触れることもなかった存在だ。だから目に映るものの殆どが彼女にとっての未知である。つまりは大きな子供と変わらない。食事の仕方をはじめとした一般常識を身に付けるのにも、大変な苦労があった。主に苦労したのはセトであるが。

 

「んじゃ、明日までには直しとくぜ。支払いもそん時でいい」

「いつも悪いな、ムーガルの旦那」

「ムーガルの仕事ぶりには目を見張るものがあるな。ドワーフにしておくにはもったいない」

「馬鹿言っちゃいけねえ、ドワーフだからこその腕前よ。お前さんこそ都でもいねえ器量良しだ、セトの坊主の隣に置いとくにゃあもったいないねえなぁ?」

「それこそ馬鹿な。セトは我の得難き理解者。我が隣を歩むのはセト以外にはあり得ぬことだぞ、ムーガルよ」

「くく、愛されてんなぁセトの坊主。おかげでフィーブルの男共に大層憎まれちまってらぁ」

「あいつら、俺の苦労も知らないで⋯⋯なんで俺がこんな肩身の狭い思いしなきゃならんのだ」

 

 ムーガルの茶々に、セトはうんざりと天を仰いだ。

 なにせ美貌は天下一品である。フィーブルの独身男共は、突如現れた美の化身に歓喜した。

 我先にと群がり、求愛し、揃って撃沈。そして拒まれた原因たる男へ、嫉妬の矢を放ち続けているのである。

 一方、村の女性達からの評判はかなり良かった。素直で幼い精神性が母性本能に刺さったのである。尊大な口調こそ最初は戸惑われたが、慣れてくるとそこも可愛いと、非常に好意的に受け止められた。

 

「肩身がどうした? 凝っているのか? ならば我が揉んでやっても構わぬが」

「⋯⋯こういう俺にだけ妙に無防備な所が、余計に嫉妬の原因だろうな⋯⋯」

「無防備? なにを言う、我の防御力はアダマンタイトよりもカチカチだぞ」

 

 侮られているとでも勘違いしたのか、自らの防御力を誇るように胸を張るスピカ。堅牢とは程遠い一部が大きく揺れる。男が群がる訳である。

 というか、スピカの美貌のみならず、彼女の格好もまた原因の一端だとセトは睨んでいた。

 

 今現在のスピカは上半身はへその出たトップス。下半身は太腿が露呈するタイプの、艶めいたレザーパンツにヒールブーツ。派手かつセクシャルな服装に身を包んでいた。

 どれも黒を基調としたコーデである為か、白い肌とのコントラストが非常に目に毒である。特にトップスはスピカの胸部が大き過ぎて、へそどころか下乳まで露出している有様だ。

 半裸にセトのコートを羽織っただけよりはマシだが、大変けしからん事に変わりない。

 だが、かといってその格好を止めろとも言えなかった。何故ならこの服は、他でもないシスター・カタリナからスピカへの贈り物だったのだ。 

 

『なんつー派手な服持ってんだよマザー』

『ほほほ。私もついこの前まで、こういう服を来ては殿方達の目を釘付けにしていたものです』

『シスターがやることかよ⋯⋯それについこの前って、だいぶ前の間違いじゃ⋯⋯』

『ジャスティス』

『ぶべらっ』

 

 聖職者が贈る服じゃねえというツッコミもあるだろうが、カタリナは正義なのである。ならば彼女から送られた服もまた正義なのである。悪たる者にこれを覆せる道理などない。セトはこの世の摂理と正義に屈した。

 

「⋯⋯分かってるから。お前に罪はない。着てる服にも罪はない。男の(さが)が全部悪いんだ」

「そうだな。俺達が悪いさ」

「??」

 

 また、自らの男心にもやむなく屈していた。

 セト・アルステラ。男盛りの二十三歳が呟いた真理に、うんうんと頷いたのは男のドワーフただ一人であった。

 

 

「あ、スピカちゃんおかえりぃ」

「セト兄、あそんでー!」

 

 帰宅するなり、この爆速包囲網である。孤児院の庭で遊んでいた子供達は、雑務を終えた二人を見るなり飛び付くように群がった。

 

「帰って早々かよ。マザーは?」

「礼拝堂だよ。なんだかお客さんが来てるみたい」

「客? 珍しい⋯⋯ってこともないか。それでお前らは外で遊んでたのか」

「そー! だからセト兄もしんいりも遊ぼー!」

「良いだろう。だが我はしんいりではなくスピカだ。小さき子よ」

「ぼくだってクリムって名前だよ! いいから遊んで!」

 

 マザーはどうも来客対応中らしい。ならば報告は後で良いだろうと、セトはせがむ子供達に付き合うことにした。

 

「セト兄ちゃん、ぽいぽいしてー」

「あーぽいぽいな。分かったよ、ほれっ」

「わーい」

 

 俗に言う、高い高いの亜種である。まずは高い高いまで持ち上げて、それから放るように宙に軽く投げては捕まえてを繰り返す。子供達はこれがお気に入りらしく、良くせがまれるのだ。 

 

「ほほう、なかなかスリルのある遊びだな」

「ぼく!ぼくもあれやってほしい!」

「我がか。良いだろう。任せておけ」

 

 いつもは順番待ちのお遊び。だが今日はセトお兄さんのみならず、スピカお姉さんも居ることに目をつけた男児。その期待に、お姉さんは力強く頷いた。

 セトの動きをならって、両脇に手を入れ、高くへと──投げる。

 

「──ぽいっ!」

「は?」

 

 瞬間、男児は飛んだ。高く、高く、遥かなる青空へ。

 真昼の空に、星がひとつキュピーンと瞬いた。

 

「なにしてんだお前はぁぁぁぁ!!!!」

「おっと、加減を誤ったらしい。難しいな、ぽいぽいとやらは!」

「言ってる場合か! お前あれどうすんだ! 子供相手に、いや人間相手にやっていい事じゃねーぞ!」

「キュル⋯⋯」

「急にドラアピしたって誤魔化せるか!」

 

 このドラゴニックたかいたかいに、たまらずセトお兄さんも吠えた。失敗失敗と可愛らしく頭を掻くスピカの頭を、スパパーンと掻いて差し上げた。

 あわや本当に小さな命が星になりかねない事態。しかしギャグ時空の法則は強い。天高くを飛んだ男児はそのまま真っ直ぐ落下し、スピカの腕の中へと帰還した。

 

「おお。セトよ、見ろ。この小僧、目を開けながら眠っておるぞ。よほど心地が良かったのだな」

「放心してんだよ馬鹿! クリム、クリム! 生きてるか、大丈夫か、おい!」

 

 帰還を果たした男児の命に、別状はない。だが相当な体験に心を手放してしまっているようで、セトは必死に呼び掛けた。

 

「セト・アルステラお兄さん」

「く、クリム?」

「昨日、孤児院横の木を見てたらさ、果実が枝からぽとりと落ちたんだ。風も吹いてないのに。ぼく、落ちてる時に思ったんだ。ひょっとしてこの世界には、まだ誰も知らない法則があるんじゃないかってね」

「戻ってこいクリムぅぅぅ!!! それはまだお前にも世界にも早過ぎる!」

「ぺぽっぱだだだっ」

 

 セト、涙の往復ビンタ。これは体罰ではない。愛である。

 幼き心を連れて行こうとする力から引き戻すための親愛。愛ったら愛なのである。全米が泣いた。

 その後、セトの懸命な救護活動により、男児クリムは精神年齢を取り戻した。

 ファンタジーに革命をもたらす芽をつんでしまったとも言えるが、この世界に急ぎ過ぎる必要などないのだ。

 この選択に後悔などない。そう胸を張るセトの横顔は、いつになく誇らしげであった。

 

「めでたしめでたしだな」

「スピカ、今日の晩飯抜き」

「ぬわー」

 

 

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