世界滅亡級レイドボスなドラゴンさんに意味深な厨二病かましたら、なんか唯一の理解者判定された件   作:歌うたい

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第九話

 

 陽射しが濃く色付いてきた。ぼんやりと空を見上げながら、セトはふうと息を吐いた。

 頭を冷やしているとも言える。頭に血が上ったままに突き進んではろくなことにならない。前世と現世の両世で散々身に刻んできたし、つい最近もグラムスピカとの初邂逅で味わった痛い目だった。

 

「ぼーっとしてんな兄ちゃん! 気ぃ引き締めろー!」

「ヒューッ! これは逆に余裕のあらわれってやつかもしれませんよ、リドさん! セト兄ヒューゥッ!」

「アルシュベイト様! 口の減らない田舎者どもに身の程を分からせてやってくださいませ!」

 

 飛び交うヤジに、セトは目を見開く。場所は変わらずフィーブルの広場。先程よりも幾分距離を置いて、ぐるりと円を作った群衆。真っ正面には兵士達と、その遥か手前に大貴族。

 決闘宣言から大して代わり映えはない。実に嬉しくないシームレスである。

 

「セトよ! そなたの活躍、特等席で見させてもらうぞー!」

「⋯⋯気軽に言ってくれるよな、あいつ」

 

 ざわめきの中でも一際に響く女の声に、セトは呆れがちに振り返った。そこではセトを決闘に駆り立てた当人が、子供達と共に期待の籠もった眼差しで彼を見つめていた。

 静かにほそぼそとした人生を望むセトからすれば、現状を招いた要因の一端に一言物申したい気持ちもある。

 

『我は価値を、知っているとも』

 

 そして、彼女からの真っ直ぐな想いが嬉しかったのも、紛れもない事実だった。悔しいことに。

 だからセト・アルステラは今も尚、この場に留まっているのだろう。

 

「さて、そろそろ始めようか。辞世の句は決まったか?」

「なにせ田舎者なんでな。そんな殊勝な文化はあんたらだけでやってくれ、お上りさん」

「⋯⋯良い度胸だ。存分に思い知らせてやるぞ、痴れ者め」

 

 既に賽は投げられたのだ。ならばもう腹をくくって、迷惑な勝利の女神に白星を贈るだけ。

 見届け役の告げる開始の合図と共に、セトは強く大地を蹴り、アルシュベイトへ飛びかかった。

 

 

「──はッ!」

 

 先制はセトによる急襲だった。

 真っ正面から飛びかかり、蹴りを落とす。正面に構えるアルシュベイトの目には、その軌道は見えていた。

 だが、反応自体は遅れた。

 速いのだ。瞬速と呼べる速さ。咄嗟に腕で蹴りを受け止めるが、ミシリと鈍い痛みにアルシュベイトの顔が歪む。

 

「ぐっ」

「まだだ」

 

 更にそこから身体を捻り、放たれたのは逆足の回し蹴り。

 息つく間もない二連撃である。ポイントこそ同じ位置だが、重さは二乗。アルシュベイトは大きく仰け反った。

 

「つぅっ⋯⋯!(こやつ、速い。それに、重い!)」

「らァっ!」

 

 仰け反った隙を埋めるのは、着地と同時に胸元へと打たれたミドルキック。腕をクロスさせてアルシュベイトは受けるが、衝撃は凄まじい。

 苦痛に閉じかけた貴族が目を開いた時、地面には三メートル近くの擦り痕が出来ていた。

 

「チッ、浅いか」

「ぐっ⋯⋯こ、この私を蹴り飛ばそうとは。流石に野蛮だな、田舎の猿は!」

「なんだ、猿と決闘する趣味でもあるのか? 都会の貴族は変わってるんだな」

「付け上がるなっ、今度はこちらから行くぞ!」

 

 瞠目しつつも、アルシュベイトは挑発に乗った。

 拳を握って真っ向から突っ込む。セトほどとはいかずとも、充分に速い動き。

 

「せえいっ!」

「⋯⋯」

 

 アルシュベイトが繰り出したのは右からのフックだった。鞭のようにしなった長い腕が、セトへと迫る。

 しかしそれはあくまでフェイント。利き腕による左の一打と、タックルのコンビネーションこそが本命。

 

「なにっ!?⋯⋯がはっ」

 

 だが、アルシュベイトの目論見は即座に破綻した。脳が自体を把握する前に、アルシュベイトは腹部に痛打を貰っていたのである。

 

「げほっ⋯⋯カウンターか。やってくれる」

「この感触。タキシードの下に鎖帷子チェインメイルを着込んでたか。意外に用意周到だな、あんた」

 

 決まったのは、セトのカウンターであった。一打目のフェイントを屈んで懐に潜り、二打目が放たれる前に掌底を打ち込んだのである。

 文字にすれば簡単だが、実際は困難である。まずフェイントをフェイントと見抜き、その上でカウンターを合わせる。失敗すればクリーンヒットを貰う、ハイリスクハイリターン。それを恐れず、即座に判断してみせたのだ。その難度が分からないアルシュベイトではない。

 彼の頬を、冷たい汗が伝っていた。

 

 

「馬鹿な。アルシュベイト様は、国軍流武術も修めている方だぞ。それがああも圧されるなど⋯⋯」

「な、何者だあの田舎者は。あの身のこなし、並の体術じゃないぞ。なんであんな奴がこんな辺境に⋯⋯!」

 

 セトの強さに驚愕していたのは、なにもアルシュベイトだけではない。職務上、日々鍛錬を積んでいる兵士達にとっても、セトの体術は驚異的だと認めざるを得なかった。

 アルシュベイト側である兵士達が驚愕する一方、セト側のセコンドは盛り上がりを見せていた。

 

「うむ、押しているな。流石は我のセトだ」

「あったりまえだぜ! セト兄はフィーブルじゃ一番強い冒険者なんだ、あんなスットコドッコイに負けないぜ! ちな二番目は俺ね」

「ヒュー! ダンジョンに行ったこともないのに冒険者面するリドさん流石っす! でもセト兄ちゃんはもっと流石っす! ヒューゥッ!」

「そうであろう、そうであろう」

 

 こうしている間にもアルシュベイトに猛攻をしかけるセトに、満足そうに頷くスピカ。だが同時に、気掛かりな事もあった。

 

(うむうむ。この我の同胞なのだ、これくらいは当然であろう。しかし⋯⋯)

 

 周囲の大人達の大半も子供達同様に歓声を上げている。だが一部、フィーブルの冒険者達は依然として固唾を呑んで戦いを見守っているのだ。

 戦況はセトが優勢どころか、圧倒しているのにも関わらずである。そこがスピカは不思議だったのだ。

 

(スピードも技術もパワーもセトが(まさ)っていように。一体なぜ?)

 

 千年間封じられ、現世の文明に触れていないスピカは分からぬ理由があった。

 村一番の実力者であるセト。それは村の誰もが認める事実だろう。しかし対面する相手が『貴族』であるということが、冒険者達のなによりの懸念材料でもあったのだ。

 

「はぁっ、はぁっ⋯⋯驚かせてくれる。よもやここまでの体術を使えるとは思わなかったぞ。スピカ殿がああまで言うだけはある」

「⋯⋯意外と素直なんだな。だったらいっそここで降参してくれ」

「抜かせ。一度吐いた唾を、今更なかったことにするつもりはない。させるつもりもな!」

 

 その懸念を抱くのは、セトとて例外ではない。

 だからこそ決闘開始と同時に、セトは速攻戦を挑んだのだ。恐れるものが出てくる前にケリを付けたかった。

 しかしアルシュベイトの格闘術も一級と言えた。セトに及ばないにしても、防御一点に傾けることでセトの猛攻をなんとか凌いだのだ。

 

「だが詫びよう。貴様を少々見縊(みくび)っていたと。認めよう。この私が本気を出すに値するほどの戦士だと」

「っ」

 

 故にセトもまた確信していた。

 ここからが、大貴族の本領だと。

 

「故に、ここに示してやろう。貴族と平民の⋯⋯そして、貴様と私の絶対的な差を! この私が王家に連なる大貴族である、揺るぎなき証を!!」

 

 アルシュベイトの華美なマントが翻る。その手には、腰元から抜き去られた杖が握られていた。

 金色の宝珠を先端に取り付けた、一振りの杖。

 

「──改めて名乗ろうか。

 私がアルシュベイト・フライ(Fri)・ギルジーナス。

 そして【七大曜(セプテット)】の魔法使いの一人──『黄金雷卿(ゴルドール)』だ」

 

 魔法を使う者。

 それこそが、貴族を貴族たらしめる証であった。

 

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