クー・フーリンのスペックで転生した僕がヒロアカ世界で理想の兄貴になる話   作:佐久間2525

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デスノート×ヒロアカの方が捗らなくなってきたので過去作アップです。あっちも頑張ります。


第一話 夢の始まりと終わりと

 

 

[転生]

 

 

輪廻転生というものが実際に存在するとして。もし生まれ変わることができたのなら。

あなたは何になりたい?

 

テンプレは異世界にチート転生して俺tueeeeeとかかな。ハーレム作ったり。

それとも最近の流行りだとTS転生の方が人気かな。誰しも美少女にはなってみたいものだよね。

あとは何だろう、お金持ちの子供とか。芸能人の子供とか、そのあたり?

 

いいね、どれも素敵だと思う。

誰しも何者かに成りたい欲は抱えている。現実に満足していないとかそんなことではなく。これは夢だ。願望なのだ。

 

僕にも夢があった。

いつかもし、生まれ変われるのなら。

僕は、‘’兄貴‘’という存在になりたかった。

 

なにも弟が欲しいという意味ではない。なんなら弟いたし。兄弟という意味での兄貴ではあったので。

 

僕が成りたいソレは、概念のようなものだ。

 

彼らは、様々な物語に存在する。

 

決して主人公じゃない。

けれど主人公たちを守り、助け、時には身を挺して庇い。『俺のことはいい!先に行け!』って叫んだり。普段はチャラけた態度なのに、いざという時に一番頼りになったり。

一度死んだと見せかけて実は生きてて、主人公たちのピンチに駆け付けるとか。あるいはここぞという場面で盛大な戦果を挙げながら、一人潔く死んでいくだとか。

 

そういう男気のある頼もしいキャラを見た時、視聴者は思わず彼らを「アニキ!」と呼び慕ってしまう。

 

勇者パーティーだと戦士枠。学園モノの3年の先輩。主人公が所属する部隊の副部隊長。

実力があるから物語のクライマックスまでに退場しがち。主人公の恋愛模様をやたりニヤニヤしながら応援してくれそう。何より強い。

 

こういう概念の兄貴になりたい。そう思って生きてきた。別にシリアスな過去とかないよ。ただかっこいいなーと思って憧れただけの話。

 

そう、憧れていたのは過去の話。

 

今は実現可能な能力と、立場を手に入れた。

 

これは僕が───いや、俺が最高の兄貴キャラになるまでの物語。

 

…なんて、かっこつけてみたけど。

これは、兄貴の中の兄貴、Fateのクー・フーリンのスペックを持って転生した僕が、理想の兄貴になるべくロールプレイングするお話だ。

 

少し付き合ってくれると、嬉しいな。

じゃないや、嬉しいぜ!

 

 

 

 

[ 雄英高校ヒーロー科 入試会場 ]

 

◇SIDE:緑谷

 

巨大な門を見上げて、ごくりと唾を呑む。いよいよこの日が来てしまった。

 

知らず知らずのうちに小さく震えてしまった手を、もう片方の手で押さえ込む。大丈夫、今日まで毎日頑張ってきたじゃないか。オールマイトに鍛えてもらったじゃないか。僕ならできる。自分自身に暗示をかけるかのように、小さく呟く。

 

周囲は大勢の人であふれていた。

 

雄英高校ヒーロー科。現在、第一線で活躍する一流のヒーローの多くがここからスタートを切っている。

誰もが知るNo1ヒーロー、オールマイト。事件解決数トップ、エンデヴァー。ベストジーニスト、エッジショット。みんな華々しく第一線で活躍するヒーローだ。

 

だから僕は、今日この日に。絶対に試験を乗り越えなくてはならない。僕に力を託してくれたオールマイトの信頼にこたえるために、そして最高のヒーローになるために。

 

…なのに

 

「出遅れた~っ!!」

 

プレゼントマイクのスタートの合図を聞き、立ち尽くしていたのが悪かった。たった一瞬といえども大きなタイムラグだ。

試験は会場のロボットを倒し、ポイントを稼ぐ必要がある。全部で何体とも、何ポイント稼げともいわれていない。つまり、他の受験者との奪い合い…!

 

「まずい、まずいぞ!初動でどれだけ高ポイントのロボットを見つけられるかも肝心なのに!あわわでもそれは今更どうしようもないからまずは」

 

どうしよう。焦りで息が浅くなる。こんなこと悩んでいる時間もないのに!

身体を動かして、目の前のロボットを倒さなければ道はないというのに。頭の中に色々なことがフラッシュバックする。

 

『ムコセーがヒーローになれるわけねェだろ、バァカ!!』

『てめぇに何ができる?エェ?』

『ごめんねぇ、出久。ごめんね…』

 

動かなきゃ、動かなきゃ、動かなきゃ…!こんなんじゃヒーローになれない。オールマイトに申し訳ない。力を受け継いだんだから、僕は最高のヒーローにならなきゃいけないんだ───

 

「おい、考え事してると危ねぇぞ」

 

バシッと。軽い衝撃が背中に走った。

詰まった息を吐き出されて、思わず咳き込む。ぐるぐると渦巻いていた思考が一瞬で弾き飛ばされた。

 

「えっ…」

 

空よりも深い蒼色。それがふわりと宙に舞って、ゆっくり落ちていく様子が鮮烈に瞼に焼きついた。

 

コンマ数秒、衝撃に黙り込んだ後。きょろきょろと辺りを見渡す。僕の周囲には受験生はいなかったはず。彼はどこから来たんだろうか。少し膝を曲げた体勢、風で一瞬上向きに棚引いていた髪、少し聞こえた着地音。それらを加味すれば彼は上からやってきたように思えるのだが、見上げても十階はありそうな高いビルしかない。まさかあんなところから?混乱のまま思考が素早く回る。

 

いつもの癖でつい考え込んでいると、ぐい、と肘を引かれた。

 

「一歩下がりな」

 

危ないぞ、と次いで声がかけられる。次の瞬間には、眼前までロボットの腕が迫っていた。3ポイントのロボット。

 

う、うわぁ!

「なっさけない声出すなよ。男だろ」

 

まるで力も何も込めていない様子で彼はロボットの腕を受け止めている。ぎしぎしと機械が軋む音がするから、相当な力がこめられているはずだ。けれどまるで小さな子供にじゃれつかれているかのように、彼は平気そうな様子だ。

もしかして身体強化系の個性を持っているんだろうか。それならビルの上から降りて来たのも納得だ。

 

「42ポイント目、っと」

 

軽い掛け声とともに、鋭い蹴りが放たれる。ひゅん、と空気を切った長い脚がそのままロボットの頭に吸い込まれていって、軽い音とともに粉砕する。まるで砂でできた団子でも蹴りつぶすかのような軽さ。

頭部を粉砕されたロボットは、小さなモーター音をたてて沈黙した。

 

明らかに僕を狙っていたロボットを壊してくれた。どうやら動けないでいる僕を助けてくれたらしい。自分も受験中だというのに、なんていい人なんだろうか。

 

「あの、ありがとうございます!」

「おう。いいってことよ。周りはよく見ろよ」

 

くい、と顎で示された先を見ると、すぐ近くにロボットがうようよといる。戦闘音におびき寄せられてきたらしい。うわあ、どうしよう。こんなに一気に相手にできるかな…!でもやらなくちゃ、今動かなくちゃ。僕はヒーローになるんだ、オールマイトに個性を託されるに相応しい最高のヒーローに。動け、動け。

 

細く息を吐く。また震え始めた手を、無理矢理に押さえつけて。

 

近寄ってくるロボットの群れと、そして固くなる僕をチラリと横目で眺めて。青髪の彼は励ますように言った。

 

「あんまり息をつめすぎるなよ、ここで失敗したって人生終わりじゃねぇんだからよ」

 

心配そうな様子であった。優しい人なんだろう。こんなところで震えて動けないような奴、同じ受験生の彼にとってはいいカモだろうに。気遣ってくれてすらいる。

 

──彼の言う通りだ。別に今日受からなくたって、死にはしない。多くの受験生が落ちる入試だ。仕方がないっていうことも出来る。雄英でなくたってヒーローにはなれるんだ。浪人しても、留年しても。今日だけで僕の道が断たれるということはない。

 

けれど。

 

「僕は最高のヒーローになるために雄英に来たんだ!ここで踏ん張れなきゃオールマイトみたいなヒーローになれるわけがない…!」

 

大きな声を出した僕に驚いたように彼は目を見開く。

 

「勝てるかどうかじゃない。ここで僕は、立ち向かわなきゃいけないんだ──!」

 

彼への返答ではない。自分への激励だ。

そうだよ出久、何を止まっている。足を止めてる暇なんか1秒もないだろ。誰の背中に憧れたと思っているんだ。

 

気合を入れるように、すぱぁん!と大きな音が鳴るように頬を強く叩く。やるぞ、僕はやるぞ…!

 

そうして気合を入れてロボットに向きなおろうとした時。助けてくれた彼は空を仰いで、唐突に大きな声で笑い始めた。

 

「いい啖呵だ坊主!威勢がいい奴は好きだぜ俺ァ」

「え、あ、うん。ありがとう…?」

 

次いでバシバシと背中を何度か強く叩かれて困惑してしまう。何が彼をここまで喜ばせているのかわからないが、嬉しそうで何よりだ。

 

「生温い考え持ったガキ共が集まる入試なんざ、個性を使うまでもねぇと思ってたが。考えが変わった。俺も本気を出して試験に挑むとしよう。お前への礼儀だ」

 

ニヤリ、と口元に笑みを浮かべた彼が空中に手をかざす。何をしているんだろう、と疑問に思ったのも束の間。何もなかったはずの空間が、波打つように揺れ、ぼやけた。

瞬いた次の瞬間には、その手の中には彼の身長を超す長くて赤い槍が収まっていた。血よりも濃い深紅。鋭い穂先。武器などに詳しくない僕でも、すさまじい気配を感じる逸品だった。

 

ひゅん、くるくる。彼は慣らすように手の中で槍を回し、構える。先ほどまでも刃のように鋭い雰囲気を持っていたけれど、槍を持ってからはより一層その気配が濃くなった。同じ学生とは思えない。歴戦の戦士のような隙のない構えだ。

 

「じゃあな!四月にまた会おう坊主!」

 

再度、励ますように僕の肩に手を添えて、彼は軽い調子で跳躍した。目の前のロボットを数体なぎ倒し、また別の場所に向かったようだ。

 

「はっ、はい!!…って、はやっ!もうあんなところに…!すごいぞ次々にロボットを倒してる!いったいどんな個性なんだろう?身体強化系かと思ったけど、武器とかを作れる個性なのかも?だとするとあの力は…ぶつぶつ

 

何だったんだろう、というのが正直な感想だけれど。手の震えはいつの間にか収まっていた。ぎゅ、と拳を握り締め、ロボットに向き合う。

 

僕も負けてられない。彼の言葉に応えるためにも、早くロボットを倒さなければ。

 

…でも坊主って呼ばれたけど僕たち同い年だよね?

 

 

 

 

 

◆SIDE:オリ主

 

 

長い手足をぶん回す。左足を軸に、遠心力を加えて右足を目標へ。吸い込まれるかのように直撃したソレが、いとも簡単にロボを粉砕した。

 

…無双きもちいい~っ!!楽しーっ!!ロボ壊し祭りだー!!!

 

いやいやいや待て。冷静になれ俺。はしゃぎかけた内心に待ったをかける。

兄貴キャラっていうのはこういう時調子に乗らない。むしろピンチに陥ってるやつを、さりげなく手助けしてこその兄貴じゃないか?少なくとも俺の中ではそうだ。

 

誰か困ってないかな、と考えつつ、ビルの外壁を蹴り上げる。マリオの壁蹴りの要領で駆け上がると、あっという間に周囲を見渡せるポジションにつけた。

視力の良いこの体はかなり遠くまで見渡せる。会場の各地では受験生たちが我先にと争ってロボットを壊しまわっている。震えて動けないような奴があまりいないのは、さすが雄英を受験するだけのことはあるな。

 

そんなことをぼんやり考えつつ、人間観察に勤しんでいると見覚えのある緑髪の少年が視界を横切った。

 

あれは…主人公では?

 

説明を忘れてたけど。俺が転生した世界はヒロアカの世界らしい。残念ながらあんまり詳しくは知らない。アニメを少し流し見した程度。無個性の主人公が紆余曲折あって雄英高校でヒーローを目指すって言いう大まかな流れは知ってる。それ以外の記憶は曖昧だな。

 

で、今なぜ雄英高校を受験してるかっていうのはもう分るだろ?

 

兄貴っぽい行動その1「主人公を助ける」

 

俺が思うに兄貴系キャラっていうのは、主人公がピンチな‘’ここぞ!‘’という時に颯爽と現れてくれるとこがある。つまり、主人公と同じ雄英高校に俺は入らなきゃいけない。欲をかけば先輩とか、卒業生に収まりたかったんだがなー。同い年なら仕方ない。兄貴っていうのは年齢じゃない、行動で決まるんだ!!!

 

内心で熱弁しつつ、いったんクールダウン。眼下では何やら動けない様子でいる主人公の近くに、ロボットが忍び寄っている。なんというか、考え事をしていて気づいていない感じだな。大丈夫か?

 

さて、どうしようか。あんまり手助けしすぎてもな。受験だし、これ。

まぁ顔合わせ程度にロボットぶっ壊してフェードアウトしとくか。初対面はそんなもんだろ。

 

「よっ、と」

 

ビルから一歩足を踏み出し、重力に従って落下する。この体はもとのスペックが高いから、当然これしきの事は余裕だ。

 

さぁ、初めましてだな主人公。

 

 

・・・・・・・・・・・

 

「89ポイントっと。…さすがに壊しすぎか?」

 

気が付いたら試験も随分終盤に近付いている。槍を思いっきり振り回せるのが楽しくて調子に乗ってしまった。

 

それにしても…いい主人公だったな。これぞジャンプの王道主人公!って感じの熱血さを持ってた。主人公サイドを輝かせてこその兄貴キャラだからな、主人公に好感が持てるのはいいことだ。

 

さて、試験の最後はどうするか。

 

見晴らしのいいビルの上まで駆け上がる。一気に視界が開けた。強く吹きさす風に髪がとられて揺らめく。いい心地だ。

 

え、高いとこが好きだなって?

想像してみろよ、今の俺の姿。ランサーだぜ?高いところでたそがれてるのが似合うだろうがよ。

 

見渡す限り受験生たちはずいぶん疲弊していた。もう戦闘は諦めて隠れる者、まだポイントが足りないのか必死に探し回っている者、色々だ。ロボットたちもかなり姿を消しているし、このまま終わりそうな雰囲気。

 

「んぁ?ありゃぁ…随分でかいな」

 

ずぅん、と地面が揺れて思わず振り返る。視界の先では巨大なロボットが轟音を立てながら市街地を闊歩していた。確か説明によると、なんとあの図体で0ポイントらしい。倒してもうまみのない障害、かつ、いかにもな難敵。逃げ惑う受験生もいれば、腰が抜けて動けない奴もいる。

 

…ははーん、これは主人公が何とかして倒すパターンのやつだな?

 

俺はヒロアカに詳しくないが、二次元オタクではあったので。展開のメタ読みは大得意だ。

 

では俺がとるべき行動は何だろうか。顎に手を当てて考え込む。

あの巨大ロボットを直接倒すのはあまり良くない。主人公の成長を阻害するかもしれない。かといって何もせず静観しているのも…ありっちゃありだが乗り気ではない。となると、だ。

 

俺がすべきは主人公が見えない位置での、さりげないサポート!何も本人を目の前で助けるのだけが兄貴じゃない。影からもさり気なく主人公サイドの得になることをすることも大事だ。

 

「さ、いっちょ兄貴を遂行しますか!」

 

決め台詞がダサいって?言いっこなしだぜ、そういうの。

 

 

 

 

◇SIDE:雄英高校教師陣

 

 

「実技、総合成績出ました!」

 

雄英高校、会議室。

各会場の入試の映像を見ながらざわめいていた教師陣が、ピタリと声を止める。

画面には受験生の実技でのポイントが一覧にして示されている。

 

「レスキューポイント0で2位とはね」

「仮想敵は標的を捕捉し近寄ってくる。後半他が鈍っていく中、派手な個性でひきつけ迎撃し続けた。タフネスのたまものだ」

 

「対照的にヴィランポイント0で8位…」

「大型ヴィランに立ち向かった受験生は過去にもいたけどぶっ飛ばしちゃったのは久しく見ていないね」

 

ざわり、ざわり。

画面の名前と別モニターで流れる試験映像を見ながら話していた教師陣の目が、ある一点にとまる。

 

「そんでもって…ぶっちぎりですね、彼」

 

映像が切り替わる。序盤は自分の身体能力のみで。

後半からは個性で武器を召喚してから戦う少年の姿が映し出された。

 

「ヴィランポイント89。レスキューポイント40。トータル129…」

「8位の彼が大型ヴィランをぶっ飛ばした時も、的確に破片の迎撃をして建物および他の受験生への被害を防いでいたね」

「圧倒的すぎる。索敵、戦闘、負傷者の見極め。全てがプロヒーローに劣らない動きだったわ」

「彼は一体?」

 

教師陣から上がる疑問の声に、資料を持った1人が答える。

 

「空風 凛。個性『武器生成』、10歳の頃ヴィラン犯罪に巻き込まれ、両親を亡くし、その後は親戚の家を転々としていますね。現在は一人暮らしをしているようです」

 

経歴を聞いた数人は眉を顰める。この高校入学の時点である程度の実力を持つものと言うのはたいてい恵まれた家の出身が多い。例えば親がプロヒーローである。あるいは資産家である。

しかし彼はどちらかというと恵まれない人生を送ってきた様子。少し怪しいと思っても仕方がない。

 

「くだらない」

 

しかしそれらの疑念を、のちのA組担任、相澤はバッサリと切り捨てた。

 

「そんな色眼鏡で見る前に、ソイツのやったことをしっかり見るべきだ。誰よりも早く、的確にヴィランを制圧し、町への被害も最小限。現役のプロでも戦闘力で勝てる奴が何人いるか。誰よりもヒーロー科に入るべき人材だろう」

「しかしイレイザー…その戦闘力が問題なんじゃないか」

「そうですよ。16歳にして独学でやってきたにしては強すぎる」

「どこかのヴィランのスパイという可能性も…」

 

「っち!非合理的な話し合いだ…!」

 

苛立ったように眉を顰める相澤を、遠くからプレゼントマイクがまぁまぁと宥めるジェスチャーをする。会議室が再びざわざわと空気を震わせたとき、校長がぱふぱふと手を叩いた。

 

「相澤クンの言うとおり、彼はヒーロー科に来るべき人材なのさ。ただ、一人能力が飛び出ているのも事実。だから定員とは別に特待生枠を設けて、彼はそれで合格とすることにしよう」

 

ぽん、と彼の書類にハンコが押される。

 

空風凛、雄英高校一般入試 特待生枠で合格。

 

 

 

 

 

 

 

[入学してからの日々]

 

 

◇SIDE:緑谷

 

雄英高校に入学してからの毎日は忙しい。

勉強量だってもちろん多いし、ヒーロー科特有のカリキュラムはなんといっても量が多い。

実技の授業も多いから毎日へとへとだ。

 

休み時間の教室での過ごし方っていうのは人それぞれで、勉強してたり、友達と喋っていたり。

ぐるりと教室を見渡してみる。

 

さっきまで戦闘訓練だったからみんな死屍累々だ。

次の授業は古典らしいけど、絶対寝ちゃうよこんなの…。

 

「…空風くん。なんでそんなに元気なの?」

「んぁ?体動かすのは慣れてっからな。昔から独学で鍛えてる」

 

机で項垂れたまま隣の席を見る。

あの入試で助けてくれた槍使いの彼とは、無事4月に教室で再会することができた。

空風凛くん。個性は武器を作ることらしい。じゃあビルから飛び降りれたり、一瞬で移動できるあの速さは個性じゃないのかというとただの身体能力だって言われた。世の中すごい人がいるものなんだな。

 

空風くんは気のいい人で、クラスの誰とでも気さくに話している。

ただ特待生枠で入学したらしい彼にかっちゃんがやたらと突っかかっていて、それだけは面倒そうにあしらっている。

 

今みたいに勉強しているところに急に話しかけても、手を止めて話してくれるんだから優しいよね。

 

「えっ、空風くんって独学であんなに強くなったの?」

「おう。道場とか通う金もなかったからな。いろんな映像の見様見真似だ」

「えーそうなんだ!空風くん超強いからプロヒーローとかに教えてもらってるのかと思ってた!」

「私もそう思ってたわ。ケロ」

「独学であんなに強くなれるんだ~!すごい!」

「誉め言葉をどうも嬢ちゃん方。美人さんに褒めてもらえると修行のやる気もあがるってもんだ」

「や、やだぁ空風くんたら、またそんなこと言って」

「このスケコマシ!」

「女ったらし!」

「俺は本心から言ってるんだぜ?お前ら全員、将来いい女になるだろうなァ」

「む、今はいい女じゃないってこと?」

「十分いい女だが…俺はもうちっと年上の方が好みだ」

「へー!空風くん、年上の方がいいんだ!ね、好きな人とかいないの?」

 

いつの間にか会話に女子が混ざっている。

空風くんは紳士的というか、女子を誉めるのに躊躇いがないからすごくモテている。顔もイケメンだし、強いし、そりゃそうって感じなんだけど…

 

「ニクイ…空風が憎い…!」

「呪詛が漏れてんぞー峰田」

「なあ切島!女子に可愛いとか言うの、おいらが許されなくて空風の発言なら許されるのは何なんだよ!差別だろうが!!」

「あー…爽やかさが違うんじゃねえの」

 

この通り、一部の男子には憎まれているらしい。

 

「おいら女子に聞いてくる!」

「やめろ峰田!死にに行くようなもんだぞ!」

 

「なあ!おいらと空風の何が違うんだよ!女子を誉めてるのは一緒だろ!?」

 

「空風ちゃんには下心がないもの」

「顔…かな」

「生理的な嫌悪感が違う」

 

グハア!!

「峰田ー!!!!」

 

とまあ、今日もA組は賑やかだ。途中から空風くんは我関せずで勉強を再開しちゃったけど。

休み時間は何時も勉強してるのが疑問で前に聞いてみたら、学校でしか勉強できないから今のうちにしてるって言ってた。

家では落ち着けないタイプなのかな…?

 

 

「おいゴラ、槍バカ野郎!明日の実技俺と勝負しやがれ!」

 

体操服から着替え終わったらしいかっちゃんが教室に帰ってきた。途端に空風くんに絡みに来る。

声をかけられた空風くんは眉一つ動かさず教科書を読みこんでいる。

 

「無視してんじゃねえぞこの野郎!」

「はあ…うるせぇよガキ。俺に一回でも勝ってから大きな口叩けっての」

「なッ…!!こんのっ…!」

 

「おーい、授業始まるぞ席につけー」

 

良かった、喧嘩になる前に授業がはじまりそう…。オールマイトが担当した最初の実技の授業で、1人余った空風くんがかっちゃんと一対一でやることになって、結果はまぁ空風くんが勝ったんだけど。それ以来ずっとこんな感じ。明日はUSJでの演習もあるらしいのに大丈夫かな…。

 

 

 

 

 

◆SIDE:オリ主

 

 

高校生活いそがし〜!!

俺の理想の兄貴ロールプレイが一分たりとも気が抜けないから疲れる…!

 

兄貴っぽい行動その2 「普段は気のいい兄ちゃん」

 

日常パートで時には主人公と一緒に悪ノリもして、気さくに話して、そしていざという戦闘シーンで思いっきり輝くのが、いいよな。

というわけでクラスメイトとは仲良くするようにしてる。ただ爆豪に突っかかられるのはどうしたもんかな~。最初の実技授業であたって、コテンパンにしたら目の敵にされちまった。

何を隠そう、俺は根っからのオールマイトファンだからな。いい所見せたくて張り切っちまったんだよ。

子どものころにヴィランに襲われたところを助けてもらってから、俺の憧れのヒーローだ。

 

教師やってるオールマイトにテンション上げて、ハイになってたのは認める。けどあれから暫く経ったのにしつこすぎないか爆豪…!

 

…まぁこういう時に感情的にならず、余裕であしらえるのも重要な兄貴要素だよな。

がんばろう。

 

 

 

 

 

 

 

[USJ襲撃]

 

 

◇SIDE : others

 

「くそぅ、こういうタイプのバスだったか…!」

「ドンマイ、委員長」

 

わいわい、がやがや。

バスの中は随分にぎやかだ。わざわざバスで移動しての演習だ。内容もまだ詳しく知らされてはいないが、期待が勝るのだろう。みんないつもよりも饒舌に言葉を交わしている。

 

「私、思ったことをなんでも言っちゃうの、緑谷ちゃん」

「あ!?ハイ!?蛙吹さん!」

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

「あなたの個性、オールマイトに似てる」

 

「そそそうかな!?いやでも僕はその…!」

「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトはケガしねぇぞ。似て非なるアレだぜ」

 

「派手で強ぇっつったらやっぱ、轟と爆豪だな!」

「ケッ」

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」

「んだとコラ出すわ!!」

「この付き合いの浅さで既に、クソを下水で煮込んだような性格と認識されてるってすげぇよ」

「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!」

 

雑談がかなりヒートアップする。あまりの喧しさに、目を閉じていた轟が「うるさい…」とぼやいている。担任からのストップサインも入ったことで、一先ず車内は静けさを取り戻した。

すると、誰からともなく、先ほどの喧騒でも目を覚まさなかった空風に視線が集まる。

 

「…よく寝てるね。疲れてるのかな」

「いつもホームルームが終わったら一番に家に帰ってるのにね」

「でも前に家に帰っても勉強する時間ないって言ってたわ」

「それで学校であんなに勉強してんのな~」

 

こそこそと小さな声で話すのはぐっすりと眠っている空風への気遣いだ。先ほどまであんなに騒いでいたのだから、今更とも言えるが。

 

「そういえば空風くんのことってあんまりよく知らないね。家とか知ってる子いる?」

「あー…一人暮らししてるとは前言ってたような」

「へーそうなんだ!あ、家事とかがあるから忙しいんじゃない?」

「勉強する間もないほど時間取られるとも思わねえけど…」

 

3,4人で話していたが、いつの間にか雑談に加わる人数が増えている。クラス全体の総意として、空風凛というクラスメイトの姿をつかみ切れていないのだ。強くて、カリスマ性があって、気さくに話せるのに、ミステリアス。16歳の少年少女の興味をひかないわけがない。

 

「たまに本当に同い年か分かんなくなるよね」

「それすごい分かる!なんか大人の余裕があるというか、近所の気のいいお兄ちゃんみたいな」

 

「そりゃ嬉しいな」

 

「ホントに余裕があってカッコいいよね…て空風くんいつの間に!」

「ちょっと前から起きてたぜ。ふぁ~ぁ…」

 

しれっと会話に混ざった空風は、欠伸をして目じりの涙をぬぐった。本当に嬉しそうに目じりを柔らかく緩めて、笑みをこぼす。心の底から喜びがあふれた笑みだった。

 

そうか、俺はちゃんとそういう風に…」

 

思わず呟いてしまったような小さな声。近くに座っていた数人だけがこの声を聴いている。全員、直感的に、彼の本心を今聞いているのだと思った。いつも気を張っているような彼が、初めて隙を見せた瞬間。

 

「空風くんって…弟とかいる?」

 

緑谷が問いかける。

 

「おう、いたぜ」

 

そう答えたきり、表情を硬くして黙り込んでしまった彼に、緑谷もそれ以上言葉をかけられなかった。

『いた』と過去形で答えたということは、今はいないということに違いないのだろうから。

 

 

 

 

◆SIDE : オリ主

 

 

やっっっべぇ~~~~……!!!

寝ぼけてうかつなことを口走った気がする~!!

 

いやだってさ、『近所の気のいい兄ちゃんぽい』ってよ…それはもうニアリーイコール兄貴っぽいってことじゃねえか!?!?そんなん言われたらテンション上がるだろうがよ…!

けど勢い余って「弟いた」とか言っちまったけど、前世の話なんだよな~!!

焦って黙り込んじゃったけど変に思われてねえかな~!!

 

これまでの完璧な兄貴ロールプレイが崩れる恐怖に、身がこわばる。

心なしか重いような体を引きずるようにして、いつの間にか止まったバスから降りた。

今日の演習について説明がされているような気がするが、頭に入ってこない。

 

どうしようか戸籍とか調べられて弟いないのバレたら…。まわりまわって前世のこととかバレたらどうしよう…。これまでの姿が全部嘘だって知られたら、恥ずかしすぎて死ねる。

 

羞恥心からか頬まで火照ってきた。

 

「空風くんなんか顔赤いよ…っておでこあつっ!?これ熱あるんじゃ───」

「一かたまりになって動くな!!13号、生徒を守れ」

 

緑谷の心配する声と、相澤先生の切羽詰まった声とが重なった。え?ヴィランの襲撃?

 

「先日頂いた教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいるはずなのですが」

 

黒い靄の男が何やら首を傾げた。どうやら狙いはオールマイトらしい。中々のチャレンジャーだな。

だが、何の策もなしに突っ込んでくるとは思えない。ある程度、実現可能だと思っているから雄英などという最高峰の教育機関に仕掛けてきているのだろう。だとするとオールマイトに勝てる策を持ってきているヴィラン。

おそらく、まだ主人公では勝てない相手。ということは、だ。

 

序盤の負けイベだな!?(確信)

 

作品を通して今後対立していく敵の顔見せ。苦戦し、戦いの中で成長を見せるも、惜しくも倒しきれない。『絶対にお前は俺が倒す…!』と主人公が決意して今後の流れにつなげる重要な瞬間とみた!

 

「すごい…多対一こそ先生の得意分野だったんだ!」

「分析している場合じゃない!早く避難を!」

 

考え込んでいる間に、長い階段の下で担任の相澤先生が一人で奮戦している。先生の個性では真正面からの戦闘は不利だろうに、よくやっている。

 

さて、俺はどうするのが正解だろうか。

物見遊山な気分でいちゃダメなのは分かるがテンションが上がって仕方ない。

だって…これって兄貴っぽい行動チャンスだよな!?!?

 

「…!空風くん、どこに行くの!?」

「俺は、相澤先生の助太刀だ。お前らは避難しろ」

「そんな!いくら君が強いっていってもヴィラン相手に無茶だよ!それに今君はすごい熱があるじゃないか!」

 

緑谷、心配させてすまない。けど男には譲れない瞬間ってやつがあるんだ!

今しかない!

 

「俺のことは良い!みんなを連れて逃げろ!」

 

き、きまった~!

 

兄貴っぽい行動その3!「ここは俺に任せて先にいけ!」

 

階段を一気に飛び降りながら胸にこみあげてくる感動をかみしめる。

そう、俺はこういう感じのロールプレイングがしたかったんだ。

 

手になじんだ槍を召喚しながらヴィランの群れに飛び込む。

突然の乱入者に目を白黒させている間抜けを、まずは吹き飛ばしておく。

 

「加勢するぜ、先生」

「空風、このバカが…っ!あとで説教な!」

 

相澤先生と背中合わせになりながらヴィランと対峙する。

せいぜい俺の良い見せ場になってくれ、ヴィラン共。

 

 

 

 

◇SIDE:緑谷

 

思えばいつも空風くんには助けられてばかりいる。

入試の時も、普段の授業の時も、ずっと彼はみんなに優しい。

 

どうしてそんなに助けてくれるの、って聞いたら、俺は俺のやりたいようにしてるだけだって笑顔で返された。

根っからのヒーローなんだろうなって思うと同時に、僕らとは少し違う所を目指しているんじゃないか、とも思った。それが明確に何なのかは分からないけど───

 

 

「~っ!空風くん!」

「ダメよ緑谷ちゃん!今出ていったら私たちも…!」

 

血まみれになりながら、倒れた相澤先生の前に立ちふさがっている。あんなに傷だらけの空風くんは見たことがない。

 

ヒュー…ごほっ…中々やるなデカブツ。いいパンチしてるぜ」

「あー…ほんとに何なんだお前。本当に学生か?脳無に殴られてまだ倒れないのおかしすぎるだろ…」

 

口から血も吐き出して、足も震えている。それなのに不敵に笑って、相澤先生に攻撃が行かないように立ち回っている。すごい、あんなにパワー差があるのに、技術と速度でいなしてるんだ。

僕も、動かなきゃ…!

 

「けどもう限界そうだね。さっさととどめを…」

「死柄木弔」

「黒霧。13号はやったのか?」

「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒がおりまして。1名逃げられました」

「は?はぁ…。黒霧おまえ…お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ。…さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ。あ~あ、ゲームオーバーだ。帰ろっか」

 

帰る…?ゲームオーバー?なんだ?何考えてるんだアイツら。不気味なヴィランの思考が全く読めない。体が小さく震える。

 

「あ、そうだ。帰る前に平和の象徴としての矜持をへし折って帰ろう!」

 

言葉の意味を理解する前に、目の前に奴がいて。

蛙吹さんの顔に手が、伸びて、間に合わな───

 

「…ほんと、かっこいいぜイレイザーヘッド」

「俺も、忘れてもらっちゃ困るなっ!」

 

瞬きの間に、空風くんがヴィランとの間に割り込む。死柄木ってやつの手を狙って槍が振り下ろされるが、それより早く脳無の振り下ろした腕が迫る。空風くんは相打ちを覚悟の様子で躊躇なく槍をふるっている。このままじゃ空風くんが…。

 

そう思った瞬間、扉が吹き飛ばされる。ゆっくりと近づく影。

 

「わたしが来た」

 

 

「また、たすけられちまったな、オールマイト…」

 

安心したように笑う空風くんの顔が、印象的だった。

 

 

 

 

 

 

[雄英高校 体育祭]

 

 

◆SIDE:オリ主

 

はぁ、今回はどうするべきかな。開場のアナウンスと共に盛り上がる周囲を見渡しつつ、一人考え込む。

 

前回のイベントはすごく良かった。俺は最高に兄貴を遂行した。

主人公の前座として奮闘し、ほどよく負傷してボロボロになり、「僕より強い○○があんなにやられるなんて…!」的な絶望を主人公に与えることに成功した。これを糧にぜひ成長していってほしいところだ。

 

自分では気づいちゃいなかったが実は高熱だったらしい俺は、オールマイトが来た直後にぶっ倒れた。

怪我よりそっちの方が重症だっていうんだから笑い話だよな。

 

リカバリーガールに過労からくる熱だって診断されて、戦闘の無茶を説教してた相澤先生に更に追加で怒られた。理不尽。

生活費や何やらを稼ぐためのちょっとしたバイトで切羽詰まってるだけなのに。ひどい話だぜ。

 

さて。体育祭の話をしよう。

 

また俺のメタ読み…もとい推測になるんだが、今回は主人公の成長を示すイベントじゃないかと思ってる。

負けイベを経て、精神的に強くなった主人公が、体育祭で優勝することで世の中に存在感を示す。

 

俺はどうすべきか。例年の体育祭の傾向から見て、最終戦はトーナメントだろう。

…そこの決勝戦で緑谷と対戦出来たら熱くないか!?まだUSJ襲撃の怪我は残ってるが、いい具合のハンデになる。

 

接戦を繰り広げ、間一髪のところで勝利をおさめた主人公に感慨深そうに「強く…なったな」と声をかける!最高に兄貴っぽい!!

兄貴っぽい行動その4「主人公の成長を確認する」ができる!!!これだ!!!

 

そうと決まれば1回戦と2回戦辺りまでは順当に勝ち進んで、最終戦で主人公と激突だ!!

完璧なプランだな!!!

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

…どうしてこうなった?

 

オラァ!どうした槍バカ野郎!逃げ回ってばっかりじゃねぇか!!」

 

BOOOOM!!!いつもより盛大に爆破を繰り広げてくる爆豪から、バックステップで逃げ続ける。

場所は、最終ステージ、決勝戦の舞台。

 

…あるぇ?

 

「くそボケが!!俺と勝負しやがれこの野郎!!!!」

 

攻撃をしてこず、かわし続けるだけの俺に対し、苛立ちがピークに達した様子の爆豪。

おかしいな、俺の予想では今目の前に立っているのは主人公のはずだったんだが。

まさか轟と対戦して2回戦で負けるとは思わねえよなあ。まぁ、思い悩む級友のために死力を尽くして戦うのは大変主人公ポイントが高かったし良いんだが。

 

ここまで勝ち進んでしまった俺のポジショニングをどうするか、それが問題だ。

 

くるり。手の中で槍をもてあそびながら目の前の男を見る。

 

右に飛ぶとすかさず爆破の追撃。反射神経よし。

身をかがめてよけると足技が飛んでくる。身体能力も〇。

またもや右に飛んでよける…と見せかけて懐に潜り込んで掌底、は避けられる。判断力もよし。

 

俺の見る限りA組でもトップクラスで戦闘能力が高い。下位のプロヒーロー相手にでも後れは取らないだろう。人間性はどうかと思うが。

 

主人公とは幼馴染。普段のやり取りを見るに相当因縁が深そうだ。ポジション的にはライバル…なのか?

 

「ちょこまかと…!テメェどういうつもりだ、舐めプかオラ!!」

「悪ィな、ちょっと考え事があってな」

「あぁん!?試合中に悠長に考え事なんてしてんなボケ!」

「そりゃごもっとも」

 

仕方ない。腹をくくろう。

主人公のライバルが優勝するのもいい展開だ。が、今の俺の戦闘力が爆豪より下ということはないので、わざと負けるとなると何かしら理由が必要になる。いい言い訳が思い浮かばないから、ここは素直に優勝をいただいておくとしよう。

 

「時間を取らせた。俺なりに、覚悟を決める時間が必要だったんでね」

「…んなもん試合始める前に済ませとけ」

「はは、そりゃそうだ」

 

腰を落として槍を構える。スイッチが入ったことが伝わったのか、爆豪が一度大きく距離を取った。

 

「優勝はもらうぜ、クソガキ」

「誰がクソガキだこの槍バカ野郎がァ!!」

 

 

 

 

◇SIDE:others

 

 

 

「それではこれより!!表彰式に移ります!」

 

晴れた空に華やかな花火が打ちあがる。国民的一大イベントの締めくくりとしてふさわしい派手さ。

 

「何アレ……」

 

耳郎が思わず戸惑いの声を上げる。視線の先には表彰台の上で拘束をされながらも暴れる爆豪の姿があった。

 

「起きてからずっと暴れてんだと。しっかしまー、締まんねー2位だな」

 

無表情の常闇と轟、暴れる爆豪、笑顔で観客席に(恐らく女性だけに)愛想を振りまく空風。表彰台の上はカオスと化していた。

 

A組がひそひそと雑談を交わす間にも式は進行する。すべての競技が終了した会場は、どこか祭り終わりのような寂しげな余韻を漂わせながらも、先ほどまでの熱狂を引きずっている。

 

「今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」

「私が!!! メダルを持って来「我らがヒーローオールマイトォ!!」た」

 

猛烈にカメラのフラッシュが焚かれる。登場台詞がカブったせいで、飛び降りてきたオールマイトは小刻みに震えていた。ミッドナイトがごめんなさい!と両手を合わせる。

 

オールマイトと各々が言葉を交わしながら、その首にメダルがかけられる。

いいなぁ、と羨望のまなざしで見つめながら、A組の視線は自然と1位の男に吸い寄せられた。

 

「すごかったね、決勝戦」

「最初、空風くんが防戦一方だったからどうなっちゃうのかドキドキした!」

「なんか途中から急に攻撃し始めて、そこからはあっという間だったね」

「爆豪の動きもやばかったけどよォ、空風はなんつーか、別次元って感じだよな」

「わかる!動きがその辺のプロよりなんかもうすごいもん」

「どれだけ努力したら独学であんなに強くなれるんだろうね」

「ねー」

「けどあの強さなら最初から爆豪に勝てそうなのにな。なんであんな苦戦してたんだ?」

 

一同の頭に思い起こされるのは先ほどの決勝戦。

序盤は防戦一方だった空風が、途中からは勢いづいて戦い、見事な槍術で優勝にたどり着いた瞬間だ。

 

「…おそらく、待ってたんだと思いますわ」

「待ってた?何を?」

 

八百万が考え込みながらつぶやく。芦戸を含め数人が首を傾げた。

 

「爆豪さんの個性は掌の汗腺からニトロのような汗を出し爆発させる『爆破』。体が温まれば温まるほど威力を増す、いわばスロースターターな個性ですわ」

「つまり爆豪が一番いいコンディションになるまで待ってたってことか!?…ナンデ!?」

「それは私にも分かりません。ただ、勝利するだけではなく、完璧な優勝を目指されていたのでは、とは思いますわ」

 

空風が何か秘密を抱えていることは、この短い付き合いでもA組は理解していた。

プライベートも、これまでの過去も自分からは何も話さない。

いつも明るく笑う彼が、あの歳であれだけの強さを手に入れるのにどれだけ苦労してきたのかも、分かりはしない。唯一本心らしい言葉を見せてくれたのも、USJに向かうバスの中、あの一時だけ。

 

襲撃の際も一人だけ広場に残り、ヴィランと戦った彼は何を思っていたのか。

 

初めて直面したはずの命の危機に、誰もが恐慌状態に陥っていた。にも拘わらず、彼だけがみじんも臆することなく、戦いの場へと赴いたのだ。いくら強いと言ってもまだ高校生だ。なぜそんなことが可能だったのか。疑問は増えるばかりだった。

 

 

「なぁ先生、ちょっと時間が欲しいんだけど許してくれねぇか」

 

オールマイト用のマイクに、空風が話す言葉が入り会場に響く。

A組の視線の先では、いつも柔和に笑う彼が真面目な顔をして、目の前のヒーローを一心に見つめていた。

 

首には先ほどかけられたのだろう、金メダルが光っている。

 

「いいとも空風少年!どうしたんだい?」

「覚えちゃいないかもしれないが、俺ァ子供のころ、あんたに命を救われたことがある」

「…!もしかして君は、6年前の」

「おぼえて、くれてるのか。あんな無力だったガキのことを」

 

突然始まった独白に、会場中の注目が集まる。

会場にいる多くの者にとってはエンタメなのだろう。心持ち、ワクワクとした表情で大画面を見つめている。

 

雄英体育祭の優勝者ともなれば、将来トップヒーローの仲間入りをすることが確実。

そんな男が表彰台にたって、No.1ヒーローに向かってする話など興味を持たないはずがない。

 

「住み慣れた家も、家族も、何もかもなくした俺にとっちゃ、あの時抱いた夢と、あんただけが生きる希望だった」

「空風少年…」

 

オールマイトの脳裏に蘇るのは6年前の記憶。AFOと対峙し、自身も重傷を負った戦い。

街中を避け、人気のない郊外で行われていたはずの戦闘は、途中から苛烈さを増し、とある一軒の民家を巻き込んだ。

 

なぜ今の今まで気が付かなかったのか。胸の中で自嘲する。

 

血まみれの、すでに息絶えた両親を背に、果敢にも武器を構えていた小さな少年の姿が思い出される。

あの頃から同い年に比べてはいい動きをしていたが、AFOに敵うはずもなく吹き飛ばされた彼を、どうにか救い出したのだったか。

 

内臓をいくつも失い、大手術を繰り返さなければならない容態だった自分は、少年が一命をとりとめ、親戚に引き取られたところまでしか確認していなかった。

 

「…大きくなった」

 

感慨深い気持ちで見つめると、空風はその視線を受けて照れ臭そうに笑った。

 

「爆豪と戦いながら、覚悟を決めた。今日この場であんたに恩返しを誓いたい」

「恩返しだなんて。わたしは君の両親を救えなかった…」

「いいんだ。それは、俺の弱さだから」

 

再び表情を引き締めた空風が、申し訳なさそうな表情で沈鬱に俯くオールマイトの視線に合わせるように、突然ひざまずいた。

驚いた様子のオールマイトを視線で留めて、息を吸う。

 

「我が名は空風凛。またの名を光の御子クー・フーリン。貴方に救われたこの命をもって、貴方と貴方が愛する全てを守り抜くと誓おう」

 

誰もが息を呑んだ。

体育祭優勝者が語る自身の過去。オールマイトも関係する事件の記録。

好奇心を持って耳を傾けていた聴衆が、突如宣誓された誓いに、そこに込められた真剣な思いに、言葉をなくす。

 

その姿は主君に傅く忠実な騎士のようであり、また神に祈る敬虔な信者のようでもあった。

 

オールマイトを見れば誰もが口をそろえて「最高のヒーロー」だという。助けを求める市民の声に誰よりも早く、確実に、鮮烈に答え続けた男が刻んできた道だ。

 

「平和の象徴」としての彼は守ることはあっても、守られることはない。

 

しかし、輝かしいこの表彰台のうえで、凛とした目で少年は誓った。

 

俺は、あんたを守れるヒーローになる

 

それが俺の恩返しだ。

そう言葉を締め括り、先ほどまでの鋭い表情をにっこりと緩めた。

 

「畳の上で大往生させてやる。覚悟してな、オールマイト」

 

瞬間、止まっていた時が動き出すかのように、会場が拍手喝采に包まれる。

No.1ヒーローに対しての挑戦状とも言える誓いに、誰もが新たな時代の幕開けを幻視した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆SIDE:オリ主

 

ちょっとカッコつけすぎたかなぁ!?なんだよ「またの名を光の御子クー・フーリン」て。なんの中二病セリフだよ!!

後になってじわじわ羞恥心来てるぞこれ!!!

主人公差し置いて優勝したからには、何かしら物語に進展持たせないと、って焦りすぎた。

あんな過去回想とかいれるつもりなかったのに…!!

兄貴キャラっていうのはあくまでも主人公のサポート的な立ち位置なのに!出しゃばりすぎた!

 

穴があったら入りたい!!!死!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

[いろいろダイジェスト]

 

 

【ヒーローネーム】

 

「空風くん、もう考えた?」

「おう、これにする」

「『ランサー』かぁ」

「確かに空風くんの戦い方は槍を主体とすることが多いからぴったりの名前だね!でも個性が武器生成ってことは槍以外も作れるんじゃないかな!?だとすると状況に合わせて臨機応変に多様な武器で戦うヒーローとしての名前を考えるのもありかと思うけど…!」

「うるっせェよクソナード!この槍バカ野郎が他の武器で戦うなんざ器用なまねできるわけねえだろうが!」

「お褒めの言葉どうもクソガキ。こいつの言う通り、俺は槍一筋なんでね。これを極めることにするさ」

 

 

【職業体験】

 

「ほんといい女だなァ、あんた」

「ケツの青いガキが。あたしを口説こうなんざ10年早い」

「へいへいお姉さま、申し訳ありませんでした。で?次はどこにパトロールに行くんだ?」

「保須市だな。ヒーロー殺しの目撃情報がある」

「…ここ九州だぜ?どれだけ離れてると…」

「あの決勝戦でのギラついた眼はどうしたランサー。指名を出したことを後悔させるんじゃねェぞ」

「だー!もうわぁったよ!走りゃいいんだろ!」

「いや、普通に飛行機のるぞ」

「~!!!」

 

 

【VSステイン】

 

「お前は、いい。本物の英雄だ」

「ハッ、そりゃ光栄なこって」

「なぜ贋物を守る。お前の守るべきものは他にあるはずだ」

「俺は誓いを決して破らない。オールマイトが手を伸ばすであろう物は、俺が守るべきものだ」

「…バカめ」

 

 

 

【期末試験】

 

 

「空風クン。雄英高校ヒーロー科の教師陣は大抵がヒーローなんだよね」

「んぁ?まあ、そうだろうな」

「そしてこの国でヒーローになる人っていうのは大抵オールマイトを尊敬している」

「おう」

「今回の試験内容を考えるときにね、みんなが『オールマイトを守るとか大口叩くほど実力があるのか試してやる』って意気込んじゃって」

「へぇ…はぁっ!?」

「というわけで君への試験はこれなのさ!ボクとオールマイトを除くヒーロー科教員全員との対決!」

「ちょっと冗談きついぜ校長先生…!」

 

 

 

【林間学校】

 

「俺が思うに、お前の個性はただ武器を作るだけのものではないと思う」

「ん?そうなのか」

「現に俺が個性を発動しているのにお前の槍は消えていない」

「あぁ、確かに」

「…緑谷が、体育祭でお前が言っていたクー・フーリンという名前。ケルトの大英雄となにか関係がある個性じゃないかと」

「へぇ…。この体そのものが異形型の個性ってことか」

「分からんがな。また、病院で詳しく検査を受けると良い。今回の林間学校で本当の個性の形をつかめ」

 

 

 

 

 

[神野の悪夢]

 

 

◇SIDE : others

 

 

林間学校にて攫われた爆豪の救出作戦は、概ね成功に終わろうとしていた。

 

「いいか、俺ァ助けられたわけじゃねえ。一番良い脱出経路がてめェらだってだけだ!」

「ナイス判断!」

「オールマイトの足引っ張んのは、嫌だったからな」

 

救出に来た面々に、爆豪を加えたメンバーが無事に市街地に着地する。お互いの無事を喜びながらも、全員の視線は今もなお戦うオールマイトを中継するモニターにくぎ付けだ。

 

『まさに悪夢のような光景!突如として神野区が半壊滅状態となってしまいました!現在オールマイト氏が元凶と思われる敵ヴィランと交戦中です!信じられません!敵ヴィランはたった一人!街を壊し!平和の象徴と互角以上に渡り合っています!』

 

ボロボロになりながらもAFOと死闘を繰り広げるオールマイト。町の人々も不安そうに声援を送っている。

 

「大丈夫かなオールマイト…!」

「ばっか、オールマイトが負けるわけないだろ!」

「けど強すぎるぞあのヴィラン」

 

ひそひそとモニターを横目に言葉を交わしていると、ふと周りを見渡した爆豪が緑谷に問いかける。

 

「…おい。槍バカ野郎はどうした」

「え、空風くんなら八百万さんたちと避難してるはずだけど」

「…ならいい」

「おい、あのモニターに映ってるのって…!!」

 

緑谷の言葉に爆豪が肩の力を抜く。その時、切島が駅前のモニターを指さした。

 

 

「空風じゃねぇか!?」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

瓦礫の山と化した神野。因縁のある二人がぶつかり合い、その余波だけでまた一つ、また一つと建物が崩壊する。

 

げほ…っ!

「どうした、随分苦しそうじゃぁないかオールマイト。そろそろ限界かい」

 

残り火で戦うたびに、自身の命が削られているのをオールマイトは感じていた。

それでも、AFOだけは…この巨悪だけはここで倒さねば、後世にどれほどの血が流れるのか。

 

目の前で悍ましい姿で嗤う男の凶悪性は、本人の個性の強力さだけではない。

この男は、人を悪の道へと引きずり落とす。人生の岐路に立ち、苦境にあろうと立ち上がろうとする人の心を手折る。

 

「本当に君は似ているよ──ワン・フォー・オール先代継承者、志村菜々に」

「はっ!貴様の汚れた口でお師匠の名を出すな!」

「理想ばかりが先行しまるで実力の伴わない女だった。ワン・フォー・オールの生みの親として恥ずかしくなったよ。実に恥ずかしい死にざまだった。どこから話そうか?」

Enough!

 

今もこうやって、人の心のいっとう柔らかいところを鑢掛けするように悪辣な言葉を放つ。

感情のままにこぶしを振りかぶった瞬間、またもやあの空気砲が放たれた。

 

「うっ、がはっ」

 

吹き飛ばされた勢いのまま、オールマイトが報道ヘリにぶつかりそうになる。

グラントリノが横合いから蹴り飛ばして軌道を逸らそうと飛び出しかけた瞬間──それよりも疾く青い影が通り過ぎた。

 

オールマイトを抱え込み、地面に重力を感じさせない様子で降り立った影が、AFOとの間に壁として立ちふさがる。

 

「なぜ、君がここにいる…!空風少年!」

 

「俺は誓ったはずだぜ、オールマイト。あんたとあんたの大事なもん、全部守るってな」

 

こおん。愛用の槍が、空風の言葉に応えるように澄んだ音を響かせる。

 

「つーわけで、お前を倒しに来たぞ、悪の親玉どの」

「おや、そこにいるのは…空風凛。ちょうどいい、君にも話が聞きたかった」

 

AFOの間合いに入った今、下手な動きはできない。オールマイトは歯噛みしながら、力を尽くして立ち上がる。

 

「ダメだ空風少年!こいつの言葉は聞いてはいけない!」

「ひどいことを言う。僕はただお話ししようと言ってるだけなのに」

「坊主!俊典の言うとおりだ!そいつと会話してはいかん!」

 

状況を見守っていたグラントリノも遅れて駆け付け、どうにかこの場からもう一人逃げ遅れていたらしい子どもを逃がせないかと探り始める。

 

「反吐が出るような悪党とかわす口はもたねぇ…が、お前、俺の両親の敵だろう?」

「へぇ、覚えていたか」

「忘れるはずもない。俺の罪の象徴だ」

 

だから、お前は今ここで、倒す。

多くは語らず、返事のように個性が発動される。

 

ヒュン、鋭い音と共に槍が振り抜かれる。予備動作のない神速の一撃は、しかし当たらない。

 

「おぉ、怖い。しかし行儀正しいことを言いたくはないのだが…君はまだ公に個性を使えない身なのではないかね?いいのかな、生中継されている中で。天下の雄英生が堂々の法律違反だなんて」

 

息をするように挑発を繰り返すAFO。

神野から遠く、画面の前で彼らを見つめる相澤は、敵の言葉に頷くのは癪だが、その通りだから今すぐ帰ってこい!と拳を握りしめていた。

 

「いいや?俺は誓って悪いことはしていないぜ。ヒーロー免許なら3年前から持ってる」

「空風少年そうなの!?」

「おう。ヒーロー名はそのままランサー。まぁ活動は裏でやってたし、顔も名前も出したことねぇけど」

 

学校にすら申告していなかった秘密が、軽い調子で暴露される。その最中も振るわれ続ける槍。

 

「3年前…あぁ、僕のアジトを細々潰して回ってるの、もしかして君だったのかな」

「今の今までバレていなかったとは、俺の隠密行動も中々のもんだっ!」

「そんな危険なことしてたのか空風少年!」

「まぁ、生活費稼ぐ上でも助かったし、雇い主(公安)には感謝してるんだぜ俺は!いい修行にもなった、し!」

「独学で鍛えたってそういうことォ!?」

 

喋るたびに一々オールマイトからツッコミが入る。

ただ小さな声で空風がつぶやいた「裏で主人公サイドのために暗躍してるのも最高に兄貴ポイント高いだろ!」という言葉は誰にも聞こえなかったらしい。

 

「なるほどね」

 

少し苛立った様子でAFOが個性を振るう。先ほどまで猛攻撃を繰り広げていた空風も、強い衝撃波に吹き飛ばされて後ずさった。

 

「随分コソコソと邪魔をしてくる奴がいると思ってたけど、こんなに若い正義の芽だったとはね。見つけられないワケだ」

「研究施設らしい施設は全部ぶっ壊してやったからな。ザマーミロってんだ」

 

ぺっ、と口内に溜まった血を吐き出し、不敵に笑う。

正体不明のヒーローに、脳無を生産する施設の実に6割を損壊されていたAFOは、ピキリと顬に血管を浮かせた。

 

「まあ、いい。今は君よりオールマイトだ。そこをどいてくれないか」

「素直に聞くわけがないだろ」

「いや、君はもう下がりなさい空風少年!あとは私に任せたまえ!」

 

先ほどまで苦しげに息を吐いていた様子など微塵も見せずに、オールマイトが笑う。これまで何度も、国民を励まし、平和な世へと牽引してきた笑顔だ。

眩しげにそれを見やった空風は、オールマイトが平和の象徴と呼ばれる所以を目にして、決意を新たにする。

 

「俊典、ここまであの坊主と奴との戦いを観察していたが、前とは戦法も使う個性もまるで違うぞ。正面からはまず有効打にならん、虚をつくしかねえ!」

「はい…!」

 

「少し悩んでいるよ。弔がせっせと崩してきたヒーローへの信頼。決定打を僕が打ってしまってよいものか」

 

まるで道化師かのような大げさな声で、AFOが悩ましくぼやく。

 

「君が僕を憎むように、僕も憎いんだぜ?僕は君の師匠を殺したが、君も僕の築き上げて来たものを奪っただろう?だから君には、可能な限り醜くむごたらしい死を迎えてほしいんだ」

「~!でけえのがくるぞ!よけて反撃を!」

「よけていいのか?」

 

テレビを見ていた人にとっても。その場にいた面々にとっても。一瞬の出来事だった。

 

「君が守ってきたものを奪う!」

 

逃げ遅れた女性。

逃げる選択肢をなくしたオールマイト。

引き返すグラントリノ。

振りかぶるオール・フォー・ワン。

 

そして、立ちふさがった空風凛。

 

どぉぉぉぉん。

 

地軸もろとも引き裂くような轟音と共に、土煙が立ち上る。

あたり一面が覆い隠された。まだ誰も状況がつかめていない。オールマイトは無事なのか。逃げ遅れていた女性は。一体あの中で何が。テレビの前、全国の国民が前のめりに画面をのぞき込んだ。

 

そして。ふわりと舞い上がった煙が、風に飛ばされた瞬間。

誰もが息をのんだ。

 

「…はは、こんどは、まもれた」

 

蒼い彼のヒーロー衣装が、紅く、染まる。

胸にぽかりと空いた空洞が、空気を通して寒々しい音を立てた。

 

「そ、らかぜ、少年…」

 

呆然と、オールマイトの口から彼の名前が零れ落ちる。

後ろに守った人に傷が増えていないのを見て取って、安心したように彼は微笑んだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

空風くんっ!そんな、嘘だ!だって、

 

駅前の画面の前。映し出された光景に緑谷が声なき悲鳴を上げた。

周りの聴衆も大きな悲鳴を上げている。

 

緑谷の隣に立つ爆豪も、呆然とモニターを見上げていた。

 

『今度は守れて、良かった』

 

実際には聞こえない音声が、幻聴として頭に響く。実際にそういったんじゃないかって思えるくらい、地面に倒れこんだ彼の笑顔は満足そうで、嬉しそうで、

 

「デク」

「どうしようかっちゃん、空風くんが」

「おいデク」

「あんな大けが!いくら空風くんでも早く助けなきゃ、大変なことに」

クソデク!目ェそらすな!

 

大きな声で怒鳴る爆豪に、周囲の視線も集まる。恐慌状態で下を向きつぶやいていた緑谷の視線も、その声につられてゆるゆるとあげられた。

無言で指をさされる。目をそらすなと、再度言われた。

 

画面の中では、オール・フォー・ワンが可笑しそうに大笑いしている。

 

あぁ可笑しい!なんて惨めなんだオールマイト!守るべき生徒に守られて!その命を無駄にしてこれから君も同じように死んでいくんだ!!!』

 

オールマイトが呆然と膝をついて、胸に空いた穴から血を流す空風を見つめている。

緑谷も、倒れ伏す彼の姿をじっと見た。

 

即死だ。

医療に心得がない者でも一目見ればわかる。

胸にぽっかりと大きな穴が開いて、ダクダクと命の素が流れ出している。

心臓を貫かれては、誰も、生きていられない。

 

あたり一面の血の海までは、直視することができなかった。

 

 

『…空風少年。この戦いが終わったら、君の死を悼ませてほしい。それが私にできる唯一の償いだろうから』

『はっはっはっは!まだ立ち上がれるのかオールマイト!』

 

胸の痛みを、一瞬のうちに抑え込んだオールマイトが立ち上がる。

まだマッスルフォームは解けてはいないけど、満身創痍だ。

本来ならもう限界のはずの時間を、空風くんが稼いだんだ。

 

緑谷は、まだ動揺する心を無理やり押さえつけた。涙は零れてとまらない。けど、まだオールマイトが戦っている。

 

がんばれ!

聴衆から自然と上がった声に、緑谷もあわせた。

 

がんばれ、がんばってオールマイト。

 

聞こえない筈の声に背中を押されるように、死力を尽くして戦うオールマイトの姿。

 

その後ろに、ゆらりと影がうごめいた。

 

 

 

 

[夢の果て]

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「ははは!もう限界だろうオールマイト!心も体も!目の前で生徒を亡くし!弔の正体も知ってどんな気分だい?」

 

声がきこえる。吐き気を催す邪悪な声だ。おれが、命を懸けて倒すべき巨悪。

 

「あああ…あああああああっ!!!」

 

慟哭がきこえる。おれが命を懸けて恩を返すべき人の、悲しい声が。

 

立ち上がらねば。俺はなぜ倒れている?

…あぁそうだ、オールマイトを、庇って。心臓に穴が開いてる、はは、笑える。

 

奴は今、油断している。

背後に敵がいるだなんて、思ってもいない。

それも当然だ。心臓を貫かれてなお動ける人間がいるなどとは、だれも思わない。

 

これを、千載一遇のチャンスと呼ぶのだと、おれは知っている。

 

じゃり、靴裏が立てた音に奴が振り返る。

 

「…?…ッ!馬鹿な!なぜ生きている!!

「っ、空風少年…!!!!」

「…戦闘続行Aは伊達じゃねぇんで、なっ!」

 

所謂「往生際の悪さ」そのものであるスキル。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能となるクー・フーリンの能力。

林間学校で個性を伸ばすときに気づいた。相澤先生の言うとおり、おれの個性はただ武器を作るだけのものじゃない。俺が前世で知ったFateのクー・フーリンが出来る事は実現可能にする、異形型の個性。

原作の彼と同じように戦闘が続けられるかは、正直賭けだった。が、どうやら俺の勝ちらしい。

 

神速で生成するのは愛用の槍、ゲイボルグ。

こぉん。朱く鈍い光を放つ一条の槍が、澄んだ音を鳴らせて振りかぶられる。

 

「その心臓、貰い受ける!『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』!!」

 

今までで一番早く槍をくりだす。この一撃に、すべてを込める。

 

「個性『障壁』に強化+『回避』に速度を追加っ…!?ガッ…!!ばがな゛っ…!」

 

個性をいくつも発動したオール・フォー・ワンが、驚愕に顔をゆがめる。

防御も回避も強化も、この槍の前にはすべて意味がない。槍に穿たれた心臓が、回復の個性の効果すら受け付けずに、急速にその機能を停止させる。

 

因果逆転の呪いによって、予め「心臓に槍が命中した」という結果を先に作る必殺技『死棘の槍』。どうやらこの世界の悪の親玉にも有効らしい。

 

確実に、息の根を止めた。

ああ、やった。やってやった。家族の敵を討った。

 

「この男は、俺が地獄まで連れていく…あんたは畳の上で大往生しろよ、オールマイト」

 

「ダメだ!逝かないでくれ空風少年…!生きるのをあきらめるな!」

 

この世界に来て、何も分からず右往左往し。

素晴らしい両親に愛されて。

奪われて。

新たな(オールマイト)を見つけて。

夢を目指してまた努力し始めて。

俺が輝かせるべき主人公と出会い。

 

そして今。

兄貴っぽい行動その6「主人公サイドのために華々しく散る」を最高の戦果と共に達成した。

ああ、なんて満ち足りた気分!

 

「いい、人生だった、なあ」

 

俺の理想の兄貴ロールプレイング、これにて終了!!

 

 

 

 

 

 

 









・空風凛(そらかぜ りん) クー・フーリンをそれっぽい漢字にしただけ

作中ずっとSAN値10くらいだった狂人。理想の兄貴ロールプレイでAFOへの憎しみを何とか紛らわせてた。
自分の考えが優先で周りへの心理的被害を一ミリも考慮していないアホの子。
本人はいたって楽しく理想の兄貴ロールをしているが、周りが深読みして勝手に勘違いしている。
神野で亡くなった後、それらの勘違いが集約されて、さらなる地獄を生み出す。

ex) 葬式にて
緑「前に空風くん、弟がいたって、言ってたんだ。でも今日、後見人だっていう人に聞いたら、彼に弟はいません、って…」
蛙「…まだ戸籍に乗っていなかっただけじゃないかしら、ケロ」
切「それってどういうことだ?」
八「あぁ…。なるほど。つまり、お母様のお腹の中に、その、弟さんがいるときに、事件が起きたのではないでしょうか」
緑「…ッ!だから、お兄ちゃんぽいって言われる度に、あんなに嬉しそうに…」

※そんな事実はない


ex)遺品整理
爆「…まさかこれで全部か、荷物」
緑「みたい、だね。…少なすぎる。まるでいつでも死ぬ準備ができてたみたいな…」
爆「みたいじゃなくて実際にそうなんだろうが、クソっ」
飯「…ん?これは、遺書?」

※「これを読んでいるころ、俺は既に死んでいるだろうが」の書き出しをやりたいがために執筆した手紙。深い意図はない。読んだメンツは心が死ぬ


…みたいなね!

もともとはランサーっぽい能力で夢主が活躍する小説を書きたい!で始めましたが、段々方向がずれて最終的にはこうなりました!いろいろおかしな点や矛盾点あるかと思いますが、目をつぶっていただけるとありがたいです。





Q.オリ主死にましたけど、続きがあるんですか?
A.あります。本編8、番外編2の軽10話あります。
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