クー・フーリンのスペックで転生した僕がヒロアカ世界で理想の兄貴になる話   作:佐久間2525

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第三話 うわ出た

 

 

 

 

[燃え尽き症候群]

 

 

 

◆SIDE:オリ主

 

 

唐突だが。

 

一概に二次元オタクって言ってもさ、萌えるポイントは色々あるよな。

 

例えばキャラ同士の関係性に萌えるやつ。

いがみ合う生徒会長と風紀委員長。先生と生徒。幼馴染の二人。あの視線に込められた意味って…?手つないでるってことはもしかして…!

と、キャラ同士のやり取りを想像してはニヤニヤするタイプはここだ、多分。

 

あるいは属性に萌えるやつ。

メガネ、ドジっ子、ツンデレ、クール、穏やか、熱血、髪色、体型。

キャラを構成する様々な属性そのものに萌える人。

今まで好きになったキャラを並べてみたら、こいつら似てね?となる人はこのタイプかもしれない。

 

あとはシチュエーションに萌えるやつ。

相合傘、壁ドン、片方ずつ分け合うイヤホン、クーラーの利かない真夏のアパートで鳴る風鈴。

どのキャラだとしてもそのシチュエーションにいるだけで萌え!っていう人はここかな。

 

俺は何に萌えるタイプなのかって?

 

これだけ『理想の兄貴』を求めてるんだから、『兄貴』という属性に萌えているんじゃないかと、人は思うんだろう。

 

多少はそれもあるんだろうが、正確には違うと思う。

 

おそらく俺は『燃え』に萌えるタイプだ。

 

『燃え』とはなにか。

 

主人公のピンチに駆けつけるライバル。

師匠の死によって覚醒する主人公。

弱虫だったキャラが勇気を振り絞って立ち上がる瞬間。

 

ああ、想像するだけで胸が熱くなってきた。みんな好きだろ、こういう展開。

 

そう、物語を激動させる熱い展開こそが燃え。

キャラの関係性も、属性も、シチュエーションも。あくまでも物語を構成する設定に過ぎない。激動し、展開し、心を動かした先にこそ『燃え』があるのだ。

 

 

 

──長々と語ってしまったが、つまり何が言いたいのかというと、だ。

 

「燃え尽き症候群、ってやつか…」

 

俺は今、燃え尽きている。

 

考えてもみてほしい。

 

AFOとの戦い。あれは兄貴キャラとして最高の幕引きだった。

 

主人公より一歩先を行く兄貴キャラとしてイメージづけたあと、No1ヒーローを庇って一度は倒れ伏す。それでも家族の敵を討つため、なによりオールマイトを守るために立ち上がり、強大な敵を倒して死亡。

 

文句のつけようがない。実に熱い展開だ…!

 

その後、サーヴァントとして召喚されたのも、まあ良しとしよう。かつての仲間が敵サイドに。いい展開だ。

成長した主人公に倒されることで正気に戻る。excellent!!

 

そのまま消えずに残る。そして再び日常パートへ。今ココ。

 

…なんで?

 

良い流れできてたのにさァ、どうしてくれんの身の置き場に困るこの現状。

オールマイトが息子になれとかさ、相澤先生が雄英もう一回通いなおせとかさ、いろいろ言ってくるけど。気まずいワケ普通に。めちゃくちゃカッコつけて死んだのに今更どう振る舞えって感じだよな。

 

俺はヒロアカについては良く知らない。

分かっていたのは、主人公がなんやかんやあって最高のヒーローになる物語だということくらいだ。

で、聞くところによると俺は、死んでからちょうど十年たったその日に、ヴィランの個性で召喚されたらしい。

…これ確実にもう本編終わってるよな?主人公、最高のヒーローになってるもんな?

 

俺にどうしろと…。

 

ここから激動の展開など期待できるはずもない。世の中が平和になったのはいいことだ。だが、その世界で自分を活かせる気がしない。

 

「ハァ…」

 

つい愚痴が長くなってしまった。

 

『燃え』を失った俺は、もはや燃えカス。

理想の兄貴ムーヴにも限界がきている。

 

…なんか出来るだけ自然な形でフェードアウトしてぇなぁ…。

 

 

 

 

 

 

[そして生まれる勘違い]

 

 

◇SIDE:緑谷

 

3年A組のドアをノックする。顔をのぞかせると教室で弁当を食べている数人の生徒たちが、キョトンとこちらを見つめていた。

 

「空風くん。またお昼ご飯食べてないってランチラッシュから聞いたけど…ってあれ」

「あ、デク先生だ」

「空風さんなら授業終わってすぐどっか行ったよー」

「そっか…。ありがとうね、みんな」

 

またいったいどこに行ったんだか。心当たりの場所に足を向けながらため息をつく。

 

昼休み。

食堂へと我先にと駆けて行った生徒たちを横目に、職員室に戻って弁当を食べていた時のこと。

怒り心頭といった様子のランチラッシュが「空風くんはいませんか!」と乗り込んできた。

 

話を聞くと今の自分に食事は必要ないと言い張る空風くんに、昼ご飯だけでも食べに来るように重々言い聞かせたのにも関わらず、また食堂にこなかったとのことだ。困ったなぁ…。

 

彼と奇跡的な再会を果たして2週間。

 

彼は今一時的に雄英ヒーロー科3年A組に所属している。相澤先生が担任するクラスだ。

空風くんの…死亡時の年齢から考えて1年生にすべきではと言う意見もあったが、プロヒーロー並みの戦闘力や判断能力からして、相応しくないと却下された。相澤先生は「倫理を叩き込んでやる」と息巻いていたから、特別カリキュラムでも組むつもりなのかもしれない。

 

空風くん本人は「なんでまた学生しなきゃいけねぇんだよ…」とボヤいていたが、16歳の時に死んでおいて何を、と相澤先生と僕と校長先生とで押し切っておいた。なにが「また」だよ。一緒に卒業してくれなかったくせに…。

 

少し昏い目をしてしまっていたのか、通りすがりの生徒に心配されてしまった。

笑ってごまかしながら「空風くん知らない?」と声をかけるも、見てないと言われてしまった。

あれだけ目立つ風貌で人目につかないわけがない。

さてはまた霊体化とやらでまた透明になってるな?まったくもう…。

 

「おーい、空風くん?」

 

屋上の扉を開く。危ないから普段生徒は入れない場所。

見上げると雲一つない晴れ空だ。風も緩やかに吹いていて気持ちがいい。

 

「いい天気だね」

「…なぁんでお前には毎回居場所がバレるんだろうなァ」

 

誰もいない空間に向かって声をかけると、ぼんやりと空気が滲んで、蒼色の髪が揺れた。

屋上の一番高いところで寝そべっていた彼は、じっとりとした目で僕を見ている。

 

「空風くん、高いところ好きでしょ」

「んぁ?まぁ言われてみればそうかもしれねぇな」

「そういうとこ何個か探せばいるからさ」

「なるほどな。ところで、立ち入り禁止のとこに入ってる生徒を叱らなくていいのか緑谷センセイ?」

「何言っても今更でしょ、君には」

「まぁ転落したところで死にゃしないしなァ」

 

また、そういうことを言う。

彼にはバレないようにギュッと唇を噛み締めた。

 

「ランチラッシュが怒ってたよ」

「飯食えって?」

「分かってるならさ…」

「俺が食っても無駄になるって先生に教えてやってくれよ」

「…でも食べられるんでしょ」

「だぁっ、お前まで同じこと言いやがる」

 

忌々しげに呻いた空風くんは、両手両足を大の字に広げて空を見上げている。瞳には昔みたいなギラギラとした闘志がなくて、ただ何もかもをあきらめたような無気力な色がそこにはあった。

 

どうにも彼が生きたがっているように見えない。

ここ最近の僕らの悩みだ。

 

「あと5分で授業だよ」

「こっから15秒もありゃ教室まで戻れっから大丈夫」

「廊下は走っちゃいけません」

「先生みたいなこと言うなよ緑谷…」

「れっきとした先生だよ僕は!」

 

空風くん。

今ならわかるんだ。

学生の頃の君から感じられていた強い意志は、すべてオール・フォー・ワンに復讐するための気持ちだったんだろうって。十歳のころに全てをなくした君にとっては、復讐だけが生きる理由だったのかな。

だって君、あんなに満足そうな顔をしながら死んでいったものね。僕らを置いて。

 

今の君は空っぽだ。

体を突き動かしていた強い気持ちがなくなって、伽藍洞みたいにみえる。

 

「今日、お弁当作りすぎちゃってさ。このまま捨てちゃうのも勿体ないから、空風くん食べちゃってよ」

「…お前も強かになったんだなァ」

「君より10歳年上になっちゃったからね」

 

それでもいい。

君が生きていてくれたら、まずはそれだけで。

生きる目的は僕らとまた見つけていこう。

ね。空風くん。

 

 

 

 

 

※オリ主は理想の兄貴ムーヴやり終えて燃え尽きているだけなので、そんな深刻な話ではない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[最悪の出会い]

 

◆SIDE:オリ主

 

俺の趣味に釣りができた。

前世では別に好きでもなんでもなかったが、今世は体に引っ張られるのか素潜りも山登りも釣りも好きだ。最近知ったことだけどな。

 

海に糸を垂らしてのんびりと黄昏れる。長い堤防の端まで歩いてきただけあって、周囲に人気はない。

本日の成果はまだ0匹だが、まぁこんな日もあるだろう。早朝に出て来たのに、随分と日が高くなっている。そろそろ引き上げるか。

 

最近、少し出歩くだけでオールマイトがうるさいんだよな。どこ行ってたのとか、怪我はないか~とか。ちょっと過保護すぎねぇ?

通りすがりにちょろっと強盗犯とかぶちのめしただけで「危ないことはダメ!」だと。俺のこと5歳児だとでも思ってんのかね。元雇い主のとこに行ってヒーロー活動でも再開するかと思っても、ストップかけられてるっぽいし。なーんも出来やしねえ。

 

「はぁ~」

「どうされましたかな。大きなため息をつかれて」

 

俺の兄貴キャラとしての威厳は地に落ちたんだろうか。悩みつつ片付けを進めていたからか、近くに人がきていることに気が付かなかった。しゃがんだ状態からそばに立つ男を見上げる。

 

「あぁ、いや別に…ってゲェッ!?

 

この死んだ魚のような目!死神のような真っ黒なカソック!腹に響く低音のCV中田〇治ボイス!!

 

「言峰綺礼!?」

 

生まれながらの破綻者。人の不幸がなければ幸福を感じることができない。神を信じて仕え、人並以上に道徳や倫理を理解し、それが正しいと思いながらも、自らの生まれついての悪への嗜好を満たす為に行動する。悪党ではないが悪人、非道ではないが外道。

 

…的な紹介をされるクソ外道神父じゃねぇかなんでヒロアカ世界にいる!?!?!?

 

「おや、その反応を見るにどうやらお仲間なのかな」

「エ、仲間って…」

 

ダメだ何言ってても怪しいコイツ。何か急にアゾット剣で刺してきそう(偏見)

 

見下ろした状態で話すのは気が引けたのか、手を差し出される。流石にまだ何もされていないのに払いのけるのも失礼だな、と警戒しながらもその手を借りて立ち上がる。途端に、()()()()目の前の男に対する警戒が消えて、何故か親しみまで湧いてきた。

───えーと、なんだっけ。なんか仲間とか言ったよな、この人。

 

「この世界に器を借りて転生した者同士、仲良くしようじゃないか。ランサー」

 

…こいつも成り代わり転生者かよ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇SIDE : 言峰

 

 

「~でさあァ、最近超悩んでるってワケ」

「ふむ、なるほどな」

 

目の前で頬杖をつきながら話す男は、警戒心など全く抱いていない様子で珈琲に手を付けている。たった1時間前にあったばかりの、それもこんなに怪しい風貌の人間に対してその様子で大丈夫か?と心配になった。私が(ランサー)なら、(外道神父)には近寄りたくもないがね。

 

───まぁ、ここまで警戒していないのは私の個性の効果なのだから、どの口がといったところだが。

 

「神父サマよう、俺これからどうしたらいいと思う?」

「ここは懺悔室であってお悩み相談室ではないのだがね」

「堅いこと言うなよ、同じ転生者仲間だろ」

 

少し逸れていた思考を戻す。悩まし気に眉を寄せる様子に、先ほどまで彼が話していた悩みとやらを思い出した。

 

理想の兄貴キャラになりたい、ね。

…また斜め上から来たな、と正直思った。

 

空風凛。彼のことは一方的にだが知っている。

十年前の神野の悪夢。あの日の中継を見て、私の前世の記憶はよみがえったのだから。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『この男は、俺が地獄まで連れていく…あんたは畳の上で大往生しろよ、オールマイト』

 

『ダメだ!逝かないでくれ空風少年…!生きるのをあきらめるな!

 

テレビ越しに聞こえる慟哭。先ほどまでの激しい戦闘音が嘘のように静まり返って、中継のアナウンサーも言葉を発しない。ボロボロになった瓦礫の上で、ただオールマイトの声だけがむなしく響いていた。

 

『空風少年!目を開けてくれっ!くそ、血がっ

『俊典』

『体温が下がってる、まずい、このままじゃ!』

『…坊主をもう寝かせてやれ。十分頑張っただろうそいつは』

 

傍らに立つ別のヒーローの言葉に、オールマイトの唇がふるりと戦慄いて、そのまま閉ざされた。あの平和の象徴が、ただ静かに亡骸を抱き寄せて、肩を震わせている。

 

全国民が、混乱のままに固まっていた。私もその一人だった。

No1ヒーローが苦戦するほどの強大なヴィラン、立ち向かったのは雄英高校体育祭で1位になっていた青年。次代の平和の象徴だとか、トップヒーローだとかセンセーショナルな話題になっていた男だ。

 

ただ世間が知ることよりも多く、()()()()()()()()()

 

彼はクー・フーリンだ。何故私はそんなことを知っている?

私はだれだ?言峰綺礼?うそだろう。

転生?今気づいたのか、私は。28歳にもなって。

 

大混乱。

当時の私の心境はその一言に尽きる。なぜヒロアカ世界に言峰綺礼として生まれ変わっているのか、なぜこのタイミングで思い出したのか、何もかもが分からなかった。

 

ただ、一つだけ確かなことがあったとするならば。

 

『ああ…あああああぁぁぁぁッ!!!』

 

画面の向こう。教え子に庇われ、目の前で亡くした男の絶望した顔と声が、目に焼き付いて離れなかったということだけだ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

目の前の男に意識を戻す。あの日、血塗れで倒れ伏していた姿は面影もなく、のんきそうな顔でケーキをつついていた。

 

「俺としてはさ、もう最高の幕引きで退場してるつもりなワケ。延長戦は希望してないのよ」

「それはまぁ随分と…」

 

人の心がない言い分だ。

あの中継でオールマイトの悲しみと取り乱しようを見ていた身としては、流石にドン引きの一言である。まぁ愉しませてもらったので口には出さないが。

 

「色々親切にはしてもらってありがてぇけど、たぶん俺がもう出来る事ってないと思うんだよな」

「その体のスペックならヒーローでもなんでも出来るのではないかね」

「そりゃあ出来るだろうが今はまだ周りに止められてるし。それに…」

 

なんというか、と口をもごつかせて言いにくそうに髪を掻き撫でている。

今までの話を聞いている限りでは、そんなもん好意に甘えて今まで通り、好き勝手生きたらいいんじゃないかとは思う。が、本人なりに何やら別のところに悩みがあるらしい。

まだるっこしいなと思う気持ちに蓋をして静かに言葉の続きを待ってみたものの、話す気はないらしい。

まあ流石に会って1時間では、な。

 

「なあ言峰、あんたの個性ってなにか聞いていいか」

「む…何故だね」

「俺の個性がクー・フーリンっぽいことができる異形型の個性だからさ、あんたもそうなのかなって」

「なるほど。残念ながら私の場合は違うな」

 

言峰綺礼 (原作)ほどの戦闘はできないな、ほどほどには体を鍛えているが。黒鍵も一度は手にしてみたが扱いが難しすぎて挫折した。生身で時速50kmでも走れない。…こう並べてみると原作の言峰という男はサーヴァントでもないのに性能がおかしいな?

 

さて、と。時計を見上げると15時を過ぎている。そろそろ時間だな。

 

「同じ転生者のよしみで、悩みを解決するのを手伝ってもいいぞランサー」

「えっ、手伝うってどうやって」

「方法は私に任せてもらうことになるが。ヒロアカ原作のキャラから距離を取れればいいんだろう?」

「なんだ?雇いでもしてくれんのか」

「似たような形だな」

「ふぅん?そりゃありがてぇけど…俺を雇うったって何の仕事を…ふぁ

 

眠そうにあくびをして目をこする彼を横目に立ち上がる。

空風凛がつられて立ち上がろうとして、足をもつれさせて椅子に倒れこんだ。ギィ、軋む音が響いたのち、一拍の沈黙。

 

「え」

「おや危ない」

 

目を白黒させながら頭を揺らしているその肩を、テーブルを回りこんでそっと支えた。

 

「初対面の人間のテリトリーに無防備に飛び込んで、飲食するのはオススメしないなランサー」

「は…?てめぇ、なに、盛りやがった…」

「なに、ちょっとした睡眠薬だ。かなりの量を入れたのに効くまでに時間がかかったな。流石はサーヴァント」

「は…」

 

説明している間にも、彼の頭は随分と傾いている。流石に常人の使用量の10倍は多すぎたかな。

 

「先ほどの質問に答えよう。私の個性は『反転』だ」

 

警戒を信頼に。不安を安心に。悲しみを喜びに。怒りを安堵に。

感情を反転させるだけで、怪しげな風貌でも誰も私を避けはしない。

 

「白を黒に。善を悪に。正義を───また別の形の正義に」

 

触れた肩から個性を発動する。性質そのものの反転。肌は色濃く、体躯はより大きく、牙は鋭く、獣のように。

 

「なに、目が覚めた時にはいいようにしておこう」

 

もうすでに眠ってしまったのか返答はない。

 

「改めて自己紹介しておこう。私は言峰綺礼。君風にいうなら───」

 

理想の黒幕ロールプレイをしたい男といったところかな

 

 

 

 

 

 

◇SIDE:相澤

 

「なに?空風が外に出たきり帰ってない?」

「はい…もう20時になるのに」

「携帯は」

「部屋に置きっぱなしでした」

「あのバカ…。携帯の意味ねぇだろソレ」

 

職員寮に訪ねてきた3年A組男子の言葉に頭を抱える。

今日は土曜日。休みだから釣りに行ってくると言ってでかけた空風が一向に帰ってこないとのことだった。

 

「知らせてくれてありがとね。あとは先生たちで対処するから」

「はい…!あの、今日もため息吐いてたので何か悩んでたのかも…」

「そうか…。分かった、クラスの面子には寮で待ってろって伝えといてくれ」

 

心配そうに眉を下げた生徒を部屋に戻し、息を吐く。まだこのクラスに編入して1週間なのに随分と好かれているらしい。面倒見がいいし、人たらしだからな、あいつは。

 

「あー、もしもし。休みの日にすみません。空風が…」

 

校長、ヒーロー科教員、警察、公安、地域管轄のヒーロー事務所、オールマイト…一応元クラスメイトにも連絡しとくか…。

 

関係各所に連絡をしつつ、内心はそれほど心配していない。何と言ってもあの実力だ、そこらのヴィランでは歯もたたないだろう。

 

ただ気がかりがあるとすれば、最近の空風の様子だ。随分思いつめた様子なので何度も話を聞こうとしたが、そのたびにのらりくらりとかわされてしまった。変なこと考えてなきゃいいんだけど。

 

「相澤くん!空風少年がゆゆゆ行方不明だって!?!?!」

「早いですねオールマイト」

 

連絡して5分もたっていないのにもう来た。早すぎるだろ、どこにいたんだこの人。

 

「だって居ても立っても居られないよこんなの…!ゴハッ、ゴフッ

「ああ、体悪いんですから…無理しちゃだめですよ」

 

元No1ヒーローとは思えぬ取り乱しぶりだが、これまでの経緯を考えると仕方ないかとも思う。十年前、空風の死を誰よりも近くで見た人だ。俺たちとは負った傷の深さは比べ物にならない。

 

「空風なら大丈夫です。寄り道してるだけできっとすぐ帰りますよ」

 

だが、俺たちの予想とは裏腹に、1週間たっても、1か月たっても、空風は帰ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

◇SIDE:others

 

雄英高校の会議室。集まった面々は沈鬱な表情で項垂れていた。

 

「捜索範囲をさらに伸ばし目撃情報を募りましたが、進展在りません…」

「電車の乗車記録等も洗いましたが同じくです」

「SNSでの情報もさらいましたが、該当なしです」

 

警察からの報告があるたびに、空気が重さを増していく。よりひときわ重い空気を放っているオールマイトは、死人かのような顔の白さで俯いていた。

沈黙が落ちた会議室で、言いづらそうにヒーロー科教員の一人が口を開く。

 

「空風くんについての報告書は一通り目を通しましたが…ヴィランの個性で突然召喚されたというのなら、突然消えてしまうというのもない話ではないかと…」

 

誰もが予想の一つに入れながらも、口に出さなかったことだ。

ヴィランの個性「英霊召喚」で召喚された兵士はいずれも一定のダメージを受けると光の粒になって消えていた。他より時間は長かったが、同じことが起きたのではないかと、みなそう思っていた。

 

「…違う、そんなはずは」

「…オールマイトさん」

 

オールマイトもまた、考えてはいたのだ。この奇跡のような時間が永遠に続くわけがないと。

彼はかつて自分のために、死んでいったのだ。間違いなく。もう一度会えたことこそが非現実的な話で、都合のいい夢だった。

ただ感情が認めてくれない。

やり直せるはずのない時間を、もう一度神様が与えてくれただなんて、勝手に解釈して。

 

「…ッ、すまない…、話を続けよう」

 

こみあげてくる言葉を飲み込んで、ただ拳を握り締めた。

オールマイトの様子に会議室はさらに沈鬱な空気に満たされた。

 

こんこん。

静寂で満ちた部屋に突如としてノックの音が転がる。扉近くの捜査官がドアを開くも誰も立っていない。首をかしげる面々に、「そっちじゃなくて、こっちですよー」とくぐもった声がかかった。

 

「ホークス!?」

 

個性でふよふよと飛びながら窓をノックしていたのは速すぎる男、ホークスだった。

目を丸くする面々にニコリと微笑みかけて、開けられた窓からスルリと室内に入り込む。

 

「よっこいしょっと。あれ、みなさんどうしたんですか。そんなお葬式みたいな顔して」

「…何か用があってきたんじゃないのか」

 

空気を読まない一言を華麗にスルーしつつ、相澤が問いかける。トップヒーローとしての一線から退いて尚、彼は公安委員長として多忙の身であるはずだ。

 

「空風くんの目撃情報、拾ってきましたよ」

「はっ!?どこで!?」

「失踪当日は釣りに行ったって聞いたので、釣りを趣味だと公言されている付近一帯の方をあたりまして」

「な…!そんなのいったい何人に…!」

「まぁまぁ。そしたらいたんですよ、その日の12時過ぎ、空風くんと怪しいカソックの男が歩いてるのを見たって人が」

「!!それは本当かいホークス」

 

今まで何の目撃情報も出なかったのに、突然の朗報であった。知らせを持ってきたホークスは得意げに胸を張っている。

 

「そこからの足取りは!」

「掴めていません」

「そ、うか…」

 

一度浮足立った会議室は、続く言葉でがっかりと肩を落とした。流石にその情報だけでは消息を辿ることが出来ない。空風凛がまだ消えたわけではないと判明したことは大きいが、また振り出しにもどってしまった。

 

「がっかりするのはまだ早いですよ。ある程度推測はできてるんです」

「推測って…」

『怪しげなカソックの男』。これだけで公安(うち)としてはピンとくる情報がありまして」

 

その言葉と同時に、ホークスの個性で資料が配られる。羽が運んできた紙に目を通して、相澤は思わず零した。

 

「…確かに怪しい奴だな」

「でしょ。写真の男は言峰綺礼、38歳。教会を営む神父で、個性は『反転』。28歳まではヒーロー反対の過激派として活動していましたが、十年前からぴたりと行動を改め、付近の住民には敬虔な神父として慕われています」

「十年前…」

「えぇ。空風くんが亡くなった時期と一致しますね」

 

ホークスの言葉に目を見開いて、オールマイトもまじまじと手元の資料を見つめた。隠し撮りなのだろう、目線はカメラを向いていないが、随分と暗い目をしていると感じた。誰がどう見ても初見ではまず警戒する怪しい風貌だった。

 

「この男の危険なところは人心掌握術。教会に一度でも訪れたものはみな奴の従順な信徒に成り下がっている。お恥ずかしい話ですが、うちの捜査員も数名既に奴の手に落ちています。警察などの組織にも手を伸ばしているかもしれません」

「なに…!」

「十年前までの活動が、あと一歩進めばオール・フォー・ワンに次ぐ大悪党になっていた可能性のある男です。空風くんと目撃されたのが奴である可能性は十分に高いかと」

 

大きな手掛かりだ。ここ一か月の鬱々とした気持ちを吹き飛ばすように、オールマイトは勢いよく立ち上がる。

 

「そうと分かったら直ぐに空風少年を助けに行こう!」

「いや、教会のガードが固くて裏どりはまだなんです」

「んうぬぅ…」

 

出鼻をくじかれて座りなおす。なにも確定していない状態でつっこめるほど、ヒーローや警察の権限は高くない。

 

「適任のヒーローにもう声はかけてますので」

「それって…」

「失礼します!」

 

ホークスが言うのと同時に、ノックもなしにばーん!と勢いよく扉が開かれる。声のする先に服しか浮かんでいないのを見て目を丸くする面々とは裏腹に、相澤は慣れた様子で頭を抱えた。

 

「…葉隠、ノックはしなさい」

「はい、ごめんなさい相澤先生!空風くんの捜索に呼ばれましたインビジブルです!よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

[幕間:ホークスの回想]

 

 

「ありがとう、ホークス。けれどどうして空風少年のためにこんなにしてくれたんだい」

「オールマイトさんお忘れですか。空風くんは俺の後輩ですよ」

「後輩って…あ」

「13歳から公安所属でヒーローしてましたから、彼。少し付き合いはあったもので」

「そっか…、13歳から…」

 

オールマイトさんの言葉に、俺ははじめて空風くんと出会ったときのことを思い出していた。

 

 

・・・・・・・・

 

 

「報告は以上です」

「ご苦労さま、ホークス。また次の指令を待ってください」

「どうも。…」

 

「…ホークス?」

 

ヒーロー公安委員会本部。一般人に開放されているエリアよりさらに奥の入り組んだ場所に、上司である目良さんの執務室はあった。窓もない空間は精神衛生上よくないが、防犯上では堅牢な立地だ。

そのはずだった。

 

「目良さん。この部屋、他に誰かいますか」

「え?そんなはずは…」

 

僅かに感じた違和感。羽の先がわずかに空気の動きを捉える。しかし見渡す限り人影はない。気のせいか、と思い目良さんに気のせいだと告げようとした瞬間──()()()()、きゅるると小さな音が鳴った。

 

「ッ!?」

「──動くな。この首かき切るぞ」

 

侵入者の姿を捉え俺が動くより先に、その影は目良さんの背後に降り立ち、長い槍の刃先をその首につきつけていた。速度で俺が負けたんか今…!?

 

「…何が目的ですか」

「情報の提供、ヒーロー免許の交付、活動の許可、仕事の斡旋」

 

衝撃から立ち直り、まじまじと侵入者を眺める。まだ、顔立ちに幼さの残る少年だった。同年代と比べて大きい方だろうというのは感じ取れるが、まだ子供だ。青い髪が印象的な少年だったが、こめられた殺気は本物だ。

どげん生活しとったらこがな子どもになると…!?

 

「情報の提供、とは」

「俺の家族の敵について知りたい。三年前、オールマイトが重傷を負った事件だ」

「…復讐でも、する気ですか」

「別に、私欲だけじゃねェよ。直感で分かる、あの男は人類にとっての害悪だ。早く屠らないと犠牲が増える」

「…ほう」

 

不思議と、嘘はついていないと分かった。この少年は自分なりの正義感で、あるヴィランを倒そうとしているらしい。

侵入者が意外と理性的に話が出来るのを見て取ったらしい目良さんとアイコンタクトを交わす。

 

「言い分は分かりました。ただ…」

おいバカ、動くと…!」

 

振り返って少年の顔を見つめる目良さん。動いた拍子に皮一枚、首が切れて血が流れるのを、動揺した様子で蒼髪の少年が槍を引いた。その瞬間に、静かに忍ばせていた羽で押さえ込みにかかる。

 

「なっ、離せッ!

「うわ、目良さん、この子バリちから強かー!!羽が足りん!!!」

「離さないでくださいよ、ホークス。全くひどい目にあった…」

 

床に転がされたままガルガルと唸る少年に、しゃがみこんだ目良さんが話しかける。

 

「いいでしょう小さな侵入者さん。貴方の希望をかなえてあげます」

「…いいんですか目良さん。首に槍突き付けられてましたけど」

「えぇ。ただし秘密裏に試験は受けてもらいますがね。君が速さで後れを取る実力だ、問題はないだろうが」

「ハハハ、痛いとこつきますねぇ」

 

侵入者の希望を鵜吞みにしていいのかとは思ったが、目良さんがいいというならいいんだろう。要望が飲まれると分かったからか、侵入者は抵抗をやめ大人しくしている。

 

「人を傷つけるのを厭う子だ。ヒーローに向いています」

「なるほどね…君、名前は?」

「空風、りん」

「ふぅん、空風くんかぁ。今幾つ?」

「…13」

「13歳!?まだ小学校卒業したばっかりの子どもじゃなかか!」

「もう子どもじゃねぇし」

「そう言ってるうちはまだ子供だよ~…にしても13…13歳か…」

「今更なしって言ったらヒーローに暴行されたって騒いでやるからな」

「なんちゅー小賢しいガキ…」

 

素性を本人から聞き取りつつ、羽での拘束を解いてゆく。厳重にしすぎてやや手間取っていると、きゅるるるる…と先ほども聞こえた可愛らしい音がまた聞こえてきた。

 

「…お腹すいとると?」

「悪ぃかよ」

「ご飯食べてないの?」

「…今日は叔母さんの機嫌わるかったから」

 

そう、ぽつりと零す様子が昔の自分に重なって見えて。気づいた時にはその体を持ち上げていた。

 

「おわっ!?急になんだよ!」

「目良さん、今日のとこはもういいですかね!」

「ええ」

「よっしゃ焼き鳥に行こう。先輩がおごっちゃる」

「マジかありがとう!…じゃなくて下ろせよォ!」

 

わぁわぁ騒ぎながらも無理には抜け出さないのがなんだか可笑しくて。笑いながら廊下を歩いたあの日を、今でも覚えている。

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

「どんな子だったの、空風少年は」

 

オールマイトの声に意識を戻す。あいつは、俺の初めての後輩で、腕っぷしはめっぽう強くて、頭を撫でられると照れたように笑って、それで、…。

 

「…いつもお腹すかせてるガキでしたよ」

「食欲旺盛だったんだね」

 

ちょっと違うけどなと思いつつ、頷いておいた。

 

『ねぇホークス。手合わせしてよ!』

『俺ももうちょっとカッコイイ口調で喋ろっかな…』

『ヒーロー免許とれたぜ!』

『いよいよアンタの背に追いついちまったなァ』

『俺も給料もらってるんだし、たまには出させてくれよ。…ダメ?』

『アンタいい兄貴分だよなァ。憧れてんだぜ、これでも』

『ホークス!雄英高校うかったぜ!』

『体育祭優勝したわ!』

『クラスメイトが捕まってる。行かせてくれ』

 

──あの時行かせるんじゃなかったな、なんて思いながら。当時のことを思い出にそっと蓋をした。

 

 

 

 








オリ主から見たホークス:この人もなんか広義の兄貴っぽい…!見習える時は見習おう!(大懐きでうしろをついてまわる)
ホークスから見たオリ主:たった3年とは言え成長を見守ってた後輩が凄まじい死に方をした。感情を抑え込むのは大の得意だけど、限界もある

AFOを神野で夢主が打ち取ってるのでホークスの個性はなくなってない設定です

言峰は原作よりはマイルドなので。人が絶望してたら楽しいけど、人を殺すとかまではいかないタイプの、ちょっと黒幕気取りがしたいだけの人なので、こまでひどいことにはなってません!


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