クー・フーリンのスペックで転生した僕がヒロアカ世界で理想の兄貴になる話   作:佐久間2525

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葉隠たそかわいいよhshs


第四話 人の泣き顔を見ながら飲むワインは美味い

 

 

 

 

[潜入調査]

 

◇SIDE:葉隠

 

丘の上に建てられた、白い教会。そこへ向かう道を尾白くんと二人、歩いている。

もっとも、私は自分の髪の毛を素材に織られた特性のヒーロースーツを着ているから、今は完全に透明!

そばから見たら尾白くん一人で歩いているように見えるだろうね。

 

「じゃあテイルマン、作戦通りに!」

「うん、危なくなったらすぐに呼んでね。インビジブル」

「了解!そっちも囮、気を付けてね」

 

二人でこつん、と拳を合わせてから、私はそっと息をひそめる。

教会に近付くと、ちらほらと視線を感じ始めた。教会に通う信者の人たち。ヒーロー公安委員会が調査が難航すると言っていた要因の一つだ。

 

「こんにちは。初めて見る方ね」

「えぇ。こちらの教会で相談に乗っていただくと、悩みがなくなると評判だったので…」

「あらあら!あなたお若いのに悩んでらっしゃるのね…!大丈夫、言峰様とお話したらすぐに晴れやかな気持ちになれるわ」

 

教会の周りを箒片手に掃除していたおばさまが早速、尾白くんに声をかけている。周囲の注目が彼に集まっているうちに、私は扉を静かに開いて教会の中に入り込んだ。

 

教会の中は想像していたよりもずっと静かで、荘厳な空気感をもっていた。あんなに怪しい神父さんが運営してるんだから、魔王城みたいな恐ろしい場所かと思ってたのに。ちょっと意外。

 

とりとめのないことを考えながらも、内部の探索を続ける。

 

ステンドグラスから柔らかな光が届く聖堂を抜け、祭壇の横にある扉を慎重に開く。先には廊下が繋がっていて、左右に3,4室の部屋があった。

神父──言峰綺礼の住居も兼ねているのか、ベッドが置かれている部屋や、キッチンもあった。一通り探してみたものの、空風くんの姿は影も形も見当たらない。

 

うーん…早速難航してるなぁ…。

逸る気持ちを抑えつつ慎重に動く。私の個性と能力を信頼して任せてもらった仕事だし、何よりクラスメイトのピンチだもの。何の成果もなしには帰れない。きっと彼を見つけて見せる。

 

そう静かに意気込んで、息を吸い込んだ時。唐突に目の前の扉が開いた。

 

「(…ッ!?)」

「おや」

 

開いた扉から、ヌッと大きな影が姿を現す。光が一切ない真っ黒な目、喪服のようなカソック。

現れたのは事前に資料で見せられていた言峰綺礼その人だった。

じい、と。その真っ黒な瞳がこちらを向く。透明化の個性で私のことは見えないはずなのに、目が合ったような錯覚に陥った。冷や汗がたらりと垂れる。

 

こんな至近距離だと動くに動けない…!さっきまでそこの部屋に誰もいなかったから油断していた。

 

内心で焦りながらも音を立てないように直立不動でいると、男はすぐ横を通り抜けて向かい側のドアへ手を伸ばしていた。

 

「閉め忘れていたかな」

 

訝しげにしながら自室のドアを閉めている。警戒されている様子だ。

 

「言峰様!」

「…む、どうされましたか」

「初めていらっしゃった方が、是非悩みを聞いていただきたいと」

「それは…分かりました。すぐに向かいましょう」

「(お、尾白くんナイス~!!!ありがとーー!!!)」

 

先ほど外を掃除していたおばさまだ。尾白くんが頼んでくれたのだろう。ほんとに助かった…!

言葉どおり、言峰神父は呼びに来た人とすぐに聖堂へ向かった。その背中を見送って、静かに息をつく。

 

さて、ピンチではあったが、大きな手掛かりも得ることができた。

 

先ほど言峰神父が出てきたばかりの部屋にスルリと侵入。一度目に見た時と内観は変わりなく、何の変哲もない書斎に見える。

 

「(でも、急に出てきたっていうことは~…ビンゴ!)」

 

本棚や壁、床を注意深く眺めていると、足元の木目が一部だけ違和感があることに気づいた。そっと手を這わせると、スイッチらしきものも発見。いわゆる隠し扉と呼ばれるもの。

 

「(待っててね空風くん。すぐ助けに行くから…!)」

 

スイッチを押して現れたのは地下へと続く階段。薄暗くて不気味なソレに、ごくりと唾を飲む。

臆する気持ちをグッとこらえ、一歩足を踏み出した。

 

 

・・・・・・・

 

ぴちょん。ぴちょん。

 

どこからか染み出した水が、石畳に水たまりを作っている。

外の気温より随分と寒い空間では、蝋燭の小さな明かりだけがゆらゆらと揺れていた。時折かさかさと虫が這いまわる音もする。

 

…ここ怖いよ~!!!なんかさっきネズミも通ったし!!ムカデもいるし!暗いし寒い!なんで教会の地下にこんなとこあるの!

 

内心は騒がしくしながらも、足音は立てないように奥へと進む。あまり光源がなくて先を見通せないが、少し開けた空間がすぐ先にあった。もしかしたらあの部屋に空風くんが捕まってるのかもしれない。居場所さえ確実に掴めれば、私以外の武闘派のヒーローが突入することができる。だから今回で確実に見つける必要がある。責任は重大だ。

 

そう意気込んで部屋に足を踏み入れて──思わず息を呑む。

 

群青の髪と真紅の瞳、両目の下に刻まれた赤い文様、褐色の肌。赤と黒で構成された刺刺しい外套。そして何よりも、異形の尾がぐるりとうねり、その異常さを際立たせる。

 

「(そらかぜ、くん…?)」

 

顔立ちと、髪の色は確かに彼だ。けどそれ以外のすべてが違う。

体躯の大きさも、肌の色も。

何より身にまとう空気感が、違う。

 

「…誰かいるな」

「ッ…!」

「女か」

 

気怠げに壁に背を預け座り込んでいた彼が、突然まっすぐにこちらを見てくる。透明だから見えないはずなのに…!焦る気持ちと裏腹に、あまりに冷たい彼の声に背筋が冷えた。

 

「気配はするのに見えねぇってことは、葉隠か」

「…!空風くん!」

 

呼ばれた名前に歓喜があふれた。私のこと覚えてる。姿は違うけど空風くんだ!

 

「助けに来たよ、早くここから出よう!」

 

無事でいてくれてよかったと思わず涙が目に浮かんだ。彼が行方不明になったと聞いてからの数週間、気が気でなかったから。彼には見えないだろうけど手を差し伸べて、出口を指さす。どこか彼の様子はおかしいけれど、それでも手を取って一緒に脱出してくれるんじゃないかって。そんな都合のいいことを考えていた。

 

「何の用かと思えば…。今すぐここから去れ」

「え…」

 

その期待は、鋭利に切り裂かれた。冷たい目で彼はこちらを睨みつける。誰に対しても優しかったけれど、女子には人一倍 優しくて紳士だった空風くんが。今はまるで敵でも見るかのような目で、こちらを拒絶している。

 

どうして?なんでそんなに冷たい目をするの?記憶はあるのに、なんで付いてきてくれないの。

疑問がぐるぐるとおなかの中で渦巻いて、うまく言葉にならない。

 

「…ッチ、おい。早く消えろ」

な、んでそんなこと言うの…?みんな心配してるんだよ…。はやく帰ろう?」

「今更この俺に帰る場所などあるものか」

 

まるで苦いものを吐き捨てるように、空風くんが言う。どうしてそんなに苦しそうに、帰る場所がないなんて言うの。

 

「私も、A組のみんなも、オールマイトも相澤先生も!みんな空風くんのこと待ってるのに!

どうしてッ

「…その場所に、俺の果たせる役割はもうない」

「役割なんて必要ない!ただ、一緒にいてくれたらそれだけで!」

「喧しい。いいから早く去れ。邪魔だ」

 

今まで空風くんにこんなに冷たくされたことはない。

だっていつもあの太陽みたいな顔で笑ってて、ちょっと服装変えただけで褒めてくれて、声に元気がないって励ましてくれて、それで、それから──

 

「女性にそんなに乱暴な口を利くものではないぞ、オルタ」

 

「ぐッ…!?」

 

「…首絞めながら言われても説得力ねえよクソ神父」

「おや、首だったのか。透明だからわからなかった」

 

唐突に、背後から腕が巻き付いてきた。気道が圧迫され、視界がちかちかと光る。

 

しまった、油断してた。いつの間に後ろに来てたのこの人…!足音もなかったのに!

見えないはずの私の首を後ろから鷲掴みにして、くつくつと忍び笑いを漏らしているのは、先ほどすれ違った言峰神父だ。

 

「やっぱり、貴方が空風くんを、誘拐してたのねッ」

「誘拐?人聞きの悪いことを。彼自身の意思でここで働いているに過ぎない。なぁ、オルタ」

「……」

 

「愛想のない奴だ。あぁ、それとお嬢さん」

 

必死に抵抗してるのに、相手はびくともしない。ただの神父のはずなのに、なんでこんなに力が強いの!見えないはずの足で繰り出した蹴りも、片手間に防がれる。

 

「彼は君たちが探している空風凜ではないよ。人違いではないかな」

「なにを、今更…ッ」

「君こそ姿も性格も違うのに、何をもって彼だと断定しているのか」

「どんなに、姿が変わっても、空風くんは、空風くんだ!…ぐぅッ

 

息が、もう、できない。意識が…。

目の前に、1ヶ月探し続けた友達がいるのに!こんなところで…!

 

おい、やめろマスター。死んじまう」

「おや。お優しいことだ」

「女子供に手を挙げるのは、信条に反する」

「反転しても尚、中心にある価値観は変わらん、か…。まぁいいだろう。ヒーローを手にかけたとあっては、ただのヴィランだからな。お嬢さんも上にいるヒーローも、一緒にお帰り頂こうじゃないか」

 

聞こえたのは、そこまでで。

最後に神父に頭を触れられたところで、記憶が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

[捜査本部にて]

 

◇SIDE:others

 

「テイルマンとインビジブルの様子はどうですか」

「まだ目を覚ましていません。テイルマンはおそらく睡眠薬を服用させられていて、インビジブルは気絶かと…」

「尾白くん、葉隠さん…」

 

警察署の一室に設置された空風凛捜査本部。

葉隠と尾白が教会に潜入している間、知らせがあればすぐに飛び出す準備をしていたヒーローと警察がそろって肩を落とす。雄英教員として、そしてヒーローとしても話を聞いていた緑谷が心配そうに2人の名前をつぶやいた。

 

警部!身分を隠しての潜入とはいえ、ヒーローに対して危害を加えてるんです。突入する理由には十分じゃないですか?」

「うぅむ、それがな…」

 

警察側の代表である警部が、若い巡査の言葉に唸った。

 

確かに、何の疚しいことのなければヒーローの意識を失わせた上で、教会から放り出したりはしない。行方不明の空風が教会に囚われているのは確実だ。本来ならこの時点で捜査令状がおり、ヒーローに協力依頼をかけて強制突入ができる段取りのはずだった。

 

「以前にホークスが言っていたことが、本当かも知れんのだ」

「それは…」

「捜査の許可がおりてこない。おそらく──私よりも上の階級に、奴の信者がいるのだろう」

「なッ…!」

「あー…やっぱりそっちにもいますか。本当に厄介だな、あの神父」

 

渋い顔で唸る警部に対して、ホークスは頷いた。

事前に警告していた通りだ。言峰綺礼の危険なところは人心掌握術。教会に一度でも訪れたものはみな奴の従順な信徒に成り下がる。

 

今回の捜査にも圧力が掛けられているのは、どこかに潜んでいる信者の仕業だろう。

 

眉根に皺を寄せて黙り込んだ公安と警察を横目に、集められたヒーローは静かに闘志を漲らせていた。

集められたのは元A組が多い。トップヒーローだけあって、流石に全員とはいかないが、この場にはいないメンバーも動きがあったら駆けつけると緑谷に伝言を残していた。クラスメイトの危機に立ち上がらない者はいなかった。

 

「失礼します!インビジブルが目を覚ましましたので、お連れしました」

「…失礼、します」

 

「葉隠さん!」

「透!」

「…みんな、ごめん、私…

 

若い警官と共に、入院着を着た葉隠がおずおずと入室してくる。透明な彼女の表情をうかがい知ることはできないが、沈んだ声色から感情を察することは出来た。

 

「謝らないでよ!…無事に帰ってきてくれてよかった!」

「でも私を信頼して任せてもらった任務なのに、悔しいよッ

 

ぐっと体をこわばらせて声を詰まらせる彼女の背を、耳朗と麗日がそっと支えた。

 

「まずは良く帰ってきてくれた。早速で悪いんだけど、詳しい話を聞かせてもらえるかい、インビジブル」

「…はい!」

 

根津校長の声掛けに、気を取り直したのであろう葉隠が経緯を説明し始める。

尾白が囮となり、内部に潜入出来たこと。教会の奥には言峰神父の私的居住スペースとなっていたこと。あわや見つかりかけたが、間一髪逃れ、それをきっかけに地下室を発見できたこと。

 

「地下室!なるほど、見つかりにくいわけだ」

じゃあ、空風少年はそこにいたのかい!?怪我はなかったかな、どんな様子だった…!?」

 

「──空風くん、ですか?」

 

オールマイトが顔色を喜色に染めて、問いかけ──それに対する葉隠の様子に会議室が凍った。

 

「…透ちゃん、空風くんいなかったの?」

 

「えっ、と。地下室には確かに人がいて…。ちょっと自信ないけど、その人が空風くんって人だったのかな…。クラスメイトだったっけ?なんか姿が昔とかなり変わっちゃってたな~話してる様子もおかしかったような?」

 

絶句。

とくに教師陣とヒーロー側が、顔を青ざめさせて葉隠の言葉を聞いていた。

 

姿が変わっていた、話している様子がおかしかった。その内容自体も不穏だが、何よりもクラスメイトがその状態でとらわれていたというのに、まるで今関心を持ったというような葉隠の様子が異様であった。

ホークスは顔を潜めて「…やられましたね」と小さく呟いている。間違いなく、言峰に何かをされている。

 

でなければ「必ず空風くんを見つけてくるね!」と意気込んで任務に臨んだ彼女が、「そんな人もいたね」と無関心な様子を見せるはずがない。

 

「わ、たし…何か、変ですよね…?」

 

あまりに静まり返ってしまった周囲に異変を感じ取ったのか、不安そうに葉隠が呟く。

 

「インビジブル。空風くんを見つけた後はどうなったのかな」

「えと、彼と私が話してたら後ろから言峰神父が来てて…首を絞められて…すみません、ここで記憶が途切れてます」

「やはり言峰綺礼とは接触していたんだね」

 

ざわざわと再び会議室に声が戻る。

いることは確定したんだ、無理にでも突入すべきだ。いや、彼女の様子を見るにそれが本人とも限らない。言峰の影響がどこまで及んでいるかわからない。危険だ。だからこそ一刻も早く救出に向かうべきだ。

様々な意見が飛び交い、収集がつかなくなる。

 

不意に、ぽたりと雫が落ちた。

静かに落ちたそれがカーペットに1つ、また1つとシミを増やしている。

 

「…葉隠くん、泣いているのかい?」

 

自身も憔悴しながら、それでも人の涙を見逃せないオールマイトが1番に気が付いた。

その言葉に、周囲の視線も集まる。

透明な彼女の表情を見ることはだれも出来ない。それでも、静かにカーペットを濡らす雨に、彼女が泣いていることだけは全員につたわった。

 

はは…あれ、私なんで泣いてるんだろう。空風くんなんてどうでもいいのに…あれ、私」

 

声色からしか察することが出来ないが、震える声色から彼女がいびつに笑いながら涙を流していることが分かった。

 

「助けなきゃ、いけなかったのに。私なんでッ!」

「透、落ち着いて!」

「地下で見た彼、傷だらけだった!哀しい目をしてた!私ヒーローなのにッ

「…透のせいじゃない。誰だって一人じゃ無理だよ」

『帰る場所がない』って、『役割が終わった』って言ってた!」

 

悲鳴のような言葉に凍り付く。彼女を慰めていた耳朗も思わず手を止めた。

 

「きっとツラい思いをしてるって頭では分かってるのに、まだ私彼のことに関心を持ててないッ!今だってどうでもいいって思っちゃってるの!!どうしよう、私もう…ヒーローじゃなくなっちゃったッ

 

堰を切ったように葉隠が泣き崩れる。

 

言峰が彼女にかけた個性は、空風に対する『関心』を『無関心』へと反転するもの。

記憶はあっても意識することが出来ない。

助けを求められても、手を取ることが出来ない。

ヒーローとしての根幹は変わっていないのに、助けようとすら思えない。

 

自分の心であるはずのソレがばらばらの方向へ行き、葉隠は自身のヒーローとしての資質すら疑い始めていた。

 

泣き崩れるクラスメイトに、A組も悲痛に俯く。今は、どんな言葉をかけたとしても彼女には責める言葉にしかならないだろうと思っての沈黙だった。

 

ばぎゃぁぁん!!!

会議室に轟音が響く。

重厚な机が、苛立ちに任せて降り抜かれた拳に粉砕された音。

 

「言峰綺礼ッ…!」

 

人の心を弄び、裏から糸を操る男の名を、怒りを込めてオールマイトは呼んだ。必ずお前から空風少年を奪い返し、報いを受けさせると自身に誓いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[一方その頃]

 

 

 

◆SIDE: オリ主

 

 

「ふふふッ…!フハッ…ひぃっ…!!!あっはっはははは!!!!」

 

「…息切れするくらい笑い転げてんじゃねェよ。趣味悪ィな」

「ふふっ…なにこの程度の愉悦、原作の私に比べれば可愛いものだろう?」

「比較対象がおかしいだろうが間抜け」

 

まーじでこいつ…。

急にバナナで転んで頭打って真人間にならないかなぁ…。

 

ワイン飲みながら捜査本部の中継見て笑ってるの人間性疑うわ。葉隠の大号泣シーン超笑ってたし。なんなんだこいつ。

 

「つぅか、なんで会議の様子が見れるワケ」

「なに、私の手駒はあちらが思うよりもずっと沢山いる。それだけの話だ」

「へぇ」

 

あの会議の面子にもシンパいんのかよ。手広いな。

まぁ個性の使い勝手が良すぎるもんな。何だよ反転って。ズルすぎんだろ。

チラリと今の自分の格好を見やる。

 

イメージカラー青でずっと来てたのに、今の感じだと赤と黒になっちゃったなァ…。まあ嫌いではないけど。この尻尾とかどこから生えてきたわけ?自分でもどうやって動かしてるか分らんのだが。

 

「で、いい加減説明してくれるんだろうな」

「何をだ」

「全部だよ。俺のこの姿、何故お前がマスターになっているのか、何がしたいのか」

「なんだ、知らなかったのか」

「説明されてねぇだろうがよ!」

 

マジでこの1か月で何も分かってないからな?俺の混乱ぶりをダイジェストでお送りしよう。

 

俺は高校生サーヴァント空風凛!

一人寂しく釣竿を手に遊びに行っていたとき、怪しい黒ずくめの男に声をかけられた。

相手が同じ転生者という事実に夢中になっていた俺は、男に個性をかけられていることに気づかなかった。

俺はその男に睡眠薬を飲まされ、目が覚めたら……体が縮んで…じゃなくてオルタ化してしまっていた。(は???)

あとついでにこいつのサーヴァントにされてた。(マジでどうやったんだ??)

 

まあオルタ化してるって言ったって中身はこの通り、何も変わってねぇけどな。

まぁ聖杯の力もなしに英霊の在り方がそうそう歪められるわけがないか。クー・フーリンぽいことが出来るだけの人間ではあるけど、だとしても見た目を変えるので精いっぱいといったところだろう。

 

「お前のその姿に関しては性質を属性を反転させたらどうなるのか興味があってな。秩序・中庸が混沌・悪になるところに興味があった」

「ふぅん…。で、感想は?」

「中身がそのままでは、な。街で暴虐を尽くして、駆け付けているヒーローが悲痛に呼びかける姿をぜひ見たかったのだが…」

「うげぇ、そんなこと考えてたのかよ。趣味わる…」

 

『目を覚ますんだ空風少年!君はヒーローのはずだ!』『…いいのか、ヒーロー。御託を抜かしている間に人が死ぬぞ?』『君のその手は!人を救う手だ…!』

「声真似ムダに上手いの腹立つな。一人で妄想して盛り上がるのやめろよ」

 

声では熱演してるのに顔が無表情なのなんだよ。怖すぎるだろ。

俺も理想の兄貴ムーヴ!とか考えてるとき似たような感じなのかな。…反省しよ。

 

「あとは私がマスターになっている理由だったか。なに、ランサーと言えば言峰のサーヴァントだろう?」

「いやイメージ的には分からんでもないが…どうやったんだよって話」

 

召喚したときのおっさんは、あくまで個性が『英霊召喚』とかいう特殊な奴だから俺のマスターになれたのであって、言峰は違うだろう。なのに、実感として目の前の男は自分のマスターだという認識がはっきりある。これはどういうことだ?

 

「話せば長くなるが…」

 

本当に話が長かったので俺がざっくりまとめておこう。

 

俺の死をきっかけに前世の記憶を取り戻したこいつは、自分が言峰綺礼であることに気づいた。

ランサー(クーフーリン)がいて、言峰綺礼もいるのだから、この世界でも秘密裏に聖杯戦争は行われているのでは。そう考え、世界中を捜索するも痕跡を認められず。この世界に魔術師はいないし、英霊もいないという結論に至った。

 

でもこれだけ多種多様な個性を持った人間がいるのだから近しいことはできるのではないか?一度人間として死んだクーフーリンを英霊として呼べる個性もあるのではないか?

そう思い立った言峰は自身の個性で信者を増やし、その中で集めた情報の中で。如何にもそれっぽい個性の持ち主(俺を召喚したおっさんね)を発見。

占い師に扮しておっさんに接触。サーヴァントや令呪について説明、なんやかんや上手くいって俺が本当に召喚されたというわけらしい。話に出てきた占い師、お前だったのかよ。無駄に暗躍しやがって…。

 

で。意外と個性で出来る事の幅が広いことに改めて気づいたこいつは、俺が睡眠薬で眠らされている間に信者を搔き集め、ある実験を行ったらしい。

 

「人の個性を強化できる個性、物事の成功率を少し高める個性、幸運を高める個性…と色々寄せ集めてな。私の個性でとある概念を反転しようと試みたのだ」

「概念の反転?」

「『この世界に魔術師はいない』状態から『魔術師はいる』状態への反転」

「はぁ?そんなん出来るワケねぇだろ」

「その通り。流石に私の個性にも限界がある。だが、私の体へは適用できた」

 

言うと同時に、袖をまくる言峰。ゲッ、あの模様は…!

 

令呪じゃねえか!やっぱ持ってんのかよ!」

「ふふふ、マスターと言えばコレだろう」

 

「お前まで自害しろランサー!とか言い出すなよ。1回目は良いけど、2回目は何かやだ」

「言ってみたいセリフ、トップ10には入っていたのだがな。まぁ同じ転生者だ。そんな無体はせん」

「よく言うよこの状態で」

 

なるほどな。世界は書き換えられなくても、言峰自身は魔術回路を得て、魔術師になったわけだ。

本物の聖杯もなしにサーヴァントと契約は本来は出来ないんだろうが、まあ中身が俺だからな。いろいろ特殊なんだろう。

 

「なぜあのおっさん(前マスター)を使ってまで俺を喚ぶ必要があったんだ?そこまで個性で色々やれるなら俺の力なんて必要ないだろうに」

「いいや。私のしたいことはお前がいないと出来ないのだ、()()()

「ふぅん…?そのしたいことっていうのは何なんだよ」

 

結局そこだよな。

この1か月、目が覚めてからというものの、この地下室に閉じ込められたままだ。

いい加減に飽きてきた。

暇すぎて狭い室内で槍ぶん回してたら自分の技でケガしたし。

 

「お前はこの世界をあまり知らないのだったか。だが、大体どの人物が活躍してたキャラかどうかくらいは分かるだろう」

「あぁ…A組のみんなとか、トップヒーローだった面々とか?」

「その通り。いずれもヒーロー。強きをくじき弱きを助け、理不尽に抗い、逆境に立ち上がる。真っすぐな心根を持っている」

「そうだな。俺は好きだぜ、如何にもジャンプって感じで好感が持てる」

 

緑谷とかオールマイトとかが特に好きだなー俺は。何がなんでも自分が決めたらこう!絶対に人を助ける!みたいな筋の通った熱意がいい。主人公はああでなくちゃ。

 

「お前も性根はあちらなのだろうな…。私はおそらく真逆だ。平和や愛の尊さは分からん。薄っぺらく感じる」

「性格悪そうだもんなァ。言峰の体だからか?」

「いや、前世から似たような性格だ。原作の私(言峰)よりはマシだが」

「人格破綻者と比較すんなって。何でもマシになるだろうが」

 

こいつソコだけこだわるの何なんだ?今更過ぎるアウトライン守って意味あんのかね。

 

「この世界も色々な苦悩が起きるはずだったのに、お前が運命を変えてしまったからな。起こるべきはずの悲劇がいくつか起きていない。地獄の轟家のあれやこれやも楽しみにしてたのに…」

「あー…好き勝手やっちまったからなァ。やっぱあいつ(AFO)ラスボスだったんだ?」

「やつが神野で退場してしまったことで敵連合は弱体化してな…その辺の詳しい話は、置いておくとして」

 

言峰のロールプレイングが一瞬だけ解けて、素でぶつぶつと文句を言われる。ごめんて。

 

「要するにヒロアカ原作キャラの曇った顔がみたい

「長々しゃべっといて結局そこかよ。んなこったろうとは思ってたけどよ」

「悲しみ、後悔、怒り、葛藤、苦悩…苦しむときにこそ人間は輝く…」

 

ですよねー。趣味悪いなーコイツ。

 

「一人でやってろよ。何でわざわざ死んだ俺をおっさんに召喚させた上に誘拐までしてんだよ」

「記憶を思い出すまでどちらかと言えばヴィラン寄りだった私だ、曇らせられる程親しい相手がいなかった。その点、貴様は神野で素晴らしい曇らせに成功していたからな。逸材を逃す手はない。今でも週一で見返すぞ、あのオールマイトの慟哭…」

「うげぇ…」

 

俺のアレは別にみんなを悲しませたかったわけじゃなくて、こう精一杯兄貴らしく輝いて貢献してから華々しく散りたいという、まっすぐな心でだな…。

 

「まぁ今の俺はあんたのサーヴァントだ。好きに使うがいいさ」

「あぁ、そうさせてもらおう。早速だがランサー…いや、オルタ。命令だ」

 

この世界で俺がやりたいことは大体終わった。

主人公の成長も見れたことだし、あとはこいつのやりたいことに付き合ってやろう。

 

そう、寛大な心で俺が言うと、間髪入れずに命令が出される。図々しいなコイツ。

 

「英雄らしく、バケモノ退治をしてもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[ここから本編に関係のない閑話:十年前]

 

【夏だ!海だ!ビーチバレーだ!】

 

「林間合宿前に海だなんて…いいのかしら」

「ヤオモモ!これも訓練だよ!」

「…なるほど!海で泳ぐことで体力を伸ばし、足場の悪い場所で走ることで足腰を鍛える!そういうことでしたのね!」

「そうそう多分そんな感じ!」

 

夏休みに入ってすぐ。峰田と上鳴の発案でA組は海へと遊びに来ていた。

その2人の思惑(女子の水着が見たい!)を知らない女子は、楽しい遊びのつもりでニコニコとほほ笑んでいる。

 

「ねぇねぇそこの君たち!かわいいね~!」

「超美人じゃん!友達同士で遊びに来たの?」

「何歳?暇だったら俺たちと遊ばない?」

「えっ…」

 

麗日、八百万、芦戸の3人は水着の着替えに少し手間取っていたため、他のクラスメイトより遅れて合流しようとしていた。そこに現れる見るからにナンパ目的の男3人組。

 

「あのクラスメイト待たせてるんでいいです!」

「そんなこと言わないでさ。俺らボートとか持ってるよ?乗せてあげようか」

「…?結構ですわ」

「えー美味しいものとか食べさせてあげるのに」

 

断ってもしつこく食い下がる男に、八百万も麗日も困ったように後ずさっている。

ここはアタシが守らなきゃ…!と芦戸が一歩前へとでた。

 

「あの!迷惑なのでやめてもらえませんか!」

「は?なにこいつ」

「じゃあ君だけ先行っていいよ。俺タイプじゃねえし」

「異形型はちょっとなあ?」

「なっ…!芦戸さんになにをおっしゃいますの!」

「そうだよ!三奈ちゃんに謝って!」

「ちょっと、二人ともいいから!早く行こう!」

「だからぁ、お前帰っていいから二人は置いといてくれる?」

 

男たちの失礼な物言いに二人の方が怒り心頭といった様子で食い下がる。

そうこうしている内に麗日の手首まで掴まれてしまい、芦戸の焦りも募る。

 

その時。

ぬっ、と大きな影が後ろからさした。するりと背後から肩に腕がかけられる。

 

「よォ、兄ちゃん。うちのお姫さん達に何か用かい」

「はぁ?なんだ、お、まえ…」

「空風くん!」

 

急な乱入者に一瞬声を荒らげかけた男たちは、その風貌を見て口をつぐんだ。

身長は180を優に超え、ラフに着ているアロハシャツ越しにでも鍛えているのが分かる肉体。声こそ明るいが、眼光は鋭く男たちを睨みつけている。

 

「ツ、ツレがいたならそう言えよな!」

「俺たちはこれで!」

「おう、女の扱いはもうちっと勉強しろよガキども」

 

尻尾を巻いて逃げていく男から即座に興味をなくし、空風は3人にニコリと笑いかけた。

 

「嬢ちゃんたち、水着似合ってんなァ。俺がナンパしたいくらいだぜ」

「やだ空風くんたら!」

「ありがとうございました。しつこくて困っていたんですの」

「向こうでビーチバレーやろうって話になったからよ。嬢ちゃん達も行こうぜ」

「やったぁビーチバレー!」

「なるほど、砂の上でボールを拾うことで瞬発力と持久力を鍛えますのね!」

 

わいわい、とバレーに向かいながら芦戸はまだモヤモヤとした気持ちを抱えていた。ああいった事を言われるのは別に初めてではないが、だからといって傷つかないわけではない。

 

「芦戸」

「…え、なに空風」

「カッコよかったぜ、ヒーロー」

 

気づけば一人だけみんなから遅れていたのに、振り返りながら空風が言った。言葉の意味を理解するのと同時に、じわじわと嬉しさがこみ上げる。

 

「…ありがと!」

「おう。やっぱ美人は笑ってんのが一番だな」

「…煽てても何も出ないから!」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

「おいゴルァ槍バカ野郎!ボール壊すの何個目だあぁん!?!?」

「4個目だ!悪ぃな!」

「分かってんなら壊すなボケ!」

「ちょっと力入れたらすぐ壊れるんだもんよ」

「では私が丈夫なボールを作って見せますわ!」

「ありがと、ヤオモモー!…ってこのボールだと死人が出るよ!」

 

 

 





オルタニキの肌は褐色じゃない!あれはイラストの影の関係!というのは重々承知なのですが、こう対比として黒っぽい方がいいな~と思ったので勝手に褐色の設定にしてます。
本当は中身までオルタっぽくしようと思ってたんですけど、書くのが難しかったので中身は元の能天気なままです!
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