幼少期の頃に好感度が最大値な美少女たちと色んな約束を交わしている主人公は成長した末に最強に至る。ヤンデレヒロイン、現代異能剣戦ファンタジー 作:三流木青二斎
夜中。
非番である銅島センジは濡れた布を持っていた。
生暖かい手拭いは、娘の看病で使った頭を冷やす為のものだった。
今宵、銅島ハクアは酷い熱に魘されていた。
肺を蝕む病は深刻な状況になると、高熱を発症させる様になっていた。
寝ずの看病をしている銅島センジは、台所で手拭いを絞り直そうとした時。
ちりりりりん、ちりりりりりん、と。
黒電話の音が響き出す。
深夜の時間帯であるのに、一体誰が電話をしてくるのだろうか。
銅島センジは訝し気に思いながら、水気をタオルで拭うと、受話器を手に取った。
「はい」
小さな声で呟く。
電話の先からは、男の声が軽快に聞こえて来た。
『よぉ!銅島さん、ご機嫌どうすかぁ!?』
「…失礼ですが、どなたですか?」
不快感を露わにする銅島センジに、眼帯の男は名前を口にした。
『望月アクザ、名前は聞いた事あるよな?妖刀師の望月アクザだ』
ぴり、と神経が逆立つ。
名前くらいは聞いた事がある。
暴力団を結成する妖刀師。
確か、二つの組織が武器の売買でいざこざを起こし、抗争に勃発したと聞く。
その望月アクザが一体、何の用であるのか。
いや、銅島センジは嫌な予感を過らせた。
『持ってんだろ?〈
やはり、…と。
銅島センジは察した。
相手が何故その情報を得たのか分からないが。
此処で情報の出所を探る様な真似はしない。
「…何の事か分かりませんね、いたずら電話でしたら他でどうぞ」
あくまでも知らぬを通す。
毅然な態度で電話を切ろうとする。
だが、相手もそれを察したのか、受話器を切らない様に気になる事を口にした。
『待て待て、切るなよ?今そっちに良いものを送る、交換条件と行こうじゃねえか』
その言葉の後。
玄関の扉が強く叩かれた。
音に反応する銅島センジは視線を玄関に向ける。
既に人の気配は消えていた。
「…」
電話越しでもその音が聞こえたのだろう。
『玄関、叩く音が聞こえたなぁ?出ろよ、電話は切るなよ?』
そう命令され、一度受話器を置くと、歩きながら玄関先へと向かう。
扉を開けると、やはり周囲には誰も居ない。
(…誰も居ない、玄関の前、小包?)
しかし、玄関前には、小さな小包があった。
白い箱は、ご丁寧にリボンが巻かれており、其処から何やら死臭が漂いつつあった。
銅島センジは自身の中で嫌な予感を覚える。
リボンを外し、箱の蓋を開けて中身を確認した所…。
「…っ、指、子供の… !」
思わず、声が出なかった。
小さな指は成長期前の子供の指だった。
切断面は出来の悪い刃物で千切ったかの様な痕をしていて、骨が砕けていた、これでは、指を縫っても神経は繋がらないだろう。
踵を返し、大切に箱を持った状態で銅島センジは受話器を持ち耳に当てた。
「千金楽家を…アカシくんに、何をした?」
状況は火急である事を察した銅島センジ。
冷静さを失わない様に感情を制御しながら望月アクザに問うた。
『答えは聞かずとも分かるよな?銅島センジ、あんた程の人間が、銀嶺家に勘当され、田舎町に左遷されるなんざ、可笑しいと思ったぜ、ずばり、それは隠れ蓑、警備の薄い場所に〈
銅島センジ。
元宗家の人間でありながら分家へと落とされた。
実力も人徳も申し分無いが、それでも彼が分家へ落ちた理由がそれだった。
いや、それも原因の一つである事に変わりない。
ただ…表向きの理由が自然だったからこそ、〈魔剣妖刀〉を託されたのだろう。
でなければ、今頃は、銅島センジこそ銀嶺家の次期当主の器だったのだ。
『と言うか、ガキもあれか?病弱ってのは嘘なのか?だとしたら、とんだペテン師だぜアンタ』
望月アクザの言葉に、銅島センジは歯軋りをする。
(娘の事も知っているのか…ッ)
これで、望月アクザの悪意が娘にも届く様になった。
その質問をはぐらかす様に、別の話題を望月アクザに聞く。
「…質問に答えろ、千金楽家をどうした?」
最早余裕など無かった。
敬語を付ける事も忘れ、千金楽家がどうなったか聞く。
だが、その行動は不躾なものだと望月アクザは感じたらしい。
『おいおい、世間話くらい楽しませろよ、あの銅島センジと会話してんだからよ…けど、どうしてもガキの声が聴きたいってのなら…』
受話器が離れる、「やれ」と言う言葉と共に、鈍い音が響いた。
電話先には、小さな子供の呻き声が漏れ出す。
『ぅ、ぎゃッ…がっ』
態々子供を狙ったと言う事は、望月アクザの居る場所に両親は居ない。
抜刀官として生きる彼が息子を守らなかった筈が無い。
と言う事は…既に、二人は命を落としていると確信し、銅島センジは落胆した。
「…あぁ、アキヒトくん…ユカさん…なんて事を、なんて真似を…ッ」
受話器を強く握り締める。
怒りを抱く銅島センジに、神経を逆撫でする声が響く。
『なあなあ、事態は理解出来たか?お前がする事はただ一つ、奈流芳カズイの〈
そう言い終えた後、銅島センジの反応を待たずして笑い声が響く。
『あぁ、悪い悪い、既に指一本、無くなってたよな?五体満足じゃねえか…どちらにしても、一時間以内だ、駅前で待ってるぜ?』
取引場所を告げる。
その言葉に、銅島センジは了承しなかった。
深く呼吸を繰り返した後、覚悟を決めたのだ。
「…悪いが、それは出来ない、今日、娘が病気で臥せている…そちらには行けないが、私の家に直接取りにくれば良い」
その回答に、反感を覚える望月アクザ。
ドスの利いた声で、望月アクザは呟く。
『取引だぜ?テメェが勝手に決めんじゃねぇよ』
子供に危害を加えようとする望月アクザの反応を読んでか、彼が命令を下す前に銅島センジは逆に彼らを恐喝する。
「前提条件を間違えるな、お前らが欲しているものは確かに此処にある…だが、それを無事に回収したければ、其方側から来るんだ、…刀は一振り、破壊するのも容易だ」
見事な脅しだ。
彼らが欲しているのは〈斬神斬人〉が使役した〈魔剣妖刀〉である。
それが銅島センジの懐にある以上、人質をこれ以上傷付ければ、刀を破壊すると言ったのだ。
『はッ!〈魔剣妖刀〉が壊せるワケねぇだろうが!!』
電話越しで銅島センジを馬鹿にするが。
銅島センジは淡々とした口調で言った。
「だから
本気だ。
その言葉に、銅島センジは本当に壊す気だと察した望月アクザ。
最終的に、相手の都合に合わせる事に苛立ちを覚えながらも、渋々と了承の旨を告げる。
『…上等だ、良いぜ、三十分後に取りに行く、ガキを連れて行くからよ…その時に、交換だ』
そして、一方的に電話は切られた。
つー、つー、と、通信の切れた受話器が音を鳴らすと、ゆっくりと受話器を黒電話に戻す。
額に流れる脂汗を、握り締める手拭いで拭いながら、息を吐いた。
三十分後に…望月アクザたちがやってくる。
早々に準備をしなければならない。
急ぎ、銅島センジは娘が眠る銅島ハクアの元に駆け寄ると、彼女の細くて軽い体を抱き上げる。
「…ごめんなぁ、ハクア…巻き込んでしまって、私は、父親失格だ…」
大量の汗を流しながら、熱に魘される銅島ハクア。
「…ん、は…あかし、ちゃん…」
うわ言の様に、愛する男の名前を口にする。
「…あぁ、ちゃんと助けるよ、アカシくんだけは」
銅島ハクアを抱き上げると、そのまま台所へと向かう。
そして、床倉庫に手を掛けて開けると、細長い棺の様な金庫があった。
取っ手を握り締めると、膨大な闘猛火を流し込む。
すると金庫の鍵が開き、重厚な扉が開くと、其処には一振りの刀が収まっていた。
それが、〈魔剣妖刀〉…〈斬神斬人〉奈流芳カズイが生前持っていた刀である。
取り出すと共に、代わりに、銅島ハクアを金庫の中に入れる。
「少し、窮屈だろう…けれど、必ず、開けに戻るから…辛抱してくれ」
其処は一種の安全地帯だった。
魔剣妖刀を隠し続けたその金庫は、武器で破壊する事は困難だ。
当然、人を入れれば密封状態となる為に酸素の枯渇や体温により中が熱くなる。
そうならぬ様に、予め銅島ハクアの口に薬を流し込んだ。
寝つきが良くなる睡眠剤と鎮静剤を混ぜた粉薬だ。
肺に病がある為に、冷静に呼吸を行えば咳き込んでしまう。
なので、肉体はなるべく呼吸をしない様に無呼吸状態になる。
幼少期の頃からその状態はかなり危険だろうが、金庫の中で長時間過ごすとすれば酸素の供給回数が少なくなる。
なので、金庫の中でも長時間潜む事が可能だろうと推測した。
「…アキヒトくん、ユカさん、…無念、私が晴らします」
金庫を閉める。
刀を携えて、来る悪党共を待つ為に三十分、心を落ち着かせる為に瞑想を行った。