幼少期の頃に好感度が最大値な美少女たちと色んな約束を交わしている主人公は成長した末に最強に至る。ヤンデレヒロイン、現代異能剣戦ファンタジー   作:三流木青二斎

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試刀館学院試験〈鬼哭山〉

 

 

期限である時刻が過ぎた時。

女性抜刀官の声が周囲に響いた。

 

「現時刻を以て締め切る、第一試験合格者は三百七十二名ッ」

 

最初の試験会場では、千名居た筈の受験生が、かなりの数に篩い落とされた。

試験の合格に安堵の息を吐くと共に、まだ第二試験がある事に喉を鳴らす。

 

「そして次の試験、の前に食事を提供する、益良雄神社の住職の方によるご提供だ、有難く食すが良いッ」

 

そうして、配られた弁当を確認する。

神社の住職の方が作られたモノなので、弁当の中身は精進料理だった。

それでも、長時間の運動をしていた受験生にとっては御馳走として目に映る。

野菜や豆腐、豆料理でも、自然の味が舌先に広がった。

 

「そして、食事をしながら聞くが良い……これから第二試験の内容だ」

 

お茶を飲みながら、千金楽燈は口の中に残る精進料理を茶と共に喉奥に流し込んだ。

 

「休息を取り一時間後、益良雄神社所有地である鬼哭山へ入って貰う」

 

益良雄神社は抜刀官機関、〈大國主〉が所有する土地。

そして益良雄神社の関係者は、抜刀官が訓練する為の場所を管理する役目を持つ。

〈鬼哭山〉

其処は、第三級から第一級の祅霊が放し飼いにされている山の中だった。

 

「鬼哭山の中に約百五十振りの刀を設置している、最低一振り、刀を回収してこの益良雄神社に戻って来い、それが第二試験の内容だ」

 

受験生の殆どは喉を鳴らした。

態々、祅霊が棲む場所に、武器を持たずに入る事など自殺行為。

更に、第一級の祅霊も居ると言う事は、最悪、死人が出ても可笑しくは無い。

 

「最初に言っておくが、鬼哭山に入った時点で命の保証はしない、自らの意志で入ったと見做し、責任は発生しない」

「は?……じゃあ、死んでも責任は取らないって言うのか?」

「それは可笑しいだろッ!!試験で死ぬなんてッ」

「別の試験に変えて下さいよッ!馬鹿げてるッ!!」

 

当然、今回の試験の内容に関して反感を覚える受験生は多かった。

反応を見た女性抜刀官は何か言おうとしたが。

 

「今、試験にケチつけた奴、全員辞めちまえよ」

 

声を荒げる一人の男性の姿があった。

皆、その声に視線を向けると、それは戦極京兵であった。

その言葉を皮切りに、抜刀官に成ると決意した者達の声が響く。

 

「我が身大事で抜刀官になれるかよ」

「人生変えに来てるんだ、俺達はッ!!」

「嫌なら帰れッ!!俺はやるぞッ!!」

 

騒ぎが大きくなる前に、女性抜刀官が声を拡声器を使用する。

 

「命が大事だと言う者は、試験を受けずに帰る事も出来る、受ける度胸が無ければ、このまま帰るが良い」

 

その言葉を受けて、受験生が十人程、その場から離れ職員に話し掛けている。

鬼哭山に入る事を拒否し、時には賄賂や権力を使い第二試験を強引に突破しようと試みたが、それは失敗に終わる。

結局、第二試験が始まる前に十名が自ら脱落の道を選んだ。

だが、それ以上の受験生たちは離れる選択はしなかった。

 

試験の内容が伝達された後、食事を終えた千金楽燈は白檮山雪月花に話しかけた。

 

「大丈夫か?」

 

第二試験は先着順で鬼哭山に入る事になっていた。

白檮山雪月花は一番最初に到達したので、彼女が先陣を切って鬼哭山に入る事になる。

なので、千金楽燈は彼女を心配して話しかけたのだが。

 

「要らぬ心配ですね」

 

ふふん、と自信満々な様子で言い切った。

どうやら彼女は今回の試験に失敗する気は無いらしい。

 

「あたし、早く走るのが自慢だって、言いましたよね?」

「ああ……だけど、慢心はしない方が良い」

 

祅霊は狡猾な存在だ。

人間を犯し、喰らい、殺す為に存在する悪鬼である。

そんな祅霊が一級相当の化物もこの鬼哭山に棲んでいる。

そう考えれば、決して油断など出来ない状況であるのは確か。

だが、白檮山雪月花は大丈夫だと言った。

 

「何かあれば、逃げますので、燈心くんは、燈心くんの心配をしててください……いえ」

 

白檮山雪月花は何か妙案を思いついたかの様に彼に告げる。

 

「何なら、燈くんが危険な目に遭っていたら、たすけに行きますよ」

「……それこそ要らぬ心配だよ、雪月花」

 

彼女の余程の自信。

合格しそうな雰囲気を纏っている。

ならばこれ以上の言葉は不要だろう。

千金楽燈は、白檮山雪月花の頭を撫でた。

 

「幸運を祈るよ」

「わわ、なんで頭を撫でるんです?」

 

何故だろうか。

千金楽燈は自分の行為が信じられないと思った。

だが、すぐに彼女の存在が何かに似ている事を思い出す。

 

「いや、なんか、イヌっぽいな、と」

「はあ、ワンちゃん、ですか……それっぽいですかね?」

 

人懐っこい所。

妙に自信があるところ。

それらを考慮して、何処かイヌの様に見えたのだろう。

 

「気分を害した、か?」

「いえ、別に、……えへへ、ワンちゃんかあ」

 

嬉しそうに笑う白檮山雪月花に声を掛ける者が居た。

それは、今回の試験を担当する、女性抜刀官によるものだった。

 

「白檮山雪月花、時間だ」

 

その言葉と共に、白檮山雪月花は歩き出す。

振り向いて、千金楽燈に向けて手を振った。

 

「また、逢える事を祈ってます、燈くん」

「ああ、また、後で逢おう」

 

そうして、白檮山雪月花は薄暗い道を歩き出した。

鬼哭山へと向かい出す彼女を見送った千金楽燈は、柔和な笑みを崩して試験に集中する。

そして、彼女が山の中へ入り十分後、千金楽燈の名前が呼ばれた。

 

「千金楽燈、時間だ」

 

そう言われて、千金楽燈も女性抜刀官と共に歩き出す。

 

「今回、上位十名には十分間毎に鬼哭山への入場が許されている、だが、上位十名が入場した後、十分間隔で百名ずつ鬼哭山へ送り込む、時間が経過すればする程に、刀を見つける可能性が低くなると思え」

 

有益な情報を得た千金楽燈は頷いた。

 

「そして上位十名に伝達している事だが、山の天辺へ向かえば向かう程に刀の数が多くなっている、その分等級が高い祅霊が居るので、注意をしろ」

「解りました、ありがとうございます」

 

感謝の言葉を伝える千金楽燈。

女性抜刀官と共に、薄暗い森の中、その前へとやって来た。

森林の周囲には、多くの札が張られていた。

祅霊が外に出ない様にする為の、封印の様な類なのだと思った。

 

「……時刻だ、千金楽燈、入れ」

 

その言葉と共に、千金楽燈は鬼哭山へと入り込んだ。

 

鬼哭山は薄気味の悪い空気が漂う。

祅霊が放つ瘴気が充満しているのだろう。

千金楽燈は足を踏み入れると同時に気配を察する。

 

「炉心躰火(ろしんたいか)」

 

即座に呼吸を行う。

酸素を巡らせて闘猛火を生成。

肉体に流し込む事で身体能力を強化。

その状態で彼は勾配な山の道を走り出した。

当然、鬼哭山は人が昇る為の山道は無かった。

なので足場は悪く、足を踏み外すと容易に倒れる。

だが、千金楽燈は草木が荒れ狂う山道には慣れていた。

 

(台明寺先生の修行に似てるな)

 

彼の師匠は幼少期の頃の千金楽燈を引き取った。

そして抜刀官に成る為に様々な修行を彼に行わせた。

修行の大半は山の中での実施された。

毎日、山の中を駆け巡った千金楽燈には慣れた場所に等しい。

 

「き、きゃッ」

 

木々の上から声が聞こえて来る。

その声に反応して、千金楽燈は真横に跳んだ。

直後、複数の矢が地面に突き刺さる。

あのまま、直線に走り続けていれば矢に直撃していただろう。

 

(上か)

 

千金楽燈は上空に向ける。

巨大な樹木の幹の上、其処には尻尾を使い宙ぶらりんな状態で千金楽燈を弓で狙う黒い毛皮を羽織る大柄の猿が歯を剥き出しにして嗤っていた。

 

(祅霊か)

 

千金楽燈は猿を見ながら察する。

祅霊が武器を使うのは珍しくは無い。

特に人間と同じ形状をした祅霊は武器を使い狩りの様に人間を迫害する事が多かった。

 

(矢は陽動だろうな)

 

此方へと放ってくる矢。

一度目は確実に千金楽燈を狙った軌道だった。

だが、二度目に射出された矢は千金楽燈付近を狙っての射撃。

一度目で仕留めきれなかった場合を備えて、次なる作戦を決行しているのだろう。

 

(だとすれば)

 

千金楽燈は耳を澄ませる。

風を切って此方へと迫る音が微かに聞こえた。

背後からの奇襲だろう、千金楽燈はワザと知らぬ素振りをした。

 

「きゅあキャキャッ!!」

 

叫び確実に千金楽燈を殺せると確信した声。

猿型の祅霊が刀を振り下ろして千金楽燈の頭から一直線に斬撃を繰り出そうとした最中。

 

「すぅ……はッ」

 

呼吸を行う。

炉心躰火の性能を一段階上昇。

長時間の身体能力を強化させる〈炉心躰火・煙(ろしんたいか・のろし)〉から、千金楽燈は〈炉心躰火・爆(ろしんたいか・はなび)〉へと切り替えた。

肉体に駆け巡る闘猛火が加速し熱量を増加。

肉体に負担を掛ける代わりに瞬間的に身体能力を爆発するかの様に上昇。

これにより、千金楽燈の肉体は猿型の祅霊の攻撃を回避した後、拳を振るい猿型の祅霊の顔面を殴る。

手から離れる刀、それを千金楽燈は掴むと、その感触を確かめる。

 

「緋火刃金だな」

 

斬人が使用する刀。

緋緋色金を使用する事で、斬人から放出される闘猛火の熱量を何十倍にも引き上げる道具。

祅霊が使えばそれは唯の刀だろうが、千金楽燈心が使用する事で真価を発揮する。

 

「お前たちには過ぎた代物だよ」

 

闘猛火を刀身へ流し込む。

莫大な熱を宿す刀身が赤く輝き出した。

 

千金楽燈は柄の握り心地を確かめた末に刀を振るう。

狙うは遠くから此方を弓を使い射撃してくる猿型の祅霊に対してだ。

しかし、刀に対して弓。

年季の入った樹木の大きさからして背伸びをしても刀が猿型の祅霊に接触する事は無い。

ではどうするか。

 

(斬(・)撃(・)を(・)放(・)つ(・))

 

千金楽燈は深く呼吸を行う。

体内に取り込まれた酸素は炎子炉と呼ばれる器官によって生命の火が燃え盛る。

其処から管を通り、掌から闘猛火を柄から刀身に向けて流し込む。

緋緋色金の特性により闘猛火の熱量を百倍に増量。

通常の闘猛火の熱は三十度から四十度程だが、これに従い太陽と同等の熱量である三千度の闘猛火が生成、刀身に内包される。

この熱量から生まれる力を、更に刃紋玉鋼による熱の波動を斬撃の波動へ変換させ、樹木の上に立つ祅霊に向けて刀身を構える。

 

 

 

「試刀流斬術戦法(しとうりゅうざんじゅつせんぽう)"斬鬼"ヶ四式(ざんきがよん)―――」

 

 

 

口から技の名を吐く。

これにより炎子炉に消費された排気瓦斯を効率良く排出。

 

今、千金楽燈と刀は一つになっている。

刀と肉体は闘猛火によって繋がれ、闘猛火は彼の意思、脳髄の信号によって射出される。

 

 

 

「―――〈断威(たちおどし)〉ッ」

 

 

 

その言葉と共に刀を振るう。

刀身から放たれる斬撃は、鋭い三日月の刃と化して幹を切断した。

猿型の祅霊がそのまま落ちていく時、千金楽燈が刀を構え直して攻撃の準備を行う。

尻尾で樹木にしがみ付いていた猿型の祅霊は幹を動かして自らの前に出す。

幹を楯にする事で、千金楽燈の初撃を外そうとしたのだろう。

だが、千金楽燈は再度、呼吸を行っている。

 

刀身を回帰するが如く鞘に納めて念を込める。

闘猛火が鞘の内部に充満し、刀身に熱が宿る様に意識をする。

そして、相手の攻撃よりも早く抜刀。

 

 

「試刀流斬術戦法(しとうりゅうざんじゅつせんぽう)・"抜刀"ヶ一式(ばっとうがいち)、〈流刃(りゅうじん)〉」

 

 

 

刀身から溢れる闘猛火。

刃紋玉鋼の刃から微細な刃が棘の様な形状を形作る。

すると、その棘の刃が刀身を滑る様に刃が走り出す。

電動鋸の様な動きをする闘猛火の刃により、切断能力を格段に向上させる。

その状態で、千金楽燈は刀を振るい、祅霊を幹諸共切断して見せた。

 

 

試刀流斬術戦法(しとうりゅうざんじゅつせんぽう)。

名の由来は、試刀館の基礎斬術を築いた台明寺(だいみょうじ)如定(ぎんじょう)が考案、開発に至った斬術戦法。

 

居合抜きの型〈抜刀〉の斬術戦法。

一刀両断の型〈斬鬼〉の斬術戦法。

刺突貫通の型〈尖鋭〉の斬術戦法。

 

 

以上三つの斬術の基礎を纏めた技である。

他の流派の斬術系統は更に細分化されているが、基礎として試刀流を学ぶ斬人は少なくない。

何よりも試刀流は護身の斬術でもあり、誰でも学ぶ事が認可されている教科書の様なものであった。

 

千金楽燈は、幼少期の頃から台明寺如定の元で引き取られ、試刀流の基礎を叩き込まれたのだ。

 

 

 

地面に転がる猿の祅霊に向けて刀を振るい、致命傷となる首筋を切り裂いた。

絶命を迎える祅霊を尻目に、千金楽燈は刀を肩に担ぎながら周囲を見回す。

他に祅霊の姿は何処にも無かった事から、安堵の息を漏らす。

 

「意外と簡単だったな」

 

千金楽燈は刀を見ながらそう言った。

後はこの刀を持って麓に降りれば合格である。

だが、千金楽燈は剥き出しになった刀を見て少し不満を覚えた。

 

(あの猿の祅霊、鞘は持って無かったな……鞘は重要だ)

 

鞘が無ければ、千金楽燈の本領を発揮する事が出来ない。

と言うのも、ただ刀身を治めるだけの鞘にも使い道があるのだ。

それは流派によって違いがあるが、少なくとも千金楽燈の斬術戦法には鞘が無ければならない。

 

「まだ時間はある、最悪、この刀を持って降りれば良いし、もう少しだけ探すか」

 

そう千金楽燈は山から下りる選択をせず、再び刀を探す為に山を探る。

 

 

 

 

――――走る速度は十二分。

白檮山雪月花は息を荒げながら走り続ける。

肉体の速度は背後から迫る祅霊を置き去りにする。

彼女の足の速さは村の中でも折り紙付き。

 

誰も彼女の神速に適うものは居なかった。

全速力で走っても疲れを見せない白檮山雪月花。

 

(ああ……不味い)

 

そんな彼女にも焦りを覚えている。

山の天辺を目指し刀を探していた彼女。

其処で出くわした祅霊が少々厄介だった。

大猿の姿をした祅霊。

恐らくはこの山の中で言う一級相当の祅霊だ。

化物は大量の猿の祅霊を従え、彼女を標的に定めていた。

彼女は地面を蹴って早々と逃げていた。

如何に足が速くとも、刀が無ければ戦う手段が無い。

だから、白檮山雪月花は刀を探しながら逃げていたのだが。

 

(ッ、早く、早く見つけ、ないと)

 

反響定位を使い周囲の木々が走行の妨げにならないか確認。

祅霊の動きも、彼女は祅霊から発する独特な瘴気から何処に居るかおおよその位置を察する事が出来た。

 

周囲に闘猛火の揺れも無く、確実に自分一人が危険な状況である事を察する。

 

(ッ、この形状、刀)

 

そして、白檮山雪月花は刀の位置を特定する。

其処に向けて全速力で駆けると共に、彼女は刀を掴んだ。

そして振り向き、刀を構えると深く呼吸を吸った。

此方へと接近する猿の祅霊に向けて、彼女は鞘を抜き放ち刀の切っ先を祅霊に向ける。

 

「試刀流斬術戦法"尖鋭"ヶ一式、〈穿突(がとつ)〉ッ」

 

刀に火を流し込むと共に、斬撃の波動が切っ先から放たれる。

尖鋭は闘猛火を切っ先に集中する事で放たれる刺突技。

傍から見れば、高出力の光熱射線(レーザービーム)であった。

それによって、猿の祅霊を一体を討伐した、

 

かと思えたが。

 

「ぐ、ゥぁ!」

 

負傷した猿の祅霊を押し退けて、別の猿の祅霊が彼女に向けて大木を振り下ろした。

頭部に向けて振るわれた一撃。

頭部を強打された彼女は意識が一瞬飛んだ。

 

(ま、ずい、か、身体が、動かない、い、識、が)

 

揺らぐ意識。

彼女は必死に取り留めようとする。

だが、その一瞬が命とりだった。

 

「うきゃきゃうッ!!」

 

興奮を混じらせた声色を発する猿の祅霊。

彼らは久方ぶりの女性を見て酷く興奮していた。

祅霊は古くの時代から人間を嫌悪していた。

人とは食糧であり、同族を増やす為の苗床。

 

この鬼哭山に連れて来られた彼ら祅霊は満足に欲を発散する事が出来なかった。

だが、今回、この山に来た人間はかなりの上物であった。

肉体は成熟しており、子を孕むのに最適な肉体である。

 

肉体に祅霊の苗床の証明として種子を植え込ませる事で、斬人の肉体の器官である炎子炉を改造、闘猛火から肉体に循環させる事で肉体を発情、母乳成分の分泌を促進させる様にするのだ。

 

その為には先ず体を包み込む衣服が邪魔であった。

祅霊は早々と彼女の衣服を爪で引き剥がすと、胸元を晒しで巻かれていた。

 

「ッ、ぁッ」

 

彼女は、手から離し掛けた刀を強く握る。

そして、下種な祅霊に向けて刀を振って距離を取る。

 

「ふ、ッ、ふうっ」

 

呼吸を整える白檮山雪月花。

衣服は上下ともに切り裂かれてしまった。

その際に爪が彼女の柔肌を傷つけ、無数の傷跡から血が垂れている。

鋭い痛みを感じながらも、彼女は刀を構えていた。

 

(は、やく、みつけ、ないと)

 

彼女は意識が朦朧としていた。

既に刀は所持しているのに、それでも尚探していた。

猿の祅霊たちは、先程まで興奮の最中だったが、彼女の行動によって邪魔をされ怒りが心頭としていた。

 

「うきゃうぎゃああッ!!」

 

歯を剥き出しにする。

拳を強く握り締めて武器を作る。

これ以上、欲が暴発しそうで仕方が無かった。

 

七匹の猿の祅霊。

一匹の大猿の祅霊。

 

七匹の祅霊が周囲を取り囲み、白檮山雪月花を包囲する。

刀を構える白檮山雪月花は、周囲を見回して祅霊の瘴気を感じる。

 

「ぎゃうッ!!」

 

彼女の背後に向けて走り出す猿の祅霊。

その気配を感じ取った白檮山雪月花は振り向きと共に刀の切っ先を猿に向ける。

 

「試刀流斬術戦法"尖鋭"ヶ六式〈旋槍(せんそう)〉ッ」

 

闘猛火が螺旋状の軌道を以て猿の祅霊の脇腹に突き刺さる。

致命傷では無い為に猿の祅霊は活動は可能だった。

 

「うきゃ?!」

 

だが、其処から螺旋の渦は広がっていく。

闘猛火に伝達した信号により、傘が開く様に刺突の穴が広がっていくのだ。

〈旋槍〉を受けた猿は結局、上半身が千切れて死滅する。

 

他の猿も同じ様に白檮山雪月花に向けて飛び出た。

一匹でダメならば、今度は三匹で、と言った所だろう。

 

「試刀流斬術戦法"尖鋭"ヶ二式〈刺突(しのつき)の六〉」

 

刺突を六度連続で突き出す白檮山雪月花。

闘猛火の穂先が形成され、それが三匹の猿に向けて突き刺さる。

しかし、その攻撃を潜り抜ける猿が居た。

 

「ぎゃうッ!!」

 

その声と共に猿の細長い指先が彼女の細い首を強く握り締めた。

 

「ナ、に、ぃ、ギッ、ァ」

 

首元を強く締め付けられる白檮山雪月花。

顔を赤くしながら口元から掠れた声を漏らす。

喉を強く締め付けられた事で、呼吸がままならない。

斬人は呼吸を以て闘猛火を生成する。

それが出来ないと言う以上、斬人として危険な状況に陥っている。

 

「が、ぁッ、に、ァ、あッ」

 

刀を振るうが力が入らない。

他の猿たちも加勢に入り、白檮山雪月花を辱めようとした。

今度こそ、彼女一人の力では振り解く事は出来なかった。

 

(ぁ、はッ、に、あ、燈、く、―――ん)

 

仲の良い男の名前を脳裏に過らせる。

彼の姿を思い浮かべた時、白檮山雪月花の苦しみは解放された。

 

 

 

 

「大丈夫か?雪月花」

 

 

 

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