スターミー(?)に狙われてる一般ガラル野郎日録   作:メガブリムオン

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α+6

 

 

 

 

 

 一体どれくらいの時間が経過しただろうか。

 数分か、それとも数時間か。

 赤紫のもやに包まれたスターミー(?)と向かい合ったまま、俺は時間感覚が曖昧になっていた。

 

 

『ヘアァァッ!!!』

 

 耳を裂くような叫びと同時に、水路の水が爆ぜた。

 反射的に足を踏み切る。

 

 

「っ……!」

 

 遅い。

 完全には避けきれなかった。

 

 衝撃が脇腹を掠め、身体が宙に浮く。次の瞬間、石畳に叩きつけられ、そのまま地面を激しく転がった。

 視界が何度も回り、背中と肩に鈍痛が走る。止まった時には、口の中に鉄の味が広がっていた。

 

 

「痛ってぇ……"アクアジェット"か」

 

 止まると同時に、すぐ次の水音。踏み抜く気配が、もうそこまで来ている。

 俺は勢いよく立ち上がると腰に手を伸ばし、ボールを掴み取った。

 

 

「アーマーガア!」

 

 黒鉄の翼が展開され、重たい風圧が叩きつけられる。

 スターミー(?)の踏み込みは逸れ、水柱だけが跳ね上がった。

 

 

「……もう残りは、お前だけか」

 

 さっきまで前に出していたポケモンたちは、すでに全員モンスターボールの中だ。ファイアローを含めた四匹。立て続けに俺のポケモンたちがやられた。その事実だけが胸に残っている。

 

 

 相性不利とはいえ俺のファイアローの"フレアドライブ"を、恐らく"ギガインパクト"で真正面から受け止めた上で、そのまま一撃で沈めてきたことから始まり、あいつは全部俺のポケモンたちを一撃で退いていった。

 

 でも、倒れてった子たちの活躍がないわけじゃない。

 踏み抜く脚の軌道は、少しずつ荒くなっているし、動くたび赤紫のもやが一瞬だけ薄くなるのが見えた。衝撃を受け流しきれず、体勢を崩す場面も、確実に増えている。

 

 

「ははっ、ポケモンバトルでここまで追い詰められたのいつぶりだろ……油断した訳じゃないけど、こりゃヤバいわ」

『ガァ』

 

 俺は大きく息を吸い、アーマーガアの横に並ぶように立ち、そのまま首元に指をかける。シャツの内側で揺れていたパイロットゴーグルを引き上げ、額から静かに目元へ下ろした。

 

 

「………よっしゃ、アーマーガア、ここからは本気(マジ)だ」

『ガアァァ!!!』

 

 ゴーグル越しに、世界が一段階クリアになる。

 水面の跳ね方、あいつの脚の踏み込みの癖、赤紫のもやが膨張する“直前”の揺らぎ。

 

 全部、見える。

 

 

『ヘアァァッ!!!』

「もう俺たちには通用しない」

 

 俺は声を出す前に動いていた。

 水路沿いの石畳を蹴り、半歩、さらに半歩。踏み抜きが来る“場所”を避けるように、ギリギリを抜ける。

 アーマーガアもまた、空高く飛び上がることで回避すると、鈍い衝撃と共に背後で石が砕け、再び水柱が上がる。

 

 

「"アイアンヘッド"」

『ガァッ!!』

 

 一瞬の躊躇もなく、相棒が滑空しながらに出る。

 黒鉄の翼を畳み、全体重を乗せて一直線に突っ込む。

 

 鋼の頭突きが、真正面から叩き込まれた。乾いた金属音と共に、赤紫のもやが大きく揺らぐ。スターミー(?)の身体がのけぞり、脚の踏ん張りが一瞬だけ崩れた。

 

 

(よし、このまま畳み掛ける)

 

 

「続けて、"ダブルウィング"」

 

 咆哮と同時に、黒鉄の翼が大きく広がる。

 一度、強く羽ばたき、空気を裂く音を残して上昇──そして、間を置かずに急降下。

 一撃目。

 鋼の翼が斜めに叩きつけられ、赤紫のもやが千切れるように散る。

 

 

『ヘァッ……!!』

 

 反射的に脚を踏み出そうとするスターミー(?)だが、遅い。

 

 

「もう一発」

 

 二撃目。

 反対側の翼が、今度は横薙ぎに振り抜かれた。

 

 水面が大きく波打ち、スターミー(?)の身体が横へと弾かれる。赤紫のもやが、明らかに薄くなり、揺らぎが乱れた。

 アーマーガアは地面すれすれを滑るように抜け、そのまま旋回して俺の横に戻る。

 翼を広げ、低く構えたその姿に、俺は短く息を吐いた。

 

 

「やっぱサイコーだな。相棒」

 

 俺の言葉に応えるように、アーマーガアが低く鳴いた、その直後だった。

 

 あいつが纏っていた赤紫のもやが、急に静まる。いや静まったように見えただけだ。

 

 スターミー(?)はその場に踏みとどまり、脚を深く沈める。水面がわずかに逆流し、空気が張り詰めた。中心部のコアが、脈打つように明滅し始める。

 

 

(……ヤバいのが来そうだなぁ)

 

 直感がそう告げていた。あれは逃げでも、やけっぱちでもない。力を、溜めている。

 赤紫のもやが、今までとは比べものにならない密度で収束していく。水路の水位がじわりと下がり、石畳が軋む音がした。

 

 

「アーマーガア」

 

 相棒は一歩前に出て、翼を畳む。

 俺はゴーグル越しに、あいつの動きを一切見逃さないよう、視線を固定した。

 

 

「“ビルドアップ”」

『ガァ……ッ』

 

 低い唸り声と共に、アーマーガアの身体が引き締まる。翼、脚、首元、鋼の装甲がきしむ音を立て、全身に力が行き渡っていくのが分かる。

 同時に、スターミー(?)のコアが眩しく光った。

 

 

『ヘアァァァァ――――ッ!!!』

 

 咆哮と同時にスターミー(?)の姿が一瞬、視界から消える。

 次の瞬間には、もう目の前だった。水路を踏み砕き、石畳を抉りながら、赤紫の閃光となって一直線に突っ込んでくる。

 

 

(はっや!?)

 

 逃げ場はない。かわす余裕も、かわす意味もない。

 俺は一歩も退かず、叫んだ。

 

 

「もう一度真っ向勝負だ…“ブレイブバード”!!」

『ガアァァァァァ!!!』

 

 咆哮と共に、アーマーガアが地面を蹴る。

 ビルドアップで高められた力を一切余さず、黒鉄の翼を大きく広げ、その身を弾丸のように前へ投げ出した。

 

 逃げも、フェイントもない。

 互いに進路を変えることなく、真正面からぶつかった。

 

 重たい衝撃が走り、空気が震える。

 水が跳ね、石畳が砕け、赤紫のもやが衝突点から弾けるように散った。

 

 

『ガァ……ッ!』

「……耐えろ!!」

 

 アーマーガアの身体が軋む。

 だが、引かない。翼を畳み、全体重と全力を前に叩きつけ続ける。

 すると、赤紫のもやが悲鳴を上げるように揺らぎ、中心のコアに、はっきりと亀裂が走った。

 

 

『ヘァ……ァ……!?』

 

 その瞬間スターミー(?)の突進が、僅かに鈍る。それを俺たちは見逃さなかった。

 

 

「押し切れ!!」

 

 ブレイブバードの勢いが、最後の一段階、跳ね上がる。

 鋼の身体が、コアへと真正面から叩き込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇月◇日

 

 

 あー身体痛てぇよ。

 全身が打撲だらけだし、特に脇腹と背中が最悪。

 

 結局、あのスターミー(?)の暴走は止まった。あのギガインパクトとブレイブバードのぶつかり合いの末、完全に力尽きたように見えたので流石の俺もこれには大焦り。たまたま持ってたキズぐすりを使用したが、驚くことにスターミー(?)は回復した途端飛び起きたのと同時に水路の奥に走り去っていった。

 結果から見たら礼をするって目的は達成出来なかったけど、俺はあいつとの戦いの中で一つ仮説を立てた。

 

 多分あいつはずっと前からあの赤いもやに苦しんでて、俺の前に現れなかったのもアレが暴走するのを抑えるのに必死だった────そう考えれば納得はできる。

 まあ、肝心な俺をストーキングしてた理由は本当に謎だけど………とにかく、あれであいつが苦しむようなことがなくなればいいなって心から思うね。だって、あいつまだ俺のカレー食べてねぇし。次会ったらぜってぇ食わせてやる。

 

 まあ、でもあんなにバトルにガチになったのは久しぶりだったな。セミファイナルトーナメントくらい久しぶりだから、10年くらい前か?時の流れって残酷だな。

 

 つーか、ホント痛い。明日休も。

 

 

 

 

◇月♪日

 

 

 有給療養中俺氏、クエーサー社に呼び出しをくらいました………

 

 そりゃあ、最初は「いや有給なんで」って普通に断ろうとしたよ。

 いくら提携先とはいえ、こっちは全身打撲で療養中だし、正直ベッドから起き上がるのもしんどい。

 

 

 ただ、それが「ブルー地区での騒ぎの件で」って言われたら選択肢は消えるよね。

 あの、ホント忘れてた。

 よくよく思えば水路はぶち壊れてるし、石畳も抉れてるし、周囲の建物にも確実に被害は出てる。

 ……いや、九割くらいはスターミー(?)のせいなんだけど、それを説明して納得してもらえるかは別問題だ。

 

 まあ、今思えばそういうのっておまわりさんが来るもんだろうって気がするけど、このあと聞かされた事情を考えれば、クエーサー社案件になるのもまあ納得ではあった。大企業ってすごい。

 

 んで渋々身支度して、痛む身体を引きずりながらクエーサー社の会議室に向かったんだけど、通された先で何故かAZさんがマスカットさんの隣に座っていたのだ。

 

 これにはマジで驚いた。

 んで、なんと以前マスカットさんが愚痴ってた未知のエネルギー反応に対する進言をしていたのがAZさんだったというではないか。

 正直この時点から、この人何者なんだ?って疑問はずっと頭にあった。

 

 けど、その正体については結局聞かなかった。というか聞けなかった。頭に疑問があっても俺の意識、完全に「いくら請求されるんだろう」一色だったし。

 実際、話の流れも最初はそれっぽかった。

 ブルー地区で観測された異常、インフラ被害、周辺住民への影響──数字とかグラフとかが淡々と並んでいって、ああこれは説教の前振りだなって身構えてた。

 

 ところがだ。

 

 被害額の話は途中でスッと引っ込んで、代わりに前に出てきたのが、あの赤いもや。

 正確にはあれは未知のエネルギー反応だったらしく、社内では仮称でメガエネルギーって呼んでるらしい。うん、ネーミングは分かりやすくていいなって思う。いやホントに。

 昨日、ブルー地区でそのメガエネルギーが過去最大規模で観測され。で、その発生源の中心付近に、俺がいたのを発見したのだそう。

 

 

 そこまで言われたら、俺もさすがに話すことにした。

 と言っても、全部を詳しく説明したわけじゃない。伝えたのは二つだけ。

 ひとつは、あのスターミー(?)に、かなり前からずっとストーキングされていたこと。もうひとつは、暴走してた時の様子だ。攻撃的というより、制御が効いていない感じだったのも正直に話した。

 

 

 そう俺が話し終わったあたりで、AZさんが小さく頷いて、淡々と補足を入れてくれた。あれはスターミー(?)ではなく、"メガスターミー"と呼ばれるポケモンになるらしい。

 メガエネルギーの影響を受けた野生のポケモンが、突如"メガシンカ"という現象を起こし、暴走してしまう状態のことで、メガシンカをすると大きく姿や能力が変化するケースがあるとのことだが、あいつ…ただ脚みたいなのが伸びただけだったよね。

 

 要は暴走ダイマックスとなんら変わりないってことだ。どこ行ってもそういうのあるんだな。

 で、その現象には一応名称をつけることになり、"暴走メガシンカ"となった。

 まあ、俺が呟いた暴走ダイマックスをパクったようなもんだが状況的には分かりやすい。

 

 

 で、AZさんの見立てだと、こういうケースは今回限りじゃないらしい。ミアレシティ全体で、今後も同様のメガエネルギー反応が観測される可能性が高いとのこと。

 

 ただ、話を聞いていくうちに、どうにも噛み合ってない部分が出てきた。

 クエーサー社とAZさんが想定していたのは、あくまで“一時的に”メガシンカして暴走するパターンだったらしい。

 どうにかしてメガエネルギーが収まれば元に戻り、正気も取り戻す、みたいな。

 

 でも実際、あいつは常時メガシンカ状態だったし、赤いもやがなかったら正気だったからなぁ……実際、メガスターミーが暴れ始めてクエーサー社はその存在を認知したのだから。

 

 

 で、その食い違いについては、結局その場で結論は出なかった。

 常時メガシンカ状態の個体が存在する理由は、現時点では完全に未知数。

 考えても仕方がない、ということで、一旦そこは保留になった。

 

 その代わりに出てきたのが、今後の話。

 もし今後、同じような暴走メガシンカポケモンが現れた場合、ぜひ協力してほしい、とのことだった。

 

 ……いや、まあ、言いたいことは分かる。

 分かるけどさ、俺にも普通に仕事はあるわけで。

 お客さん乗せてる時にいきなり「また暴走メガシンカポケモン出るからよろしく」って言われても、正直即答は無理だ。俺にだって、プロ意識ってのがある。お客さんをわざわざ危険に巻き込むわけがない。

 

 

 その辺りも含めて話した結果、クエーサー社の見立てでは、次に同様の現象が起きるのはまだ先になる可能性が高いらしい。

 それまでの間に、別の協力者や対応体制を整えるとのこと。

 だから今は、深く考えなくていい、という結論になった。

 

 そんな感じで、一旦お開きになるかと思った、その時。

 ふと、ずっと引っかかってた疑問が頭をもたげた。

 観測したのは分かるけど、なんで戦ってたのが俺だって、そんなすぐ分かったのかだ。

 そしてそう聞いた瞬間、マスカットさんの顔が気まずそうにしてたのを俺はしばらく忘れないだろう。

 

 

「ネット、最近ご覧になってません?」

 

 そういや最近見てないなって思ってるとマスカットさんが端末を操作して、画面をこちらに向けてきた。

 そこに映ってたのは、明らかに盗撮としか言いようのない角度から撮られた映像。

 内容は水路沿いで、俺とメガスターミーが、ガッツリ戦ってるところだった。

 

 正直なところ、盗撮されること自体にはもうガラルで慣れてる。ミアレシティは人も多いし、ああいう騒ぎになれば誰かしら撮ってくるのは分かってた。

 

 分かってはいたんだけどさ。改めて映像で見ると、ちょっと恥ずかしいねコレ。

 ゴーグル越しとはいえ必死な顔してるし、動きも荒いし、何より周りの被害がよく分かる。そりゃ特定もされるわ、って妙に納得してしまった。

 

 マスカットさん曰く、既にそれなりに拡散されてるらしく、コメント欄は見ない方がいいですよ、って言われたけど、絶対見ない。

 昔配信活動してた時にネットで炎上したことあるし、絶対ろくなこと書いてないからね。ちょーこわい。

 

 今日はもう、色々ありすぎた。

 身体は痛いし、頭も回らないし、余計な情報も増えた。

 

 

 とりあえず今日は早く寝る。

 

 

 

 

 

 

■月〇日

 

 

 朝、目覚めたらストーカーメガスターミーが隣で寝てたんですけど、遂に一線越えたし、意味わからんし、裏声出たし、ガチふざけんなよお前。マジで。つーかなんで俺ん家ロック二重にしてたのに入ってきてんの。昨日までは可哀想な奴だなとか思ってたのに一気に裏切られた気分だわ。でもそれはそれで俺の朝メシ作ってくれててありがとうだけど、勝手に俺の冷蔵庫漁るな。大体、お前なんで俺のことストーキングしてくるんだよ。つーか今日の朝メシはカレーって決まっていて…………………

(以下数ページに渡って、ひたすらメガスターミーに対する幼稚的な悪口が書かれている)

 

 

 

 

■月■日

 

 

 おめでとう!ストーカーは居候に進化した!

 

 昨日は本気で心臓止まるかと思った。

 朝起きたら隣にストーカーが寝てるとか、人生で想定したこと一度もない。

 あれだけ騒いだし、散々悪口も書いたけど、落ち着いて考えると一つだけはっきりしてる。

 

 こいつ、出ていく気ゼロだ。

 

 態度を見る限り、どうやら本気で俺ん家に住むつもりらしい。

 勝手に冷蔵庫使うし、風呂場の位置ももう把握してるし、ソファの上が定位置みたいになってる。いや、家主俺だからな?

 

 正直、また暴走する可能性がゼロとは言えない。

 

 でも逆に言えば、こいつの近くにいれば、暴走メガシンカについて何か分かるかもしれない。

 クエーサー社やAZさんに話すネタも増えるだろうし、その点では悪くない……たぶん。

 

 それでだ。

 野良のままのもどうかと思い、一応、久しぶりにモンスターボールで捕まえようとしてちゃんとポケモンセンターで新品を十個も買ってきた。

 

 結果。

 全部、弾かれた。

 

 投げた瞬間、カンッて音して跳ね返るか、触れた瞬間にヒビ入って壊れるかのどっちか。冗談じゃなく、十個全部ダメ。

 

 これは凡そメガエネルギーとかが原因なんだと思う。俺の推測だとメガシンカ状態を解除さえすればいいんだけど、もうこいつとは戦いたくないので諦めた。

 

 とりあえず、当面は居候確定。俺の生活がどうなるかは知らん。

 

 




上完。
次回から時間開けて次章に入ります。更に主人公の日常が濃くなると思いますめいびー。

メモ
主人公:首にかけているパイロットゴーグルは二人の幼なじみからの大切なプレゼントで、仕事中と集中する時は必ず装着する。
昔、趣味の範囲でストリーマーしてた時期に炎上したことがある。
プリズムタワー工事中の真相はまだ聞かされてない。

メガスターミー:居候。エスパータイプなので鍵開けくらいは簡単。

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