おねいさんお出ししておきますね   作:ジョン・アラサーフェチ

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第2話

 

「うつですね」

 

 僕と対面する白衣の男は、天気の話でもするかのようにあっさりとそう告げた。

 

 男の背後の大きな窓からは、澄んだ日差しが部屋の隅々まで差し込んでいる。

 暖房が効いた部屋は心地がいいが、僕の内心は重苦しかった。

 

「……」

 

 返事をすることすら億劫だった。

 言葉が喉の奥にへばりついて、音にならない。

 

 今朝、職場へ向かう道すがら。

 僕は駅前のコンビニの前で座り込み、スーツのままアスファルトの上で声を上げて泣いた。

 大の大人が、人目を憚らずわんわんと泣いた。

 

 周囲の人々は、そんな僕を奇異の目で見ていたに違いない。

 だが、そんなことはどうでもよかった。

 

「まあ、一般的な抗うつ剤も出すことはできますが」

 

 医師は、にこやかにカルテをめくる。

 どうにも胡散臭い。

 友人に紹介されてきた手前、大丈夫だとは思いたいが……

 

「当院では、ちょっと特殊な治療法も取り入れていましてね」

「はあ……」

「とりあえず"おねいさん"のほう処方しときますね」

「えっ、おね……?」

 

 聞き間違いかと思い、僕は思わず聞き返した。

 そんな僕などお構い無しに、医師はデスクの端にあるボタンを押した。

 すると診察室のドアがノックされ、ひとりの女性が入ってきた。

 

 

「こんにちは!」

 

 

 二十後半、あるいは三十代前半だろうか。

 黒い膝丈のタイトスカートに、白いブラウス。

 知的なファッションだが、胸元のボタンがギリギリ悲鳴を上げている。

 長い黒髪を揺らし、その口元はどこか物憂げな微笑を浮かべていた。

 

 

「今日からあなたの"おねいさん"になります。綾香です。よろしくね!」

「えっ!?」

「なるべく週二~三くらいはセックスしてくださいね」

「エッッッ!?」

 

 

 僕の絶叫にも似た声は、静かな診察室に虚しく響いた。

 目の前のおねいさんは、ただ静かに微笑んでいる。

 

 

「ちょ、困ります、僕は女性が苦手なんですよ」

 

 

 ドクターに詰め寄り、小声で講義する。

 

 

「まあまあ、落ち着いて、うつにセックスセラピーは効果が高いんだよ」

「そ、そんなの聞いたことないですよ!」

「わたしが君の"おねいさん"としてサポートするから、大丈夫だよ」

「いや、無理ですって……!」

「あ、ちなみにお給料や生活の心配は無用ですよ。治療期間中、衣食住、全て当院が面倒を見ます。治療に専念してくださいね」

「えっっっっっ!?!?」

 

 

 即断だった。

 そして、医師はこう結んだ

 

 

「ただし、この治療には、一つだけ絶対に守ってもらいたい条件があります」

「条件……?」

「ええ、それは────おねいさんの部屋は、決して覗かないこと」

 

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