おねいさんお出ししておきますね   作:ジョン・アラサーフェチ

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第3話

 風呂から上がると、どっと疲れが出た。

 タオルで頭をガシガシと拭く気力もなく、適当に水気を切っただけでリビングへ戻る。

 そのままソファに沈み込もうとした、その時だった。

 

 

「あーっ! ストップストップ!」

 

 

 おねいさんが慌てて駆け寄ってくる。

 

 

「もう、ビショビショじゃん。高い革張りのソファなんだから、濡らさないでよ」

「あ、すみません……」

「謝るくらいなら拭く! ほら、こっち座って」

 

 

 ソファの前のラグに座らされる。

 抗議する間もなく、背後からふわりとバスタオルを被せられた。

 

 

「じっとしててね」

「いや、自分でやりま──」

「──いーいーかーら」

「これも治療の一環。患者さんは大人しくされるがままになってること」

 

 

 ブォォォォォ……

 温かい風が頭皮を撫でる。

 

 ドライヤーをかけてもらっている

 

「ねえ」

 

 ドライヤーの音に負けないよう、少し大きめの声でおねいさんが言った。

 

 

「どうして苦手なの?」

「……?」

「女の人だよ」

「ああ……」

「教えてよ」

「でも……」

「ヒミツにするから。誰にも、先生にもわたしからは言わないからさ、ね?」

「じゃあ……はい」

「やった!」

 

 

「学生の頃、仲のいい女性が居たんですよ。サークルも一緒で、二人で飲みに行くくらいには気が合ってて」

 

 

 僕は膝の上で拳を握りしめ、視線を床に落としたまま続けた。

 

 

「距離が近づいていくのを感じてた。だから僕は、ある日の帰り道、思い切って告白しました。好きだ、付き合ってほしいって」

「うん」

「でも、その言葉を口にした瞬間……彼女の表情が、一変したんです」

 

 

 今でも夢に見る。

 さっきまで笑っていた彼女の顔が、能面のように凍りつき、そして露骨な嫌悪感に歪んだあの瞬間を。

 

 

「『え、無理』って。言葉はそれだけでした」

 その短く鋭い拒絶が、僕の存在すべてを『生理的に受け付けない汚物』だと断定したようだった。

 

 

「これ以上ないほど明確な、僕という人間への答えでした……」

 

 

 自分は誰かに好意を抱くことすら許されない側の人間なのだ。

 身の程を知れと、世界から烙印を押された気がした。

 

 

「以降、僕は女性との関わりを諦めました……」

 

 

 吐き出すようにそう告げて、僕は視線を落とす。

 目の前に座る彼女――自他ともに認める美貌を持つ彼女が、どんな顔をしているか見るのが怖かった。

 

 

「それは、つらかったね」

 

 

 だが、降り注いだのは意外なほど柔らかな声音だった。

 

 

「君が自分のこと汚いって思う気持ち、分かるよ。わたしも自分が嫌いだから」

 

 

 思わず顔を上げた。

 彼女は悲しげに眉を寄せ、まるで我が事のように僕を見ていた。

 共感の言葉。寄り添う姿勢。

 しかし、僕の心には温かさよりも先に、冷たい違和感が走った。

 

「……どうしてわかるんですか? 自認美女なのに?」

 

 口をついて出たのは、皮肉めいた問いだった。

 彼女は美しい。

 誰がどう見ても、選ばれた側の人間だ。

 そんな人間が、汚物の何をご理解できるというのか。

 

 

「わたしだって、鏡を見て絶望することくらいあるんだよ」

「……」

 

 

 僕は言葉を失い、ただ曖昧に頷くことしかできなかった。

 どうせ今日のメイクのノリが悪いとか、目元に小さなしわを見つけたとか、おそらくはそんな次元の話だろう。

 僕が抱える「存在そのものの否定」と、彼女が抱える「美の追求による苦悩」とは違う。

 

 

「むー、どうも納得出来てない感じだね」

 

 

 彼女が小首をかしげ、不満げに唇を尖らせた。

 

 

「……」

 

 図星を突かれ、僕は返す言葉が見つからない。

 彼女は僕の卑屈な心中など、すべてお見通しらしい。

 気まずい沈黙が流れる。

 

 

 だが次の瞬間、彼女はあまりに突拍子もない提案を口にした。

 

 

「じゃあ、セックスする?」

「えっ!?」

「する?」

「なんで……?」

「言葉では、わかりあえなかったから!」

「……どうしてそこまでしてくれるんですか? 仕事だから?」

 

 

 そう、彼女にとってこれは仕事なのだ。

 僕のような「汚物」扱いされた男が相手でも、金銭という対価が発生するなら体を重ねる。

 それは慈悲でも好意でもなく、ただの業務遂行に過ぎないはずだ。

 

 

 けれど彼女は、僕の卑屈な問いかけを吹き飛ばすように、にかっと笑ってみせた。

 悪戯っぽく、けれどどこか挑発的な、あざやかな笑顔だった。

 

 

「仕事だとしても、わたしが愛のない完全なマシーンだと思う?」

 

 

 白いふとももをみて、僕はごくりとなまつばをのんだ。

 そしてこのあとめちゃくちゃセックスした。

 

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