RE:最強孤高の青い春   作:兵器スキー

5 / 9
お気に入り登録やアンケートの回答、ありがとうございます!


指揮

階段を駆け下りる音が、やけに大きく響き続けていた。

それに重なるように、断続的な銃声が自身の鼓膜を震わせている。

 

一階の廊下に足を踏み入れた瞬間、

壁面に設けられた小窓が視界の端に映った。

 

──敵が撒いたであろう煙幕に視界を取られ、掃射を受けているシロコ。

 

──タクティカルシールドを展開し、敵弾に押されながらもシロコを守るホシノ。

 

──慌てて赤いドローンを展開し、煙を越える高さから敵を索敵しようとするアヤネ。

 

「──っ」

 

これ以上、見ていられない。

私は視線を切り、ただ前だけを見て走った。

 

校舎玄関を抜けた次の瞬間、

砂埃と火薬の匂いが一気に押し寄せてくる。

だが、それは()()を捨てる理由の一欠片にすらなり得ない。

 

「...みんなッ!」

 

声は掠れていて、

自分でも驚くほど必死だった。

 

振り向いたのは、一人だけ。

 

「せ、先生!?」

 

後方でコントローラーを操作していたアヤネが、目を見開く。

その肩は小刻みに震え、表情には余裕がない。

 

「なんで...? シロコ先輩が閉じ込めた筈じゃ...」

 

私は答えず、彼女の隣まで駆け寄る。

 

「アヤネ、状況を」

 

短く、それだけ告げる。

 

「え?」

 

一瞬の戸惑い。

だが、戦場であることを思い出したのだろう。

彼女はすぐにコントローラーの画面へと視線を向ける。

 

「て、敵は二十弱まで減っている筈です。ただ、煙幕の中で足音が徐々に散開していて...前線を押し切ろうとしている気がします」

 

「こっち側で弾薬が足りてない人は?」

 

「...ドローンカメラで見た所では、ホシノ先輩とノノミ先輩がやや少なめです」

 

「分かった、ありがとうね」

 

「ッ先生!? 何をなさっ──」

 

全身を覆っていた砂嚢から身を乗り出し、アヤネの声を振り払って声を張った。

 

「ホシノ! 前線は維持でいい! 無理に押し返さないで!」

 

「──ッ」

 

ホシノの肩が一瞬だけ揺れ、彼女の持つショットガンが一秒の経過も赦さずにこちらを向く。

ノールックエイム。

こっちを見ず、音だけで正確な位置を割り出す高度なテクニック。

 

だが、その様子を見かねたのか、アヤネがすぐ隣で叫ぶ。

 

「ホシノ先輩っ! 撃たないで下さい! こちらは先生です!」

 

「...あれ?」

 

まるで、的中すると思っていた勘が外れたかのような声。

そんな彼女の反応を見て、背筋が強く張った。

 

当然だ。

この距離、この状況で、

背後から突然、()()()大人の声が聞こえたのだから。

 

「っ...」

 

アヤネは地面に座り込み、ほっと息を吐く。

だがホシノは単純に、この状況おいて()()()()()が増えることの危険性を誰よりも理解していただけだろう。

 

「え~っと、先生~? いつの間に来たのかな~?」

 

腑抜けたように()()()()()彼女の表情を見て胸が痛んだように感じたが、とにかく視線は前線から逸らさない。

 

「...驚かせてごめん。ホシノはとりあえず、前線の維持をお願い!」

 

「あ~ね...りょ~か~い」

 

その声は、彼女と初めて出会った時より──

少し、低かった。

 

 

 

 

 

 

しばらくの間、膠着状態が続いていた。

理由としては、敵はスモークグレネードを断続的に投擲し、

双方の視界を強く遮り続けている。

 

つまり、お互いが音と熱、もしくは匂いでしか探知ができない状況。

 

(なにがしたいんだろう...?)

 

正直な所、それしか思い浮かばなかった。

単純な目眩ましではないとは分かっているが、敵の根底が読めない。

 

もし敵の装備にサーマルスコープやナイトビジョンがあるのなら、

優位な状況である今、早急に総攻撃を仕掛けないメリットがないだろう。

 

だが敵の銃弾は、後方に居る私、アヤネ、そしてノノミは兎も角、最前線にいるホシノの頭上すらを優と超え、通り過ぎていく。

 

──何故、何も無い空を狙う?

 

数秒が経った頃。

たった一つの疑問が、頭に浮かんだ。

 

「...アヤネ。あのドローンにサーマルカメラはついてる?」

 

「付いてませんけど...」

 

その回答が、私の疑問に確信を与えた。

 

「...分かった。一回、ドローン下げて」

 

「...え?」

 

一瞬、彼女の指が止まる。

 

「今は前線に出さない。高度も落として、完全に引っ込めて欲しい」

 

「...でも、視界の確保が...」

 

「煙幕のせいでどのみち見えないよ。それに──」

 

──音でドローンの位置が割り出されたら、撃墜される可能性もある。

 

「...恐らく、敵の狙いはそれだと思う」

 

そう私は答えた。

 

ドローンの出す駆動音は大きい。

軍用の小型機や、高級な機体であれば別だが、アヤネの操るドローンは中型。

軽い貨物や物資の一つや二つを運ぶことの出来る高回転であり、大型のモーターが搭載されている筈だ。

 

「今は、限りあるドローン(視界)を壊されないことを優先しよう。索敵は私が行うよ」

 

数秒の沈黙の後、アヤネはすぐに理解したように唇を噛んだ。

 

「...なるほど。私のドローンの利点が活かせない以上、今使うのは勿体ないんですね」

 

頷き、肯定を返す。

 

「必要な時に()()使()()()状態を残したいんだ」

 

「...はい、分かりました!」

 

彼女の指が素早く端末を走り、

上空にてホバリングをしていたドローンが静かに高度を落とす。

 

「セリカ!」

 

次に、私は声を飛ばした。

 

「え、なっ、なに!? 誰っ!?」

 

「先生だよ! そして前に出すぎないで! 今はホシノの左右をカバー、煙の左右からはみ出した敵の狙撃をお願い!」

 

「りょ、了解!」

 

「弾数は!」

 

「まだいけるけど、余裕はない!」

 

「十分! 三割切ったら必ず言って!」

 

「あぁもうっ! 分かってるってば!」

 

ドローンを撤退させてから、しばらくした頃。

銃声のリズムが整っていき、ばらついていた音が、意図、そして制御を持った。

 

「ノノミ!」

 

「は、はいっ!」

 

少し離れた位置から、高い声が返ってくる。

 

「無理に撃ち続けなくて良い! 今は残弾数の管理を優先して、ホシノの側面に敵が見えた時だけ牽制をお願い!」

 

一拍。

 

「それと! もし誰かが下がる判断をしたら、迷わず支えて!」

 

「...はい!」

 

短い返事。

けれど、その言葉にほんの一瞬だけ胸が軽くなる。

 

「シロコ!」

 

「先生...」

 

煙幕のせいでぼやけて見える表情。

ただ、どこか悲しげな声色で、応答する。

 

「煙幕の外に出ないで! 敵が動いたら、位置と数だけを教えて!」

 

「...了解」

 

返事は短く、マガジンを引き抜き、差し替える音が聞こえた。

 

やがて、戦況がわずかに落ち着いてきた。

敵の突撃が鈍り、人員の配分、そして流れが読みやすくなる。

 

「...あの、先生」

 

視界の端で、アヤネがこちらを見た。

 

その瞳にあった混乱は、もうない。

代わりに宿っているのは――判断という名の責任を委ねるという心配だった。

 

「っ...どうして...」

 

数秒が経っても、彼女が次の言葉を言うことはなかった。

だが、その沈黙の意味を、私は知っている。

 

一瞬言葉を探したが、特に着飾る必要もないと同時に思った。

 

「私は、みんなの先生だから」

 

「生徒が前に進むなら、背中を押して。間違えたら、止める」

 

「泣いて立ち止まるなら...隣に立つよ」

 

戦場の音が、少しだけ遠くなったように感じた。

 

(生徒)達の責任は、私が負うからね」

 

アヤネは暫くの間、黙っていた。

やがて、口を開ける。

 

「...分かりました」

 

彼女は、コントローラーを握る手に力を入れる。

 

「皆さん!以降の指示は、先生の判断を優先します!」

 

その声は、もう震えていなかった。

 

この行動の()()が、より一層深まることを──

私は、知らずに。




セリカのエミュに難航して投稿が遅れてしまいました。
書き溜めって大事ですね。

無下限呪術の設定に対する誤解や、描写の矛盾点等があれば、ぜひ教えていただけると嬉しいです!

最強孤高の青い春について

  • 前作は削除して、この作品を進めて欲しい
  • 前作は削除せずに、この作品を進めて欲しい
  • この作品を削除して、前作を進めて欲しい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。