RE:最強孤高の青い春   作:兵器スキー

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ブルアカの五周年を遊んでいて執筆が進みませんでした...


着席

「...」

 

砂が後方に蹴られ、僕の肉体は前へ押し出される。

 

「...まだ移動して...こっちか」

 

ふと、独り言のように呟き、進行方向を傾ける。

あれから、数十分は走った。

 

「はぁっ、はぁっ...!」

 

後方から聞こえてくるのは、先生の荒い息。

そして、自分が裂いた空気の音だった。

 

(...なんで、付いてこれて...)

 

何故か、今考えるべきではない言葉が頭に浮かんだ。

途中で切り、何度引き剥がそうとしても、更に強く張り付いてくる。

 

「はぁっ...英一君! あと、どれぐらいで...着くの...!」

 

先生は息を切らしながら問いかけてくる。

だがその足は、消して止まることはなかった。

 

「あと5分も経てば着きますよ」

 

「わか、った...!」

 

おかしい、明らかに。

違和感は絶えることなく、背中に深く突き刺さった。

 

「...」

 

先生には呪力どころか、神秘の一欠片もない。

それは僕の瞳が()()()()以上、自分の中ではハッキリとしている。

 

(...何か種があるな。まぁ、今考えるべきではないけど)

 

だが、その考えるべきでない違和感を──僕は捨てきれなかった。

だからこそ、誰が何を言おうと、僕は観測を止めない。

 

──それが僕自身に宿った、()()の呪いなのだから。

 

 

 

 

 

 

やがて、砂の丘を越えた先に──複数の人影が見えた。

 

無意識のうちに、視線が一点へと吸い寄せられる。

桃色の髪。

強い日差しの中でも、その色だけがはっきりと浮いていた。

 

「...ホシノ」

 

名前を呼んだ瞬間、彼女の肩がわずかに揺れた。

 

振り返ったその顔に、いつもの余裕はない。

笑みも、冗談めいた空気もなく、ただ張り詰めた表情だけがあった。

 

次の瞬間。

 

武器も盾も、その場に放り出される音がした。

そして、衝撃。

 

ホシノの身体が、真正面からぶつかってくる。

 

「――えいいちッ!」

 

胸に顔を埋められ、制服越しに強く掴まれる。

息が詰まるほどの力だった。

 

「なんで...あんな無茶を...!」

 

声が震え、掠れている。

アビドスの制服に、温度を持ったものが滲んでいく。

 

涙だった。

 

言葉が、出てこない。

六眼も、思考も、何も役に立たなかった。

 

自分がいなかった時間。

空席だった時間。

その重さだけが、遅れて胸に落ちてくる。

 

「...ごめん」

 

ようやく、それだけを絞り出す。

 

ホシノは何も言わない。

ただ、しばらくの間、離れなかった。

 

やがて、背後から小さな足音。

 

「...英一」

 

落ち着いた声。

聞き慣れた、短い呼びかけ。

 

顔を上げると、シロコが立っていた。

その隣には、セリカとアヤネ、そしてノノミ。

全員、傷はあるが、立っている。

 

シロコは一度だけ、はっきりと頷いた。

 

「...おかえり」

 

その一言で、胸の奥に溜まっていたものが、静かにほどけた。

 

「...ただいま」

 

それ以上の言葉は、必要なかった。

 

ようやく、周囲が視界に入る。

 

地面に転がるヘルメット団。

誰一人、命を落としてはいない。

気絶、もしくは軽傷で動けずにいるだけだ。

 

その中でセリカは、正面にいるシロコの背後から顔を出し、こちらを睨んでいた。

 

「...後で、話あるから」

 

短く、低い声。

逃げ道はないのだろう。

 

それでも、今はそれで良かった。

 

──五条英一の席は、もう空いていない。

 

砂漠の中央で、ようやくその事実を受け入れながら...

僕は優しく、ホシノを抱き返した。

 

 

 

 

 

 

「...なんで、正座なんだ...?」

 

自分の口から零れた声は、思っていたよりも乾いていた。

 

アビドス廃校対策委員会の部室──その一番奥。

見慣れたはずの椅子の上で、僕は膝を揃え、背筋を伸ばして座らされている。

 

正面には、腕を組み、

視線を落とす四人。

 

ホシノ、セリカ、ノノミ、アヤネ。

 

誰も座っていない。

誰も、視線を逸らさない。

 

そして、その少し後ろ。

壁際に立ち、静かにこちらを見ている先生。

 

空調は付いているはずなのに、空気が重く、冷えている。

 

「...」

 

最初に口を開いたのは、ホシノだった。

 

「ねぇ、英一。改めて聞くよ」

 

声は低い。

怒鳴ってはいない。

けれど、いつもの気の抜けた調子とは決定的に違う。

 

「なんで、あんな無茶したの?」

 

問いかけというより、確認に近い。

答えを求めていない言い方だった。

 

「それは...っ」

 

反射的に口を開きかけて、言葉が詰まる。

 

ホシノの視線が、揺れている。

泣いてはいない。

それでも、声がわずかに震えているのが分かった。

 

「ねえ。なんで?」

 

同じ言葉。

同じ調子。

 

理屈を挟む余地が、どこにもない。

 

「...」

 

頭の中で組み立てていた説明──もとい言い訳が、音もなく崩れた。

 

──先生を助けるためだった。

 

──最善だった。

 

──間違っていない。

 

でもそれらは、ここでは使えない。

思考が、白く染まっていった。

 

「...黙ってんじゃないわよ!」

 

次に叩きつけられたのは、セリカの声だった。

 

一歩前に出て、こちらを睨みつける。

 

「自分が何したか、分かってる?」

 

言葉は鋭い。

感情は、隠す気もない。

 

「先輩が居なくなったら、どうなるか考えたことある!?

私達が、どんな気持ちになるか!!」

 

胸の奥が、その言葉に震える。

 

救ったつもりだった。

結果は、生きているはず。

 

──でも。

 

「勝手に一人で突っ込んで、勝手に倒れて!

それで戻ってきて、何事もなかった顔するつもりだったの!?」

 

違う...そんなつもりは、なかった。

 

けれど──()()、戻ってこなかったら。

その仮定が、ようやく現実味を持って頭を打つ。

 

「...」

 

言葉が、出ない。

 

「英一先輩」

 

柔らかい声。

ノノミだった。

 

怒っていない。

責めてもいない。

 

それが、逆に逃げ場を塞ぐ。

 

「英一先輩が居たからこそ、助かりました。

それは、本当です」

 

一度、区切る。

 

「だからこそ...勝手に居なくなるのは、違うと思います」

 

助かった。

でも、許されない。

 

その二つを、同時に差し出される。

 

心が軋んだかのように感じた。

 

「...」

 

最後に、アヤネが一歩前へ出た。

 

表情は、比較的落ち着いている。

けれど、目だけは真剣だった。

 

「正直に言います」

 

短く、息を吸う。

 

「英一先輩の判断と懸念は...正しかったかもしれません」

 

胸が、僅かに緩んだ。

──だが。

 

「でも」

 

その一言で、全てが引き戻された。

 

「私達は、()()()()()ではないんですか?」

 

淡々とした声。

だが僕からすれば、意表をついた問いだった。

 

運命共同体。

 

それが...対策委員会の()()だった筈だ。

 

「...」

 

数秒の沈黙の中で、一人だけ――動いた影があった。

 

「...英一先輩」

 

シロコだった。

 

腕は組んでいない。

怒っている様子もない。

 

ただ、一歩だけ前に出て、僕の正面に立つ。

 

距離が、明らかに近かった。

 

「先輩が居なくなってから」

 

淡々とした声。

感情を殆ど乗せていないからこそ、重い。

 

「私、ずっと外を見てた」

 

「先輩が絶対に帰ってくるって、信じてたから」

 

唾をぐっと飲み込む。

 

「...でも」

 

シロコは、ほんの一瞬だけ視線を落とした。

 

「信じてるのと、何も感じないのは別」

 

「──っ」

 

反射的に顔を上げる。

 

責めていない。

叱ってもいない。

 

ただ、事実を置いていくだけだった。

 

「...後で、頭撫でてほしい」

 

それ以上、何も言わず。

シロコは、元の位置に戻った。

 

「...」

 

僕は、完全に言葉を失った。

 

その沈黙を、破ったのは――後ろに立っていた先生だった。

 

「...ここまででいいよ」

 

誰も責めない声。

誰も庇わない声。

 

全員の視線が、先生の方に静かに向いた。

 

「英一君が無理をした理由は、分かる」

 

先生は一歩、前に出る。

 

「それは、私のせいだったんだよね」

 

沈み込んでいた胸が、小さく跳ねた。

 

「でもね」

 

続く言葉は、穏やかだった。

 

「君の判断を実行するのは、英一君一人じゃない。ここに居る()で、だよ」

 

先生は、僕の目を真っ直ぐ見る。

 

「それが無理でも...せめて、私と考えてもいいんじゃないかな」

 

一拍を挟んで。

 

「責任は、()()()()からね」

 

──その瞬間。

 

僕の中で、何かが静かに折れた。

背負っていたものを、略奪されたような感覚。

 

それでも――

 

取り返そうと、思うことすら出来なかった。

 

その理由すらも...どこかへ奪われ、身の内から去ってしまった。




今更ではありますが、私は基本修正箇所を告知したりはしません。
気になった方は、申し訳ございません。

最強孤高の青い春について

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