白百合の園に咲く、肉食の黒薔薇 〜転生したガチレズが原作を守ろうとして、リリアン最強のハーレムを築くまで〜 作:@レーガン
春の陽気が心地よい、4月の放課後。
私、西園寺雫(高等部2年生)は、山百合会の慢性的な人手不足を解消すべく――という建前で、校内を歩いていた。
本当の目的はただ一つ。
今年、高校から入学してきたはずの私の推し・藤堂志摩子を見つけ出し、白薔薇(佐藤聖)の元へ送り込むことだ。
渡り廊下を歩いていると、桜の木の下で、一人の新入生が佇んでいるのが見えた。
透き通るような白い肌、ウェーブのかかった髪。
間違いない。藤堂志摩子だ。
(……見つけた! 実在した!)
私は興奮を抑え、「完璧な上級生」の仮面を被って声をかけた。
「ごきげんよう。……何か探し物かしら?」
志摩子はビクリと肩を震わせ、振り返った。
そして、私を見るなり、その瞳を大きく見開いた。
「あ……貴女は……」
「ん?」
どうしたのだろう。初対面のはずだが、まるで幽霊でも見たような顔だ。
いや、違う。その瞳にあるのは恐怖ではない。
熱烈な、憧憬の色だ。
「西園寺雫さま……ですよね?」
「ええ、そうよ。私の名前を知っているの?」
「忘れるはずがありません! ……あの、入試の日に……」
志摩子は頬を染め、少し興奮気味に語り出した。
「受験会場で私が迷ってしまい、心細くて泣きそうになっていた時……案内係をされていた貴女が、優しく声をかけてくださったんです」
(……あ、思い出した)
私の脳内で記憶が繋がる。
数ヶ月前の高校入試の日。私は内部生の代表として、会場案内を手伝っていた。
その時、オドオドしていた可愛い受験生を、特別に試験会場の教室までエスコートしてあげたのだ。
「頑張ってね」と飴玉を一つ渡して。
まさか、あれが志摩子だったとは。
私がサラッと行った人助け(徳積み)が、こんな形で返ってくるとは。
「あの時の貴女の凛としたお姿、そして優しさ……。ずっと忘れられませんでした。この学園に入れば、またお会いできるかと……」
志摩子はうっとりと私を見つめている。
まずい。
「聖さまへの憧れ」ではなく、「私への憧れ」が既にMAX状態だ。
だが、私は諦めない。
これを逆手に取ればいいのだ。
まずは館に連れて行き、聖さまの魅力に触れさせれば、きっと心変わりするはずだ!
「ふふ、困っている未来の後輩を助けるのは当然のことよ。……ところで志摩子さん、貴女にお願いがあるのだけれど」
「は、はい! 私にできることなら何でも!」
「実は山百合会が人手不足でね。……貴女のように誠実そうな方に、ぜひお手伝いをお願いしたいの」
私は甘い声で囁いた。
志摩子は「私が……西園寺さまのお役に……!」と震えながら、力強く頷いた。
よし、確保。
作戦開始だ。
◇
「失礼いたします」
私は志摩子を連れて、薔薇の館の扉を開けた。
「やぁ、雫! 遅かったね!」
入るなり、ソファから佐藤聖さまが手を振った。
冬の悲恋を乗り越え、少し大人びた(そして手早くなった)白薔薇さまだ。
「ごきげんよう、聖さま。……お手伝いをしてくれる新入生を連れてきました」
「へぇ?」
私は志摩子を前に出した。
さあ聖さま、見てくださいこの天使を!
私なんかよりずっと可愛くて、守ってあげたくなるでしょう?
聖さまは志摩子を見つめ、ふっと柔らかく笑った。
「可愛いね。フランス人形みたいだ」
よし、好感触!
と思った次の瞬間、聖さまは私の隣に座り直し、私の腰に手を回した。
「でもさぁ、雫が連れてきたってことは……この子、**雫の『お気に入り』**ってことだろ?」
「はい?」
「蓉子〜! 見てよ、雫がついに自分の『妹候補』を連れてきたよ!」
聖さまが大声で叫ぶ。
奥でお茶を飲んでいた水野蓉子さま(紅薔薇)と鳥居江利子さま(黄薔薇)が、「あらあら」と興味津々な顔で近づいてきた。
「違うんです! 私は聖さまのために……!」
「照れなくていいわよ、雫。貴女もようやく、祥子以外の後輩に目を向ける気になったのね」
蓉子さまが優しく微笑む。
江利子さまも「雫ちゃん好みの、清楚な美人さんじゃない」と茶化す。
違う。誤解だ。
私は必死に弁解しようとしたが、当の志摩子が、キラキラした目で私を見ていた。
「……西園寺さまの、妹候補……」
その言葉を噛み締めるように呟き、志摩子は嬉しそうに微笑んだ。
「精一杯、頑張ります。……西園寺さまに、認めていただけるように」
完全に「雫の妹になるための修行」だと思っている!
そして聖さまは、「ま、雫が選んだ子なら悪い子じゃないだろ。仲良くしようね、藤堂さん(雫のオマケとして)」というスタンスだ。
(……どうしてこうなった)
私は頭を抱えた。
私の計画とは裏腹に、薔薇の館には「雫派閥」が形成されようとしていた。
◇
それから数日。
志摩子は放課後になると館に通い、甲斐甲斐しく働いた。
お茶の準備、資料の整理。その所作は完璧で、先輩方からの評判も上々だ。
だが、彼女の視線は常に私を追っている。
聖さまが私の腰に手を回したり、髪を触ったりするたびに、志摩子は「あらあら、お仲がよろしいのですね」と頬を染めて見守っている。
違うの志摩子ちゃん。これはセクハラなの。助けて。
◇
そんなある日の朝。
私は別の運命を動かすべく、マリア像の見える木陰に潜んでいた。
今回は祥子はいない。あくまで「偶然の目撃者」として見守るためだ。
朝日が差し込むマリア像の前。
校門を抜けてきた、おさげ髪の平凡な少女――福沢祐巳が立ち止まる。
そして、そこに通りかかった小笠原祥子。
「……タイが、曲がっていてよ」
祥子の凛とした声。
驚いて振り返る祐巳。
祥子は自然な動作で祐巳のタイに手を伸ばし、結び直す。
逆光の中、二人のシルエットが重なる。
(……美しい)
これぞ『マリア様がみてる』。
神秘的で、静謐な運命の瞬間。
祐巳ちゃんの顔が真っ赤になっているのが遠目にも分かる。
これで紅薔薇ルートのフラグは立った。
あとは、彼女たちが薔薇の館に来るのを待つだけだ。
(第8話へ続く)