白百合の園に咲く、肉食の黒薔薇 〜転生したガチレズが原作を守ろうとして、リリアン最強のハーレムを築くまで〜 作:@レーガン
私、水野蓉子は、苛立ちと不安の中でクリスマスイブの夜を過ごしていた。
親友の佐藤聖が、今日、全てを捨てて「駆け落ち」しようとしていることを、私は知っていた。
止めるべきか、迷った。
けれど、聖の本気(と、その裏にある危うさ)を知っているからこそ、私は動けなかった。
私が止めれば、聖は私に気を使って、一生後悔するかもしれない。だから、黙って見送るしかなかった。
「……馬鹿な子」
窓の外、降りしきる雪を見つめる。
もし、相手の子が来なかったら?
聖は一人で、この寒空の下で壊れてしまうのではないか。
その時、私の携帯電話が鳴った。
聖からではない。
表示された名前は、意外な人物だった。
『……ごきげんよう、蓉子さま。西園寺雫です』
2年生の(当時は1年生の)西園寺雫。
祥子の幼なじみであり、最近、聖が「面白い後輩」として構っている子だ。
才色兼備で完璧な優等生。けれど、その瞳の奥に、私たちと同じような「冷めた熱」を持っている子。
「雫? どうしたの、こんな夜に」
『ご安心ください。……ただいま、迷子の大型犬(聖さま)を保護しました』
私は息を呑んだ。
『少し……いえ、かなり濡れて衰弱していますが、命に別状はありません。私の家の車で温めて、これからご自宅へ送り届けます』
「……あの子は? 相手の子は?」
『来ませんでした。……聖さまは、フラれたのです』
雫の声は淡々としていた。
けれど、そこには聖への深い配慮と、事態を冷静に処理する強さが滲んでいた。
「……そう。ありがとう、雫。私が迎えに行くべきだったのに」
『いいえ。……蓉子さまは、親友だからこそ行けなかったのでしょう? 他人の私だから、踏み込めたのです』
図星だった。
この子は、私の葛藤まで見透かしている。
『聖さまは、私が責任を持ってケアします。……蓉子さまは、明日、聖さまが戻ってきたら、いつも通り笑って迎えてあげてください』
電話が切れた。
私は携帯を握りしめ、深く安堵の息を吐いた。
(……負けたわね)
私は聖の親友を自負していた。
けれど、一番辛い瞬間に聖の隣にいて、雨風を凌ぐ傘を差し出したのは、私ではなくあの子だった。
翌日。
聖は学校に来なかったが、数日後、憑き物が落ちたような顔で現れた。
そして、私と江利子にこう言ったのだ。
「いやー、参ったよ。……西園寺のやつ、生意気にも私を説教しやがってさ。でも、あいつのコート、すごく温かかったんだ」
聖は嬉しそうに、少し照れくさそうに笑った。
その顔を見て、私は確信した。
聖はもう大丈夫だ。そして、聖を救った西園寺雫という後輩は、私にとっても「特別な存在」になったと。
だから、春になり、聖が雫にベタベタと甘え、セクハラまがいのスキンシップをしていても、私は微笑ましく見守ることにしたのだ。
あれは聖なりの、不器用な感謝と執着の表れなのだから。
(……ま、雫がちょっと可哀想だけど。重い女(聖)に捕まった代償だと思って諦めてもらいましょう)
私は紅茶を飲みながら、カオスな薔薇の館の風景を眺める。
祥子が妹(祐巳)を連れてきて、聖が雫に絡み、志摩子という天使が微笑んでいる。
私の引退まであと一年。
この騒がしくも愛おしい学園を、安心して任せられる後輩たちが育っていることに、私は密かな喜びを感じていた。