白百合の園に咲く、肉食の黒薔薇 〜転生したガチレズが原作を守ろうとして、リリアン最強のハーレムを築くまで〜 作:@レーガン
【福沢祐巳 視点】
放課後の渡り廊下。
私、福沢祐巳は、クラスメイトの武嶋蔦子さんに腕を引かれていた。
「ちょっと、待ってよ蔦子さん! どこに行くの!?」
「決まってるじゃない。山百合会の部室、『薔薇の館』よ」
蔦子さんは眼鏡の奥の瞳をキラリと光らせた。
今朝、マリア像の前で私が憧れの小笠原祥子さまにタイを直していただいた瞬間――あの奇跡のような瞬間を、彼女はカメラに収めていたらしい。
その写真の使用許可をもらうために、直接乗り込むと言うのだ。
「む、無理だよぉ! 雲の上の存在だもの、怒られちゃうよ!」
「大丈夫よ。祥子さまはお優しい(はず)だし、それに……今年は『面白い先輩』がいるって噂だから」
蔦子さんは聞く耳を持たない。
私は半泣きで連行され、薔薇の館の重厚な扉の前に立った。
心臓が口から飛び出しそうだ。
その時。
「……あら? お客様ですか?」
扉の向こうから、一人の生徒が出てきた。
透き通るような白い肌、ウェーブのかかった髪。まるで西洋人形のような美少女だ。
同じ1年生のリボンをつけている。
「あ、あの……私たちは……」
「写真部の武嶋です。山百合会に用事があって」
「そうですか。どうぞ、中へご案内しますね」
彼女はふわりと微笑んだ。天使だ。天使がいる。
名前は藤堂志摩子さんと言うらしい。
廊下を歩きながら、私は思わず尋ねていた。
「ねえ、藤堂さん。どうして貴女が案内してくれるの? もしかして、山百合会のメンバーなの?」
「いえ、私はただのお手伝いです」
志摩子さんは嬉しそうに、少し頬を染めて続けた。
「西園寺雫さまに、お声をかけていただいたんです。『人手が足りないから、助けてほしい』って」
「西園寺……雫さま?」
私は首を傾げた。聞き覚えがない。
小笠原祥子さまのことは入学前からリサーチ済みだが、その取り巻きの名前まではチェックしていなかった。
「ご存じないのですか? 2年生の先輩で、祥子さまのご親友です。……背が高くて、スタイルが良くて、何よりとってもお優しい方なんですよ」
志摩子さんの熱量がすごい。
まるで推しのアイドルを語るファンのようだ。
「私、入試の日に西園寺さまに助けていただいたんです。……あの方のお役に立ちたくて、ここに通っているんです」
「へ、へぇ……」
私は曖昧に頷いた。
祥子さまの親友なら、きっと素晴らしい方なのだろう。
でも、今の私には「祥子さま」のことしか頭になかった。
「こちらです」
志摩子さんが扉を開ける。
その瞬間、強烈な甘い香りと、ただならぬ気配が押し寄せてきた。
◇
【西園寺雫 視点】
「失礼しまーす!」
元気な声と共に、志摩子ちゃんに連れられて二人の1年生が入ってきた。
写真部の武嶋蔦子と、今朝のヒロイン・福沢祐巳ちゃんだ。
「やぁ、いらっしゃい」
一番に声を上げたのは、私の隣に座っている佐藤聖さま(白薔薇)。
ただし、その体勢は極めて不純だ。
ソファに座る私の太ももの上に頭を乗せ、私の腰に手を回し、完全に私を「抱き枕」にしている。
「せ、聖さま……。お客様の前です」
「いいじゃないか。私の『ロザリオ』を預かる女の太ももは、世界一の弾力なんだぞ? 自慢したっていい」
聖さまは私の太ももに頬ずりをする。セクハラだ。
志摩子ちゃんが、それを見て「お美しい……」と溜息をついている。
もうツッコむ気力もない。
入ってきた祐巳ちゃんは、室内の煌びやかさに圧倒され、そして私の姿を見て固まっていた。
170cm超の長身、制服が張り詰めそうなグラマラスボディ。
そして、その膝に美貌の先輩(聖)を侍らせている構図。
(……あ、引いてる)
祐巳ちゃんの目が「なにこの世界、怖い」と語っている。
彼女の視線はすぐに、部屋の奥で不機嫌そうに紅茶を飲んでいる小笠原祥子へと逃げた。
そう、彼女の眼中には祥子しかいない。
私(西園寺雫)なんて、祥子の横にいるデカイ置物くらいにしか思っていないのだ。
(それでいい。その一途さが、祥子を救うのだから)
私は心の中でエールを送った。
だが、今日のメインイベントはここからだ。
◇
テーブルを囲んでいるのは、3人の薔薇さまと、私たち「つぼみ(仮含む)」。
議題は、学園祭の目玉イベント、演劇『シンデレラ』の配役についてだ。
「……というわけで。今年のシンデレラ役は、祥子にお願いするわ」
水野蓉子さま(紅薔薇)が、決定事項として告げた。
その瞬間、祥子がティーカップをガチャリと鳴らして立ち上がった。
「嫌です! 絶対に出ません!」
祥子の美しい顔は、怒りで真っ赤に染まっている。
祐巳ちゃんがビクッとして肩をすくめる。
「あら、どうして? 貴女、お芝居は嫌いじゃないでしょう?」
「お芝居はいいんです! 問題は……相手役です!」
祥子が震える指でキャスト表を指差す。
王子様役:柏木優(花寺学院生徒会長・友情出演)。
「なんであの男と舞台に立たなきゃいけないんですか!?」
「くじ引きで決まったのよ(大嘘)。諦めなさい」
蓉子さまが涼しい顔で受け流す。
祥子は助けを求めるように私を見た。
「雫! なんとかして!」という目だ。
ごめんね、祥子。
今回は、心を鬼にして「原作ルート」へ誘導させてもらうわ。
「嫌なものは嫌なんです! 私が降りるなら、代役を立てればいいでしょう!?」
「代役ねぇ……」
蓉子さまは困ったようにため息をつき、そして――スッと目を細めた。
場の空気が凍りつく。
先ほどまで聖さまのセクハラに耐えていた私も、思わず背筋を正すほどの、紅薔薇の「本気」の圧だ。
「……祥子。貴女、いつまで甘えているの?」
低い声が、部屋に響く。
祐巳ちゃんと蔦子さんが、部屋の隅で縮こまっている。
「妹(スール)一人作らず、嫌な役目は放り出し、雫に守られてばかり。……妹もいない半人前に、わがままを言う資格はないわ」
蓉子さまの視線が、私と祥子を射抜く。
「文句があるなら、今すぐ妹を作ってきなさい。そうすれば、貴女を一人前と認めて、役を降りることを検討してあげる」
「そ、そんな……! 今すぐなんて無理です!」
「なら、大人しくガラスの靴を履きなさい。……柏木くんとのキスシーン、楽しみにしているわよ?」
「キ、キキ、キスぅ!?」
祥子が悲鳴を上げる。
追い詰められた。
祥子の瞳が揺れる。
視線の端に、部屋の隅でオドオドしている祐巳ちゃんが入っているはずだが、パニックになっている祥子はまだ気づかない。
「……分かりました! 作ればいいんでしょう、作れば!」
「あら、あてはあるの?」
「ありますとも! 今すぐ連れてきます!」
祥子は叫ぶと、脱兎のごとく部屋を飛び出した。
「あっ、祥子!」
私が立ち上がろうとすると、聖さまが「まあ待てよ」と私の腰を掴んで引き止めた。
その顔はニヤニヤと笑っている。
この人も、分かっていて楽しんでいるのだ。
その時だった。
ドスン!!
廊下に出ようとした祥子と、出口付近に立っていた祐巳ちゃんが、盛大に衝突した。
「きゃっ!?」
「いったぁ……」
祥子は尻餅をつき、祐巳ちゃんも弾き飛ばされた。
「……痛ッ……。どいてよ、邪魔ね……」
祥子はフラフラと立ち上がり、邪魔な障害物(祐巳)を睨みつけた。
そして、ハッとした表情になった。
目の前には、1年生。
しかも、今朝マリア像の前で会った、あの子だ。
蓉子さまの言葉。「妹を作れば認めてあげる」。
祥子の瞳に、狂気にも似た決意の光が宿る。
「……見つけた」
祥子は祐巳ちゃんの胸ぐら(タイ)をガシッと掴んだ。
「ひぇっ!?」
祥子は部屋にいる全員に向かって、高らかに宣言した。
「蓉子さま! 連れてきましたわ!」
「……え?」
「この子が! 私の妹です!」
「は、はいぃぃ!?」
祐巳ちゃんの素っ頓狂な声が響き渡る。
完璧だ。
何も知らない無知な少女が、学園の女王様の気まぐれに巻き込まれる瞬間。
私は聖さまの腕の中から、満足げにその光景を見つめた。
志摩子ちゃんが「まあ、素敵……」と目を輝かせている。
さあ、これで役者は揃った。
シンデレラ(祐巳)の物語が、ここから始まるのだ。
(第9話へ続く)