白百合の園に咲く、肉食の黒薔薇 〜転生したガチレズが原作を守ろうとして、リリアン最強のハーレムを築くまで〜 作:@レーガン
季節は、1年生の5月。
入学式の喧騒が落ち着き、薔薇の館では次期「つぼみ」の選定が水面下で始まっていた。
私、西園寺雫の周りには、相変わらず小笠原祥子と支倉令がいる。
私たちは「黄金のトライアングル」として、他者を寄せ付けない鉄壁の布陣を敷いていた。
だが、私は焦っていた。
このままではいけない。
原作通りならば、祥子は**水野蓉子(紅薔薇)と、令は鳥居江利子(黄薔薇)**と姉妹にならなければならない。
私が完璧に二人を守りすぎているせいで、上級生たちが入り込む隙がないのだ。
(……そろそろ、親離れ(子離れ)の時ね)
私は心を鬼にして、二人を運命の相手へと送り出す決意をした。
◇
【Case 1:黄薔薇の誘惑】
ある日の放課後。
私は令を連れて、中庭のベンチにいた。
すると、どこからともなく一人の上級生が現れた。
特徴的なヘアバンド、底知れない笑みを浮かべた瞳。
鳥居江利子さま。
現・黄薔薇のつぼみであり、リリアンきっての「曲者」である。
「やあ、一年生。……君が支倉令ちゃんね?」
「えっ、あ、はい!」
令が私の背後に隠れる。
令は、江利子さまのような「何をしてくるか分からないタイプ」が苦手だ。
普段なら私が前に出て追い払うところだが、今日は違う。
「……西園寺さんだっけ? 君、ちょっと席を外してくれるかな? 私はその可愛い子と話がしたいんだ」
江利子さまが私を見て、ニヤリと笑う。
その目は「君も面白そうだけど、今はこっち(令)が食べ頃だ」と語っている。
私は立ち上がり、優雅に一礼した。
「どうぞ。……令、私は教室に忘れ物をしたから、先に戻るわね」
「えっ!? 雫、待ってくれ! 置いていかないでくれ!」
令が私の袖を掴む。その目は涙目だ。
可愛い。このヘタレ犬め。
だが、ここで甘やかしてはいけない。江利子さまこそが、このヘタレな大型犬を飼い慣らせる唯一の飼い主(パートナー)なのだから。
「令。……大丈夫よ。その方は、貴女の新しい世界を広げてくださるわ」
私は令の手を振りほどき、江利子さまに目配せをした。
『煮るなり焼くなり、好きにしてください』
江利子さまは満足げに頷いた。
「ひいぃぃっ! 雫ぅぅぅー!」
令の悲鳴を背に、私は校舎へと消えた。
翌日、令はげっそりしていたが、その首にはしっかりと黄色のロザリオが掛かっていた。
「……江利子お姉さま、怖いけど……なんか、私のこと全部お見通しなんだ」と頬を染める令を見て、私は安堵を感じた。
◇
【Case 2:紅薔薇の品格】
難関は、祥子だ。
彼女はプライドが高く、男性嫌悪もあり、他人を容易に信用しない。
私が長年かけて築いた信頼関係は強固すぎて、他の人間が入る余地がない。
放課後の教室。
祥子の元に、凛とした声が掛かった。
「ごきげんよう、小笠原さん」
現れたのは、水野蓉子さま。
才色兼備、冷静沈着。現・紅薔薇のつぼみ。
祥子が唯一、対等に渡り合える(そして言い負かされる)相手だ。
「……ごきげんよう、水野さま。何の御用でしょうか」
祥子は警戒心丸出しで、本を閉じた。
その隣で、私は静かにお茶を飲んでいる。
「単刀直入に言うわ。私の妹になりなさい」
「お断りします」
祥子は即答した。
そして、私の方を見て助けを求めた。
「雫、追い払って」という視線だ。
蓉子さまも私を見た。
その目は、私たち二人の関係性を見抜いていた。
「……西園寺さん。貴女が彼女の『壁』になっているのね」
「そう見えるなら、光栄です」
私は微笑んだ。
蓉子さまは真っ直ぐに私を見据え、静かに言った。
「貴女は優秀よ。祥子を守る盾としては完璧だわ。……でも、貴女は祥子を『導く』ことはしない。貴女は優しすぎて、祥子を甘やかしてしまうから」
(……ッ!)
図星だった。
私は祥子が好きすぎて、彼女の望むまま、居心地の良い環境を与えてしまっていた。
それでは、祥子は成長しない。
紅薔薇というリーダーになる器を育てるには、私のような「甘い騎士」ではなく、「厳格な姉」が必要なのだ。
「……仰る通りですわ」
私は立ち上がった。
祥子が驚いた顔をする。
「雫?」
「祥子。私は貴女の親友だけど、貴女の人生の責任は取れないわ」
私はあえて冷たく突き放した。
「貴女には、貴女を叱ってくれる人が必要よ。……その方は、きっと誰よりもうまく、貴女という薔薇を咲かせてくれるはず」
私は蓉子さまに一礼した。
「……親友を、よろしくお願いします」
「ええ。任されたわ」
蓉子さまが力強く頷く。
私は教室を出た。
背後で、祥子が「待って雫! どういうことよ!」と叫ぶ声が聞こえたが、すぐに蓉子さまの「お座りなさい、祥子」という一喝にかき消された。
数日後。
祥子は文句を言いながらも、紅のロザリオをつけて登校してきた。
その顔は、少しだけ大人びて見えた。
◇
こうして、私は二人の「保護者」の座を降板した。
祥子は蓉子さまの元へ。令は江利子さまの元へ。
それぞれの「姉妹(スール)」としての物語が始まったのだ。
放課後。
私は一人、図書室の窓辺にいた。
隣にはもう、誰もいない。
窓の外を見下ろすと、中庭の芝生に寝転がっている佐藤聖(白薔薇のつぼみ)の姿が見えた。
彼女は誰ともつるまず、気怠げに空を見上げている。
その瞳は、まだ誰のことも映していない。あるいは、これから出会う久保栞のことを夢見ているのかもしれない。
(……まだ、その時じゃない)
今の聖さまに近づいても、拒絶されるだけだ。
彼女が傷つき、凍え、誰かの温もりを求める「冬」が来るまでは、私はただの傍観者でいなければならない。
「……ふぅ」
私は文庫本を閉じた。
少し寂しいけれど、これでいい。
私が独りになることで、世界(シナリオ)は正しく回り始めたのだから。
私は静かに席を立ち、誰の迎えもない夕暮れの廊下を、一人で歩き出した。
私の物語が動き出すのは、もう少し先の話だ。