白百合の園に咲く、肉食の黒薔薇 〜転生したガチレズが原作を守ろうとして、リリアン最強のハーレムを築くまで〜   作:@レーガン

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第4話:荊棘(いばら)の森への案内人

リリアン女学園高等部、1年藤組。

それが私、西園寺雫の所属するクラスだ。

祥子と同じクラスになれたことは、私の裏工作(学力によるクラス分け操作)の賜物だが、今の私の関心事は別のところにあった。

教室の窓際、一番後ろの席。

そこに、空気のように静かに座っている少女がいる。

久保 栞(くぼ しおり)。

サラサラとした黒髪、色素の薄い瞳、そして触れれば壊れてしまいそうな儚げな雰囲気。

休み時間も誰と群れるでもなく、文庫本を読んでいる彼女は、クラスメイトたちからは「大人しい子」としか認識されていない。

だが、私は知っている。

彼女こそが、あの孤高の白薔薇のつぼみ、佐藤聖の運命を変える「ファム・ファタール(運命の女)」であることを。

(……尊い。あまりにも儚くて尊い)

私は参考書を開くふりをして、栞をガン見していた。

あの上目遣い。ページをめくる細い指。

将来、聖さまと禁断の愛に落ち、駆け落ちを企て、そして引き裂かれる悲劇のヒロイン。

その序章が、今まさに私の目の前にあるのだ。

だが。

ここで一つの重大な問題が発生していた。

(……イベントが、発生しない!)

入学してから2週間。

本来なら、聖さまが何らかの理由で1年生の教室を訪れ、栞を見初めるはずなのだ。

あるいは、廊下ですれ違いざまに運命を感じるとか、そういう「フラグ」が立つはずなのだ。

しかし、現実は非情だ。

今の聖さまは「一匹狼モード」。

前話で私が妹勧誘を断って以来、彼女はふてくされたように薔薇の館(生徒会室)にもあまり顔を出さず、校内をブラブラするか、サボって寝ているらしい。

1年生の教室になんて、来る気配すらない。

(まずい。このままでは、聖×栞のカップリングが成立しないまま、栞が転校してしまうバッドエンドになりかねない!)

私が聖さまの妹になるのを断ったせいで、バタフライエフェクトが起きているのかもしれない。

責任は重大だ。

一介の百合オタクとして、この世界で最も美しい悲恋を見逃すわけにはいかない。

(ならば、私がやるしかない。……「キューピッド」に、私がなる!)

私は決意と共に、ペンを置いた。

放課後。

私は祥子と令に「図書委員の仕事があるから(大嘘)」と告げ、一人で図書室へと向かった。

私のリサーチによれば、久保栞は放課後、必ず図書室で過ごしている。

静寂に包まれた図書室。

夕日が書架に長い影を落としている。

その奥、宗教書のコーナーに、彼女はいた。

高い棚にある本を取ろうとして、背伸びをしている栞。

届かない。あと数センチが届かない。

可愛すぎる。動画に撮って永久保存したいが、この時代にスマホはないし、そもそも私は淑女だ。

私は足音を忍ばせて近づくと、彼女の背後からスッと手を伸ばした。

「……こちらの本かしら?」

「ひゃっ!?」

栞が驚いて振り返る。

私の腕の中に、彼女がすっぽりと収まる形になる。

いわゆる「書架ドン」に近い体勢だ。

近い。肌が白い。小動物みたいに震えている。

(ぐぬぬ……! 理性を持て私! ここで私が食ってどうする!)

私はポーカーフェイスを維持し、目的の本――『聖書』の解説書を棚から抜き取った。

「驚かせてごめんなさい。……はい、どうぞ」

「あ、あの……ありがとうございます、西園寺さん」

栞が消え入りそうな声でお礼を言う。

私の名前を知っているのか。まあ、あれだけ目立っていれば当然か。

「奇遇ね、久保さん。貴女も、神の教えに興味が?」

「え、ええ。……将来、シスターになりたいと思っているので」

出た! 原作設定!

この純粋な信仰心が、後の背徳感をより一層高めるスパイスになるのだ。

「素敵な夢ね。……実は、私も探し物をしていたの。この学園の古い歴史について書かれた本なのだけれど」

「それなら、あちらの棚に……」

私は栞と少し言葉を交わし、彼女の警戒心を解いた。

彼女は大人しいが、本の話になると少しだけ饒舌になる。

よし、下準備は完了だ。

次は、もう一人の主役をこの舞台に引きずり出さなくてはならない。

私は図書室を出て、校舎裏へと向かった。

私の「気配察知(オタク特有の嗅覚)」が、そこに獲物がいると告げていた。

予想通り、そこに彼女はいた。

佐藤聖。

誰もいない芝生の上に寝転がり、腕を枕にして空を見上げている。

サボりだ。優等生にあるまじき態度だが、絵になりすぎている。

「……ごきげんよう、白薔薇のつぼみさま」

「んー……?」

聖さまは面倒くさそうに片目だけを開けた。

私だと認識すると、フンと鼻を鳴らす。

「なんだ、お堅い一年生か。妹の勧誘なら、もう諦めたよ」

「それは重畳(ちょうじょう)。……今日は、一つ面白いお話をお持ちしましたの」

「面白い話?」

聖さまが身を起こす。

その目は「退屈させたら承知しない」と語っている。

「図書室に、不思議な子猫が迷い込んでいるのです」

「子猫?」

「ええ。とても静かで、誰にも懐かない……まるで、誰かさんのような目をしている子猫です」

私は意味深に微笑んだ。

聖さまの眉がピクリと動く。

「誰かさん」というのが自分を指していることに気づいたのだろう。

「……ふーん。西園寺が興味を持つなんて、珍しいね」

「私は美しいものが好きなだけです。……ですが、あの子猫は私には懐きそうにありません。きっと、もっと自由で、孤独を知る人にしか心を開かないでしょう」

私は踵(きびす)を返した。

これ以上は蛇足だ。聖さまは天邪鬼だ。「行け」と言えば行かないが、「気になる」とだけ種を撒けば、勝手に芽吹く。

「……名前は?」

背後から声がかかる。

私は振り返らずに答えた。

「久保栞さん。……1年藤組の、私のクラスメイトです」

翌日の放課後。

私は再び、図書室の影に潜んでいた。

今回は「出演者」としてではなく、「観客」として。

時刻は16時。

図書室の扉が開いた。

入ってきたのは、気怠げにポケットに手を突っ込んだ佐藤聖だ。

(来た……! 本当に来た!)

私は本棚の隙間から息を殺して見守る。

聖さまは館内をゆっくりと見渡し、そして窓際の席に座る栞を見つけた。

栞は逆光の中で本を読んでいて、その姿はまるで聖女のようだった。

聖さまの足が止まる。

その表情から、気怠さが消えた。

目が見開かれ、時間が止まったように、ただ栞を見つめ――吸い寄せられるように歩き出した。

いつもの荒っぽい足取りではない。壊れ物に触れるように、慎重に。

「……ねえ」

「え?」

栞が顔を上げる。

聖さまと目が合う。

「その本、面白いの?」

不器用な第一声だった。

ナンパにしては下手くそだし、カリスマの欠片もない。

だが、その声には、隠しきれない熱が籠もっていた。

栞は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにふわりと微笑んだ。

「……ええ。とても」

【イベント発生:聖と栞の出会い】

書架の影で、私は音もなくガッツポーズを決めた。

やった。やってやったぞ。

これで原作のルートは守られた。

二人はこれから惹かれ合い、愛し合い、そして傷つきながら成長していくのだ。

その尊い過程を、私は特等席で見守ることができる。

これ以上の喜びがあるだろうか。

私は二人の邪魔にならないよう、気配を消して図書室を後にした。

「ふふ〜ん♪」

鼻歌交じりで校舎を出る。

夕風が心地よい。今日は最高の一日だ。

祥子と令を待たせているので、急いで合流しなければ。

私は軽やかな足取りで校門を抜けた。

すると。

「やあ、雫さん。待っていたよ」

校門の真横。

黒塗りの高級車が停まっており、その横にキザなポーズで立っている男がいた。

制服を着た運転手が直立不動で控えている。

柏木優。

またお前か。

まだ高校生で免許がないため、実家の車で迎えに来たらしい。金持ちのボンボンめ。

「……ごきげんよう、柏木様。またのお越し、心よりお待ちしておりません」

「ははは、相変わらず冷たいね。だが、そんな君も美しい」

柏木はめげずに近づいてくる。

こいつは男子校(花寺学院)の生徒だ。本来ならこんな女子校の正門前に堂々と高級車を停めていていいはずがない。

「今日はどうしたんですの? 祥子はもう帰りましたわよ(嘘)」

「いや、今日は君に会いに来たんだ。……少し、顔色が良さそうだね? 何かいいことでもあったのかい?」

鋭い。

こういうところだけは勘が良いのが腹立たしい。

「ええ。とても美しい絵画(カップリング)を鑑賞してきましたの。……貴方には一生理解できない世界でしょうけれど」

「君が楽しそうなら、僕も嬉しいよ。……どうだい、そのお祝いに僕の車で送らせてくれないか? 美味しい紅茶の店を知っているんだ」

柏木が車のドアを指し示す。

運転手が恭しくドアを開ける。

「お断りします」

私は即答し、彼を無視して歩き出した。

だが、柏木はついてくる。

「つれないなぁ。……ああそういえば、来週の日曜日、小笠原家で食事会があるだろう? 僕も呼ばれているんだ」

「存じております。……せいぜい、祥子の機嫌を損ねないように気をつけることですわね」

「君も来るんだろう? 楽しみだな。君のドレス姿を想像するだけで、夜も眠れないよ」

本当に気持ち悪い(褒め言葉)。

私はため息をつき、立ち止まった。

「柏木様。……もし、その食事会で私の隣に座りたいのであれば」

「あれば!?」

「今すぐそのお車に乗って、私の視界から消えてくださいまし。今なら、警察に通報せずに済みましてよ?」

私はニッコリと、殺気を込めた笑顔を向けた。

柏木は一瞬ひるんだが、すぐに嬉しそうに頷いた。

「分かった! 君の慈悲に感謝するよ! では日曜日、また会おう、僕の女神!」

柏木は運転手に合図して車に乗り込むと、窓から手を振って去っていった。

……やれやれ。

あいつの相手をするのは骨が折れる。

だが、まあいい。

今日の私は機嫌が良いのだ。

聖さまと栞。あの二人の物語が始まったのだから。

私は夕日に染まる通学路を歩きながら、これから訪れるであろう「いばらの森」の悲劇と、その先にある救済について思いを馳せた。

私がどこまで介入すべきか、まだ答えは出ない。

けれど、少なくとも祥子と令、そして私自身のハッピーエンドだけは、絶対に譲らないつもりだ。

(第5話へ続く)

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