白百合の園に咲く、肉食の黒薔薇 〜転生したガチレズが原作を守ろうとして、リリアン最強のハーレムを築くまで〜   作:@レーガン

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第5話:仮面舞踏会と、予見された悲劇

4月が終わり、5月の風が武蔵野の丘を吹き抜ける頃。

リリアン女学園には、ある「秘密の恋」が静かに、しかし確実に芽吹いていた。

私のクラスメイト、久保栞と、白薔薇のつぼみ、佐藤聖。

二人の関係は、私の介入(という名のキューピッド活動)を経て、急速に深まっていた。

休み時間の図書室。放課後の校舎裏。

人目を忍んで寄り添う二人の姿を、私は校舎の陰からこっそりと(淑女にあるまじき隠密スキルで)見守っていた。

(……尊い。尊すぎて直視できない)

聖さまの、あの刺すような鋭い瞳が、栞の前でだけは甘く、優しくなる。

栞の、どこか寂しげだった表情が、聖さまを見上げる時だけは花のように綻ぶ。

これぞ「百合」。これぞ世界の真理。

二人の世界は完結しており、そこに他者が入り込む隙間はない。

だが、私は同時に感じていた。

この幸せな時間が、長くは続かないことを。

原作『いばらの森』のシナリオ通りならば、やがて栞は「神」と「聖」のどちらを選ぶかの選択を迫られ、大人たちの事情も絡み合って、二人は引き裂かれることになる。

これはリリアンという箱庭の中だけで起きる、静かで残酷な悲劇だ。

まだ誰も知らない。私以外は。

(私が……救えるだろうか?)

もし私が介入すれば、二人を駆け落ちさせてハッピーエンドに導けるかもしれない。

だが、それをやってしまえば、聖さまはあの悲しみを乗り越えて成長することがなくなる。

ひいては、将来の妹・藤堂志摩子との出会いも消滅するかもしれない。

「……難しいわね」

私は溜息をつき、双眼鏡(バードウォッチング用と偽って持参)を下ろした。

そして、日曜日。

私は小笠原家の広大な屋敷を訪れていた。

恒例の食事会である。

「ごきげんよう、雫。……よく来てくれたわね」

出迎えてくれた小笠原祥子は、淡いブルーのドレスに身を包んでいた。

髪はアップにまとめられ、うなじのラインが美しい。

だが、その表情はどこか晴れない。

「ごきげんよう、祥子。貴女に会いたくて、車を飛ばしてきましたのよ」

「またそんなことを……。でも、貴女がいてくれると助かるわ。……今日は『あいつ』も来ているから」

祥子の視線の先。

サロンの中央で、大人たちに混じって談笑している男がいた。

柏木優。

タキシードを着こなし、グラスを片手に優雅に振る舞う姿は、悔しいが絵になる。

中身が私のストーカーでなければ、完璧な王子様なのだが。

「やあ! 待っていたよ、雫さん!」

私の姿を見つけた瞬間、柏木の顔がパァッと明るくなり、犬のように駆け寄ってきた。

「今日のドレスも素晴らしい! まるで夜闇に咲く黒薔薇だ。君の美しさに、会場のシャンデリアも霞んで見えるよ」

「……ごきげんよう、柏木様。相変わらず、お口が滑らかですこと」

私は冷ややかな笑顔で、差し出された手をスルーした。

だが、柏木はめげない。

「冷たい態度も素敵だ。……さあ、あちらに君の好きな紅茶が用意してあるよ。エスコートさせてくれ」

「結構です。私は祥子と過ごしますので」

「優、しつこいわよ。雫は私のゲストよ」

祥子が私を庇うように前に出る。

柏木は肩をすくめ、苦笑した。

「分かったよ、可愛い妹たち。……でも雫さん、後で少し話があるんだ。君にとって、恐らく『重要』な話がね」

柏木の目が、一瞬だけ真剣な光を宿した。

重要?

私の胸に、嫌な予感が走った。

食事会は、退屈な社交辞令の応酬だった。

私は完璧なマナーで食事を進めつつ、隣の祥子の皿に嫌いな野菜が残らないよう、さりげなく自分の皿に移して処理してあげた(祥子は目で感謝を伝えてきた。可愛い)。

食後。

大人たちが葉巻と酒を楽しんでいる隙に、私はバルコニーへと抜け出した。

夜風が心地よい。

佐藤家はこのような場には呼ばれない「新興の家」だ。だからここには聖さまもいない。

この世界と、あちらの世界(リリアン)は隔絶されている。

「……ここだったのかい」

背後から声がする。柏木だ。

今日はしつこく追い回してこないと思ったら、このタイミングを狙っていたのか。

「……何の御用ですの? デートのお誘いなら、お断りですが」

「はは、それも言いたいけれど、今は違うよ」

柏木は私の隣に立ち、夜空を見上げた。

そして、静かに言った。

「君、最近……学校で『何か』悩んでいるだろう?」

ドキリとした。

なぜバレた? 私は完璧にポーカーフェイスを貫いているはずだ。

「……何のことでしょう?」

「誤魔化しても無駄だよ。僕は君のことなら何でも分かるんだ(だってずっと見ているからね)」

サラリと怖いことを言う。

「最近の君は、どこか上の空だ。……まるで、これから起こる『悪いこと』を予期して、どうしようか迷っているような顔をしている」

柏木は、私の方を向いた。

その瞳は真剣そのものだった。

「雫さん。君は賢く、そして優しい。……だが、他人の物語に深入りしすぎて、君自身が傷つく必要はないんじゃないか?」

(ッ……)

こいつ、鋭すぎる。

もちろん、彼が聖さまと栞のことを知っているわけではない。

ただ、私が「誰かのために」悩んでいること、そしてそれが「厄介な問題」であることを、私の微細な表情の変化から読み取ったのだ。

ストーカーの観察眼、恐るべし。

私は手すりをギュッと握りしめた。

「……ご忠告、感謝しますわ。ですが」

私は柏木の方を向き、毅然と言い放った。

「私は、私の友人を裏切るような真似はいたしません。……たとえ結末が分かっていたとしても、私は最後まで見届ける義務がありますの」

柏木は少し驚いた顔をし、それからフッと優しく笑った。

「……やっぱり、君は強いね。僕が惚れただけのことはある」

彼は一歩下がり、恭しく頭を下げた。

「分かった。僕からは何も言わない。……ただ、もしその『重荷』が支えきれなくなったら、僕を頼ってくれ。君のためなら、僕は悪魔にだってなってみせるよ」

キザな台詞。

だが、今の私には少しだけ頼もしく響いた。

こいつ、ウザいけれど、敵に回さなければ使える男かもしれない。

「……覚えておきますわ」

柏木が去った後、私は一人、夜風に吹かれていた。

「雫?」

ガラス戸が開き、祥子が顔を出した。

「こんなところにいたのね。……体が冷えるわよ」

「祥子……」

祥子は私の隣に来ると、自分のショールを半分、私の肩にかけてくれた。

温かい。

幼なじみの体温。

「……何か、悩み事? さっき優と話していたでしょう。あいつ、何か変なこと言った?」

「ふふ、いいえ。ただの戯言よ」

私は祥子の肩に頭を預けた。

彼女のシャンプーの香りがする。

「ねえ、祥子。……もし、大切な人が『選ばなければならない時』が来たら、貴女ならどうする?」

「選ぶ?」

祥子は少し考え込み、夜空を見つめた。

「……私は、その人が後悔しない道を選べるように祈るわ。……でも、もしその選択でその人が傷ついたなら、私が全力で支える。それだけよ」

祥子は私の手を握りしめた。

「雫、貴女が何を悩んでいるのか知らないけれど……私だけは、絶対に貴女の味方よ。それだけは忘れないで」

その言葉に、私は胸が詰まった。

ああ、なんて尊いんだろう。

この世界は残酷で、面倒くさいしがらみに満ちているけれど、こんなにも美しい絆が存在する。

私は祥子の手を強く握り返した。

「ありがとう、祥子。……愛しているわ」

「ば、バカ! 急に何を……///」

顔を真っ赤にする祥子を見て、私は心に決めた。

聖さまと栞の物語は、悲劇に向かうかもしれない。

原作の強制力は強い。栞はきっと、転校してしまうだろう。

けれど、私はただの傍観者では終わらない。

傷ついた聖さまが、再び立ち上がれるように。

そして、未来の妹・志摩子へとバトンを繋げるように。

私が、その「クッション」になろう。

「さあ、戻りましょう祥子。……私、お腹が空いてしまいましたわ」

「もう。さっきあれだけ食べたのに」

私たちは笑い合い、光溢れるサロンへと戻っていった。

季節は夏へ。

「いばらの森」の悲劇は、もうすぐそこまで迫っている。

(第6話へ続く)

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