白百合の園に咲く、肉食の黒薔薇 〜転生したガチレズが原作を守ろうとして、リリアン最強のハーレムを築くまで〜   作:@レーガン

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第6話:クリスマスの雪、そして預けられた「白き楔」

季節は巡り、武蔵野の丘にも冬が訪れていた。

リリアン女学園の並木道は枯れ葉を落とし、冷たい風が生徒たちのコートの裾を揺らしている。

1年藤組の教室。

私の視線の先には、日に日に透明になっていくような久保栞の姿があった。

そして、休み時間のたびに彼女を連れ出しに来る佐藤聖さまの表情もまた、張り詰めた弦のように危ういものになっていた。

(……始まった)

私はカイロで指先を温めながら、重い溜息をついた。

二人の恋は、限界を迎えていた。

学園長である上村佐織や、周囲の大人たちの干渉があったことは事実だ。

だが、栞を一番苦しめているのは、それら外圧ではない。

彼女自身の内にある**「信仰心」と、「聖さまへの愛」**の板挟みだ。

シスターを目指す彼女にとって、同性への恋慕は神への裏切りに近い苦しみだろう。

けれど、それ以上に彼女が恐れていることを、私は知っている。

それは、自分がそばにいることで、佐藤聖という人間の「未来」や「可能性」を閉ざしてしまうことだ。

「……雫、またあの子を見ているの?」

隣の席の祥子が、心配そうに声をかけてきた。

「ええ。……少し、思い詰めているような顔をしていたから」

「……貴女は優しすぎるのよ。他人の痛みまで、自分のことのように背負い込んで」

祥子が私の冷たい手を、両手で包み込んでくれる。

その温もりに救われる。

だが、ごめんね祥子。私は優しいんじゃないの。

ただ、この先に待つ結末が、あまりにも切ないことを知っているから、胸が痛むのよ。

冬休みに入る直前の放課後。

私は図書室で、一人本を整理している栞に声をかけた。

「久保さん」

「……あ、西園寺さん」

栞が振り返る。その笑顔は、どこか吹っ切れたように澄んでいた。

まるで、旅立つ前の鳥のような。

「……もう、決めたの?」

私は思わず、核心を突くようなことを聞いてしまった。

栞は少し驚いた顔をしたが、すぐに静かに微笑んだ。

「……西園寺さんは、不思議な人ね。何も言っていないのに、私の心の中を見透かしているみたい」

彼女は手元の聖書を撫でた。

「聖さまは……太陽のような方です。あの方には、こんな狭い鳥籠ではなく、もっと広い世界で、自由に輝いていてほしい」

「でも、貴女がいなくなれば、聖さまは傷つくわ」

「ええ。……でも、私がいたら、聖さまは私を守るために、ご自分を傷つけてしまう。……あの方の未来を、私の『迷い』で鎖に繋ぎたくないのです」

その言葉には、一点の曇りもなかった。

誰かに言われたからではない。彼女自身が、聖を愛し抜いた結果、導き出した答え。

「別れることが、聖のためになる」。

それは悲しいけれど、あまりにも尊い愛の形だった。

(……ああ、やっぱり。私はこの子には勝てない)

もし私が権力を使って、無理やり二人をくっつけたとしても、それは栞の矜持を踏みにじることになる。

私は拳を握りしめ、そしてゆっくりと開いた。

「……そう。貴女が決めたことなら、私が口を挟むことではないわね」

「ありがとうございます、西園寺さん。……聖さまのこと、よろしくお願いしますね」

栞は深々と頭を下げ、去っていった。

私はその背中に、何も言えなかった。

そして、運命の12月24日。

クリスマスイブ。

二人は「駆け落ち」の約束をしていたはずだ。

だが、栞は来ない。

彼女は今頃、誰にも告げずに荷物をまとめ、リリアンを去る準備をしているだろう。

聖さまに「待つ」という残酷な時間を与えてでも、断ち切らなければならない想いがあるから。

午後8時。

雪が本降りになってきた頃。

私は西園寺家の車を降り、駅へと向かう通学路に立っていた。

祥子とのパーティーを抜け出してまで、ここに来た理由。

それは、傷ついた野獣を保護するためだ。

通りの向こうから、ふらふらと歩いてくる人影が見えた。

傘も差さず、雪に濡れるがままになっているその姿。

佐藤聖。

その表情は抜け殻のようだった。

いつも不敵に笑っていた唇は紫色に震え、瞳からは光が失われている。

彼女は悟ったのだ。

栞が来なかった理由を。それが裏切りなどではなく、自分を想うがゆえの「サヨナラ」であったことを。

だからこそ、怒ることもできず、ただ絶望だけが残った。

(……見ていられない)

私は傘を開き、聖さまの元へと歩み寄る。

「……聖さま」

声をかけると、彼女はゆっくりと顔を上げた。

焦点の合わない瞳が私を映す。

「……あ、れ? ……一年生の、西園寺……?」

「こんなところで、何をしてらっしゃいますの。風邪を引きますわ」

私は何も聞かなかった。

ただ、傘を差し出し、雪を遮る。

聖さまは、しばらく呆然としていたが、やがて糸が切れたように膝から崩れ落ちた。

「……いなかった」

掠れた声。

「あの子は……来なかった。……分かってたんだ。あの子が優しすぎるってことくらい……。私のために、全部一人で背負って……」

アスファルトに手をつき、聖さまは子供のように泣きじゃくった。

「馬鹿だよ……! 私なんかのために……ッ!」

聖さまの慟哭が、クリスマスの夜に響く。

私は傘を捨てた。

そして、雪の冷たさも構わず、聖さまを抱きしめた。

私のコートの中に、彼女の震える体を包み込む。

「……泣いていいです。誰も見ていません」

「う、あああぁぁぁ……ッ!!」

聖さまは私の胸に顔を埋め、泣き続けた。

その涙は冷たかったが、彼女の中にまだ「人を愛する熱」が残っている証拠でもあった。

私はその背中をさすりながら、心の中で栞に語りかけた。

(久保さん。貴女の想いは、ちゃんと届いているわよ。……あとのことは、私に任せて)

3学期。

久保栞の姿は、教室から消えていた。

転校したのだ。

聖さまは学校に戻ってきたが、以前のような尖ったナイフのような雰囲気は消えていた。

その代わり、どこか達観したような、深い静けさを纏うようになっていた。

悲しみが、彼女を大人にしたのだ。

放課後の薔薇の館。

私は祥子に連れられ(祥子が紅薔薇のつぼみの妹になったからだ)、その部屋を訪れていた。

「……やぁ、西園寺」

ソファの奥で、聖さまが気怠げに手を挙げた。

やつれた様子はない。むしろ、悲恋を乗り越えたことで、退廃的な色気が増している。

「ごきげんよう、聖さま。……お元気そうで何よりです」

「君のおかげだよ。……あの夜は、ありがとね。高いコート、涙でぐしゃぐしゃにしちゃって」

聖さまは苦笑いをした。

そして、手招きをして私を近くに呼んだ。

手には、白薔薇のロザリオが握られている。

「ねえ、西園寺。君に頼みがあるんだ」

聖さまの瞳が、真剣な光を帯びる。

「私、もうすぐ3年生になる。今の白薔薇さまが卒業したら、私が『白薔薇』だ。……そうしたら、妹を作らなきゃいけない」

聖さまはロザリオを見つめ、寂しげに笑った。

「本当なら、あの子に渡すはずだった。……でも、もういない」

そして、聖さまは私を見上げた。

「西園寺。私の妹になってくれないか?」

「……お断りします」

私は即答した。

ここで受けては、原作ルート(聖×志摩子)が消滅する。

「私のような無粋な女は、貴女の隣にはふさわしくありません。貴女には、もっと純粋で、天使のような子が似合います」

聖さまは「ははっ」と笑った。

「頑固だねぇ。……分かったよ。無理強いはしない」

聖さまは立ち上がり、私の手を取った。

そして、私の掌に、そのロザリオを押し付けた。

「え……?」

「じゃあ、これは君に**『預ける』**」

聖さまは、私の指を握らせ、ロザリオを包み込んだ。

「私は、君以外に妹を作る気はない。……でも、君がそこまで言うなら、君が探してきなさい。私が納得するような、天使のような『妹』を」

「……私が、ですか?」

「そう。それまでは、そのロザリオは君が持っていなさい。……言わば、君は私の『仮の妹』であり、共犯者だ」

聖さまは私の耳元で囁いた。

「もし、卒業までに誰も見つからなかったら……その時は、覚悟を決めてもらうからね? 雫」

ゾクリと背筋が震えた。

これは、猶予期間(モラトリアム)の提示であり、事実上の「予約」だ。

だが、私にとっては好都合だ。

私がロザリオを預かっておけば、他の有象無象が聖さまに近づくのを防げる。

そして、来年藤堂志摩子が入学してきたら、「聖さま! 最高の子を見つけました!」と言って、このロザリオを志摩子に渡せばいいのだ。

(勝った……! これで原作ルートへの布石は完璧だ!)

私は内心でほくそ笑みながら、ロザリオを強く握りしめた。

「承知いたしました、お姉さま。……必ずや、貴女にふさわしい『天使』をお連れしましょう」

「期待しているよ、私の可愛い黒薔薇ちゃん」

聖さまは楽しげに私の頭を撫でた。

こうして私は、白薔薇のロザリオを「預かる」ことになった。

これが、周囲から見れば「実質的な婚約」に見えることなど、この時の私は気づいていなかった。

そして、私が連れてくるはずの「天使」が、聖さまではなく、私になついてしまう未来も……。

季節は巡る。

1年生が終わり、私たちは2年生へ。

いよいよ、物語の主人公・福沢祐巳と、私の運命の妹・藤堂志摩子が入学してくる春が訪れる。

(第7話へ続く)

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