ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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021.『節制』と『戦車』

 

 現れたのは、髪を金に染めたガタイの良い男だ。

 強面(こわもて)イケメンとでも言うべきだろうか。

 

 ドクロを基調とした装飾やエンブレムを身につけているヤンキーともロッカーとも言える風貌(ふうぼう)の男である。

 

 他にも、二人ほど仲間――というよりも舎弟っぽいのを連れているが、こちらは比較的一般的な探索者の格好だ。

 

:え?ウソだろ

:カイズだ・・・

:カイズじゃん

 

「『戦車』か。久しぶりだな。何の用だ?」

「そうダルそうなツラすんなって。ギルドから頼まれてバカの回収に来ただけだ」

「わざわざ悪いな。だが、ギルド依頼にしては早すぎないか?」

 

:ダウナーニキ、カイズと知り合いなんだ

:確かに状況確認から到着までのタイミング考えると早すぎるな

:結構気安い感じだな

 

「仕事だから気にすんな。それに、元々はお前が配信を始めたっていうから冷やかしにくるつもりで準備してたんだよ。

 それがこんな風に役に立つとは思わなかったぜ。いや、こういう風に役に立っては欲しくねぇけどな?」

 

:だれ?

:高レベルの探索者でダンジョン配信者としても人気のヤンキー系オラオラ探索者

:単純なチャンネル登録数ならムルちゃん上回ってる個人勢

 

「そりゃあ確かにな。なんともダルい話だが……どうする? せっかく来たんだ、食ってくか?」

 

 セイジが訊ねると、カイズは首を横に振る。

 

「お前のダン材料理は確かに気にはなるが、今日は遠慮しておく。それどころじゃねぇ女もいるみたいだしな。ギルドの仕事で来てっから、寄り道するわけにもいかねぇしな」

 

:カイ×ワイ……ワイ×カイ……

:ダウナーニキはアニキって感じだけどこの人は漢って感じだな

:かけ算ネキステイ

 

「二人を連れて帰れるのか?」

「見ての通りツレはいるよ。ギルドに居合わせた使えそうなのを引っ張ってきてる」

 

 そう言って、エリアの入り口の方を示す。カイズの舎弟っぽい二人だ。どうやら仲間とか舎弟とかではなく、単純にギルドにいたのを連れてきただけのようだ。

 

 二人と目が合うと会釈してきたので、セイジも会釈を返す。

 

「そういえば、この二人ってドレスコードどうするんだ?」

「そもそもやらかした連中にドレスコードも何もないだろ。かく言う俺もギルドに一筆したためて貰って緊急だからでドレスコード確認はスキップしたしな。支配人には後日、謝罪するつもりではいる」

 

:そういうこともあるのか

:まぁ確かにドレスコード気にする余り手遅れになるとかはバカらしいか

:見た目の割にちゃんと筋通すタイプか

:はぐれとか出ればドレスコードとか言ってる場合じゃねぇしな

:ダンジョン配信は常識やルールの扱いがしっかりしてないとチャンネル登録数とか伸びないしな最近は

 

「ああ、あと――こいつらの名前、受付になかったんだよな。宿帳じゃねぇけど、探索名簿みたいの、書かされるだろココって」

「確かに書かされるが……どういうコトだ?」

「あっちの女の名前はあったが――こいつらは無い。つまり、受付を通ってねぇワケだ。不法侵入が罪状に追加だな」

「確かに敷地の端にあるホールではあるが……よくもまぁバレずにこれたもんだ。受付や警備に気付かれずとなると、崖を登るとか森を抜けるとかしたのか?」

 

:うわぁ

:どうすんのこいつら

:謝罪ニキまじで謝らなくていいからな あいつらは犯罪者であって冒険者じゃない

 

 セイジがカイズとそんなやりとりをしていると、控えていた二人の片方が声を掛けてくる。

 

「カイズさん、施設の受付にサツが来たみたいです。エージェントも同行していて、そんでギルドからの許可も下りてるんで、ダンジョン出たらそいつらをそのままサツに引き渡せば依頼完了でいいそうッス」

 

:速攻お縄か

:リアルタイム配信という証拠もある以上はどうにもならんね

 

「ダンジョンエージェントがわざわざ出張ってくるのか」

「そりゃあ一応ダンジョン内で起きた事件だしな。ダンジョン内や探索者あるいはギルドが大きく絡む犯罪の専門家たちは来るだろ。警察で超人化してるヤツって少ないんだしよ」

「そういうものか」

 

:ダンジョンエージェント?

:探索者やギルド、あるいはダンジョンの絡む犯罪のエキスパートというか、そういう連中用の公安というか、検察というか、なんかそんな

:警察、消防、救急、ダンジョンエージェント的なの

:立場を言い表すならどっちも正しいけど実態はダンジョン関連犯罪に対する便利屋公務員

:警察や自衛隊からは仕事してるのにタダ飯ぐらい扱いだったのがここ数年マシになってきたって聞いたな

:ダンジョン関連は公務員も世知辛いのかよ

 

「んじゃあ、貰ってくぜ。いつまでもくっちゃべってる場合じゃないしな」

「ああ」

 

 二人を両肩に(たわら)抱きするカイズ。

 恐らくは、カイズが運んで道中の露払いを連れてきた連中にやらせるのだろう。

 

 そのまま立ち去ろうとし、ふと何か思い出したかのように足を止めた。

 

「ああ、そだ。一応言っておくか」

 

 それからドローンの方へと向き直る。

 

「『節制』。ちょいと、カメラ借りていいか」

「ああ」

 

 セイジの許可を得たカイズは、睨むようにカメラを見た。

 

「突然、失礼する。探索者でダンジョン配信者でもあるカイズという。少し言いたいコトがあるのでこの場を借りる。

 話というのは――だ。窟魔ムルのファンに限らずって話なんだが。探索者だろうと、配信のリスナーだろうと、それ以外の何であろうと……だ。

 やったコトには責任ってのがつきまとう。

『節制』――コイツが先ほどバカどもに言った言葉を覚えておけよ?

 結末には責任を持て。その行いを自ら(ヨシ)としたのは、自分の選択だ――ってやつな。

 このバカどもは、これからその選択をした責任を果たさなきゃならねぇワケだ。

 やっちまった以上は、ルールやマナーを知らなかったじゃあ済まねぇ。そんなのは言い訳にもなりゃしねぇ。知らなかったのはテメェの落ち度だ。

 どれだけ理由や筋を重ねたところで、どれだけ自分自身に悪気も悪さをした自覚がないと訴えたところで、やっちまった以上、最終的に責任は取らされるのはその選択した本人たちってな……それだけは、誰のファンとかリスナーとかじゃなくて、人の世の常ってやつだ。覚えておけよ」

 

 両肩に馬鹿を抱えたまま言うだけ言うと、カメラに背を向けてセイジとリスナーに向けて告げる。

 

「邪魔したな。俺は行くぜ。」

「助かった。それと槍使いの耳は止血しとけ。施設を血で汚すなよ」

「マジだ。ケガしてんだな。後でやっとくわ」

「改めて、またな」

「ああ。また別の日に何かごちそうしてくれ」

「そっちもまた美味い店を紹介してくれ」

「いくつか見繕ってあるんだ。今度行こうぜ」

 

:仲よさそうだなw

:カイズの知り合いってだけでニキの強さの説得力あがるなぁ

 

 セイジに対して、槍男を掲げて応じて、カイズはこの場を去って行く。

 そして、セイジは泣いているムルを見ながら――どうしたものかな、と頭を掻いた。

 

 とりあえず『戦車』たちの気配が無くなったのを確認してから、ムルの方へと向かう。

 

「……ほら、顔を拭いておけ」

 

 どうして良いか分からなかったセイジは、大きめのタオルを取り出すとムルの頭の上に乗せる。

 

「……ありがとうございます」

「キミ――あー……ムルって呼べばいいか?」

 

 問われて、ムルは少し迷った素振りを見せてから、首を横に振った。

 

「……今のわたしは、プライベートなので、美摩と……呼んでください」

「オレの方のカメラは回ってるけど、いいのか?」

「……うん」

 

 これは相当参ってやがる――と、セイジは嘆息する。

 だが、ファンを名乗る二人組があれだけのことをやらかしてたので、無理もないだろう。

 

:状況は落ち着いたけどムルちゃんの声がつらい

:カメラに映ってないし声だけなのにファンでなくてもシンドいんだが?

 

「地面にそのまま座ってて痛いだろ。キャンプ用の折りたたみ椅子ならあるから使うといい」

 

 そう言ってSAIから椅子を取り出して広げると、ムル――いやミマに座るよう促す。

 素直に座ってくれたことに安堵した時に、テーブルの上に残っていたポークソテーの最後の一切れを思い出す。

 

「……ミマ、アレルギーとかあるか?」

「え? 特には……」

「そうか」

 

:カメラはニキは映すがかたくなにムルを映さないのすごいな

:っていうかこの状況で何か作るんだ?

:ここの人たちは配信主がムルちゃんに優しい声かけてるの怒らないの?

:怒る理由がないし

:別に推しって自分のモノじゃないっしょ

:アイドルや一般のストリーマーとは違うからな探索者

:ダンジョンって命がけなんやで その命がけの一部をエンタメ配信してるだけや

:だからどんだけふざけたダンジョン配信者でもガチの時はちゃんとガチる

:有名どころで例えるならピストル大名だよな

:わかる ピストル大名は名前も行動もトンデモ系だけどガチの時はマジで優秀な上級探索者だしな

:ロケラン縛りかよってくらいロケランにこだわってるのに緊急時や救難救助の時はふつうの武器や道具をためらいなく使うし

:ピストル大名なのにロケラン???

 

 料理を始めたセイジを余所に、コメント欄はまだ残る冒険者たちへの説明が続く。

 

:ムルちゃんって配信の時はだいぶ手加減してるっぽいんだよな

:エンタメ感と探索に忌避感強い冒険者の為に低難易度配信をメインにしてるっぽいしな

:え?そうなの?

:この前のヴァイオレットネイルのイレギュラー種に勝てないのは仕方ないにしろ通常種なら倒しきれずとも負けずに逃げられるくらいの実力はあるっしょ

:元々は探索配信メインなのにアイドル売りの手応えが良いから事務所方針で探索手加減を強要されてる感はあったもんな

 

 セイジが作ったのは先ほどと同じ、ソテーだ。

 今度は敢えて最初から、わさび一文字を乗せた状態を完成とした。

 

 それを二皿。片方はミマの分。もう片方は自分の分だ。

 

「どうぞ。岩塩とわさびで食べるソテーだ」

「……わさび、すごくないです?」

「肉の脂と一緒に食べれば意外と辛くない。それに、辛いなら辛いで涙が出てくるだけだ」

「……え?」

 

:素か?今の素で口にしたのかニキ

:《魔術師》ワ○ルドには狙ってイケメンセリフ口にする器用さはねぇよ

:素なのかぁ・・・

:魔術師ってニキのなに?

:《魔術師》リアフレ兼マネジャー兼プロデューサーとでも思ってくれ

:それ魔術師ニキの自称じゃない?

:どう考えてもツカサくんだよね?

:《魔術師》ここで正体を明かすのはダメだぜオシャレさんたち

:メカクレフェチネキです!ツカサさんのヘアメイク動画にはお世話になってます!

:それはどっちの意味でお世話になってるんだろうな・・・

:ヘアメイクの参考であって欲しいよな

 

「軽く塩胡椒は振ってあるが、好みでこの岩塩を掛けるといい」

「あの……どうして、わたしにこれを?」

「空腹ってのは案外ネガティブになりやすいしな。

 あと、わさびの辛みは、ストレスにも効くらしい。本当かどうかは知らないが」

 

:天然?これが天然?

:モノホンの天然物を見てる気がする

 

「……頂いていいの?」

「いいから、焼いた」

 

:ぶっきらぼう優しいってやつか

:ダンジョンでニキと遭遇したらごちそうして貰える?

:無理だろうなぁ

:《魔術師》道理と筋を弁えてれば結構気軽に振る舞ってくれる可能性はある

:ほほう?

 

「……じゃあ、いただきます」

「ああ。召し上がれ」

 

 

 

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