ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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023.帰りがてらの雑談とノルマ

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 ソテーを食べ終えたミマが手を合わせてそう口にする。

 

「お粗末様でした」

「すごい美味しかったんですけど、何のお肉だったんですか?」

「鎧甲イノシシ」

「だから豚肉っぽかったんですね」

 

 満足そうな顔をしているミマに、セイジは小さくうなずく。

 

「顔色、良くなったようだな」

「そうですか? でもちょっと道が見えてきた気がします」

「なら良かった」

 

 言いながら、セイジは空になったお皿を手に取った。

 

「ちょっと片付けてくる」

「えっと、手伝う?」

「いや。気にしなくていい」

 

 動こうとするミマを制して、皿やカトラリーを簡易調理台において、水を生み出すスキルで軽く汚れを落とす。

 それから使い捨ての透明なジッパー付きキッチンバッグに入れた。

 

「そんな適当でいいんですか?」

「最終的には家でちゃんと洗う。乾いたり残ってると面倒な部分を多少落とせてればそれでいいんだ」

 

:色々手慣れた感じするなニキ

:そういやダンジョン内の環境汚染的な問題あるのかな?

:片付け中前髪からチラチラ双眸(そうぼう)が覗く感じよきメカクレを浴びれてる気分がする

:それを言ったら喉仏も負けてません

 

 そのままセイジはテキパキと片付けをすると、使っていたキャンプ用品やキッチン用品をSAIへとしまっていった。

 

「あ、このイスもですよね」

「ああ。悪いな」

 

 ミマは立ち上がると、座っていたイスを折りたたむ。

 

「ありがとうございました」

「どういたしまして」

 

 畳まれたイスを受け取り、SAIへ収納すればお片付け完了だ。

 

「さて、オレはそろそろ出口に向かうがキミはどうする?」

「わたしもぼちぼち戻ります」

「なら送ろう」

「いいんですか? 配信中ですよね?」

「そうなんだが……個人的な優先順位としては、探索関連のルールやマナーの方を上にしてる。リスナーたちには申し訳なくは思うんだが」

 

 そう言って、セイジがドローンを操作してホロウィンドウを呼び出した。

 すると、そこには「大丈夫。気にしないで」というコメントが並んでいる。

 

「申し訳なく思ってたが、問題なさそうだな」

「そうみたいですね」

 

:はい

:お気になさらず

:○ニキはスタンス明確でよき

:ニキがガチよりの探索者なのは分かってるんで

:ある意味探索者らしい配信者で安心

:送ろうって言った時の声が優しくて4ぬ

:ムルさんも気にせず送ってもらって

:変なのがあいつらだけとは限らないし

 

「ダウナーさんのところのリスナーさんたちは優しいというか弁えているというか……なんかいいですね」

 

:笑顔いただきましたー

:だいぶメンタル落ち着いたようでよかった

:この顔見たくてファンやってたんじゃないのかね 冒険者さんは

 

「それじゃあ、ダウナーさんとそのリスナーさんのお言葉に甘えさせてもらいますね」

「ああ」

 

:どうぞどうぞ

:モンスターより人間の方が怖いって話だよなぁ

:わかるわぁモンスターは切って殺して終わるけど人はそうもいかんしなぁ

:人だって斬れば終わるだろ

:うんまぁそれはそうなんだけども

 

 そうして、二人は出口に向かって歩き出した。

 

 その途中――

 

「あ、カルゴホッパーがいたら教えてもらっていいですか? わたしのノルマ依頼のターゲットなんです」

「了解した。ノルマ依頼は大事だな」

 

:ノルマ依頼?

:お?意外にも知らないリスナーがいる?

:わりとリスナーは現役多め理解者多めだと思ってたんだが

 

 コメントを表示しっぱなしにしていたドローンを見て、そうか――とセイジは小さく息を吐いた。

 

「探索者の資格は、自動車免許なんかと同じで維持するには定期的な更新が必要だ。

 ただ自動車と違って検査してビデオ見て書類書いて終わり――とはいかない」

 

:説明してくれるんだ

:こういう説明意外と大事なのよね

:探索について詳しくない人は聞いておくと良いかも

 

「それがノルマ依頼。

 まぁダンジョン探索者の本来の目的であるダンジョン内の資源の収集と、モンスターの討伐・間引きをちゃんとやれよ――っていう依頼だな。それが半年に一回依頼としてクリアしておかないと、資格の更新日に更新手続きができない」

「普段から収集や討伐をしててもそれとは別にギルドから依頼が入るんだよね。入るというか、ここから選んでどれかやれ――みたいな感じだけど」

 

:なるほど

:探索者の本来の仕事ってあるんだ

:ダンジョン庁のHPとか探索者協会のHPとかに乗ってるから目を通しておくのおすすめ>探索者本来の仕事

 

「ノルマ以外は好き勝手やってても怒られない。免許同様に、ノルマ依頼だけやって資格を維持させてるだけの人もいるしな」

「自動車免許と一緒で身分証にも使えるからね。探索のラインセンスカード」

 

:人によっては自動車免許より維持がラクなのかもな

:ペーパードライバーならぬペーパー探索者とかもいるのかな?

 

「実際、ダン材料理を始めるまではペーパー探索者だった」

「え? 意外。ダウナーさんってずっと探索者してるんだと思ってました」

 

:ムルちゃんそれな

:マジで?

:ペーパーだったのにこの強さ?

 

「ペーパーになる前はそれなりに強くなろうとあれこれしてたし、ペーパーになったあともノルマ達成する為に一応鈍らないよう鍛えてた」

 

:あー……

:あれこれの内容が気になりすぎる

:ニキの場合そこにこだわりだしたら徹底的にやっていきそう

 

「その通りだ。ここまでやるって決めておかないと、絶対に途中でダルくなって投げるのが目に見えてる。それもあるから、鍛えるラインを決めてそこに行くまでとりあえず鍛えた」

 

:とりあえずでいける領域なんだ

:みんな落ち着けニキが変なだけだ

:《魔術師》凝り出すとダルいダルい連呼しながらストイックに徹底的にやるんだよコイツ

:やっぱ変なんだニキ

:なんかイメージわくわーw

 

 コメントに対して何か言おうとしたセイジだったが、何かに気づき表情を変えて告げた。

 

「……モンスターだ」

「どこですか?」

「正面の草壁、左側」

 

:ニキもムルもプロだよなぁ

:二人とも一瞬で顔つき変わった

:ドローンが壁を映してくれるけど見えないな

:え?ムルちゃんこんな顔するの?

 

「確かにいますね。この感じ、カルゴホッパーですね」

「だろうな。一応確認して、当たりだったら任せる」

「はい」

 

:そういえばカルゴホッパーってどんなモンスター?

:カタツムリ……?

:たぶんかたつむり・・・な気がする

:7割かたつむり、、、いや10割、1割かも?

:ナメクジではないな

:かたつむりっぽいヤツというのだけは伝わった

:カタツムリ以外の情報皆無なんですが

 

 そうして物陰から現れたのは、確かにカタツムリのようなモンスターだ。背負っている殻は間違いなくカタツムリのそれである。

 そんなやつが、身体の後ろ半分を縦に伸ばして直立し、まるで一歩足で立ち上がっているかのようなシルエットをしていた。

 

 角の先から足の先まで見ると、その全長はミマの身長と同じくらいはある。

 

:カタツムリ……いやカタツムリ、なのか?

:たしかにこれはコメントに困る

:しかしデカいってだけでキモいな

 

 そんな暫定(ざんてい)カタツムリのようなモンスターであるカルゴホッパーが、一本足で器用にぴょんぴょん跳ねている。

 

「じゃあ、ちょっと行ってきます」

「ああ」

 

:ムルちゃん一人でやらせるのか?

:冒険者はこれまで何を見てたんだか

:フシ穴すぎる・・・

 

 セイジに見送られ、ミマは前にでると自分のSAIから槍を取り出した。

 カルゴホッパーもミマに気づいたのか、身体をこちらに向けた。

 

 ミマは刃の近くに左手を添えて、やや前傾姿勢に構える。

 

:配信映えを気にしないガチの構えだな

:やっぱ普段の探索配信は加減してるっぽいなー

:さっきは剣だったけど今回は槍使うんだね

:この感じ槍がメインウェポンか

:剣は閉所や槍で倒しにくい相手用のサブ武器だって前配信で言ってた

 

 槍を構えたまま、カルゴホッパーを見据え――

 

()ッ!」

 

 ――呼気と共に地面を蹴った。

 

 カルゴホッパーもミマに気づくなり足をバネのように曲げて飛びかかろうとしているところだった。

 だが、カルゴホッパーがその足で地面を蹴るよりも、ミマの槍の方が速い。

 

()ッ!」

「……!?」

 

 下からすくい上げるような一閃が、カルゴホッパーのボディに突き刺さる。

 それで倒せてないと判断したミマはすぐに槍を引き抜き、構え直す。

 

武技(アーツ)二閃牙(ニセンガ)ッ!」

 

 即座にスキル宣誓を行い、槍を突き出す。

 突き出された槍の先端が分身するように二つになって、獣の牙のようにカルゴホッパーを突き刺さった。

 

 すぐに槍を引き、様子を伺い――

 

 グラリと、カルゴホッパーは傾いてその場にゆっくりと倒れゆく。

 

:鮮やか

:突きより引きの方が速いのガチ感ある

:なんかよく分からないけどすごい

:いつものムルちゃんじゃない・・・

 

「ダウナーさん、お手数なんですけどシュパっと切り分けて貰っても良いですか?」

「ああ。面倒だもんな。こいつの切り分け。必要部位は?」

「殻ですね」

「なるほど。なおさら面倒だ」

 

:こいつの身体って軟体なのに丈夫だから斬りづらいのよな

:槍で突くのは効果的だけど斬撃だと大変なのは確か

:っていうかニキは切れるのこれ?

:殻は背中に乗ってるワケじゃなくて微妙に身体と同化してるから切り分けダルいんだよなぁ

 

 セイジは倒れたカルゴホッパーへと近づくと、構えて――

 

「破ッ!」

 

 ――抜刀一閃。

 

 身体と殻の接続面だけを綺麗に切断し、刃を鞘に戻す。

 

「改めて見ると、ほんとすごいですねダウナーさんの居合い」

 

:小さく拍手するムルちゃん可愛い

:でも拍手したくなるの分かる

:貝柱みたいに斬りづらいところをよくもまぁ簡単に・・・

 

「あ、わたしは殻があればいいので、ダウナーさんはボディの方いります?」

「いいのか?」

「はい。色々と助けてもらったお礼というにはちょっと安上がりかもですが」

「気にする必要はないんだが……まぁそういうコトなら貰っておく」

 

 ミマはカルゴホッパーの殻を、セイジはボディの方を、それぞれ自分のSAIに収納した。

 

 そうして二人で帰り道を進み、エントランスに到着だ。

 

「あれ? ダウナーさんはすぐに出ないんですか?」

「ああ。SAIはダンジョン内でしかモノを取り出せないからな」

「そっか。持ち物の整理するんですね」

 

 それにうなずきながら、セイジはSAIからクーラーボックスを取り出す。

 

「疑似ダンジョン領域を使用しているギルドに行く方法もあるが――この近辺だと、府中支部か多摩センター支部だ。ここからだと遠いし、自宅からはもっと遠い」

「それだとここでやっちゃうのが良いですね。手伝います?」

「いや、大丈夫だ。面倒だが大した手間ではないしな。先に出てて問題ないぞ」

 

 鎧甲イノシシの肉を部位事に丁寧に紙に包み、ビニールへ入れてから、クーラーボックスへと移していく。

 

「わかりました。では、私はこの辺で失礼しますね。お世話になりました。

 ダウナーさんのリスナーの皆さんも、急に入ってしまって申し訳ありませんでした」

 

 ドローンに向かってペコリと頭を下げるミマ。

 

:ええんやで

:こればっかりは文句言えないしな

:むしろニキに助けて貰えて良かったまである

 

「……あ」

 

 その光景を見ながら、セイジは思わず変な声を漏らした。

 

:ニキさぁ

:これ絶対配信中だったの忘れてたぞ

 

「あー……悪い。その通りだ。カルゴホッパーを解体した辺りから完全に失念してた」

「まぁでも変なトラブルが間に来るとそうなっちゃうのも分かります」

 

 あははは――と楽しそうに笑うミマに、セイジは無表情に苦笑した。

 

:まぁカメラ意識しないメカクレ堪能できたし?

:ムルちゃん気遣うボイス堪能できたし?

:ノルマ依頼の説明までしてくれたのにw

:良い感じの喉仏堪能できたし?

:指先は料理の時くらいしか堪能できないんだよなぁ

 

「ともあれ、ダンジョンのエントランスまで来たし、キリもいい。

 途中からトラブルだったり、カメラのコト忘れてしまってたりと、色々あったが、ここらで切り上げたいと思う」

 

:おk

:りょ

 

「良ければ、また次も見に来てくれるとありがたい」

 

:楽しませてもらった

:今日も良い雰囲気だったよ

 

「それでは、失礼する」

 

:おつでした

:フェチネキ増えてたな

:なんか静かで優しい感じのダンジョン配信いいな

:おつ!次回もイケボ待ってる

:独特の雰囲気にハマりそうだから登録したった

:ムルちゃんを助けてくれてありがとう

:お疲れ様でしたニキ 次回もメカクレ堪能しにきますね

:おつ

:おつかれー

:次回の喉仏楽しみ

:料理配信でまた指見せてね~

:おつ~

 

 

 ===この配信は終了しました===

 

 

「ふう……」

 

 配信を止めてドローンを小脇に抱えると、まだダンジョンの入り口にミマがいた。

 こちらを見ている彼女に近づくと、彼女は意を決したように声を掛けてくる。

 

「あ、あの……! ダウナーさん!」

「なんだ?」

 

 勢いに気圧されつつ返事をすると、ミマはスマホを取り出す。

 

Linker(リンカー)とかやってます? やってるなら、ID……交換してくれません?」

「それは構わないが……」

 

 小さくうなずく。

 どこか嬉しそうにスマホを操作する彼女を不思議に思いつつも、セイジは自分のスマホを取り出した。

 

「これでよしっと、ありがとうございます。ダウナーさん」

「……セイジだ」

「え?」

 

 そう言えば、ミマの本名は知っているのに自分の本名は教えてないと気づき、口にする。

 

節村(セツムラ) 制慈(セイジ)。それがオレの本名だ。こっちだけ本名を知っている状態というのはどうにもダルい」

 

 名乗ると、ミマは僅かな間キョトンとしてから、破顔(はがん)する。

 

「はい。よろしくおねがいしますね。セイジさん!」

「ああ」

 

 何が嬉しいのかは分からないが水を差す気もない。

 気を悪くさせない程度に小さくうなずく。

 

「それじゃあセイジさん! 改めてありがとうございました! またお会いしましょうね!」

「そうだな。帰り、気をつけろ」

「はい!」

 

 足取り軽くダンジョンを出て行く背中を見ながら、苦笑する。

 

「よくわからんが、マシな顔するようになったなら悪くないか」

 

 そうして、セイジもダンジョンを後にするのだった。

 

 

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