ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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029.指名依頼配信開始

 

 時間になった。

 待機画面が表示され、画面には『To Listeners. Getting Ready Now. Please Wait.』という文章が躍りだすと同時に、BGMが流れ出す。

 

:急に枠ができてきたから見に来た

:タイトルが指名依頼配信になってるの初めてだな

:指名依頼かぁ・・・

:ドライブレコーダー的な意味もある配信だろうな

:ダンジョン探索に詳しくないやつには事前に言っておくけど通常配信とは違うだろうからそこは注意しとけよー

:今日は料理とかもないだろうしな

 

 いつもよりも長い時間、待機画面がループし、やがて現れたシルエットがバン! と画面に掌を叩き付けて、"Downer Jazzy Cooking"というチャンネルタイトルが表示された。

 

「少し待たせてすまない」

 

:指名依頼でも装備はいつもどおりなんだ

:通常配信じゃないからその辺はお気になさらず

 

「今回は指名依頼でドラレコ配信の意味もある。なのでちゃんと場所と事情を説明をしてから、探索を始めようと思う。

 その辺りの情報開示許可は事前にギルドからもとってある。以前のように邪魔しに来るやつはそうそういないと思うが、今回邪魔しに来た場合は前回ほど温い対応では済まないコトは覚悟しておけ」

 

:配信する意味を考えるとそうなるよな

:何かあった時にすぐに助けが向かえる状況という意味ではそうなる

:あいつらは例外中の例外だろ

 

「ここは、東京の調布市にある森林樹塔(しんりんじゅとう)というダンジョンだ」

 

 そう言って、セイジが塔を示すとドローンがそれを映す。

 

:なんだあのデカい樹

:あれが森林樹塔の本体

:低層は初心者向けとしてガイドブックやサイトなんかで紹介されているところだな

 

 周囲を森に囲まれた開けた場所。

 つまり、ここがダンジョンのエントランスだ。

 

 調布駅から少し離れた場所にある森の中。そこに突如現れた巨木の根にダンジョンの入り口たる階段があり、そこを降りると広がっているのがここの光景となっている。

 

 エントランスの奥に見える、着くほど巨大な大樹。あの巨大な木の内部こそが森林樹塔と呼ばれる塔型ダンジョンそのものだ。

 

「コメントにもあるが、低層は駆け出しの修行場としても有名なダンジョンだ。

 そんな低層に、中層辺りに出現するはずのモンスターが一匹――ふらっと現れて、エリアの一画を占有しているので退治して欲しいと頼まれた」

 

:うあ…

:そりゃあ指名依頼もするか

 

「ターゲットであるモンスターはわりと大人しくしているらしく、普段ならギルド常連を捕まえて退治してもらうらしいんだが、今回は確実性と安全性を期したいらしく依頼された。なにせ、タイミング的に危険は極力排除しておきたいらしいからな。

 ダルいが、夏休みの学生がやらかすよりはマシだろうと、オレも了解した」

 

:そうか夏休み前か

:これ見終わったら地元のギルドやダンジョンの様子確認しとくか

:だな 露払いしておかないと夏休みキッズが怖いや

:勝手にくたばるならまだマシでそれが原因でやばいモンスターやトラップが大暴れとか目も当てられないしな

 

「ターゲットは二階にいるらしいから、いつものように探索風景を配信しながら、そこへ向かおうと思う」

 

:りょ

:○ニキ気をつけて

:ご安全に

 

 セイジはコメントが表示されるホロウィンドウを消すと動き始める。

 

:初心者向けなのもあってかエントランスにそれなりに人居るな

:低層は初心者向けだけど中層は中級者向け上層は上級者向けと幅広いから結果として人が増えるんだよ

:まぁ拾えるモノの旨味が薄いとかで中級者以上は少ないらしいけど

 

 エントランスを抜けて、大樹の根元までやってくると警備員がいる。

 

「ギルドから依頼を受けて、低層に滞在している中層モンスターの退治に来た。配信許可も取っている」

「助かります。すでに度胸試しと称して近づこうとする阿呆が出始めてますので」

「本当に阿呆だな……」

 

:警備の人乙

:これニキが依頼受けなかったら危なかったんじゃ・・・

 

「それと今日付でユニーク個体であると指定されました。

 通常よりも大型な特殊個体。傷だらけであるコトから、『傷だらけの赤鬼(スカーレッド)、ガーロ』と名付けられ、以降ネームド扱いとなっております」

「なら予定報酬にも、ネームド対応料金が上乗せを期待できる?」

「はい。そうなるはずです」

 

:ネームドになっちゃったかぁ

:酒場のネームドスレが盛り上がりそう

:スレにアドレス貼り付けてきた

:コメに変なやつ増えるからやめてよ・・・

 

「まぁ名前があろうがなかろうが、やるコトは変わらない。

 相変わらず二階にいる――でいいんだよな?」

「はい。ところで、こちらのダンジョンは初めてですか?」

「いや何度か入ったコトはある。道が変わったりしてないなら、三階くらいまでなら道は覚えている」

「そうですか。ですが念のためこちらを。一階と二階のみになりますが、最新の地図です」

「助かる」

 

 セイジは警備から地図を受け取ると、軽く会釈して塔へと踏み込んでいく。

 

 大樹の中にもかかわらず、中は森を思わせる様子だ。

 良く見れば、人工物らしき壁がちゃんとある。だが、その壁に蔦が巻き付いたり、壁そのものやその足下などから木々や植物が生えているので分かりづらいだけのようだ。

 

「ここは塔のエントランス。この部分にもモンスターは滅多に来ない」

 

:ダンジョンのエントランスと塔のエントランスで二重になってるのか

:珍しいけどゼロではないんだよな

:ここも人多くない?

:探索者じゃないっぽい人もいる?

 

「一応、ライセンスなしでもココまでは入れるらしい。ダンジョン体験用とかなんとか。

 近隣に観光地も多いから、安全な範囲を市が観光地にしているらしい」

 

 コメント欄を見ているワケではないのだが、コメント欄で増えてそうな内容を想定したセイジは補足するように、ドローンに向けて告げる。

 

 それに、コメント欄は納得した様子を見せた。 

 

:ますますネームドがいるの怖いな

:はぐれとかでると危ないダンジョンだ

:初心者たちが多いから間引きにはなってるかもしれないけど。。。

:上の階とか間引かなくて大丈夫なのかな?

 

「すみません。ライセンスの提示をお願いしても」

「ああ」

 

:ここにも警備か

:むしろ観光地として解放されてるからこそだろ

 

「塔の入り口の警備にも言ったが、ギルドから頼まれて二階のネームドを対処しにきた」

「お一人で、ですか?」

「ああ。基本的にソロでやっている。それを分かった上でギルドが指名依頼をしてきたんだ。オレなら何とかなると思われているんだろう」

「了解です。ご武運を」

「最善を尽くすが、万が一の時――避難誘導などは頼む」

「もちろんです」

 

:なんかいいよなプロ同士って感じ

:お互いにできることを全力でやろうぜって感じは確かにいい

:状況は全然良くないんだけどなぁ

:今日のニキはいっぱい喋ってくれて嬉しい

:来たなフェチネキ

:最初からいたけどそういう雰囲気じゃなさそうだから我慢してた

:常連には悪いが邪魔するぞ

:我慢しきれなくなっちゃったかー

:スレから

:ネームドと聞いて

:常連じゃないのも増えてきたか

:指名依頼配信だからしゃーなしだ

:まだ入り口か

 

 にわかに人が増えてきたコメント欄を余所に、セイジはダンジョンの中に踏み込んでいく。ここからは、複雑に入り組んだ迷路だ。

 

 エントランスから正面へ向けて真っ直ぐに伸びる廊下。

 途中にある左右への道を無視して、セイジは突き当たりまで進む。

 

 それから地図に目を落とした。

 

「……ふむ。記憶と相違はないな。なら……」

 

 最新の地図と自分の記憶との食い違いがないのを確認すると、躊躇(ためら)わず右へと進む。

 

「おっさん!」

 

 すると、背後から聞き慣れない若い声に呼び止められて足を止める。

 

:おっさん・・・

:ワルニキはまだ全然若いだろ

:高校生から見ればニキもおじさんだから。。。

:なんか妙にダメージを喰らってしまうのはなぜだろう

 

「何か用か?」

 

:ちゃんと止まって振り返るあたり人がいいよな

:振り返りメカクレ!

:振り返り喉仏!

:年下向け優しいボイス!

:今日もフィチネキたちは元気だなぁ

:急に何かと思った常連なのか(困惑

:それぞれメカクレネキ、喉仏ネキ、イケボネキだ

:もう一人いる指先ネキと併せて常連フェチネキ四連衆だ

:そう言えば指ネキは?

:お仕事だってやったぜ

:まぁ平日の昼間だもんな

:仕事らしいぞざまぁみろ

:フェチネキたちの間に何があったんだ?

 

「そっちの道はどの分かれ道のどれを行っても行き止まりだぜ」

「親切を無碍(むげ)にするようですまないが、それを分かった上で目的地へ行くためにこちらへ入っただけだ」

 

 セイジがそう返すと、高校生らしき若い探索者はどこか困ったように笑う。

 

「またまた~! おっさん特有のアレだろ? 無知を笑われると嫌だからの言い訳的な?」

「…………ダル」

 

:あ、ニキってば本気でダルがってる

:いやダルいだろこれ

:面倒な絡み方じゃんよ

:親切の押し売りも面倒なんだよな

:まぁダルいよこういうガキ相手にするの

 

「自分の親切が実を結んで欲しくて相手に原因を求めだすのはダルい行いだぞ」

「え?」

 

 くるりと(きびす)を返すと、セイジは若い探索者に背を向けて歩き出す。

 

「だから、そっちは行き止まりしかないんだって!」

 

:まぁ行き止まりしかないのも本当なんだろうけど

:○ニキも何度か来てるらしいしな

:駆け出しには分からない何かがあるんだろ

:地図みながらこっち来てたし何かあるんだろうな

 

 背後で喚く若い探索者を無視して、セイジはその道の突き当たりまで進み――地図を確認する。

 

「だからッ、この道はどっち行っても何もないって……」

「キミ、少し黙れ。キミの親切を否定する気はないがしつこいしダルいぞ。

 世の中は自分の見識(けんしき)が全てではないし、自分より格上だろうが格下だろうが、自分の見識とは異なる見識を持った人間はいくらでもいる」

 

:ちゃんとアドバイスするの優しいなこのチャンネル主

:この男の子も悪い子ではなさそうだけどね

 

「なんだよ、おっさん! こっちは親切で教えてやってるのに!」

「親切をしてやっている――か。それを口にした時点で、キミの親切は消え失せた。それは親切をする上で一番口にしちゃいけないダルい言葉だ。覚えておけ」

 

:ニキ優しいな

:ワ○ルドさんの言葉が身になるような子ならいいんだけど

:そういやチャンネル主の名前なんて読めばいいの?

:ワ○ルド=わるど でOK ワルニキとか○(まる)ニキとかダウナーニキとか呼ばれてる

:さんきゅー

 

「……見ておけ。キミの親切の押しつけが無意味だった理由を見せてやる」

 

 そうしてセイジは目の前にある壁を調べ始める。

 人工物の壁が、植物に包まれてしまってほとんど見えないのは、このフロアの共通事項であるが――だからこそ、多くの探索者が植物に囲まれたその先に壁があると思い込む。

 

「あった。壊れた部分も記憶にある通りか」

 

 柳の枝のようなモノが垂れ下がり完全に壁を覆っている場所。

 セイジはその枝をのれんを潜るようにかき分けて進んでいく。

 

「え? え? おっさんが壁の中に消えた!? ドローンまで!?」

 

:これは分からんわ・・・

:知ってるヤツだけが使えるショートカットってか?

 

「よし。次は――」

「お、おっさん……!」

「追いかけてきたか」

 

 ドローンと共に振り返ると、インパチェンスに似た花の(つた)に覆われた場所から、先ほどの少年が顔を出す。

 

:こっち側もこっち側でこの壁が抜けられるとかわからんって

:これは普通に重要ネタでは?

 

「キミがまだこちら側の道に自力で来たコトがないなら引き返せ。ここはさっきまでの道に出てくるモンスターよりも、ワンランク上のモンスターが出てくる。正規ルートでここまで辿り着けないような実力なら死ぬだけだぞ」

 

:まだ優しいのすごいな

:隠し通路の先の敵がワンランク強くなるのは知らないと危険だもんな

 

「……おっさんと一緒に行ってもか?」

「ダメだ。足手まといはいらん。オレはギルドからの指名依頼でココに来ている。ターゲットはネームドだ」

「だったらなおさら一人じゃ……!」

「いつまでもダルいコト言ってんじゃねぇぞ」

 

 少年が全てを言い終える前に、セイジが少し語気を強くしてぴしゃりと遮った。

 

「親切の押し売りをしたいなら他でやれ。足手まといというデバフなんぞいらんと言っている」

「そんなのやってみないと――」

「わかるに決まってるだろ。自分とオレの実力差を理解できないヤツと一緒なんてダルいだけだと何度言わせるんだ? (おとり)としてすら役に立たんヤツを連れて行く理由はない」

 

:厳しいけどその通りなんだよな

:初心者が多いエリアを通るのってこれがあるんだよな

:こんなやつらばかりのエリアにネームドがいるのマジ危ないわ

 

「警告はした。ついてきてケガしようが死のうが自己責任だし、助ける気もない。英雄願望と自殺志願の区別のつかない阿呆なんぞ助けていたらキリがない。キミがダルい選択をしない賢明な男であるコトを祈る」

 

 そう告げると、セイジは地図を確認してから歩き出す。

 数歩進んだところで足を止めて、背後を見遣(みや)る。

 まだそこに少年がいるのを確認した上で、セイジは告げた。

 

「ああ――そうだ。二階にいるネームド相手に度胸試しをするバカが増えてるらしい。

 親切を押しつけたいならそういうヤツらがバカをやらないよう見張ってくれると助かる」

 

 背後で少年が顔を上げた気配を感じながら、セイジはしばらく道を進み――ややして、背後の様子を伺うと、少年がついて来ないことに小さく安堵するのだった。

 

 

 

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