ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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044.自分と自分の関わる世界のために

 

 猫紳士とコンクリートロードで有名なアニメ映画に出てくるジグザグな坂道。

 そのモデルとなった『いろは坂』の中腹に、ベンチが置いてあるだけの小さな公園がある。

 

 かつてはベンチに座って、眼下の町を一望できるスポットだったそこは、すっかり地元では有名なダンジョンの入り口となっていた。

 

 ダンジョンの名前は捻りも何にもなく『いろは坂ダンジョン』だ。

 

 出現モンスターは低級ランクとされるスモールゴブリンを筆頭に、あまり強くない。

 江戸時代くらいの雰囲気の、いろは坂に似た山道を上へ上へと登っていく登山系ダンジョンであり、中層までは下層のモンスターに毛が生えた程度ばかり。

 

 山道もそこまで険しいワケではなく、トラップなども少ないので初心者向けとされているダンジョンである。

 

 とはいえ、ただ山道を歩いているだけだと頂上へは辿り着けない。

 道中に横道のような洞窟がいくつもあり、いくつかの洞窟を通っていかないと、上の階層へは行けない形になっている。

 

 一応、中層までは洞窟を使わずに行けるのだが、中層東エリアと呼ばれるそのルートは途中で道が途切れる。

 しっかりと山頂までいきたいのであれば、下層の洞窟を通って中層西エリアへと行く必要がある。

 

 上層も似たようなモノで、頂上に行きたいなら中層西エリアにいくつかある洞窟から正解ルートを見つけて上層南エリアへ出る必要がある。

 なお上層に行くだけなら、中層西エリアから洞窟を使わずに上層北エリアに辿り着ける――という具合だ。

 

「ねむ……」

 

 時刻はお昼少し前。

 いろは坂ダンジョンの上層北エリアにある道を途中で外れた先にあるエリア端の崖。

 

 崖下を見れば、江戸時代のいろは坂周辺はこのような感じだったのかもしれない――そう思わせる光景が広がっている。

 

 ここは崖を気にしなければ、広々とした野っ原が広がっているエリアだ。

 そのエリアにテントを設置し、あくびをかみ殺しながらキャンプ飯の準備を色々としている男――セイジがいた。

 

 一見すると動きが緩慢(かんまん)気怠(けだる)げだが、実際のところはテキパキと(つまづ)くことなくスムーズな準備となっている。

 

「待ち合わせ場所としてココを指定して地図も送ったが、みんな来れるだろうか……」

 

 実力的には招待者全員ここまではこれるはずだが、方向音痴とかが混ざっていたら分からない。

 とはいえ、間違えて上層南エリアから頂上付近へと行かなければ危険もないだろう。

 

 上層エリア後半から頂上エリアに関しては、モンスターの危険度が跳ね上がる部分があるので、間違えて行かれると困るが――さすがにそれは無いと思いたい。

 

 そんなことを考えながら準備を続けていると、人の気配が二つ近づいてくるのに気がついた。

 

「きたか?」

 

 セイジがそちらへと視線を向けると、女性が二人軽く手を振りながらやってくるのが見えた。

 

「ダウさ~ん」

「待たせてしまったかな、ワルド殿」

 

 やってきたのは、ピンクツナギにモップを装備した女性の幡内(ハンナイ) 教子(キョウコ)と、今日はどこかの研究員らしい格好をしている刑部(オサカベ) 紫鶴(シヅル)だ。

 

 カメラはまだ回していないのだが、二人は敢えて配信中を意識した呼び方をしてくる。

 これから配信する予定なのを思うと、混同しないようにする為の、二人なりの方法なのだろう。

 

「いや、大丈夫だ」

「もう今日をめっちゃ楽しみにやってきました~」

 

 本当に言葉通りだと分かる表情のキョウコだが、その顔には先日はしていなかったメガネがかけられている。

 特殊スキルを使用した反動である一時的な失明というデバフ。それは回復したのだろうが、視力そのものはまだ完全回復していないのかもしれない。

 

「ドクターの許可は出たんだよな?」

「もち!」

「だいぶ不揺(フヨウ)も譲歩してたように見えたがな」

「ここちゃんの許可が出たのは間違いないじゃん?」

「…………」

 

 キョウコの言葉に、シヅルはだいぶ言いたいことを飲み込んだ顔をして肩を竦めた。

 

 セイジは敢えて二人のやりとりには触れず、許可が出ているのなら良い――とうなずいてから、改めて訊ねる。

 

「Linkerで送った通り、ガーロ料理は振る舞うが、配信も行うんだ。その辺りも問題はないモノとして来てくれた――で、いいんだよな?」

「モチのロン! それがイヤなら、あーしたちは来ないって!」

「キョウコの言う通りだな。それに、我々は緊急時だったとはいえ、すでにワルド殿の番組に顔が出ている。問題ないさ」

「そうか」

 

 セイジは(ほの)かに笑ってうなずくと、何やらキョウコとシヅルが神妙な顔をした。

 

「今の顔。配信に乗ってないの勿体なくない?」

「うむ。配信でよく騒ぐフェチネキ勢とやらにウケるコト間違いなしだった」

「……? 何の話をしてるんだ?」

 

 首を傾げるセイジに、二人は曖昧な笑みで気にするなと肩を竦めてみせる。

 

「そうだ。話は変わるが、どうして配信開始の一時間以上前を待ち合わせにしたんだ?

 ワルド殿のコトだから準備は自分で全てやってしまうだろうし、十五分くらい前でも問題なかったように思うが」

「ああ。うん。当初はその予定だった」

「当初は……ってコトは、なんか事情が増えたカンジ?」

 

 キョウコの言葉に、セイジは首肯した。

 

「フウリュウが二人ほど追加で連れてくるらしくてな。まぁそっちの二人が、少し話をしたいから時間を取って欲しいんだそうだ」

 

 誰だろうと、キョウコが首を捻る横で、シヅルはすぐに答えが出たようだ。

 

「ワルド殿にアイアンクローでキャリーされていた二人かい?」

「正解」

「ふーむ。個人的な感情で言えば、キョウコが極眼を使わざる得ない状況を作り出した点に関しては、今も思うところはあるな」

 

 実際、ガーロが眠ったままであれば、セイジが不意打ちで首を()ねて終わっていた可能性がある。

 

 それならシヅルは脇腹を大きく負傷することはなかったし、キョウコの切り札である極眼を発動して一時的な失明をするようなこともなかった。

 

「それに関しちゃタラレバってヤツっしょ」

「思うコトはあるが、キョウコ本人がこれだしな」

「しーちゃんは、そうは言うけどさー……個人的には結果良ければオールOKってのが信条というかスタンス? なワケ」

「それは知っているんだがな……」

「気に掛けてくれるのは嬉しいよ? でもさ、高校生の――言っちゃえば、そんな中でもガキンチョ寄りな子のやらかしでしょ? ちゃんと反省しているみたいだし? ガキンチョのやったコトですのでって、流しちゃっていいと思うんだよね~」

 

 右のメガネのツルに触れ、ズレた位置を直しながらキョウコはそう口にする。

 

「キョウコは随分と寛大(かんだい)なんだな?」

「寛大? 寛大かぁ……個人的にはあーしの考えはちょっと違うっていうかさ。んー……」

 

 自分の感覚を言い表す言葉を探して、キョウコが少し(うな)る。

 ややして、多少まとまったのか、やや歯切れが悪い形で言葉にしていく。

 

「いやね。あのガキンチョたちがしたコトの()()しを言っちゃえば()しってるワケなのは分かるよ。だからしーちゃんがむくれてるっていうのもよく分かる。分かるんだけど……えーっと……」

 

 両手の中指を伸ばして、メガネのフレームとツルの継ぎ目辺りに触れながら、難しい顔をする。

 

「でもさー……あの子たちがガキンチョだとか大人だとかじゃなくてさ、失敗しちゃったのは仕方ないじゃん? やらかしの大きい小さいはあれどさ、あーしらだって別に失敗しないワケじゃないっしょ?」

「まぁ、そうだな」

 

 セイジが同意すれば、キョウコは顔を上げて「でしょ? でしょ?」と嬉しそうにうなずく。

 

「だからってやらかしの結果を許す許さないは、巻き込まれたあーしらの感情って話で。

 えーっと、しーちゃんのマネをして、感情を廃した合理と理論による客観をメインに自分を見てみた結果というか、大人としてのあーしとしては、真面目に反省してるんだったらさ――次は同じ失敗を、似たような失敗をすんじゃねーよ……って、それでいいかなって」

 

 キョウコがそう告げると、シヅルが何かを言いかける。

 けれど、キョウコがそれを制して、話を続けた。

 

「反省しても許して貰えない世界はある。現場はある。事件はある。それは事実。

 けど、世界はそれだけじゃないっしょ? やらかしを反省して、ゴメンして。それで何とかなる世界があるワケで……。むしろそっちの方が大半じゃん?

 なら、反省してゴメンして何とかなる世界に自分の足があるうちはさ、真面目に反省してゴメンしてくる人をちゃんと許してあげないとさ、いつかその大半の世界ってヤツの比率が逆転しちゃって、自分が小さな失敗をした時に許してもらえない世界になっちゃいそうじゃん?

 だから、どちらの世界もまだ曖昧でよく分かってない人――特に新人や子供には、ちゃんと許して貰える世界があるって知ってもらわないと、たぶん失敗が怖くて、前に進めない人になっちゃいそうじゃんか。

 それはなんか違うかなーって、あーしは思うワケ」

「それを寛大と言う気がするんだが……」

「そーかなー……?」

 

 シヅルの言葉に首を傾げてから、キョウコは話を結びだす。

 

「ゴメンして許して貰えない世界ってさ、すれ違いで肩がぶつかっちゃった時にゴメンしても『テメェ許さねぇ殺す!』とか始まるようなサツバツワールドになっちゃうじゃん?」

「だいぶ極論な気もするが、昨今の世の中を思えば極論とも言えんか」

「想像の範疇とはいえダルそうな世界だ」

「そーそー。そうなの。めっちゃダルいっしょ、そんなの。そーゆー世界はあーしもお断り。

 それに比べたらさ――すごいやらかしや、大きな失敗してもさ、誰かが尻拭いしてくれたから小事(しょうじ)で終わって、やっちゃった人が大いに反省してゴメンできて丸くおさまるなら、とりあえずそれでいいじゃん。

 もちろん当事者の感情はあるけどね。だけど、小さな失敗だったり事件と無関係なやらかしも含めて、今後は二度と小さな失敗すら出来ないと強硬(きょうこう)に思い込ませちゃうような叱り方や責め方、責任の取らせ方は絶対間違ってると思うんだ。

 だからあーしは、タラレバではなく、今ある結果と見えている情報。自分の感情と、自分の感情を廃した合理の思考。それらを総合して考えた上で、やらかしたガキンチョたちの未来と、あーしとあーしの関わる世界の未来の為に、ガキンチョどもを許すよ」

 

 真っ直ぐに、曇り無く。キョウコは許すと言い切った。

 

「やはり、寛大だと思うんだが……」

「間違ってないぞワルド殿。ワタシもキョウコは寛大だと思うからな。時々、妙に自分の器が小さく感じるコトがある」

「そーかーなー?」

 

 なんであれ、件のガキンチョ二人が来ても、ダルくなるような荒れ方をする気配はなさそうで、セイジは小さく安堵するのだった。

 

 

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