ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「待たせた。名付けるなら、びっくりボーイなガーロ・トレー、完成だ」
プレートの横にトングと大きなナイフも添えれば、食卓は完成だ。
「す、すごいの出てきた……」
「ガーロがどうこうじゃないよこれ」
「こういうの食べてみたいと思ってたけど……」
「すっごーい! さいっこーのやつでてきた!」
「うむ……実際に出てくると戦慄するな」
:キョーコちゃん以外固まってるじゃん!
:実際に目の当たりにするとびっくりするの分かるw
:しかも事前予告があったワケじゃないしな
「ねぇねぇ、ダウさん。スペアリブとブリスケはガーロのモノだと思うけど、チキンとポークのグリルはなんのお肉?」
「どっちもダンジョン食材だ。チキンはピヨヨ鳥という成長してもヒヨコのような姿の大型の鳥モンスターのモノ。ポークは以前も配信で食べた
「もしかして他の食材も?」
「ソーセージはオレが好んで食べてる市販品だが、ジャガイモはダンジョン食材の爆弾芋だ」
「ああ! 見た目完全にジャガイモなのに生だと火が付きやすいしすっごい燃えるヤツ! 芽を導火線代わりにしてドカンとできるんだよね」
「その爆弾芋だ。実際は皮と実の隙間に
:爆弾芋の芽はジャガイモの芽より毒性強いから注意な
:毒は水溶性も高いから、芽を取り除いたりその周辺をバケツや鍋の中で洗ったら、その水はちゃんと処分しろよ
:火薬膜はぬるま湯に漬けながら取るのがラクだから余計に危ないんだよな
:料理ニキたちの注意喚起助かる
:っていうかあの芋たべられたのかよ
:困ったときの攻撃手段程度にしか見てなかったわ
「ダウさん、食べる前に写真とっていい?」
「ああ」
「やった!」
そのままテンション高めに、BBQプレートと一緒に自撮りをするキョウコ。
ただ、他の四人はついていけてないようだ。
「ちなみにだが、ポテトフライを味付けした塩もダンジョン内にいる
:ダンジョン食材のオンパレードだ
:どんだけ用意しているんだよニキ
「シヅ姉……これ、実際にお金払って食べるといくらするの?」
「わからん。だが単純に、一般食材で作ったプレートで考えると……この量――二万円前半から三万中盤くらいはするかもしれない」
「ふ、ふつうのを食べてもそのくらいするのか……!?」
「え? ボクらも食べていいやつなのそれ?」
:ダンジョン食材換算だと倍ぐらいはいくか?
:調達法と調理法の手間を考えると二・五倍くらい考慮してもいい
:最低でも十二時間は火にかけて焼かなきゃこんな綺麗なバークつくれないしな
:SAIを使ったセーブ&ロード戦法があるとはいえ焼きの合計時間は軽減できないもんな
:しーちゃんも料理人ニキたちも怖いこと言ってる・・・
:言うて一人前じゃないし
:一人前でそのくらいする料理があると思えばこの人数でシェアなら安くない?
:分かってはいたけどリスナーにグルメ多いから価値観バグってる気がするw
:こういう手づかみ多い料理はみんなのえっちな手を堪能できるからよく友達さそって行く
:フェチネキはリアルでもフェチネキなのかよ
「さて、見た目を堪能したならそろそろ食べて欲しいんだが?
こういうのは熱々のうちにガブっといくのが花だろう?」
そう告げて、セイジはキョウコを見る。
それにキョウコがうなずくと、セイジはトングを手に取った。
「キョウコ以外は写真大丈夫か?」
どうやら他の面々は取らなくて良いらしい。
それを確認してから、セイジはトレーの上の料理たちをとりわけはじめた。
自分のものを含めたみんなの小皿それぞれに、ポテトとプルドポークをひと掴み。
スモークソーセージを一本ずつ。
チキングリルはナイフで切り分けて、一切れずつ。
スペアリブは骨の隙間にナイフを入れて切り分けて一本ずつ。
最後にブリスケットステーキは全員に二切れずつだ。
「山盛りの肉とポテトだ」
「山盛りの肉とポテトだね」
「山盛りの肉とポテトすげぇね」
「どうするワルド殿。高校生組が壊れた」
「そっとしておけ」
食べないなら放置するだけである。
:熱のない声もいい
:でも高校生組の気持ちは分かるw
:>そっとしておこう
:突然現れたロマンプレートに意識がついて行けてないんだろうな
「俺は画面映えを考えて作業台の方で食べる。なので存分に大声でリアクションしてくれると助かる」
「ボーイズたちは、できそうになくない?」
「そこはキョウコとシヅルに期待している」
「そーゆーの気にせず食べていいって言ったじゃん!?」
「言ったな。だがなくてもいいが、あると盛り上がって数字になる」
「ダウさんって数字気にしないようで気にしてるの!?」
「気にはしてないんだが、無いよりあった方がいいんだろう?」
「そうだけど!?」
:ハイテンションなキョウコとローテンションなニキのやりとりなんかいいな
:両極端なせいでふつうの会話が漫才っぽくて草
:でもリスナー的にはハデなリアクション期待しちゃうよね
「そこまでだキョウコ、ワルド殿。少年たちも気をしっかり持て」
いつまでも会話が続いてしまいそうなところで、シヅルがストップを掛ける。
「そろそろ食べよう。それこそ、熱々のうちに食べたいからな」
「ダウさんの番組的にはちゃんとやった方がいいんだよね?」
「ふむ。ならばちゃんとしようか」
シヅルとキョウコは料理の前で手を合わせる。
その意味に気づいて、少年たちもまねるように手を合わせた。
「では――」
『いただきます』
そして六人の声が
:めしあがれー
:めしあが
:どうぞー
:食べたいなぁ
:ほんと旨そう
:ついに実食がきてしまった
セイジはメインでカメラを向けている作業台へと移動すると、骨付きのスペアリブを手に取る。
それから、フォークで肉を抑えつつ、骨を引き抜く。
:スルっと抜けたぞ!?
:筋が柔らかくなってるんだろうな
:メキシカンスタイルの場合、じっくり火を通すことで固い筋や脂部分、コラーゲンが溶けて柔らかくなったりあるいは消え失せているからな
:そうか骨に絡みつく筋みたいな部分が柔らかくなってるから簡単に抜けるのか
:骨を摘まむ手もフォークを抑える手もえっちですね!!
:この骨を抜く様子だけですでに旨そう
「想像以上に柔らかいな……」
驚きながら独りごち、抜いた骨を置を皿に置くと、手に着いた脂を舐め取る。
:指についた脂って旨いよな
:……!!!!!
:あ
:えっっっっっ
:あーんフェチネキたちが死んだ
:ありがとうございます!!
:この人でなし!
:フェチネキたちが人であった瞬間があったか?
:今日も絶好調だなネキたち
コメント欄の騒ぎは気にもせず、セイジは骨を取った肉を口に運ぶ。
「……!?」
次の瞬間に、セイジは驚いたように目を見開いた。
:顔!!
:美味しいモノを喰った瞬間の顔が見えた
:明らかに驚いてる!
:そんな旨いのか???
柔らかいのはもちろんなのだが、風味がとんでもなく良い。
焼く前にすり込んだマスタードやスパイスたちの風味に、長時間
そして何より硬い筋や繊維、脂が柔らかくトロトロになったことで、肉そのものが噛むほどにホロホロと口の中で崩れていく。
崩れた肉の一片一片が、旨味の爆弾であるかのように弾けるように溶け消える。
「すごいな。こうなるのか」
小さく呟くと、すぐに二口目に行く。
バーベキューとしての味は一口目で
スモーキーな風味に負けない力強い牛の味。けれど、決してくどくはなく、引き際を心得ているかのような余韻を残して消えていった。
だが、完全には消えない。
あるいは、ただでは消えないというべきか。
肉の風味とうま味の余韻が、スモーキーな風味と燻香の余韻とまざりあって、第三の余韻となって口に広がり鼻に抜ける。それがたまらなく心地よい。
噛みついた瞬間のうま味の爆発は、料理の見た目通りの荒々しく豪快なおいしさを感じるのに、飲み込んだあとの余韻はいっそ芸術的なまでの麗しい美味を感じるほどだ。
「ああ、いいな。悪くない」
スペアリブを食べ終わると、今度はソーセージだ。
フォークとナイフで一口サイズに切り分けると、それを口に入れる。
「肉と一緒に
燻すことでついた
この極太ソーセージ自体、少しお高めの超粗挽きのもので、肉々しい食感が美味しいシロモノだ。セイジは好んで買っているのもあり食べ慣れたソーセージのはずなのだが、今日のそれはまったく食べたことのない味になっていた。
:ニキ!ニキ!もっと説明を!!
:レポート!誰かレポートできる人いませんか!!
:これは相当上手くできたやつだな?
「うわ何これ柔らかすぎる!?」
「本当にな。ここまで柔らかくなるのだな」
:キョウコちゃんたちだ!!
:二人も驚く柔らかさか!
「燻製っぽいスモーキーな風味に、色んなスパイスの味もするこの黒い部分と、お肉部分の柔らかいのにしっかりスペアリブらしいお肉の味がマッチしてて最高!
ソーセージは元々美味しいヤツなんだけど、すごい燻製みたいな風味が強くてそれがめっちゃ良い感じ!」
:ありがとうキョウコちゃんの声!
:顔見たかったけど解説助かる!
:ちょっとニキ!カメラをゲスト席に向けて!!
画面外から聞こえてくる感想に、コメント欄が盛り上がる。
「しかし、これがテキサスステーキ特有のバークか」
「バーク?」
:しーちゃんの解説助かる!
:フウちゃんのナイス合いの手!
「ああ。表面の黒い部分のコトだよ。言ってしまえば旨味の塊だ。
基本的には、ドライラブやドライスパイスと呼ばれる乾燥させたスパイス類を、肉の表面に塗ったマスタードやソース等の繋ぎの上から丁寧にすり込み、スモークに近い火入れで
「それでこんな黒くなるの?」
「当然の疑問だなクヌギ少年」
ゲスト席のやりとりに、カメラが動く。
それは食べることに気を取られているセイジではなく、視聴者に交じって様子を見ていたツカサによる遠隔操作だ。
:お?カメラ動いた!
:ゲストの食事風景助かる
:もっとダウナーさん見たけどこれはこれで
:フェチネキたち怒らない?
:フェチを楽しむと番組を楽しむのは切り分けられるから無問題
:謎に器用なんだよなネキたち
ちょうどカメラが向いた時、解説をしながらスペアリブを食べていたシヅルが無意識に指を舐めていた。
:そうそうこれこれ!こういうのが見れるから手づかみ最高!!
:指ネキ楽しそうだなぁw
:いや分かるけど笑
:あれ?この番組の男子って紳士?
:ネキたちが良く暴れてるし俺は紳士でいようかなって
:同じく
:クール美人の横顔指舐め最高かな?
:まぁコメント上じゃ性別わからんしなw
「ワルド殿が解説していただろう? SAIを使ったセーブ&ロード調法で時間を掛けて仕込んできたと。
肉に塗ったソースやマスタード、スパイスたち、それと煙、熱、肉の脂などが長時間かけて反応していき表面に黒いバークが形成していくのだ」
「でもそんな時間を掛けて焼いてたらパサパサになったりしないんですか?」
「タルキ少年の疑問も当然のものだが、これはパサパサか?」
「だから不思議なんですけど」
「これはテキサススタイル特有の塊肉を使っているからこそだな」
:しーちゃんの興味深い解説の横でキョウコちゃんとフウくんがひたすら喰ってるww
:ポテトもプルドポークもすごい勢いで消えてて草
「肉が大きいから表面はバークを形成するほどに乾燥し固まっていく。
だが、内側の方は低温調理のおかげで、ゆっくりと熱が浸透していくワケだ」
シヅルはバークだけ剥いて、それを口に運ぶ。
:あのバークって部分気になるなぁ……
:なんか高めに持ち上げて口の中に下ろす動作に叡智を感じてしまった
:エビとかカニとかでもたまに見る食べ方だろ
:口に入れたあと堪能するように目をつぶってるからガチで旨いんだって分かる
:食べ方フェチという方向も色々あるワケで、どうかね?
:謎の勧誘すんな!マジで絶好調すぎるな今日
「熱によって筋やコラーゲン、脂が溶けたりゼラチン化したりしても、表面にできたバークや水分がほどよく抜けた外側の硬めの層がそれを逃がさなくなる。
結果として、表面は
「何か料理の話なのに理科の授業を受けてるみたいなんだけど」
「間違ってないぞ、クヌギ少年。料理とは化学だ。何気なく使われている料理手法も理科の実験のように説明できるからな」
:料理とは科学で化学 というのはまぁ分かるな
:原理知らんでも料理はできるけど
:バークもそうだけど、乳化・エマルションなんて呼ばれるアレもその筆頭みたいなもんだしな
:そもそも乳化もエマニルションも知らんし
:とりあえず難しいは美味しいというのを理解した
:絶妙に人の名前みたいな誤字すんな
:あと「にゅうか」な「チチカ」じゃないぞ
:え?
:え?
:難しくなくても料理は美味しいからその理解は間違ってると思う
「ようするにバークが作られるくらい時間を掛けて焼いてきたってコトだな?」
「まぁその理解で構わんよ」
最終的なクヌギの結論に、シヅルは小さく笑ってうなずく。
それを見て、クヌギは骨がついたままのスペアリブにかぶりつく。横で見ていたタルキもマネをした。
「柔らかいし、めちゃくちゃ旨い!」
「うん! なんかベーコンっぽい感じもするけど、ベーコンとは全然違う!」
:スーモク感がベーコンっぽさを感じさせてるのかな?
:ベーコンもしっかり燻製してあるやつは良いスモーキーさがあるしな
「ん? キョウコとフウリュウ少年も、ステーキには手をつけてないのか」
「いやぁ……これは本命っしょ? ダウさんが食べてないのに、手を付けるのはなぁ……って」
「キョウコ姉が手を付けてないから、おれも控えてたんだけど……」
「なるほど。二人とも意図せずに番組の盛り上げ方を心得ていたワケか」
ほっぺたにケチャップのついているキョウコと、口元にポテトのカスがついているフウリュウにそう笑いかけると、カメラに対して指で示す。
「そろそろ、番組の主役の方に向いた方が良いと思うぞ――と、指好きのリスナーに見せるには少々、汚れたモノだったのは良くなかったか?」
それこそ理科の実験のようなことを日常的にやっているし、ダンジョンでも錬金術を使った実験を良くしているシヅルの手は、傷や火傷も多いし荒れている。
それを謝罪すると、コメント欄はむしろ気にしないで欲しいという言葉で溢れた。
:いえいえ実験とかで傷ついた指先もそれはそれで!
:綺麗でしなやかな指も!筋肉がっしりな指も!職業柄どうしても傷ついてしまう指も!全部好きです!!
:お仕事特有の荒れ方しているのはそれはそれでレアなので好き!
:力強いヤツらがいる・・・
:同一のネキなのかそれぞれ違うのか……
:なんのかんのフェチネキたちの冷静さと情熱さと見境の無さは配信的にプラスなんだよな
:いつぞやはゴリラ系モンスターの喉仏と指先で盛り上がってたしな
妙なテンションのコメント欄のまま、ドローンカメラはセイジの元へと戻っていく。
セイジもセイジで、カメラが自分に向いたのを確認してから、ブリスケットステーキを示す。
「さて、向こうの雰囲気も伝わったコトだろう。
そろそろテキサススタイルBBQの本命とも言えるブリスケットを食べようと思う」
カメラがそのスライスステーキを映す。
切られて皿に盛られてから、少し時間が経っているのにもかかわらず、その断面からはまだまだじんわりと肉汁がしみ出していた。