ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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005.見て見ぬふりも寝覚めが悪い

 

 何かから追われているらしき女性に逃げろと言われたセイジ。

 だが、この場所がどういう場所であるかを理解している彼は渋い顔をした。

 

 それから「ダルいな……」と小さくぼやいてから、告げる。

 

「生憎と、この丘はエリア端の袋小路。出入り口はキミがいるそこだけだ」

「そんな……!」

 

 その言葉に、女性は青ざめながら背後を見た。

 やはり何かに追われているのだろう。

 

「とりあえず広くなってるこっちへ来た方がいい。狭い場所よりは戦いやすい」

 

 セイジがそう告げると、彼女はこちらと背後に視線を巡らせる。

 僅かな逡巡(しゅんじゅん)ののち、彼女は苦渋の顔を見せてから、うなずいた。

 

 髪に赤いメッシュを入れた、二十代前半くらいだと思われるその女性は、セイジの元へと駆け寄りながら、頭を下げてくる。

 何かと交戦したのか、装備は傷つき汚れているし、露出している肌も傷と汚れが目についた。

 

「結果的に魔物引き連れ行為(モンスタートレイン)になってしまってすみません……!」

「今は余計な情報はダルいだけだ。だから端的に教えてくれ。何に追われている?」

 

 謝罪する女性を手で制して、セイジは問う。

 ことの善し悪しの是非や、謝罪などは今するべきことではない。

 

 必要なのは追っ手の情報と、それを元にした対策を考えることだ。

 

「バ、バイオレットネイルです!」

「なんだって?」

 

 紫爪の大熊(バイオレットネイル)――その名前に、セイジは思わず(いぶか)しむ。

 ここに来る前に調べた情報によれば、このダンジョンの最下層エリアにでてくるモンスターだったはずだ。それも出現頻度は低めより。このダンジョンではレアモンスター扱いされている熊だったはずだ。

 

「イレギュラーか」

「そうだと思います……」

 

 ダンジョンにおける基本情報から大きく逸脱した現象が起きること――イレギュラー。

 一時期は多発してたのだが、それも最近は大きく落ち着いてきたところのはずだが。

 

「あの……わたしが時間を稼ぎますので、お兄さんは逃げていただいても結構です……!」

 

 真剣な眼差しで女性はそう口にする。

 瞳の奥にあるのは悲壮な覚悟だ。

 セイジは絶対に逃がす。例え自分が命を落としても――そういう覚悟の炎が、彼女の双眸(そうぼう)で揺らめいている。

 

 そんな彼女を僅かな間、見つめ――やがてセイジは嘆息しながら自分の首を撫でた。

 

「はぁ、ダルぃ……」

 

 彼女の聞こえないくらい小さい声でうめいてから、視線を土壁の向こうから迫る気配に向ける。

 

「緊張感っていうのは、嫌いなんだがな」

「……すみません……」

「別にキミを責めてるワケじゃあない。そういうコトもあるか……というだけの話だ」

 

 女性の肩を叩くと、入り口の方へ向けて、一歩出る。

 

「え?」

「オレは面倒くさがりだ。緊張感っていうのも嫌いではある。だからといって薄情な人間ではないつもりだ。どんなにダルくても、面倒くさくても……それでも寝覚めが悪いというのはもっと嫌いなんだ」

 

 下がってろ――そう口にして、セイジは構えた。

 

「あ……」

 

 彼女は何かを言いかけて、口を(つぐ)む。

 集中し始めたセイジの邪魔するわけにはいかないと考えたのだろう。

 

 一方でセイジは構えながら、ヴァイオレットネイルについて思考を巡らせる。

 

(遠距離からの葬霊刹(ソウレイセツ)で倒せる相手じゃあないな。

 それにあの技は距離が離れるほどに威力が落ちる。素でアイアンウールより頑丈なヴァイオレットネイル相手じゃあ、威力が足りない……)

 

 確実に倒すなら、高威力の武技(アーツ)でなければならない。

 それに、相手はタフでパワフルな熊型モンスターだ。変に時間を掛けても面倒だし疲れるだけだろう。

 

 加えて、イレギュラーとして徘徊しているモンスターは通常種よりもスペックが高いことが多いという話も聞く。

 

 その可能性を込みで考えるならば――

 

 セイジは自分の手持ちの技と、知識にあるヴァイオレットネイルのスペックを照らし合わせて、使うべき技を選択する。

 

「来るか」

 

 土壁に、鋭い紫色をした爪を持つ手がかかるのが見えた。

 そしてその手の持ち主が、ぬぅっと顔を出す。

 

 爪同様の、紫色の体毛をした、二足歩行メインの大きな熊。

 愛らしさのカケラも無い凶悪な顔をこちらを見せてから、歯を剝いた。獲物が増えていることに喜んで笑っているのかもしれない。

 

「知っている個体よりもひとまわり大きいが……まぁなんとかなるか」

 

 自分に言い聞かせる――というよりも、背後の女性を安心させる意味で、独りごちる。

 

 それに反応したのか、ヴァイオレットネイルが低く唸りながら、セイジを睨んだ。

 

 愛嬌も可愛らしさも何一つ感じない凶相(きょうそう)をした大熊が、のっしのっしと歩きながらセイジへと迫ってくる。

 

 余裕なのか、それとも全速なのか。

 どちらでも構わない。その程度の速度で近づいてくる(バカ)が悪い。

 

武技(アーツ)白刃落首(ハクジンラクシュ)

 

 それを見据えながら、セイジは静かにスキル宣言を行う。

 使うのは、首に向けて放つと威力が増すという抜刀スキル。

 

 そして――

 

「斬」

 

 ――ヴァイオレットネイルが間合いに踏み込んできた瞬間、刹那の踏み込みから柄を握りしめる。

 

 鞘走(さやばし)りから抜き放たれた刃が、ダンジョン内を照らす明かりを反射して、白く煌めく。

 

 それはまさに、白刃一閃(はくじんいっせん)

 

 正確無比な超高速の斬撃は、白刃の閃きと共に、ヴァイオレットネイルの首をすり抜けて、一瞬にして納刀される。

 

 チン……という涼やかな音と共に刃が納まると、一瞬遅れて、ヴァイオレットネイルの首がズレ――ゴロリと首の付け根から転がって、ドンという重々しい音と共に地面に落ちた。

 

「え?」

「通常種より大きくて驚いたが、まぁ倒せるレベルのやつでよかった。面倒でダルい立ち回りをしなくて済む」

 

 そう言いながらセイジが息を吐いた時、今度はズズンという音を立てながら、残された熊の胴体が地に伏せる。

 セイジはヴァイオレットネイルが完全に絶命しているのを確認すると、女性へと振り返って訊ねた。

 

「ところで……キミ、熊の血抜きや解体の仕方とか詳しい?」

 

 

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